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【13-019】外国企業による中国企業の買収(その8)

2013年 8月14日

康 石

康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

(八)税金問題

一、買収手法による税金の違いと中国におけるタックスプランニング

 持分買収取引の場合は、基本的に印紙税と持分譲渡益に対する企業所得税のみが発生することに対して、資産買収取引や事業譲渡取引の場合は、印紙税と資産譲渡益に対する企業所得税のほかに、譲渡対象資産の種類によって、増値税(在庫や機械設備の譲渡の場合)、営業税(知的財産権、商権等の無形資産の譲渡の場合)、土地増値税(土地や建物の譲渡の場合)、契約税(土地や建物の譲渡の場合)等が発生する可能性があるため、一般的に、持分買収の方が、発生する税種が多く税務負担も高くなると言われています。但し、会社の全部又は一部の資産を譲渡する際、当該資産の関連する債権債務と労働力を一括して譲渡する場合は、通常の資産譲渡にかかる増値税と営業税は発生しないこともあります。また、不動産分野におけるM&Aにおいては、不動産を保有しているプロジェクト会社の持分を譲渡することが実質的に不動産の譲渡に該当すると認定される場合は、持分譲渡取引の場合でも、土地増値税が発生してしまう可能性があるため、タックスプランニングの際に留意する必要があります。

 中国においては、特定のM&A取引の税務効果について、事前相談等の方法により、税務部門の仮認定を受ける等して、特定取引スキームの税務効果を確認しようとしても、事前相談等の申請を税務部門が受け付ける制度や実務がないため、中国におけるM&A取引は、タックスプランニングの面において限界があるといわざるを得ません。また、比較的に新しい取引形態である、ファンドによるM&A取引等に適用される関連税法にお互いに矛盾する規定がある場合、又は、関連規定が不十分な場合等もあるため、これらもより確実なタックスプランニングに影響を与えています。なお中国においては、税務局に対して行政訴訟を提起して、その税務認定を争うようなプラクティスが非常に稀であるため、税法の曖昧な規定を補うような判例の蓄積もそれほど存在していない問題もあります。

二、59号規定

 「企業再編業務企業所得税処理の若干問題に関する通知」(財政部、国家税務総局、2009年4月30日制定、2008年1月1日に遡って施行、以下、「59号規定」といいます。)により、一定要件を満たす企業形態の変更、債務再編、持分買収、資産買収、合併、分割等の企業再編取引については、特別なタックスベースを認定したり、譲渡益の発生のタイミングを遅らせたりすることにより、企業所得税の納付のタイミングを遅らせることができるようになりました。例えば、債務再編の結果、納税所得(債務免除益)が当該企業の当年度の納税所得額の50%以上を占める場合、かかる所得については、将来の5年間、均等の所得として認識することにより、企業所得税の納付タイミングを遅らせることができます(59号規定第6条第1項)。債務再編のうちのデット・エクイティ・スワップについては、債務の返済と持分投資の二つの構成に分けて考え、債務の返済部分に対して、債務免除益に対して納税することが一般的ですが、持分投資のタックスベースを元の債務のタックスベースにすることにより、税金は発生しないとしています。また、持分譲渡取引において、譲渡対象となる持分が対象企業の持分の75%以上を占め、譲受人が譲渡人に支払う対価の85%以上が現金ではなく、譲受人の持分等の株式である場合、譲渡人は譲渡益の実現がなかったことにし(具体的には、譲渡人が受け取る譲受人等の持分のタックスベースを、譲渡対象となる持分の元のタックスベースにすることにより、譲渡益がないとの処理をします)、当該持分譲渡取引の結果、企業所得税を支払わないことができます(59号規定第6条第2項)。但し、同規定には、「企業再編後連続12ヶ月以内に、元の財産の実質的な経営活動を変更しないこと」等、必ずしもビジネスの実態には合わないような要件があるため、同規定の使い勝手には限界があると言われています。また、実務上は59号規定の要件を満たす取引でも、同規定の恩恵を受けることができないとの問題も生じているようなので、主管税務部門との緊密な意見交換が必要になります。例えば、上海市で59号規定実施後、同規定に基づく税制優遇を実際の受けた取引は1例しかないとの情報もあります。

三、698号通知

 「非居住企業持分譲渡所得の企業所得税管理の強化に関する通知」(国家税務総局、2009年12月10日制定、2008年1月1日に遡って施行)(以下、「698号通知」といいます。)により、中国企業の海外持株会社の持分のオフショアにおける譲渡(以下、「間接譲渡」といいます。)も中国税法上の課税対象になる可能性が出てきました。698号通知第5条及び第6条により、国外投資者(実質支配者)が中国居住企業の持分を間接譲渡し、譲渡される国外持株会社の所在国(地域)の実質税負担が12.5%を下回り、又はかかる所在国(地域)においてその居住者の国外所得に所得税が課されない場合においては、かかる間接譲渡につき取引後30日以内に、間接譲渡対象となっている中国居住企業所在地の税務局に対して、届出を行う義務が譲渡人に課されています。届出された取引に対して、中国の税務当局が、国外投資者(実質支配者)が組織形態を濫用する等の対策を通じて中国居住企業の持分を間接譲渡し、かつ合理的な商業目的がなく、企業所得税の納税義務を回避すると認定する場合、主管税務機関は、順次上に報告して中国税務総局の審査を受けた後に、経済的な実態に応じて当該持分譲渡取引の性質を改めて確定し、税対策に用いられる国外持株会社の存在を否定することができ、これにより、間接譲渡は事実上、中国居住企業の持分を譲渡することにより収益を得たとして、間接譲渡の譲渡人に対して中国企業所得税を課すことを可能にしました。

 外国企業が中国に投資する場合、香港、BVIやケイマン等のタックスヘーブンを通じて投資することが多く見受けられますが、上記タックスヘーブンは、698号規定における税制負担が12.5%未満の国(地域)に該当するため、かかるスキームを取った会社の持分の間接譲渡は、698号通知の適用対象になります。中国当局は、一般的に外国企業の撤退に関するプレスリリース等により、間接譲渡が行われたことを把握し、関連中国居住企業に対する税務調査等をはじめることが一般的なバターンです。同通知後、間接譲渡取引が中国企業所得税を納付するようになった事例も複数でているため、留意が必要です。但し、最近になって、類似の事例に関する報道が少なくなっており、実務上も698号通知に従った届出を行わない取引も多数存在するとの情報もあります。



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