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【19-08】《亜洲創客》「メイカー」をどう訳すか 台湾と大陸で異なる意味

2019年7月1日

高須正和

高須正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

中国深圳をベースに世界の様々なMaker Faireに参加し、パートナーを開拓している。
ほか、インターネットの社会実装事例を研究する「インターネットプラス研究所」の副所長、JETRO「アジアの起業とスタートアップ」研究員、早稲田大学ビジネススクール非常勤講師など。
著書「メイカーズのエコシステム」「世界ハッカースペースガイド」訳書「ハードウェアハッカー」ほかWeb連載など多数、詳細は以下:
https://medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

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アリババが毎年行っている「タオバオメイカーフェス(淘宝造物节)」。
出展者は「自分で販売をしている人」で、製造していないセレクトショップなどが多い。

製造業者と違う作り手を表す「メイカー」

 MAKER自体が、製造業者としてのmakerと区別するために大文字にした新語で、製造業と異なるDIYベース、草の根ベースの、自分の作りたいものを作るモノづくりを指す言葉だ。日本語では製造業者としてのメーカーに対して、メイカーと訳すやりかたが広まっている。2012年の「メイカーズ 21世紀の産業革命が始まる」(クリス・アンダーセン)などから、そうした形の作り手が注目されるようになってきた。

 デスクトップ・ファブリケーション、パーソナル・ファブリケーションなどの用語も、本来工場でプロフェッショナルが行う行為だった製造に対する対語として使われる。日本ではこのアメリカを中心としたMAKER,MAKERSという言葉をそのまま輸入し、「メーカー」に対してメイカー、メイカーズと当てることが多く、わざわざメイカーズと書く人は意味も同じように当てている。

 一方で世界の工場である深圳、そして深圳を擁する中国と、同じく半導体などを中心に製造業の存在感が高い台湾はこの言葉それぞれ別の漢字訳語をあてた。前回のコラムでも少し紹介したが、英語のMAKERの訳語に、台湾では自造者、大陸では創客を当てる。

 台湾での自造者は、英語のMAKERや日本語のメイカーに近い意味で、自分の手で(つまりDIYで)自分の作りたいものを作るという意味だ。それが職業に繋がるかどうかは別の話になる。写真撮影や楽器演奏、スポーツなどと同様、モノづくりも仕事にも娯楽にもなりえる。台湾で毎年行われているメイカーズの祭典、メイカーフェア台北に僕は2014年から参加しているが、そこでは「役立つ機能を有しないが面白い無駄ガジェットコンテスト」や職人的な作り込みなど、つくることそのものを楽しまないとできないようなアウトプットがよく見られる。そうした作品は、台湾の他は日本ぐらいでしか見ることができなかったものだ。

 現在は、メイカームーブメントの世界的な広がりにより、どこのメイカーフェアでも「つくること自体が目的のもの」が見られるようになったが、日本や台湾は今も際だって多く、香港やシンガポールでは教育のため、中国大陸ではビジネスのためなど、目的のハッキリしたアウトプットが多い)

つくるのが目的の台湾「自造者」、つくるのは手段の大陸「創客」

 大陸での創客が表す創は、イノベーションの訳語である創新や、スタートアップの訳語である創業と近い意味を感じる言葉だ。MAKERや自造者では、好きにモノを作ることが第一義で、結果としてスタートアップやイノベーションが起こることは結果の一つにすぎない。「つくる」という行為は、まず自分自身に対する行為として行われる。スタイルとしては「まず音楽演奏を楽しむ、プロになるかどうかは二の次」という感じだ。

 それに対して創客は、「スタートアップやイノベーションを起こすために手段としてモノ作りを選んだ」という色合いが濃くなる、自分自身に対してというよりも他人や社会に向き合った言葉だ。

アリババプロデュースのメイカーフェス

 2016年から毎年行われている、アリババがプロデュースしているTAOBAO MAKER FESTIVAL(淘宝創客节)は、アリババの中国向けEコマースサイトである淘宝の名前が冠せられているように、出展者がすべて「自分で商売をはじめた人」で構成されるフェスだ。メイカーフェア東京に出していてもおかしくないようなハードウェア・スタートアップや自分の製品をグッズにしているメディアアーティストも出展しているが、出展者の大部分がセレクトショップやペットショップ、自分の服やオリジナル雑貨の販売などで占められている。

 深圳に本社を置くMakerNetのKevin Lauも、明和電機やバイバイワールドほか日本のメディアアーティストたちの作品を集めたショップをタオバオメイカーフェスティバルに出展していた。Kevinは長年の友人でもあり、アメリカベイエリアの運営チームにも加わるなど、世界のメイカームーブメントを熟知している中国人でもあるが、彼はタオバオメイカーフェスを「中国ではアメリカと違った意味でメイカーが捉えられているけど、それが必ずしも悪いわけじゃない。自分でアクションを起こす、ユニークなものを売る人、買う人が中国でも増えているのは良いことだ。」と語る。

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明和電機のオタマトーン、バイバイワールドのビッグラッピーなどを販売ししているMakerNetのブース。
社長のKevinは、社名の「超常」を明和電機のコピー「ナンセンス」から取るなど、大ファンだ。

 アリババの創業者ジャック・マーは、「もっと多くの人が自分で商売を始められる環境」を目指してさまざまなサービスを開発している。Eコマースサイトの淘宝、最初は小規模取引で難しいエスクローサービスから始まって進化を続けるアリペイ、そして高額なデポジットを払わなくて済むジーマ・クレジットや小規模貸し付けなどを提供しているアント・フィナンシャルなどは、すべて「より商売をしやすくする」ためのサービスだ。

 創客と自造者、それぞれの焦点は違っても、どちらもMAKERの訳語としては正しいと思える言葉だ。クリス・アンダーセンの「メイカーズ 21世紀の産業革命が始まる」も、タイトルに産業革命を入れているとおり、全体としては「自分で作る人がどうやって社会を変える起こすに至ったか」というムーブメントの全体について語られている。

 また、セレクトショップなどの自分でつくっていない創客も、自分が楽しんで売れるモノ、商売を楽しめ、それ故に他の人と比べて違いを出せるものについて注目している。「やりたいことで食べていく」というのはジャック・マーがよく話すテーマだ。

 MAKERは個人的な活動を行う存在でもあるが、コミュニティを背景にした社会的な存在でもある。中国と台湾がそれぞれあてる「自造者」と「創客」は、考え方の違いと同時に、それぞれの社会が期待するものの表れでもあるのかもしれない。

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