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【19-05】お国柄が出る各国のサイエンスセンター

2019年9月9日

高須正和

高須正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加し、パートナーを開拓している。
ほか、インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、JETRO「アジアの起業とスタートアップ」研究員、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師など。
著書「メイカーズのエコシステム」「世界ハッカースペースガイド」訳書「ハードウェアハッカー」ほかWeb連載など多数、詳細は以下:
https://medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

 僕はDIY、メイカー教育やSTEM教育に興味があり、様々な街でサイエンスミュージアム、サイエンスセンターに行くのが好きだ。日本ではお台場の日本科学未来館が有名だ。サイエンスセンター(科学館)はその国や都市が科学のどういう所に注目をしているか、どの程度勢いがあるかの証になる施設だと思っている。サイエンスセンターからは他にも、その国のお国柄がよく見える。

アップデートに追いついているか

 科学は日々アップデートされるものだ。僕が小学校のころ理科の時間で習った科学では、太陽系の惑星は9つで冥王星が含まれていた。2006年以降一回もアップデートされていない展示だと、今でもそのままのことがある。

 特にインターネット以降、科学全体のアップデートは早まっている。新興国の急激な成長もあり、どの分野の学会でも投稿される論文は20年前に比べて数倍になっている。増えた分の多くは中国や海外の学校に進学した中国人だ。アップデートの遅い科学館だと、展示でキャッチアップし損ねていることがある。

 その意味で歴史や博物学に比べても、科学館の展示は頻繁にアップデートされる必要がある。

エクスプロラトリウムが牽引する、体験型の博物館

 サンフランシスコの科学館、エクスプロラトリウムは、世界中の科学館に大きく影響を与え、今もお手本にされる存在でもある。物理学者のフランク・オッペンハイマーが、「知識は誰かに教えてもらうものでなく、自分で手を動かして理解していくもの」という思想を体現しようとして開設した科学館は、年間100万人を超える入場者を集める人気施設で、展示はほぼすべてが体験型だ。フランク・オッペンハイマーは、マンハッタン計画で原子爆弾の製造に協力したことを悔いていたロバート・オッペンハイマーの弟で、こうした物理学の体験による科学の理解が、より理想的な(原爆などではない)科学利用に繋がると考えていたようだ。

 エクスプロラトリウムの開設/運営ノウハウはクックブックとしてまとめられ、世界中の科学館が参考にしている。展示そのもののライセンス展開も行っていて、たとえばシンガポールのサイエンスセンターにはTinkering Studio(ハンズオンのワークショップスペース)がライセンスされて常設されている。シンガポールサイエンスセンターはメイカーフェアシンガポールの運営母体、ニューヨークの科学館はメイカーフェアニューヨークの開催場所など、メイカーフェアと科学館は密接な関係があることが多い。

 展示やデモンストレーションだけでなく、こうした体験型のコンテンツがどのように置かれているかも、科学館を見る上で参考になる。

新旧比較、ロンドンとミラノの対比

 僕はこれまで、海外だけでだいたい20カ国33都市、計40箇所近くのサイエンスセンターを訪れている。科学館と自然科学の博物館やコンピュータ博物館の境目はけっこうあいまいだし、記憶違いもあるかもしれないので2-3抜けているかもしれないが、リストにすると以下になる。

  • 韓国:ソウル
  • 台湾:台北/高雄
  • 中国:北京/上海/西安/深セン
  • 香港
  • マカオ
  • フィリピン:マニラ
  • タイ:バンコク(Science Square)
  • マレーシア:ペナン/クアラルンプール
  • シンガポール
  • アメリカ:サンノゼ/ニューヨーク(数学博物館とサイエンスホール)/ニュージャージー/サンフランシスコ(カリフォルニア科学アカデミーとエクスプロラトリウム)/ボストン/マウンテンビュー
  • イギリス:ロンドン/ニューカッスル/ケンブリッジ
  • フランス:パリ/ナント
  • チェコ:プラハ
  • ドイツ:ケムニッツ
  • イタリア:ミラノ
  • スウェーデン:マルモ
  • ノルウェー:トロンハイム
  • デンマーク:コペンハーゲン
  • オランダ:アムステルダム
  • スペイン:バルセロナ

 エクスプロラトリウムを別格として、世界一を挙げるとしたらロンドンサイエンスミュージアムだと思う。産業革命以降、近現代の技術革新をずっとリードしてきたイギリスには膨大なレガシーがある。

 蒸気機関やコンピュータの原型になった階差機関、エニグマ暗号解読器などの科学史的な展示もすばらしいが、現在もArmアーキテクチャやマイコンボードのRaspberry Pi、Micro:Bitなどのコンピュータサイエンスを生み出している国だけあって、情報/通信関係の最新技術を解説する展示がすばらしい。

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太平洋を電報で繋いで世界恐慌の情報を伝えた時代からクラウドコンピューティングまで、情報通信の歴史を一気に伝えるロンドンサイエンスミュージアムのフロア。

 同じヨーロッパで輝かしい科学史をもつミラノのレオナルド・ダ・ビンチ・サイエンスミュージアムは、科学史についてはすばらしい充実ぶりでアップデートも頻繁だが、ジェット機以降になると展示がだいぶ減るのに比べて、情報通信技術での英国の充実ぶりが窺える。レオナルド・ダ・ビンチサイエンスミュージアムも、全体的な展示の充実ぶりはすばらしく、ヨーロッパの教育にかける熱心さが伝わってくる。

お国柄が出るサイエンスセンターの展示

 医学の国オランダのサイエンスセンターだとバイオや医学、人体に関する展示が多くなるように、サイエンスセンターの展示は各国の事情を強く反映する。

 マレーシア・クアラルンプールのシンボルであるペトロナスツインタワーに入居しているサイエンスセンターは、ディズニーランドの「カリブの海賊」のようにカートに乗って出し物を見てまわる大がかりなアトラクションが、地底探検をテーマに作られている。これは全体がマレーシアの石油公社ペトロナスによって作られているからで、産油国のマレーシアらしい展示だ。バンコクのサイエンス・スクエアも、スポンサーである米系石油会社シェブロン関係の石油展示が多い。隣のシンガポールになると資源の展示は一気に少なくなる。

 中国になるともっと露骨で、宇宙開発関係の展示で自国のアピールがすごい。

 北京や上海のような大都市のサイエンスセンターは大幅リニューアルも多く、2-3年あけて再訪すると中身がガラっと変わっていることもある。

 今後もサイエンスセンターには注目していきたい。

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上海科学館での宇宙ロケットの展示、アポロ計画で使われたアメリカのサターンVを比較対象に出して、中国がさらに大きいロケットを作っていることをアピール。

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余談だが、上海科学館ではお台場の科学未来館に置かれた展示の「インターネット物理モデル」をコピーして一悶着あったことがある。現在はクレジットが入っているらしい。

関連サイト

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2019年07月18日 《亜洲創客》 モノのResearch and Development

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