2.ナノテクノロジー材料分野
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2.1 ナノテクノロジー・材料分野の概要

(1) 関連政策

1)各政策の分野別取り組みについて

 ナノテクノロジー・材料は、広範な科学技術分野の飛躍的な発展の基盤を支える重要分野であると世界的に位置付けられている。中国は「第10次5ヵ年」期(2001~2005年)において、ナノテクノロジー研究に延べ15億元(約225億円)を投入し、基礎研究と応用研究で飛躍的な進展を達成した。一方で、創造的な成果が少ないことに加えて、持続的発展の基礎能力が十分でなく技術移転の能力が不足している等の課題が浮き彫りになっている。

① 中長期科学技術発展規画(2006~2020年)

 中国政府はこうした状況を踏まえ、2020年までを視野に入れた科学技術政策に関する長期的方針を示した「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」(「国家中長期科学和技術発展規劃綱要(2006-2020年)」)を公布した。

 同規画綱要では、次世代のハイテクおよび新興産業発展の重要な基盤を構成し、ハイテクイノベーション能力を総合的に体現する先端技術8分野の1つとして「新材料技術」分野を含めている。

 具体的には、ナノテクノロジーの研究を基礎として、ナノ材料とナノ素子を研究するとともに、超伝導材料やインテリジェント材料、エネルギー材料等のほか、きわめて優れた特殊機能材料や新世代の光通信材料を開発するという目標を掲げた。

 また、①インテリジェント材料・構造の技術②高温超伝導技術③高効率エネルギー材料技術――を重点基礎研究テーマとして設定した。このうち①については、インテリジェント材料の調整・加工技術、インテリジェント構造の設計・調整技術、中核設備の監視測定技術等を重点的に研究するとしている。

 高温超伝導技術については、材料・調整技術や超伝導ケーブル、超伝導素子を重点的に研究するとしている。高効率のエネルギー材料技術に関しては、とくに太陽電池材料と中核技術、燃料電池の中核材料技術、大容量の水素貯蔵材料などが重点研究テーマにあげらた。

 中長期科学技術発展規画では、基礎研究分野の重大科学研究のテーマとしてもナノテクノロジー研究が盛り込まれている。具体的な重点研究課題は以下の通りである。

  • ナノ材料の制御可能な調整・自動組立・機能化
  • ナノ材料のメカニズム、特性および制御メカニズム
  • ナノ加工と集積原理
  • コンセプトおよび原理段階のナノデバイス、ナノエレクトロニクス、ナノバイオ・医学
  • 分子集合体と生物分子の光学的、電子的、電磁的特性と情報の伝達
  • 単一分子の挙動と制御
  • 分子マシン、ナノスケール計測

② 「第11次5ヵ年」規画

 科学技術部が2006年10月27日に公布した「国家『第11次5ヵ年』科学技術発展規画」(「国家"十一五"科学技術発展規劃」)では、重大な国家戦略上のニーズを持つ基礎研究の1つとして「材料領域」を指定している。

 具体的には、基礎材料の改質と最適化、新材料の物理・化学的特性に加えて、ミクロ化や人工メカニズム化、集積化、インテリジェント化などに基づき、新材料を探究、設計、製造、加工する新しい原理と方法、材料の使用挙動と環境との相互作用を重点的に研究するとの方針を示した。

 また、重大科学研究計画の1つとしてナノ科学技術研究を指定し、中国独自のナノ材料やナノデバイス、ナノバイオ・医学の研究システムを構築し、世界をリードする複数のグループを創設するとの目標を掲げた。

 さらに、ナノ材料、ナノデバイスの設計・製造技術を開発し、ナノレベルの相補性金属酸化膜半導体(CMOS)デバイス、ナノ薬物担体、ナノエネルギー変換材料、環境浄化材料および情報記録材料を研究するとした。

 このほか国家発展改革委員会が2007年4月28日に公布した「ハイテク産業『第11次5ヵ年』規画」(「高技術産業発展"十一五"規劃」)では、新材料産業を産業発展の重点の1つとして位置付け、特殊機能材料や高性能材料、ナノ材料、複合材料、環境保護・省エネ材料等の産業を重点的に発展させ、新材料の革新システムを構築・改善する考えが明らかにされた。

 そうした一環として、電子情報材料の水準向上や航空宇宙材料の研究加速、再生可能エネルギーや原子力といったエネルギー向け材料の生産を拡大するとの方向性が打ち出された。

2)重点分野推進政策

 科学技術部、国家計画委員会(当時)、教育部、中国科学院国家自然科学基金委員会は2001年、共同で「国家ナノテクノロジー発展要網(2001~2010年)」を公布した。同要綱の主な内容は下記の通りである。

a. 目標:

  • ナノテクノロジー発展の基盤を構築し、ナノテクノロジーの開発および応用面で重大な突破を成し遂げ、総合的・持続的なイノベーション能力を持つ研究グループを育成する。

b. 主な任務:

