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第141回中国研究会「中国「2060年炭素実質ゼロ」目標のロードマップの実態と課題」(2021年3月9日開催)

「中国「2060年炭素実質ゼロ」目標のロードマップの実態と課題」

開催日時: 2021年03月09日(火)15:00~16:15

言   語: 日本語

開催方法: WEBセミナー(Zoom利用)

講   師: 周 瑋生(しゅう いせい)氏 立命館大学政策科学部 教授

講演資料:「 第141回中国研究会講演資料」( PDFファイル 5.00MB )

講演詳報:「 第141回中国研究会講演詳報」( PDFファイル 7.82MB )

YouTube[JST Channel]:「第141回中国研究会動画

「コロナ後のグリーン・リカバリーを周瑋生氏が日中韓協力提言」

小岩井忠道(アジア総合研究センター準備・承継事業推進室)

 東アジアの環境・エネルギー問題などに詳しい周瑋生立命館大学政策科学部教授が、3月9日科学技術振興機構(JST)主催の研究会で講演し、2060年に二酸化炭素(CO2)排出量を差し引きゼロにする目標を掲げる中国の現状と課題を詳しく解説した。周氏はこれまでも中国、日本に韓国を加えた3カ国間が環境、エネルギー、医療福祉などの分野で協力する意義を繰り返し主張している。今回の講演でも、新型コロナ禍後の環境を重視した経済復興策として注目されている「グリーン・リカバリー」に3カ国が協力して取り組むよう提言した。

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周瑋生立命館大学政策科学部教授

2060年CO2排出量差し引きゼロに

 習近平中国国家主席は、2020年9月22日、国連総会でビデオ演説し、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量(吸収量)を差し引きゼロにするカーボンニュートラル(炭素実質ゼロ)を目指すと表明した。昨年10月の中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(五中全会)で採択された第14次五カ年計画にも、2021~2025年の期間中に単位GDP(国内総生産)当たりのエネルギー消費量13.5%削減し、CO2も18%削減する目標が盛り込まれている。

 周氏は、この目標を達成するために2019年から2060年にかけて、エネルギーに占める化石エネルギーの割合を85%から13%に下げ、逆に原子力は2%から19%、再生可能エネルギーは5%から53%にそれぞれ増やす必要があるとした。CO2の実質排出量ゼロは、総排出量と除去・吸収量が等しくならないと実現しない。総排出量を抑えるために「燃料転換・新エネルギー導入」と「省エネ・産業構造変換」という技術的対応に加え、「生活様式の変革・経済成長を目標としない定常経済」と「人口増加抑制」が必要。これらによってCO2排出量を最小限に抑えたうえ、「回収・処分・貯留」方策と「植林など吸収源」によって全て除去・吸収する、としている。

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(周瑋生氏講演資料から)

三峡ダムと同等の再生エネが無駄に

 エネルギー構造の転換と新エネルギーの導入に関しては、太陽光発電と風力発電のコストが過去10年間でそれぞれ90%、50~60%減少した実績を挙げ、再生可能エネルギー源からの電力コストとそのシステムコストの大幅な低下が見込めることを紹介した。一方、中国の一次エネルギー供給の約6割以上、 CO2排出量の約9割が石炭の消費による現実にも注意を促し、石炭消費量は簡単に削減できないという見通しも、周氏は示した。

 周氏が重要課題として指摘したのが、コストも低く出力も一定のベースロード電源として現在65%を占める石炭火力に代わる電源。出力変動は容易だがコストが高い電源の比率、さらに電力系統調整能力の不足をどうするかも大きな問題として挙げた。電力系統出力変動性の不十分さは、再生可能エネルギーの開発のネックとなっている。電力系統の「容量面での系統制約」により送電や消費のできない水力・風力・太陽光電力量は2018年に計1,023億キロワット時に上る。これは三峡ダムの年間発電量に匹敵し、石炭発電所の年間発電量3,000万キロワットに相当する。無駄になった水力・風力・太陽光電力を石炭火力に置き換えると年間、4,000万トンものCO2排出量増に見合う。新エネルギーを大幅に導入するには、電力系統の包括的な変革が急務となっていることを、周氏は強調した。

