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【23-58】東南アジアのデジタル化先導 対外影響力高める中国IT企業

小岩井忠道(科学記者) 2023年09月07日

 買い物から決済、コミュニケーションに至る東南アジア諸国で進む社会のデジタル化に中国のIT(情報通信)企業が大きく貢献している現状を紹介するレポートを、日本総合研究所の岩崎薫里上席主任研究員が公表した。中国通信機器大手と各国政府との連携で進む5G(第5世代移動通信システム)商用サービスをはじめ、中国IT企業の活動が、デジタル化政策の助言やIT人材の育成、中小企業の越境EC(電子商取引)支援などにまで及んでいることを詳述している。米国やインドと中国政府との関係が厳しさを増す中で、中国IT企業の東南アジア進出は今後一層進む、と岩崎氏は見ている。

「東南アジアのデジタル化をけん引する中国IT企業」と題する岩崎氏のレポートは、東アジア各国の経済・社会情勢について現状分析する日本総合研究所「アジア・マンスリー9月号」(8月28日発行)に掲載された。

 東南アジアでスマートフォンが急速に普及したのは、OPPO、vivo、シャオミ(小米)の中国ブランド格安スマートフォンが2010年代に相次いで販売されたため。これがスマートフォンでの利用を前提とした各種インターネットサービスの登場を促す。その一つEC(電子商取引)分野での大きな動きは、アリババ(阿里巴巴)による2016年のLazada買収。Lazadaは当時トップシェアを誇ったシンガポールの新興企業で、ブランド名はそのままで事業のさらなる展開が図られた。最近では、バイトダンス(字節跳動)傘下の動画ネットワークサービス企業TikTok(抖音)がEC機能「TikTok Shop」を使い東南アジアのEC市場に参入したことで、中国勢同士でのシェア争いが起きている。

 5Gではファーウェイ(華為技術)とZTE(中興通訊)が東南アジア各国政府と連携し、基地局の整備やネットワークの構築に取り組んだのを足掛かりに、中国IT企業が各種の5Gサービス提供にも乗り出している。データセンターの建設やスマートシティの開発でも、各国政府と連携して進める動きがしばしばみられるようになった。かつて中国IT企業の競争力は総じて価格面にあった。しかし、次第に技術レベルが高まり、分野によっては先進国のIT企業と遜色ない、あるいは上回るレベルに達しているのが現状。中国IT企業と東南アジア各国との連携の動きは、デジタル化政策の助言、IT人材の育成、中小企業の越境EC支援などにまで及んでいる。

東南アジアでもデジタル新興企業が台頭 

 こうした東南アジアで進む中国IT企業の急速な影響力増大を紹介したうえで、岩崎氏が注意を促しているのが、中国系デジタル・ブランドに対する東南アジア各国消費者の強い支持。アジア太平洋地域のマーケティングコミュニケーション業界の動向を伝える専門誌「Campaign Asia-Pacific」が5月に公表した興味深い調査結果を紹介している。東南アジアの消費者に人気のある企業を調べた調査だ。シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムの東南アジア主要6カ国消費者を対象に、まず顧客体験が最もよいと思うブランド名を挙げてもらう。その中から3カ国以上で事業展開しているブランドについて「品質」「購入体験」「顧客サービス」など五つの指標で評価してもらった結果を集計して順位付けしている。

 調査結果で上位50社に入った企業の国・地域別内訳は次の通り。米国16社、欧州14社、中国6社、東南アジア5社、日本4社、その他5社となっている。米国、欧州が企業数では飛び抜けて多いが、このうちデジタル関連企業とみなされるのはそれぞれ4社と2社にとどまる。一方、中国企業6社のうち香港のドラッグストアチェーン「ワトソンズ」以外の5社は、Lazada、TikTok、OPPO、vivo、シャオミとすべてデジタル関連企業だ。上位50社のうち、デジタル関連は16社だが、中国の5社に加え東南アジア諸国が4社入っているのが目立つ。日本は上位50社に入った4社のうちデジタル関連企業は1社もない。