  • ナノテクノロジーに関する基礎的研究を強化する。とくにナノスケールの新しい現象、新しい効果、新しいメカニズムおよび新しい方法に関する研究と発見を重視する。また、ナノテクノロジーに関する基準の制定も重視し、ナノテクノロジー産業化の基盤を構築する。
  • ナノ材料の製造と加工、ナノデバイスの構築と集積、ナノ加工、ナノスケールでの構造分析および性能測定、国家安全にかかわるナノテクノロジーなど中核技術を開発する。
  • ナノ材料およびデバイスの応用を開拓し、ナノテクノロジー研究成果の移転を推進する。「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)、新材料、パソコンと情報システム、エネルギーと環境、医療と衛生、生物と農業などの分野でのナノテクの応用を重点的に推進する。また、産・学・研の提携促進、ハイテク企業育成、ナノ産業化基地の建設を通じて、ナノテクノロジー成果の移転と産業化を加速させる。
  • 国家ナノテクノロジー研究開発基地を建設する。まず既存国家重点実験室もしくは関連研究基地からいくつかの実験室を選定し、重点的にサポートすることにより、ナノテクノロジーの重点実験室に発展させる。また、国家ナノ科学技術センターおよびナノテクノロジー応用国家工程研究センターを設立する。さらに、中央政府は各地方政府部門および企業と共同でナノテクノロジー実験室もしくは研究開発基地の建設を奨励する。
  • ハイレベルのナノテクノロジー人材を育成する。

c. 対策:

  • 「国家ナノテクノロジー指導調整委員会」を設立するとともに、国家ナノテク発展計画を策定し、ナノテクノロジーの発展を指導、調整する。
  • 「第10次5ヵ年」期間中、「国家ナノテクノロジー特別行動」を実施し、研究経費を優先的に保障し、管理面も重点的に強化する。
  • 国家ナノ科学技術センターおよびナノテクノロジー・応用国家工程研究センターを設立する。企業によるナノテクノロジー開発を奨励する。また、ナノテクノロジー成果の移転と産業化に優遇政策を与える。さらに、ナノテクノロジー技術の産業化に対するリスク投資体制を構築する。
  • ナノテクノロジー・イノベーションを促進するため、特許取得および知的財産権の保護を強化する。
  • 大学にナノテクノロジー関連学科を設置し、人材を育成する。
  • 海外とのナノテクノロジー技術交流を強化し、中国としての特色を保ちながら、ナノテクノロジー全般の技術レベルを先進国と同程度に引き上げるよう努力する。

 2000年11月に設立された「国家ナノテクノロジー指導調整委員会」の2007年6月以降のメンバー構成を表2.1に示す。

表2.1 国家ナノテクノロジー指導調整委員会(2007年6月~)

氏名

委員会役職

所属および役職

万鋼

主任

科学技術部部長

程津培

常務副主任

科学技術部副部長

曹健林

副主任

科学技術部副部長

白春礼

首席科学者、専門家グループ長

中国科学院常務副院長

朱道本

副グループ長

国家自然科学基金委員会副主任

綦成元

副グループ長

国家発展改革委員会巡視員

その他

メンバー

国家発展改革委員会、財政部、教育部、国防科工委員会、総装備部、国家品質監督検査検疫総局、科学技術部、中国科学院中国工程院など

出典:国家科学技術部HPより作成(所属は当時)

 また国家科学技術部は2001年9月、中国のナノテクノロジーを確実に発展させるため、「国家ナノテクノロジー発展要網」を踏まえ、「国家ナノテクノロジー発展指南枠組み」(「国家納米科技発展指南框架」)を公布した。同枠組みの主な内容を表2.2に示す。

表2.2 国家ナノテクノロジー発展指南枠組みの主な内容

項目

主な内容

ナノ材料の基礎的研究と応用研究

・ナノ材料の特殊性能、構造安定性に関する基礎的研究
・ナノ材料の設計と性能予測
・ナノ機能材料、ナノ構造材料
・ナノ材料の製造と加工
・ナノ材料の応用と従来材料の改良

ナノデバイスの開発と集積技術

・ナノデバイスに関する基礎的研究
・ナノ電子デバイス(計算器、メモリ、ディスプレイおよび量子デバイス)の開発
・ナノ光子デバイス、ナノ磁性メモリの開発

ナノ加工と製造に関する技術

・ナノスケール加工技術
・ナノビーム加工とナノリソグラフィ技術
・自己組織化成長と原子、分子測定制御技術
・ナノ加工技術の応用

ナノスケール構造分析と性能に関する研究

・ナノスケール構造分析と性能に関する基礎的研究
・単分子の測定とナノ区域内の相互作用に関する研究
・ナノスケールでの物理、化学および生物学情報の検討測定

ナノ技術の医学分野への応用

・ナノ技術の重大疾患の早期診断と治療への応用
・医学用ナノ材料の開発と応用
・ナノ薬物の研究と応用
・ナノ技術の漢方薬への応用
・医薬用ナノ材料、器械と薬物の安全性および治療効果の評価基準

ナノ技術の生物学、農業分野への応用

・ナノスケールでの生命物質の構造と機能
・細胞内の単分子運動と単分子操作
・ナノ生物技術のプロセス化
・ナノ技術および材料の細胞組織プロジェクトへの応用
・ナノ技術と農業生物技術との融和

製造、測定および研究用装置の自主開発

・製造、測定および研究用装置の自主開発

出典:「国家納米科技発展指南框架」(科学技術部)をもとに作成

 関連省庁はナノテクノロジーに関連した計画と指南に基づき、「国家重点基礎研究発展計画」(「973計画」)や「国家ハイテク研究開発発展計画」(「863計画」)、「国家科学技術支援計画」(2005年までは「難関攻略計画」)などの国家重大科学技術発展計画の重点プロジェクトのほか、自然科学基金の重大、重点プロジェクト、中国科学院重大プロジェクト、教育部の「振興計画」の重要プロジェクト、国家発展改革委員会の「産業化モデル事業」として、多くの資金と人員をナノテクノロジー研究開発に投入してきた。

 

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