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【23-23】AI・ロボットも米中2強時代に 国際会議発表件数裏付け

小岩井忠道(科学記者) 2023年05月17日

 人工知能(AI)とロボティクス分野で米中両国が世界をけん引している現状が、文部科学省科学技術・学術政策研究所の研究者による主要国際会議での発表件数と、他国との共同研究状況(共著関係)の分析で明らかになった。人文・社会科学分野も含む研究力で、中国が長年世界をリードしてきた米国に迫り、一部の分野では追い抜いている。論文の数や被引用数などを根拠とするこうした指摘は、近年、数多い。AI、ロボットという発展が著しく、かつ社会への影響が高まる一方の分野でも米中2強となっている現実が、国際会議の発表状況からあらためて裏付けられた形だ。

 科学技術・学術政策研究所の鎌田久美研究員、堀田継匡総括上席研究官は2日、報告書「人工知能分野及びロボティクス分野の国際会議における国別発表件数の推移等に関する分析」を公表した。人工知能分野で世界最大の学会といわれるAAAI(Associationfor the Advancement of Artificial Intelligence)の年次大会、同会議が開催する国際会議IJCAI(International Joint Conference on Artificial Intelligence)などAI関連の主要6国際会議と、ロボティクス分野の主要2国際会議について、各国の発表件数とその国際共著関係が近年、どのように変化してきたかを分析している。比較対象となった国は、発表件数が多い12カ国で、中国は中国本土に加え香港、マカオの研究者らによる発表も含む。発表者が複数の場合の発表件数は、発表者が所属する国が複数の場合も含め発表者数に関係なく各国を1件として数え、共著関係も同じく各国を1件としている。

発表の8割が米中の国際会議も

 AAAI年次大会での発表件数をみると、2010年時点では米国の発表件数が圧倒的に多く、192件と全体の半数以上を占めていた。2020年も734件と11年間で約3.8倍に増やしている。一方、中国も2010年時点ですでに41件と米国に次いで多かった。さらに件数の伸びは米国をはるかに上回り、2020年には766件(2010年の18.7倍)と初めて米国を追い抜いてトップに浮上した。米中両国で全体の発表件数の8割を占めた。

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(科学技術・学術政策研究所「人工知能分野及びロボティクス分野の国際会議における国別発表件数の推移等に関する分析」から)

 IJCAIでは、中国の躍進ぶりはさらに顕著だ。2016年時点では189件と1位の米国(249件)に次ぐ2位だったのが、翌2017年には米国を追い抜き、2019年も419件と1位を維持している。米国も2019年に306件と増えており両国合わせた発表件数は全体の約75%を占める。

 このほか機械学習や自然言語処理などAI関連の4国際会議での発表件数を見てもこの10ないし11年間、1位はすべて米国で、中国も3位が一つあるだけで残りは2位という結果だった。全体の報告件数に占める米中両国の合計件数は5~7割を占める。AI関係の国際会議で発表件数が米中2強という状況は変わらない。

ロボティクス会議も米中1,2位

 ロボティクス関連の2国際会議はどうか。IROS(International Conference on Intelligent Robots and Systems)、ICRA(International Conference on Intelligent Robots and Automation)ともこの10年間、毎年、発表件数の1位は米国、2位は中国。両国合わせた件数が全体の発表件数に占める比率は3~4割と、他の国との差はAI分野ほど極端ではないものの、米中2強という状況はAI分野と同様だ。

国際共著も米中2国間が突出

 発表件数とともに報告書が注視しているのが、国際共同研究による発表(国際共著)件数とどのような国同士の国際共著かだ。2020年のAAAI年次大会についてみると、米国は中国をはじめ欧米やアジアなど世界各国と共著があり、中国もまた米国をはじめオーストラリア、シンガポール、英国など世界各国との共著があった。その中でも米中2国間の共著は、他国間の共著と比較して抜きん出て多い。

 報告書は、AIとロボティクス分野での米国の発表件数と国際共著の大きさや一部の国際会議における近年の中国の発表件数の急速な増加などがあらためて確認された、としている。

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(科学技術・学術政策研究所「人工知能分野及びロボティクス分野の国際会議における国別発表件数の推移等に関する分析」から)

