高橋五郎の先端アグリ解剖学
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【20-07】第11回 日々進む農業用ドローンの改善・進化

2020年12月17日

高橋五郎

高橋五郎: 愛知大学名誉教授(農学博士)

略歴

愛知大学国際中国学研究センターフェロー
中国経済経営学会前会長
研究領域 中国農業問題全般

1、改善の力点―運行操作機能と薬剤散布機能に集中

 前号 で紹介したように、中国の農業現場では農業用ドローンが急速に普及し、農業現場の監視や農作業に革新的な影響をもたらした。ここ数年のことであり、農業用ドローンを使った農業の完成にはまだまだ課題も多い。他方、農業用ドローン本体およびその利用という面での運用は日々進化しながら、新しい課題に遭遇し、その課題を解決しようとする取組みが続いている。

(1)筆者のドローン体験

 前号で紹介した、筆者の農業用ドローンによる実際の中国農業現場の動画を撮影したのは下の二枚の写真が示すドローンである。写真はプロペラが装着される前の状態にあり、飛ばすためにはバッテリーの充電、付属品のプロペラを四隅に取り付け、手元で操作するコントローラーに運行操作アプリをあらかじめインストールしたスマホを装着、飛行状況を画面に映しながら高価なゲーム機を操るようにして飛ばす。

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写真1 保管箱のドローン

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写真2 飛行準備のため箱から取り出したドローン

 バッテリーの持続時間はたったの20分なので、すぐに切れる。切れたら、車のシガーソケットにつないで高速充電をし、その間は畑を眺めたり、一休みしたりして過ごす。

 写真1は保管箱に入った状態のドローン、箱内には、飛行のための部品やコントローラーなどが収められている。箱のサイズはほぼ30センチ×25センチである。写真2はドローンを箱から取り出し、プロペラを装着する準備にある状態。

 使ってみて分かったことだが、①プロペラは薄いプラスチック製で水平に着陸させないと破損する恐れがある、②水平に着陸させることはなかなか難しい、③ソフトな着陸をさせないと機体がバウンドして故障の原因もしくは一部破損のおそれがある。

 これは中国で数百元(日本円だと1万円を超えた記憶がある)で買った、ドローンのなかでは安ものの部類である。日本に持ち帰ることはもちろんできるが、中国に入国する際に開示する必要があり、面倒を避けるために、中国のある文系大学の経済学教師をしている筆者の元博士ゼミ生(余談だが、いまは同じまちでやはり大学教師をしている奥さんも、修士院生の頃、筆者のゼミ生だった)の家に預けてある。中国の農村へ行くときに、必要に応じて、彼に持ってくるよう頼んで使っている。

 中国に於けるドローン利用には規制があるが、念のために、筆者のドローンの型式は使用許可証が不要な部類に属することを言っておきたい。ただし、農民が近くにいるときは、一応の断りを入れることは必須である。一度、それを省略して飛ばしたところ、ドローンのけっこう大きな飛行音に気づいた一人の農民が血相を変えて飛んできて文句を言われ、村の顔役には話してあると伝えたところ、農民がその顔役を知っているらしく、電話して確認されたことがある。結果はことなきを得て、飛ばしたドローンでゆっくりと一面を撮影することができたのだが。

(2)改善の内容

 筆者の場合農作業をするわけではないので、農業現場を上空から観察する映像を撮ることだけがドローン利用の理由であるが、農民や技術者の場合、実践的な利用を通じたさまざまな課題に遭遇する。

 その課題改善や解決について、最近特に、目立つ取組みを示したのが表1である。中国の関係サイトからピックアップして、改善内容別に整理したものである。①農業用ドローンで行われた改善内容、②次いでそこで行われた改善の細部が分かるように整理した。

表1 中国式農業ドローンの最近に於ける注目すべき進化(開発事例)

