【21-02】今年7.7%成長も来年以降穏やかに減速 浅川アジア開銀総裁が中国の経済予測
2021年01月19日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
浅川雅嗣アジア開発銀行総裁が12日、日本記者クラブで記者会見し、中国の経済成長は今年7.7%に上昇するものの来年以降、新型コロナウイルス感染拡大前と同様、穏やかな減速傾向に戻る、という予測を明らかにした。
浅川雅嗣アジア開発銀行総裁(日本記者クラブ)=YouTube会見動画から
高い伸びを続けてきた中国の経済(GDP)成長率は近年、少しずづつ低下し続けており、2019年は6.1%と6%を割る寸前まで下がっていた。2020年は新型コロナウイルス感染拡大が世界経済を直撃、中国以外の国々は軒並みマイナス成長に陥る。しかし浅川氏は、中国は2.1%と急落したもののプラス成長を維持し、今年は7.7%に回復するとの見通しを明らかにした。
ただし、2022年以降は、新型コロナウイルス感染拡大以前のように穏やかな減速傾向に戻る、と浅川氏はみている。投資主導の経済政策による過剰生産設備を合理的なペースで整理するのに時間がかかり、成長を抑止する要因の一つになる。さらに日本同様、急速に進む少子高齢化に対応した信頼できる社会保障制度の構築が財政的な負担となる。低賃金労働によって支えられていた「世界の工場」から、技術革新、イノベーションに依拠した高度な発展段階に移行するにも時間がかかる。こうした構造的要因をあげて、8%あるいは9%という超高度成長はもはや描きにくくなっている、という見方を氏は示した。
そのうえで、浅川氏が中国の優先的課題として強調したのは、成長の維持とリスク要因の緩和を両立させる政策。地方政府債務やシャドーバンキングが抱える不良債権化などの金融リスクを発現させない政策や、環境汚染の抑止という環境政策の重要性を氏は指摘した。さらに内陸部で特に目立つ農村と都市の不平等・格差を軽減する政策の必要も挙げ、中長期的に中国が質の高い経済成長へとソフトランディングすることに期待を寄せた。
(浅川雅嗣アジア開発銀行総裁記者会見資料から)
浅川氏はアジア途上国の経済成長の見通しも明らかにしている。2019年に5.1%だったアジア開発途上国全体の経済(GDP)成長率は、2020年はマイナス0.4%、NIES(香港、韓国、シンガポール、台湾)を除くとマイナス0.3%となり、60年ぶりの経済収縮となった。2021年の成長率は6.8%に回復する見通しだが、新型コロナ以前の水準を下回り、V字回復にはならない見込み。ただし、国・地域ごとの差は大きく、新型コロナ感染症の早期抑制に成功した中国、ベトナムは2020年にもプラス成長を維持したが、ほとんどの国は2020年にマイナス成長となっている。
新型コロナウイルス感染による影響は、アジア途上国全体で2020年に1.4兆~2.2兆ドル(地域GDP比6.0~9.5%)、2021年に0.84兆~1.5兆ドル(同3.6~6.3%)に上る。特に南アジア(バングラデシュ、インド、モルジブ、パキスタン)諸国は内需減退の影響を大きく受け、観光への依存度が高い小国のクック諸島、フィジー、 モルジブ、パラオ、バヌアツが最も大きな打撃を被っている。
アジア途上国経済成長見通し
補足・*は9月に発表された「ADO 2020 Update」の予測。
・バングラデシュ、インド、パキスタンのデータはそれぞれの会計年度ベースで、バングラデシュ、パキスタンの2020年は2019年7月1日~2020年6月30日まで、インドは2020年4月1日~2021年3月31日まで。
・NIES(Newly Industrializing Economies): 香港、韓国、シンガポール、台湾
出典: Asian Development Outlook (アジア経済見通し)データベース
(浅川雅嗣アジア開発銀行総裁記者会見資料から)
アジア開発銀行はアジア途上国向けの新型コロナウイルス感染対策にも取り組んでいる。浅川氏によると、昨年12月6日時点で26カ国に計99億ドルの緊急財政支援を実施している。民間セクターへの支援も行っており、この中には貿易金融やマイクロファイナンスといった短期融資プログラムによる20億ドルや、中国武漢の医療機器物流会社などへの直接融資2.79憶億ドルが含まれている。12月11日には、90憶億ドルの新型コロナワクチン支援策も発表済みだ。これは、迅速なワクチン調達などに対する財政支援や、ワクチンの輸送・管理・普及に必要なインフラ、システムの構築などを対象にしたプロジェクト向け投資からなる。
浅川氏は財務省財務官を退任後、内閣官房参与兼財務省顧問を経て2020年1月17日、アジア開発銀行(本部:フィリピン・マンダルーヨン市)の第10代総裁に着任した。日本記者クラブでの記者会見は、新型コロナウイルス対策としてビデオ会議システムを利用して行われた。
関連サイト
日本記者クラブ会見リポート「浅川雅嗣アジア開発銀行総裁」
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