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【21-06】中国9位に低下台湾1位維持 ニッセイ基礎研がコロナ対応評価

2021年02月18日 小岩井忠道(アジア総合研究センター準備・承継事業推進室)

 新型コロナウイルス感染拡大への対応度を比較した国・地域別ランキングをニッセイ基礎研究所が15日、公表した。昨年7月と10月に続き3回目となる評価結果で、今年2月11日時点までのデータを基にしている。1位は前回、前々回同様、台湾。昨年7月に5位だった中国は、感染者の致死率が高まったという評価により前回10月の7位からさらに9位に順位を下げた。アジア・オセアニアの国・地域が上位に並び、欧州、南米諸国の評価が低い図式は変わりない。

 リポートの報告者、高山武士ニッセイ基礎研究所経済研究部准主任研究員による評価手法は、「累積感染者数」(人口1万人あたりの感染者数)、「感染拡大率」(累積感染者に対する新規感染者比率)、「致死率」(感染者に対する死者の比率)の三つの観点から新型コロナウイルスによる直接の被害を評価し、さらに新型コロナウイルス感染が起きる前に想定された国民総生産(GDP)と感染拡大後のGDP見通しとの差額比で示される「GDP損失」から経済被害を推計している。米国のニュースメディアや英国のエコノミスト誌などによる同種の評価手法に比べ、「コロナ被害」(感染拡大)と「経済被害」(GDP損失)でシンプルに比較しているのが特徴、としている。今回の「経済被害」評価には、昨年12月に公表された世界銀行の見通しや今年1月に公表された経済協力開発機構(OECD)、国際通貨基金(IMF)の成長率見込み、さらに各国政府の実績(見込み)値が用いられた。

 評価の結果は、唯一2020年のGDP成長率が新型コロナ感染前の見通しを上回った台湾が、総合評価1位となった。評価の内訳は「GDP損失」(プラス1.0%)に加え、「累積感染者数」(1万人当たり0.4人)がともに調査対象の50カ国・地域中、上位10%に与えられる最高点の10点を得たほか、「感染拡大率」4.7%は同じく上位31~40%に与えられる7点、「致死率」1.0%は上位11~20%に与えられる9点を得た。2位以下は、ニュージーランド、シンガポール、トルコ、パキスタン、ノルウェー、カタール、サウジアラビアと続き、9位が中国、10位が香港となっている。

図1

(高山武士ニッセイ基礎研究所経済研究部准主任研究員提供)
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 中国は、昨年7月に行われた最初の評価では、「GDP損失」9点、「累積感染者数」10点、「感染拡大率」10点、「致死率」3点で、総合評価は台湾、マレーシア、香港、タイに次ぐ5位。2回目の昨年10月の評価では、「累積感染者数」、「感染拡大率」に加え「GDP損失」も10点だったのに対し、「致死率」が2点に下がったのが響き、7位に順位を落とした。今回の評価では、「致死率」が最低ランクの1点になり、総合評価も9位とさらに順位を下げた。

 中国の今回の評価結果を詳しく見ると、「累積感染者数」は1万人あたり、わずか0.6人。これより少ないのは総合評価1位の台湾(0.4人)と15位のベトナム(0.2人)だけという少なさだ。1万人あたりの感染者が986.9人と最も多いチェコ、続いて多い米国の826.9人に比べても、中国が感染拡大をうまく押さえ込んだことがわかる。「感染拡大率」も0.5%と最も小さかったオーストラリア(総合評価11位)の0.3%に次いで小さい。さらに「GDP損失」もマイナス3.4%にとどめた。これもまた1位の台湾(プラス1.0%)、4位のトルコ(2.8%)、13位の韓国(3.1%)に次ぐ好結果だ。唯一、「致死率」だけが5.3%と、世界で最悪のレベルとなっている。

 累積感染者数に対する死者数に割合が5.3%という「致死率」の大きさは、これより高い国が総合評価44位のメキシコ(8.7%)と18位のエジプト(5.7%)の2カ国だけであることからも目立つ。さらに人口1万人あたりの累積感染者数が、ワースト5カ国の「致死率」に比べて2.5倍以上大きいことからも明らかだ。ワースト1のチェコは1.7%、ワースト2の米国も1.7%、続くイスラエル(1万人あたり769.3人)0.7%、ポルトガル(同755.2人)1.9%、スペイン(同650.3人)2.1%と、いずれも「致死率」は中国より低い。

 日本は、昨年の7月の9位から昨年10月には4位に総合評価の順位を上げた。「感染拡大率」と「致死率」が改善したためだ。しかし、冬の感染急拡大を受けて緊急事態宣言が再発令されているなど、「感染拡大率」の評価が7点(8.5%)から3点(9.0%)に落ちたのが響き、14位に低下した。

 リポートは「新型コロナウイルスとの戦いは長期化しそう。ロックダウンは長期戦における政策手段のひとつ、という位置づけになる。ワクチン接種は有力な政策手段となりそうだが、経済成長の観点からは、対面サービス産業における非接触への対応といった構造改革なども問われる段階にある」という見通しを示している。さらに今後のコロナ対応の評価のあり方として「長期戦を前提として各種の政策手段を駆使しつつ対応できる国・適応できる国を見極める段階にきているのかもしれない」としている。

関連サイト

ニッセイ基礎研究所レポート「コロナ禍を上手く乗り切っているのはどの国か?-50か国ランキング(2021年2月更新版)

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