中国知産権局資料から筆者作成。

番号 ①改善内容 ②改善細部
1 運行操作機能改善 複数ドローン運行
2 運行操作機能改善 飛行安定化
3 運行操作機能改善 飛行安定化
4 運行操作機能改善 飛行安定化
5 運行操作機能改善 コンベアー改善
6 運行操作機能改善 移動式プラットフォーム
7 運行操作機能改善 運行経路制御
8 運行操作機能改善  
9 運行操作機能改善 防風機能改善
10 運行操作機能改善 部品改善
11 運行操作機能改善 水平飛行機能完全
12 運行操作機能改善 作業システムの改善
13 運行操作機能改善 回転軸の改善
14 運行操作機能改善  
15 運行操作機能改善 レーダーシステムの付加
16 運行操作機能改善 既定経路運行機能の付加
17 運行操作機能改善 アプリ改善
18 運行操作機能改善 アプリ改善
19 運行操作機能改善 衝撃緩和装置
20 運行操作機能改善  
21 運行操作機能改善 着陸機能強化
22 運行操作機能改善 回転軸・プロペラ等の改善
23 運行操作機能改善 アプリ改善
24 運行操作機能改善 速度管理機能改善
25 監視機能改善 位置情報・植生監視
26 監視能力強化 特殊信号の付加
27 機体改善 折り畳み式改善
28 機体強度改善 プロペラ強度改善
29 作業方法改善 作業システム化
30 人口知能付加  
31 人口知能付加  
32 積載能力強化  
33 播種機能強化  
34 播種機能強化 均等播種機能改善
35 播種機能強化 尾軸等の改善
36 播種機能強化 水混合播種機能の付加
37 播種機能強化  
38 播種機能強化  
39 播種機能強化 振動ふるい式播種機能
40 播種機能強化 均等播種機能改善
41 播種機能強化 ブースター改善
42 部品改善 剪定性能改善
43 部品改善 バッテリー性能
44 部品改善 タンク制御機能改善
45 部品改善 ブースター
46 部品改善 ゴムパッド
47 部品改善 プロペラ改善
48 部品改善 バッテリー性能
49 薬剤散布機能改善 薬剤積載装置
50 薬剤散布機能改善 補助供給装置
51 薬剤散布機能改善 噴射装置
52 薬剤散布機能改善 噴射装置
53 薬剤散布機能改善 噴射装置
54 薬剤散布機能改善 噴射装置
55 薬剤散布機能改善 薬剤送管装置
56 薬剤散布機能改善 噴霧範囲拡大
57 薬剤散布機能改善 ポンプ改善
58 薬剤散布機能改善 自動調節
59 薬剤散布機能改善 噴射方式
60 薬剤散布機能改善 噴射装置
61 薬剤散布機能改善 加薬性能
62 薬剤散布機能改善 自動機能改良
63 薬剤散布機能改善 噴射装置
64 薬剤散布機能改善 噴射装置
65 薬剤散布機能改善 噴射装置
66 薬剤散布機能改善 噴射装置
67 薬剤散布機能改善 スプレーラックの改善
68 薬剤散布機能改善 均等散布機能改善
69 薬剤散布機能改善 噴射装置
70 薬剤散布機能改善 噴射装置
71 薬剤散布機能改善 噴射装置
72 薬剤散布機能改善 噴射装置
73 薬剤散布機能改善 噴射装置
74 薬剤散布機能改善 噴射装置
75 薬剤散布機能改善 噴射装置
76 薬剤散布機能改善 噴射装置
77 薬剤散布機能改善 噴射装置
78 薬剤散布機能改善他 散布装置・作物監視
79 灌漑水散布改善 節水機能改善

 この表を一瞥してお分かりいただけると思うが、改善内容としてドは①ドローンの運行操作の改善と②薬剤散布機能の改善が圧倒的に多く、③播種能力強化が3番目に多い。

 農業用ドローン利用の二つの大きな目的である農場や農産物の監視・分析と農作業補完のうち、前者は高度な技術が提供されており、まだ完成したとは言えないにしても改善は日進月歩という自信があろう。問題は後者であり、作物、気候、季節性など多様な条件に対応する高度な技術改善が必要であり、さまざまな経験を経て新たに生まれてくるものがあまりにも多いことが背景になっている部分である。

 しかも、それぞれは一つずつ細かな課題を持っている。たとえば運行操作機能に関することでは、飛行安定化、操作アプリ改善、飛行中の風向・風力抵抗能力の改善、着陸時の衝撃緩和、薬剤散布機能改善に関することでは薬剤噴射機能の改善が最多である。薬剤には大きく分けて液剤と粉剤があり、また、散布の仕方はドローンのサイズや高度、気象条件、作物の種類などによって変わってくる。このようなさまざまな条件に対して適度にクリアできないとドローンの効果が認められないことになる。