日本の研究力低下ここでも

 報告書でもう一つ確認されたのが、AI、ロボティクス分野でも日本の研究力が低下している現実だ。AAAI年次大会の発表件数は2010年の8件から2020年の58件と、約7.3倍に増えているものの、12カ国中の順位は9位から7位とわずかに上がっただけ。米国、中国、英国、オーストラリア、ドイツなどとの共著はあるものの数は少ない。同じAI分野の国際会議IJCAIも似たような状況だ。2016年の発表件数は20件と米国、中国に比べ1桁少なく、2019年も30件に留まっている。順位も9位から8位とほとんど変わらない。

 ロボティクス分野では日本の地位低下がさらに目立つ。IROSでは、2010年に日本の発表件数は231件で1位だった。12カ国全体の2割強という数字だ。しかし、2019年には90件と61%も減少し、件数を約2.4倍、約1.9倍にそれぞれ増やした中国、米国のほか、横ばいのドイツにも抜かれて4位に低下した。

 ICRAも2010年から2019年までの10年間で、日本の発表件数は112件から50件と55%の減少。順位も2位から6位に落ちた。全体の3割以上を占めて、他国を引き離して1位を維持する米国、23件から112件と約4.9倍に増やし、順位も11位から2位に上げた中国と好対照となっている。

 報告書は、「日本はAI分野の国際学会の発表件数が、英仏独などと同様に米中2強に離され、ロボティクス関係の国際会議においてもその発表件数の国別順位の低下がみられることが確認された」としている。

変化示す報告これまでも多数

 研究力比較で米中2強時代の到来と日本の凋落を示すデータや報告書はこれまでも数多く公表されている。国際学術情報サービス会社「クラリベイト」が昨年11月に公表した「高被引用論文著者リスト2022年版」は、多くの研究者に引用された価値の高い論文を特に多数発表した研究者(高被引用論文著者)を中国がこの5年で倍に増やし、2019年に2位に浮上して以降もトップ米国との差をさらに詰めたことを示している。

 昨年1月に全米科学理事会が米大統領と米議会に提出した報告書「米国科学技術の現状2022」は、米国が世界の研究開発を引き続きリードする立場にあることを強調するとともに、世界の研究開発実績が米国や欧州中心から中国をはじめとする東・東南アジアや南アジアの国々へ移行しつつある現実も認めている。2019年の世界の研究開発費に占める比率はトップの米国(27%)に次いで中国が22%、2010年から2019年までの研究開発費の年平均増加率は中国が10.6%と、米国の5.4%を大きく上回る、といった数字が示されている。

 「世界大学ランキング」を毎年公表している英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」も、2020年9月公表の2021年版ですでに「中国の大学が歴史的な進歩を遂げている」と評価。同誌は、いくつかの研究分野では中国が米国を追い抜いていることをデータが示していると指摘していた。2021年9月公表の2022年版では、前年に比べ清華大学が4ランク、北京大学が7ランク、それぞれ順位を上げ、そろって16位に浮上した。上位20位内に中国本土から2大学が入ったのは初めて。同誌は、他の研究者から数多く引用された新型コロナウイルス関連の論文が多かったことを中国本土の大学の評価が高まった理由として挙げていた。

 今回、新たな報告書を公表した科学技術・学術政策研究所自身も2019年8月公表の報告書「科学研究のベンチマーキング2019-論文分析でみる世界の研究活動の変化と日本の状況」で、すでに国際共著論文が最も多い相手国が、米国にとっては中国で、中国にとっては米国となっている実態を明らかにしている。2017年に米国の国際共著論文数は16万5354本と飛び抜けて多く、中国が9万1147本で2位。2015~2017年の3年平均値で米国の国際共著論文の共著者が最も多かったのは中国で、全体の24.3%を占めた。一方、中国にとっても国際共著論文の相手国として米国は、2005~2007年時点で1位(全体に占める比率38.5%)で、2015~2017年には47.2%に伸ばしていることを指摘していた。

関連サイト

科学技術・学術政策研究所「人工知能分野及びロボティクス分野の国際会議における国別発表件数の推移等に関する分析

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