 上位50社の中の最上位10社に限ると、デジタル関連は6社を占め、EC、配車アプリ、ソーシャルメディア、スマートフォンなど多くは2000年以降に設立された企業であるのが目を引く。中国のLazadaと、シンガポールのEC企業Shopee、配車アプリ運営企業Grabと、6社中、3社が中国と東南アジアの企業。こうした結果から「東南アジアでデジタル関連の新興企業が台頭していることが示唆される」と岩崎氏は指摘している。

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(日本総合研究所「アジア・マンスリー9月号」『東南アジアのデジタル化をけん引する中国IT企業』から)

拡大的な好循環が実現

 中国企業が東南アジアのデジタル化の主な担い手になれたのはなぜか。母国市場で成功して巨大化した中国IT企業が、東南アジアへの進出に際し資金を豊富に投じることができた。豊富な資金力はとりわけ地場スタートアップの買収や投資で威力を発揮している。母国市場で培った高い技術やノウハウを東南アジア市場の開拓で活用できている点も大きい。中国でデジタル化が進み、その立役者であるIT企業が中国や近隣国のデジタル化をさらに推し進める、という拡大的な好循環が実現されてきた。

 一方、中国国内市場が成熟し一段の成長余地が小さくなりつつある中、海外に活路を見いだしている現実も指摘できる。米国やインドとの対立のあおりで新たに進出するのが難しい国が増え、そうした影響が比較的小さい東南アジアが着目されているという面もある。結局、中国IT企業の東南アジア進出は今後一層進むことが見込まれる。岩崎氏はこのように見ている。

東南アジア事業強化は今後も

 中国国内に関してみると、近年、アリババをはじめとする巨大IT企業に対する警戒を強める習近平政権の巨大IT企業規制の動きが目立つ。こうした中国国内事情が東南アジアでの中国企業の最近の活動に影響を与えていないのか。あるいは今後、影響は考えられないか。岩崎氏に尋ねてみた。氏は次のように話している。

「2020年末ごろから続いた中国政府による巨大IT企業への締め付けは、今年の春ごろから緩和し、最近ではむしろ活動を後押しするようになっている。国内景気が低迷する中、IT部門への期待を高めていることが背景にある。ただし、巨大IT企業は2020年以前のように自由な事業展開に戻るのではなく、政府の顔色をうかがいながら活動すると予想される。『デジタル・シルクロード』構想のもと、デジタル分野で世界への影響力を強めたいとする中国政府の意向を受けて、巨大IT企業としても東南アジア事業を一段と強化することは十分考えられる」

日中協力を求める声も

 中国IT企業が中国だけでなく近隣国のデジタル化もさらに推し進める拡大的好循環が実現されてきた中で、日本の現状はどうか。「Campaign Asia-Pacific」の調査結果で、東南アジア主要6カ国で評価が高かった上位50社のうち、日本企業は4社にとどまり、デジタル関連企業はゼロだったことは前述の通り。さらに同じ評価結果からこれら4社がすべて1980年代以前に設立された企業ばかりであった。上位50社に入った中国のデジタル関連企業5社の設立時期が、2010年代以降の3社を含めすべて2000年代以降に設立された新興企業であるのと違いは大きい。東南アジアのデジタル関連4社もすべて2010年代以降に設立された新しい企業だ。

 マイナンバーカード導入でのもたつき  など日本のデジタル化政策が順調に進んでいるようには見えず、中国との科学技術分野の協力も活発とは言えない。ただし、デジタル社会を実現するため日本と中国が協力する意義は十分あるとする声が、日中双方にないことはない。野村総合研究所と中国信息通信研究院産業規画研究所という日中両国のシンクタンクは、2021年6月から2022年にかけて「デジタル社会資本とスマートシティの国際共同研究」を行った 。「日中両国は、デジタル産業の連携により経済成長と企業競争力を高め、高齢化や気候変動など国内・国際的課題でもそれぞれの強みを活かした協力が可能」とする共同研究結果を昨年11月に公表している。具体策として、今後、民間の友好団体を中心に対話と交流のメカニズムを構築することと、そのために必要な政府の対応として、企業認証の仕組みづくりを提言している。

関連サイト

日本総合研究所 「アジア・マンスリー2023年9月号

野村総合研究所 「野村総合研究所、中国信息通信研究院と行った共同研究の成果を公表

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