第80回CRCC研究会「中国の科学技術政策の現状と課題」/講師:姚 建年、穆 栄平(2015年 2月10日開催)
「中国の科学技術政策の現状と課題」
開催日時・場所
2015年 2月10日(木)10:00-12:00
独立行政法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館2F会議室A
姚 建年氏 演題 「中国における基礎研究の状況と科学基金制度の紹介」
講演資料 「 中国における基礎研究の状況と科学基金制度の紹介」( 3.76MB )
穆 栄平氏 演題 「中国科学院行政制度改革」
講演資料 「 中国科学院:创新改革发展」( 1.56MB )
「 第80回CRCC研究会 詳報」( 4.7MB )
基礎研究計画も質と効率重視で
小岩井忠道(中国総合研究交流センター)
中国の基礎科学振興に大きな役割を果たしている中国科学院の姚建年院士と穆栄平創新発展研究中心主任が2月10日、科学技術振興機構中国総合研究交流センター主催の研究会で講演、「新常態(ニューノーマル)」と呼ばれる中国が掲げる新しい経済の姿に対応した基礎研究の進め方を紹介した。
中国の基礎研究が目覚ましい発展を遂げていることは国際的にも大きな関心を集めている。中国が基礎研究に投資した額は2006年に155億7,600億元だったのが、2013年に555億元となり、年平均の成長率は20%に上る。姚氏はこうした数字を示した上で、現在世界2位になっている研究開発(R&D)投資総額が、2020年に現在1位の米国を抜いてトップになるという経済協力開発機構(OECD)の予測を紹介した。
実際に科学技術論文の数でも、中国が急激に実績を伸ばしているのは、よく知られる事実となっている。論文総数で2006年以降、世界2位を維持し、論文被引用回数で見ても2004年から2014年までに高被引用論文(トップ1%の被引用数を持つ論文)が世界の10.4%を占め、米国、ドイツ、英国に継ぐ4位(日本は5位)となっている、と氏は胸を張った。
こうした実績を詳しく紹介する一方、氏は中国の基礎研究が抱える課題も挙げている。「重大イノベーションが少ない」「科学専門家が少ない」「投資の占める割合が少ない」「イノベーションを取り巻く環境整備が不完全」といった問題点も列挙した。
副主任を務める国家自然科学基金についての紹介にも時間を割き、中国が掲げる「新常態(ニューノーマル)」に対応して科学基金制度をどのように発展させるかという道筋も示した。経費、人材、成果産出という量を重視する計画に加え、独自イノベーションを実現し、超大国となる質重視の発展計画を並行して進めるという基本的な考え方を明らかにしている。さらに「専門分野ごとに重要な影響力を持つチーム形成」「専門性の高い科学センターの構築」「多くの独自イノベーションからの重要応用成果の産出」といった具体的な目標も紹介した。
続いて穆栄平中国科学院創新発展研究中心主任が、中国科学院の具体的な活動を紹介した。穆氏によると、中国科学院は「新常態(ニューノーマル)」に対応した責任を、行政、研究の両面で明確にすることを求められている。国家の重要なニーズに応え、国民経済に寄与する責任を負わされており、国家イノベーション人材育成やハイレベルのシンクタンクの構築などを要請されている、と穆氏は語った。
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姚 建年(よう けんねん)氏: 中国科学院院士
略歴
中国化学会理事長、英国王立化学会フェロー、国際ナノ製造協会フェロー、日本科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター アドバイザリー委員。国家自然科学基金委員会副主任。第9期、第 10期全国政治協商委員会委員、第11期、第12期全国人民代表大会常務委員会委員、全国人民代表大会教育科学文化衛生委員会副主任委員、中国科学技術協会第7期全国委員会常務委員。専門:物理化学。
長期に渡り新型の光機能性材料の基礎及び応用研究に従事。ナノスケール効果を利用した有機化合物の光物理・光化学的性質の制御、無 機及び有機/無機ハイブリッド材料の光による変色等の分野で一連の画期的な研究成果を収め、国際的に大きな影響力を持つ。これまでに、Nature, Acc. Chem. Res., Chem. Soc. Rev., J. Am. Chem. Soc., Angew. Chem. Int. Ed., Adv. Mater.等の化学・材料分野の国際学術誌に論文350本以上を発表(被引用回数6049回)、中 国国家発明特許20件を取得、共著4冊、共訳書1冊を出版。2004年、2014年にそれぞれ国家自然科学2等賞を受賞(筆頭受賞者)、2013年には中国機器分析協会科学技術賞(CAIA)1等賞を受賞( 第2受賞者)。
穆 栄平(むう ろんぴん)氏:
中国科学院創新発展研究中心 主任
略歴
中国科学技術大学理学学士、修士。ベルリン工業大学博士。
前中国科学院科学技術政策与管理科学研究所所長、中国科学院評価研究センター長、「科学研究管理」誌編集長等兼任。
科学技術政策、技術予測、イノベーション政策と管理、ハイテク産業国際競争力評価等の研究に従事。中国「国家中長期科学技術発展綱要(2006-2020)」関連政策の研究・制定、「 国家イノベーション基礎能力建設11・5計画」関連政策の研究・制定等に参加。科学技術部、国家自然科学基金委員会と中国科学院等の多くの国家プロジェクトを担当。