【22-008】《全人代》2022年政府活動報告の科学技術イノベーションに関する発言
JST北京事務所 2022年03月08日
1.概要
2022年3月5日から開催された中国の全国人民代表大会(国会に相当)において、李克強国務院総理から2022年政府活動報告がなされた。科学技術イノベーションに関する発言の概要を速報する。
2.2021年の活動
(1)イノベーション能力の更なる増強
基幹的核心技術の研究開発に重要な進展があり、有人宇宙飛行、火星探査、資源探査、エネルギープロジェクトなどの分野で新たなブレイクスルーを実現した。
(編者註)
1)有人宇宙飛行:
2021年6月に有人飛行船「神船12号[i]」、10月には「神船13号[ii]」中国宇宙ステーション「天宮」とドッキングし宇宙飛行士が滞在。
2)火星探査:
2021年5月に火星探査機「天問1号」から射出された火星探査車「祝融」が火星表面で調査[iii]。
3)資源探査:
2021年12月に地球資源探査衛星「資源1号02E」を運搬ロケット「長征4号C」で打ち上げ成功。
4)エネルギープロジェクト:
2021年10月に内モンゴル自治区・甘粛省・青海省・寧夏回族自治区の主に砂漠地帯において、大規模風力・太陽光発電拠点建設プロジェクトを開始。
(2)イノベーションによるけん引強化
①国家実験室の整備を強化し、重要科学技術プロジェク卜の実施を推進した。
②中央財政科学研究費管理を改善し、間接経費の割合を引き上げ、科学研究自主権を拡大した。[iv]
③企業の研究開発費加算控除政策を継続し、製造業を対象として加算控除比率を100%に引き上げた。[v]
④知的財産権の保護を強化した。[vi]
⑤重点産業の産業チェーンを補強したことにより在来産業のデジタル化・スマート化が加速し、新興産業の発展が保持された。
(3)生態環境保護強化および持続可能な発展の促進
①再生可能エネルギー発電の設備容量が10 億キロワットを超えた。
②二酸化炭素排出量ピークアウトアクションプランを公布した。
③全国炭素排出権取引市場が始動した。
(4)その他の言及
①要となる分野のイノベーションを支える基盤力が弱い。
②成果を肯定する一方、不十分な政府の活動に向き合い、人民の期待に応えなければならない。
3.2022年経済・社会発展の全般的要請と政策の方向性
①安定を保ちつつ発展を進めるという全体的な基調を堅持する。
②イノベーションによるけん引を堅持する。
③成長安定・構造調整・改革推進を統一的に進める。(野放図な発展を求めない)
④社会主義の初期段階という基本的国情に立脚し、規律のある発展を尊重する。市場と政府が好ましく結合することにより市場の活力と社会の創造力を喚起し、共同富裕を着実に推進し、人民の素晴らしい生活へのあこがれを一つ一つ現実のものにしていく。
4.2022年政府の任務
(1)政府の機能転換の加速
①デジタル政府の建設を強化する。政務データの共有を推進し、証明書の種類を更に減らし、政務サービスのワンストップ化を推進する。
②電子証明書の全国相互承認を基本的に実現させ、企業の広域経営の便利を図る。
(2)イノーベーション駆動型の発展戦略を更に深く実施し、実体経済の基盤を強化拡大。
①科学技術イノベーションを推進することにより産業の最適化と高度化を促進し、また供給を制約する障壁を取り除く。
(3)科学技術イノベーション能力の増強
①基礎研究10カ年計面を実施し、その長期的かつ安定的な支援を強化する。
②科学技術体制改革3カ年攻略プランを実施し、国家の戦略的科学技術力を強化する。
1) 国家実験室と全国重点実験室の役割を十分に発揮させる。
2) 科学研究機関の改革を推進し、重大科学技術プロジェクトの設置・管理方式を改善する。
④各地の研究開発投資拡大と地域の特色あるイノベーションの展開を支援する。
⑤科学技術面での国際協力を推進する。世界重要人材センターとイノベーション拠点の建設を急ぎ、人材発展につながる体制と仕組みを整備し、若手研究者への支援を大きくし、各種人材が研究に専念し、それぞれの才能が存分に発揮されるようにする。
(4)企業によるイノベーションに対する奨励
①各種のイノベーション奨励政策の徹底を通じ企業のイノベーションの主体としての地位を強化することにより、企業の研究開発投資の拡大を促し、新たな原動力を大きく育成する。
1) 基幹的核心技術の難関攻略を持続的に推進し、産・学・研・用(編者註:「産業界・大学・研究機関・ユーザ」)の連携を深める。
2) 知的財産の保護・活用を強化する。
3) ベンチャー投資の発展を促し、科学技術金融商品・サービスを刷新し、科学技術仲介サービスの専門化水準を向上させる。
4) 研究開発費加算控除政策の実施に力を入れ、科学技術型中小企業の加算控除比率を75% から100% に引き上げる。
5) 企業の基礎研究投資に対し税制優遇を行い、設備の加速償却やハイテク企業を対象とした企業所得税優遇等の政策を整備する。
