【13-030】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅷ)
2013年12月24日
金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員
1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。
4.大気汚染防止関連政策
(3) 産業規制政策
2012年10月29日付で施行した「重点区域大気汚染防止第12次5ヵ年計画」(以下、重点区域計画)には、重点規制地域の指定や工業ガス排出に対する規制強化に加え、許認可要件の厳格化による生産設備容量の抑制策、既存生産設備の強制淘汰や事業所の強制移転政策など、多岐に渡る環境規制措置が盛り込まれている。
(3.1) 重点対策区域および重点規制地域の指定
図1のように、重点区域計画は13地域115地区(直轄市、市、県、実験区)を重点対策区域として指定した。115地区の内、特に対策が急がれる47都市に対しては「重点規制地域」として再指定し、より厳しい規制を適用するという差別化が図られた(表1)。
重点対策区域が国土面積に占める割合は14%に過ぎないが、国全体の48%の人口を抱え、71%のGDPに貢献している。そして、地域石炭消費総量は国全体の52%を占めており、SO2、NOx、粉じん、揮発性物質の排出総量に関しては、それぞれ、全体の48%、51%、42%、50%を占める。115の都市が重点対策区域として指定された理由はここにある。
図1 中国重点区域分布図
(典拠:张雨航など「大气污染物特别排放限值公布钢企废气控制面临新挑战
(大気汚染特別排出制限値の公布:改革に迫られる鉄鋼企業の廃棄排出管理)」世界金属導報14号、2013年)
出典:「重点区域大気汚染防止第12次5ヵ年計画」(2012年10月29日施行) | ||
重点区域 | 直轄市、省 | 重点取締地域 |
京津冀 | 北京市 | 北京市 |
天津市 | 天津市 | |
河北省 | 石家庄市、唐山市、保定市、廊坊市 | |
長江デルタ | 上海市 | 上海市 |
江蘇省 | 南京市、無錫市、常州市、蘇州市、南通市、揚州市、鎮江市、泰州市 | |
浙江省 | 杭州市、寧波市、嘉興市、湖州市、紹興市 | |
珠江デルタ | 広東省 | 広州市、深セン市、珠海市、仏山市、江門市、肇慶市、恵州市、東莞市、中山市 |
遼寧省中部都市群 | 遼寧省 | 瀋陽市 |
山東都市群 | 山東省 | 済南市、青島市、淄(ジ)博市、濰(ウェイ)坊市、日照市 |
武漢および周辺都市 | 湖北省 | 武漢市 |
長株潭(タン)都市群 | 湖南省 | 長沙市 |
成渝都市群 | 重慶市 | 重慶市中心市街地 |
四川省 | 成都市 | |
海峡両岸の都市群 | 福建省 | 福州市、三明市 |
山西中北部城市群 | 山西省 | 太原市 |
陝西関中都市群 | 陝西省 | 西安市、咸陽市 |
甘寧都市群 | 甘粛省 | 蘭州市 |
寧夏回族自治区 | 銀川市 | |
新疆ウルムチ都市群 | 新疆ウルムチ自治区 | ウルムチ市 |
(3.2) 大気汚染物質に関する特別排出基準の適用
重点区域計画の施行から3カ月が経過した2013年2月29日、国家環境保護部は、重点規制地域(47都市)を対象に、工業廃ガスに関する特別排出基準を適用する決定をした(環境部公告14号[2013])。特別排出基準とは、セメントや鉄鋼など業種ごとに設定した汚染物質(SO2やNOx、粉じんなど)の濃度規制値(以下、一般基準)の内、将来的な適用を念頭に設けた予備基準値のことである。一般基準に比べより厳しい規制内容となっている上、適用時期や範囲は国家環境保護部の裁量に委ねられている。例えば、火力発電用ボイラの排出基準の場合、SO2排出に関する一般基準と特別排出基準の間には4倍以上の差がある(GB13223-2011)。
特別排出基準の適用対象は、火力発電、鉄鋼、石油化学、セメント、非鉄、化学工業など6業種の事業者および規制地域内におけるすべての石炭ボイラ設備であり、新規事業は無論、既存事業も規制対象となった。また、新規設備か既存設備かによって適用範囲と適用時期が異なる。
新規設備に関しては、既に特別排出基準が設けられている火力発電、鉄鋼業に限り、2013年4月1日より全面適用され、それ以外の業種は、特別排出基準が整備・公布と共に適用が決まる。既存設備の場合、投資と効果の観点から、対象範囲が火力発電、鉄鋼、石油化学の3業種に絞られ、また、適用される基準も粉じん、浮遊物質など一部の項目に限る。例えば、火力発電業の場合、粉じんに関する特別排出基準だけが適用され、鉄鋼業の場合、焼結設備に限り浮遊物質に関する特別排出基準が適用される。
注意すべき点は、規制地域内における石炭ボイラ設備に関しては、新規事業か既存事業かに関わらず、一律に特別排出基準が適用されている点である。つまり、業種に関わらず、石炭を燃料とする一定規模以上のボイラがすべて規制対象となった。
特別排出基準は一般基準と共に環境アセスメント許認可要件として、今後、該当新規事業の許認可プロセスに大きなインパクトを与える。それは、中国の環境アセスメント許認可制度には、土地取得や建築確認、生産許可などの許認可に優先する法的効果を付与しているため、排出基準は事実上の事業許認可要件としての役割を果たしているからである。
また、国および地方の環境保護部局は、排出基準を根拠に、設備管理者に対する設備改善命令、操業停止命令、事業所閉鎖命令等を発することができるため、特別排出基準は不利益処分要件としての役割も果たしている。
つまり、排出基準は、新規事業許認可、既存設備の改善・改修命令、不服従の事業者に対する不利益処分など一連の行政措置に関する法的根拠となる。
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