大きな可能性持つ水素

 電気自動車の利用急増というエネルギー構造転換、新エネルギー導入に向けての重要な動きとともに、特に周氏が期待をかけているのが水素。中国の水素エネルギーの関連政策は、燃料電池車を主眼に策定されており、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によると、2019年9月末時点で、中国国内には物流車2,230台、バス1,285台、乗用車3台の水素燃料電池車が走っている。燃料電池車のための水素ステーションも多くの主要都市に設けられている。

 ただし、水素がエネルギー統計に入ったのは2020年が初めて。現状は長期的な開発戦略とロードマップが欠けている。車両全体の安全性、信頼性、耐久性、環境適応性や標準化、モジュール性、エンジニアリング設計など解決しなければならない問題は多い。車両全体の技術水準やコストの面では米国、日本とはまだ格差が大きい。トヨタは水素燃料電池技術に関する10,700以上の特許を取得済み。トヨタ系は世界の水素燃料電池技術特許のほぼ50%を独占している。こうしたさまざまな課題があることを指摘する一方、周氏は水素の将来性に大きな期待を示した。

 現在、中国で製造される水素の原料は8割以上、石炭と天然ガス。水素自体はCO2を排出しないが製造段階でCO2を排出しているわけだ。しかし将来、二酸化炭素回収・有効利用・貯留技術(CCUS)によって石炭や天然ガスから水素を製造する際に排出されるCO2を除去・吸収してしまうことが可能。あるいは再生可能エネルギーによる水分解法によって水素を製造することで製造・利用を通してCO2排出ゼロの新エネルギーとなり得る。これによって不安定さと偏在性が大きな弱点となっている再生可能エネルギーを水素という安定的なエネルギーに変えることができる。

 こうした将来の可能性を列挙し、「石炭から排出されるCO2の大幅削減ができないと、2060年のCO2排出実質ゼロも、2030年までにCO2排出を減少に転じさせる目標も達成は難しい。

時間はかかるが、水素は石炭や他の新エネルギーが持つ弱点を克服するカギを握っている」と周氏は語った。

日中韓で都市間協力推進を

 CO2除去・吸収法としてはCCUSと二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)の研究開発が10年前から研究開発が始まっている。これまでに累計150万トンのCO2を貯留し、技術的にはテスト段階から大規模工業化実用段階へと向かっている。ただし、高リスク、高コストという課題があることを周氏は指摘した。

 CO2吸収源として実際に大きな役割を果たしている植林については、2020年までに2005年に比べて4千万トンもの森林面積を増やした。これは、最大で年間2~4億トンのCO2吸収量に相当する。植林とともに関心を持つ国が多い炭素排出権取引に関しても、直轄市や主要な省でパイロット事業が始まっている。2013~2018年にこれらの直轄市・省のパイロット事業で取り引きされたCO2排出量の合計は1億4,600万トン、取引額は60億元に上る。最も取り引きが盛んなのは湖北省だ。他方、炭素排出権取引に関してはCO2排出の測定と検査がより難しいという問題点もあることを指摘し、炭素市場の開拓と活用に一層の努力が必要となっていることも課題として周氏は挙げている。

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(周瑋生氏講演資料から)

 周氏は、経済成長一辺倒ではなく環境を重視した経済復興策として「グリーン・リカバリー」が国際的に関心を集めている現状にも注意を促した。新型コロナからの経済復興にあたり、経済政策を優先させるのではなく、気候変動対策など環境や社会をさらに推し進め、生態環境の保全を通じて災害や感染症などに対してもより強靭な社会・経済モデルへと移行していく。こうした「グリーン・リカバリー」の考え方に沿って、中国、日本、韓国が協力する意義を強調した。