 小型飛行体(小型飛行機や小型ヘリコプター)に比べてドローンはさらに小型であり、4つ以上のプロペラがある。ヘリコプターと同じ原理で飛ぶドローンは風を下に押し出すようにして機体の大きな浮力を得ているが、散布される液状又は粉状の薬剤は強力な風がドローンの下に吹くため、拡散しにくく、効率がよくない恐れがある。

 この問題を修正するには、噴射装置自体の改良が必要になるのである。これが表1に見られるように薬剤散布機能改善が農業用ドローンの大きな進化をもたらしている理由と考えられる。この改善がうまくいくと、薬剤の効率的散布と時間節約が実現される。

 播種機能の改善は、畑や水田の全体に均等な播種を行うための改善であり、この点がうまくいくと、種子の畑又は水田に対する平均的散布、作業時間の節約などの効果が現れる。

 以上のほかにも改善が見られるが、表1を見て頂くことにし省略する。

2、農業用ドローン改善の事例

 以下では、具体的な改善事例を紹介する。

(1)複数機の協調飛行管理システム(表1の番号1)

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 図1は番号2をメインドローンとし、複数機の番号1をサブドローンとし、全機を一体的に安全に運行操作するシステムであり、河南省スイカメロン研究所が開発した。システムを簡潔に説明すると以下のとおりである。

 位置情報とジョブタスクのステータス情報、および受信した位置情報とタスクステータス情報ラインプランニングとタスクの意思決定、計画された飛行ルートを飛行するためにサブドローンに指示内容を送達する。メインドローンの送達内容をサブドローンが分析し、その後の飛行計画を取得する。それを受けて、位置情報とジョブタスクステータス情報はメインドローンに返信される。

 メインドローンにはサブドローンを正確に位置決めするためのレーザーポジショニングデバイスが装備され、サブドローンの正確な位置を測定し、計画された軌道から外れているかどうかを判断する。

 サブドローン間あるいはメインドローンとサブドローンには衝突の危険があり、サブドローンが軌道から外れたり、衝突の危険がある場合、メインドローンはサブドローンに対し緊急回避のための強制命令を送信、正しい軌道に戻るように指示する。そのために、相互通信が可能な距離を双方が保つよう設計されている。

 もしサブドローンが予定の軌道から外れたり、衝突のリスクがある場合、メインドローンはサブドローンに代わり衝突回避行動をとるという優れものである。

(2)液剤散布装置の改善(表1の番号69)

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1:ドローン本体、2:リザーバー(薬剤タンク)、3:固定脚、4:固定スリーブ、5:ダンパースプリング、6:ボール、7:着陸装置、8:回転軸、9:直管、10:ベローズ、11:導管、12:電磁弁、13:固定ロッド、14:リザーバー、15:ガイドプレート、16:固定軸。

 (2)は中山大学農学院の張紅新氏の手になるもので、その改善は液体薬剤噴霧装置の技術分野に属する。従来の方法では、噴霧装置が噴霧プロセス中に薬剤を完全に攪拌することができないでいた。しかし改善後は、実際のニーズに応じてスプレー粒子のサイズを調整し、異なるスプレー要件の問題に対応するようにした。

 具体的な方法は薬剤ミキシングボックスの上部外壁をモーターネジで固定し、モーターの出力シャフトをカップリングで接続するなどの解決策をとった。これには回転ロッドがあり、その外壁はネジで等間隔に配置された鋸歯状の攪拌ロッドで固定される。

 本改善では噴霧管内の水を水噴霧機構に吹き込んでブレードを回転させ、水噴霧機構を駆動させ薬液を回転式に噴霧することができる。水噴霧機構内の液薬は、直接、噴霧ノズルから噴霧するように調整することができる。

 また、さまざまなスプレーのニーズを満たすために、実際のニーズに応じてスプレー粒子のサイズを調整することができるという。筆者には専門的すぎることはよく解らないが、おおまかには以上のようなことである。

 次号では農業用ドローンの開発者とはどういう者か、その傾向を見ていき、開発者の事例を見よう。