(5)製造業のコアコンピタンス強化
①工業の安定的な成長を促進する。
1) 原材料、重要部品等の安定供給を強化する。
2) リーディングカンパニーによる産業チェーン・サプライチェーン安定化プロジェクトを実施し、産業チェーン・サプライチェーンを保護する。
②金融機関による製造業向け中長期融資を増やすよう導く。
1) 産業基盤再構築プロジェクトを複数立ち上げ、在来型産業の高度化を促進する。
2) 先進的製造業クラスターの発展を加速させ、国家による戦略的新興産業クラスタープロジェクトを実施する。
3) 「専・精・特・新」企業(編者註:「専業化・精細化・特色化・斬新化」された企業)の育成に力を入れ、資金、人材、インキュベーション・プラットフォームの構築等の面から大いに支援する。
4) 品質強国の建設を推進し、産業のミドル・ハイエンド化を進める。
(6)デジタル経済の発展促進
①「デジタル中国」建設を強化する。
1) デジタル情報インフラを整備し、5Gの大規模応用を推進することにより産業のデジタル化を促し、スマートシティとデジタル農村を発展させる。
2) 工業インターネットの発展を加速し、大規模集積回路、人工知能(AI)等のデジタル産業を育成し、キーとなるソフトウェア・ハードウェアの技術イノベーション能力と供給能力を向上させる。
3) デジタル経済のガバナンスを改善し、生産要素としてのデータの潜在力を引き出すことにより経済発展を加速し人民の生活をより豊かにする。
(7)外資の積極的活用
①外資参入ネガティブリストを深く実施し、外資企業の内国民待遇を徹底する。
外商投資の推奨範囲を拡大し、外資のミドル・ハイエンド製造、研究開発、現代サービス等の分野への投資拡大および中西部、東北地区への投資拡大を支持する。
②外資促進に向けたサービスを最適化し、重要プロジェクトの早期実行を推進する。
自由貿易試験区と海南自由貿易港を着実に建設し、総合保税区の発展レベルを高めることにより開発区の改革・イノベーションを促進する。
③サービス業拡大開放総合試験区を増設する。開かれた中国大市場は、必ずや各国企業の中国での発展により多くのチャンスをもたらすであろう。
(8)質の高い「一帯一路」共同建設
①共同協議・共同建設・共同享受を堅持し、相互の緊密な協力基盤を固め、新たな協力分野を着実に開拓する。
②西部陸海新ルートの建設を推進する。
③対外投資・協力を秩序立てて展開し、海外リスクを効果的に回避する。
(9)二国間・多国間経済貿易協力を深化
①より多くの国と地域とのハイレベルの自由貿易協定の締結を推進する。
②多角的貿易体制を断固として守り、世界貿易機関(WTO) 改革に積極的に関与していく。③中国は、世界各国との互恵協力を強化し、ウィンウィンを実現していきたいと考えている。
(10)二酸化炭素排出量ピークアウト、カーボンニュートラル実現推進
①二酸化炭素排出量ピークアウトアクションプランを徹底する。
②エネルギー革命の推進・エネルギー供給の確保を通じてエネルギーの低炭素化を推進する。なお「先に確立・後に廃止」(編者註:新エネルギー供給の見通しがついた後に従来型エネルギーを廃止する)の方針を堅持する。
③石炭のクリーン利用・高効率利用を強化し、秩序をもって石炭消費の削減・新エネルギーへの代替を進め、石炭・電力の省エネ・炭素削減への改造、フレキシブル運用に向けた改造、コージェネレーション改造を推進する。
④大型風力・太陽光発電基地、その他(編者註:発電量の変動幅が大きい)電源の計画・開発を推進し、電力網の再生可能エネルギー発電の利用能力を向上させる。
⑤グリーン技術・低炭素技術の研究開発と普及・応用を推進し、グリーン製造とグリーンサービス体系を構築し、銖鋼・非鉄金属・石油化学・化学工業・建材等の業種の省エネ・炭素排出量削減を推進する。
⑥エネルギーを多く消費し・二酸化炭素排出量が多く、水準の低いプロジェクトの乱立を断固として食い止める。
⑦エネルギー消費総量の抑制から二酸化炭素排出総量の抑制への切り替えを促し、関連施策を着実に実行することによりグリーン生産様式・グリーン生活様式の形成を加速する。
以上
i 2021年06月17日 科学技術ニュース「「神舟12号」の宇宙飛行士、宇宙での活動・生活はいかに?」
ii 2021年10月18日 科学技術ニュース「神舟13号乗組員の宇宙生活の内容は?旧正月には餃子も!」
iii 2021年05月17日 科学技術ニュース「火星探査機「天問1号」が火星着陸に成功!」
iv 2021年10月07日 北京便り「【21-052】《研究資金管理》中央財政科学技術研究費に関する管理体制の改革」
v 2021年04月02日 北京便り「【21-028】《企業支援》製造業の企業研究開発費加算控除率、100%へ引き上げ」
vi 2022年02月17日 北京便り「【22-006】開放ライセンス制度によって特許使用を促進する」