中国の法律事情
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【13-014】外国企業による中国企業の買収(その7)

2013年 7月18日

康 石

康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

(七)独禁問題

一、企業結合に関する独禁届出が必要な場合

 「独占禁止法」が2008年8月1日より施行されてから、外国企業が中国企業を買収する際、外国の投資が中国の外資利用政策、法令に合致するかに関する商務部門の審査に加えて、外国の投資が競争を制限又は排除する効果があるかを審査する企業結合審査が必要になっています。かかる企業結合審査は、事前審査であるため、企業結合審査のクリアランスを得る前に買収取引を実施することはできません。中国法上、ある取引が独禁届出の対象になるかを判断するには、①事業者集中取引に該当するか否か、②事業者集中取引に参加する当事者の売上高が関連基準に達しているか否かの二つの要件を満たしているかを検討する必要があります。

 外国企業同士でのM&A取引であっても、中国市場に対する影響がある場合は、中国において独禁申告を行う必要がある点に留意が必要です。

二、事業者集中取引

 事業者集中取引とは、①合併、②持分買収又は資産買収の方法により、他の事業者に対する支配権を取得すること、又は③契約等の方式により、他の事業者の支配権を取得すること、又は他の事業者に対して決定的な影響を与えることができることを指します(「独占禁止法」第20条)。事業者集中取引に関する上記定義における「支配権」に対して明確な定義がなく、また、上記定義以外に、詳細なガイドラインが存在しないため、どのような取引が独禁申告対象となるかを判断することは何時もクリアな回答がある問題ではありません。例えば、新規合弁会社の設立は、「独占禁止法」実施直後においては届出対象であるかは必ずしも明確ではなかったが、最近はほとんどの新規合弁は、合弁当事者間の合弁会社に対する共同支配が成立するのであれば、届出の対象になるとの実務がなされています。また、外国の企業が他の外国の企業にマイノリティ出資をする場合、当該被投資外国企業が中国国内において、第三者の中国企業と50対50の合弁会社を持っている場合、かかる取引が中国国内における合弁事業として、届出の対象になるか、それとも、マイノリティ出資で支配権の異動がないため、届出の対象にならないかについても、判断が難しい側面があります。

 上記の事業者集中取引の定義に該当する場合でも、グループ間取引の場合には、申告義務の除外対象になります。即ち、「独占禁止法」第22条により、集中に参加する一つの事業者が他の各事業者の50%以上の議決権付持分又は資産を保有している場合、又は、集中に参加する各事業者の50%以上の議決権付持分又は資産が同じ1つの集中に参加しない事業者に保有されている場合、申告しないことができます。但し、かかる免除規定があまりにも限定的であり、3社以上の事業者が共同支配している二つの兄弟会社間の合併等がかかる除外規定に含まれないなどの実務上の不都合が存在しています。

三、売上高に関する申告基準

 「事業者集中の申告基準に関する規定」第3条によれば、①集中に参加する全ての事業者の前会計年度の全世界における売上高の合計が100億人民元を超え、かつそのうち少なくとも二つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも4億人民元を超える場合、又は②集中に参加する全ての事業者の前会計年度の中国国内における売上高の合計が20億人民元を超え、かつそのうち少なくとも二つの事業者の前会計年度の中国国内における売上高がいずれも4億人民元を超える場合は、申告対象になるとされています。但し、銀行業、証券業、先物取引業、ファンドマネージメント、保険業等の金融業における事業者集中については、「金融業事業者集中申告における営業額の計算規則」において、売上計算対象となる収入を明確にしたうえで、かかる収入の合計額の10%のみを独禁法上の売上高とするとルールが規定されています。

 また、「事業者集中申告規則」によれば、集中に参加する事業者の売上高は、グループベースでの売上高を指すが、資産買収又は100%持分買収の場合は、買収される側の売上は、グループベースではなく、買収される企業のみの売上を計算対象とします。

四、独禁審査の所要時間

 独禁審査期間は、第1段階が30日、更なる審査を実施する旨を決定した場合は、90日間の第2段階に入りますが、提出資料が正確ではないか、申請後の関連状況に重大な変化が生じた場合等の事情が存在する場合は、申告者の同意を得て、更に60日間延長することができます(「独占禁止法」第26条)。従って、法令上の審査期間は、最長で6ヶ月となりますが、上記の審査期間がスタートするのが、中国商務部が申告書を正式に受理した時点からであり、当事者の申告書を商務部が初歩的に審査した上で、追加資料の提出が要求されて、かかる資料が提出されて初めて正式受理になるため、正式受理までに時間がかかる場合が少なくありません。また、上記6ヶ月以内にも結論が出ない重大な案件(例えば、問題解消措置について、当事者と商務部が合意できない場合等)の場合には、当事者に一旦申請を取り下げてもらった上で、再申請することにより、審査期間を再度カウントする実例も複数でています。申告書の作成にも時間がかかることから、独禁クリアランスの取得に時間がかかるため、買収案件が予定より遅れることが多いことに十分に留意する必要があります。従いまして、独禁申告が必要になると判断される案件については、独禁申告の準備を早めに始めるなどの対応が必要となります。

 なお、中国法上、純粋な中国国外で行われる取引で、中国市場に対する影響が明らかにない案件であっても、形式上、中国法上の独禁申告基準を満たしてしまう場合が多く、これらの案件に対しても、中国の当局は申告を行うことを要求しており、申告しない場合は、理論上は、原状回復に命じられるなどの処罰規定が適用されることになります(但し、実務上、かかる処罰がなされた案件はまだ存在しないようです。)。一方で、市場に対する影響が少ない案件に対して簡易審査手続を適用するとの制度がまだ確立されていないため、中国での独禁申告が海外における大型案件の実施に影響を与える例が多く出ています。最近になって、中国商務部は、簡易手続の適用対象になる案件に関する意見募集稿を公布して、意見を募集しているが、本稿の作成日現在においても、まだかかる規定が正式に公布されていません。