【25-05】中国依存顕著日本IT関連製品 情報通信機械は輸入品の69%
小岩井忠道(科学記者) 2025年01月24日
スマートフォンやサーバー、パソコンなど情報通信機械の日本国内生産はコロナ禍前から4割減少し、供給全体に占める輸入品の割合が大きく増加している。安価な人件費や技術力の向上により2010年代に存在感を飛躍的に高めた中国からの輸入が飛び抜けて多く、2024年は輸入品の69%を占めた。情報技術(IT)関連財の需要が今後も堅調に伸びる期待が大きいにもかかわらず、日本の情報通信機械をはじめとするIT関連財輸入依存が続く限り、景気への影響も限定的にならざるを得ない、とするレポートを藤本一輝日本総合研究所研究員が公表した。
日本総合研究所経済・政策レポートから(関連リンク参照)
1月17日に公表された「強まるわが国デジタル関連製品の中国依存-競争力の低下が背景-」と題する藤本氏のレポートは、情報通信機械の輸入が増加する一因として、日本の競争力の低さを挙げている。新型コロナウイルス感染が日本をはじめ世界中に広がった2020年以降、日本の輸入浸透度(供給全体に占める輸入品の割合)は大きく上昇した。総供給量が増加した数少ない業種である情報技術(IT)関連の電子部品・デバイスや情報通信機械も輸入浸透度上昇が急激で、中でも目立つのが情報通信機械だ。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年に比べ、総供給量は2割増えたのに対し、輸入浸透度もまた20%ポイント近い増加となった。スマートフォンやサーバー、パソコンを中心に中国などからの輸入が増加する一方、国内生産は4割ほど減少したためだ。
日本総合研究所経済・政策レポートから(関連リンク参照)
40%近い情報通信機械輸出シェア
競争力低下は、世界全体の情報通信機械の輸出総額に占める日本のシェアからも明らかだ。今や1%を割り、この20年間で10分の1に低下した。これに対し安価な人件費や技術力の向上を武器にシェアを飛躍的に高めたのは中国。2010年代には30%を超し、40%に近い比率を維持している。
日本総合研究所経済・政策レポートから(関連リンク参照)
2020年から2024年11月の5年間で日本が輸入した情報通信機械のうち69%は中国から。東南アジア諸国連合(ASEAN)からの輸入も17%と中国に次いで多い。経済・社会のデジタル化や人手不足の深刻化などを背景に、先行きも情報通信機械をはじめとするIT関連財に対する需要は堅調に推移する公算は大。IT化は日本の生産性を引き上げることで将来的な成長率の押し上げに寄与すると期待される一方、中国などからのIT関連財輸入依存により国内生産の増加には結びつかず当面の景気への影響は限定的になる、との見方を藤本研究員は示している。
日本総合研究所経済・政策レポートから(関連リンク参照)
対応迫られる日本の製造業
こうした状況に今後、日本はどのように対応したらよいか。藤本研究員は次のように話している。
今後の需要拡大が見込まれる分野で輸入依存が高まっていることは、中長期的にみても重要な問題だ。人口減少や経済のサービス化・無形化が見込まれるなか、日本市場で需要増が期待できる財は少なくなってきている。IT関連財などの数少ない成長分野ですら生産を増やせなければ、「日本の製造業は右肩下がり」という状況に追い込まれるかもしれない。日本企業には技術力を伸ばした上で、非価格面で商品の魅力を高めていくことが求められるだろう。技術力向上にあたっては、中国企業の優れた点を取り入れてキャッチアップしていくという視点も重要だ。ただ、人的・物的な生産コストを考えると、単純な価格競争で勝負するのは得策ではないので、商品の質やアフターサポートなど非価格的な面で商機を見出していく方向性が望ましいと考える。
ASEANでも中国の勢い示す報告も
日本のIT関連企業の競争力低下に関しては日本総合研究所の岩崎薫里上席主任研究員が「ASEANのデジタル化を牽引する中国企業」と題するレポートを一昨年11月に公表している。ASEAN10カ国の工業製品やサービスの輸入額の相手国別シェアは、中国(香港を含む)が2014年の21.6%から2020年には27.4%に、米国も10.5%から15.7%にシェアを伸ばしているのに対し、日本は逆に8.9%から6.7%に低下している。社会の広範な領域でデジタル化が進むASEAN諸国で近年、急速に増えているデジタル関連の製品やサービスに日本ブランドがほとんどない、といった現状が紹介されている。
岩崎主任研究員は、同年8月発行の日本総合研究所「アジア・マンスリー2023年9月号」に掲載された「東南アジアのデジタル化をけん引する中国IT企業」と題するレポートの中で、中国企業が東南アジアのデジタル化の主な担い手になれた理由を次のように解説している。母国市場で成功して巨大化した中国IT企業が、東南アジアへの進出に際し資金を豊富に投じることができた。豊富な資金力はとりわけ地場スタートアップの買収や投資で威力を発揮している。母国市場で培った高い技術やノウハウを東南アジア市場の開拓で活用できている点も大きい。
関連サイト
日本総合研究所「強まるわが国デジタル関連製品の中国依存」
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