 周氏は2019年と2018年にもJST主催の研究会で講演し、原発や資源廃棄物のリサイクル問題さらに医療・福祉・介護問題などでも中国と日本、韓国が協力する意義を繰り返し強調している。今回の講演でも最後にあらためて日中韓中心の東アジア低炭素共同体構築の必要を訴えた。中国と日本がこれまで環境、農業に加え中小の連携でもずっと協力してきた実績を強調し「中国、日本、韓国には姉妹都市協定を結んでいる都市がたくさんある。新型コロナウイルス感染もCO2排出も都市が原因をつくり、打撃も被る。3カ国が大都市だけでなく中小都市も含め、都市間の連携を強め、新たな分野の協力も進めるべきだ」と提言した。

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講演当日、時間の都合上回答できなかった質問を、後日周先生にご回答いただきましたので紹介させていただきます。

1.先週の金曜日(3月5日)の日本経済新聞で、2020年の中国の石炭火力発電所は3,840万kW増えたと報告されていました。中国の石炭火力発電所の建設は世界の中でも際立っているようです。中国で建設されている石炭火力発電所はUSCプラントで、高効率のモノが大半のようですが、このような状況下で2060年に炭素ゼロは可能なのでしょうか?

 
 
 

 A: このままでは、2060年に炭素実質ゼロは不可能であると思います。しかし、石炭火力を簡単に削減できるものではないのも事実です。ベースロード電源(現在は石炭の割合65%)、出力変動容易な電源(現在の比率<6%)としての機能を誰が代替できるのかが喫緊の課題です。今は、原子力拡大、新エネルギーの増加、石炭のクリーン化(報告で紹介したように、石炭発電+CCSまたはCCUS、石炭からH2+CCSまたはCCUS等)などが挙げられますが、安定性、経済性、環境性と安全性(3E+S)というエネルギー問題の基本を克服する必要があります。切り札はどちらかというと、一つではなく、ベストミックスだと考えられます。そして、当面は、CO2排出のピークアウトをいつ、いくらで迎えるかが緊急の課題です。ピーク値をできるだけ小さくて、そして早く迎えることができるかどうかは、2060年炭素実質ゼロ目標を実現できるかどうかの試金石であると考えらえます。

2.強度 という概念をお教えください。「総量と強度」とあるので、原単位改善のことかと推測しております。

 

 A: その通りです。排出原単位の言い間違いです。中国語ではGDPあたりの排出量を「排出強度」というのですが、両者を混乱してしまいました。ご指摘、ありがとうございました。

3.下記の質問について、ぜひご意見をお伺いしたいですが、どうぞよろしくお願いいたします。

・中国の長期的な低コスト化・低炭素化見通し

 A: まずは、長期的な低コスト化・低炭素化は中国の国益と持続可能な発展に合致する国策です。2060年炭素実質ゼロ目標はかなり将来のこととはいえ、影響要因と不確実性が大いにあり、今後はその方向を目指して国を牽引していくことは間違いないと推測できます。実際も、中国は、速いスピードで低コスト化・低炭素化の道を歩んでいるのですが、日本国内では、あまり報道されていないのは残念に思います。しかし、長期的な低コスト化・低炭素化にあたり、阻害要因と課題も山積です。例えば、技術面では、個々の技術が進んでも、システム技術が随分遅れている業種が多いです。システム省エネの余地が大きく、日本との協力ポテンシャルも大きい。中国の長期的な低コスト化・低炭素化に関するロードマップはいまだ示されていないが、国策として不退転であることは言えるでしょう。ただし、中国では、化石燃料を止めるのは至難の課題です。そのために、化石燃料を一部使いながら吸収源の拡大(植林やバイオ固定技術などノーリグレット対策)とCCS、CCUS(温暖化特化対策)の導入が不可欠です。

・鉄鋼製造の低炭素化に関する技術的対応方針(水素還元といった技術革新やCCS等)

 A: 鉄鋼業界は過剰生産削減、構造調整、モデルチェンジ促進の重点業界であり、低炭素、ゼロ炭素発展理念でグリーン化改造・高度化の実施を加速し、省エネ・環境保護、再生可能エネルギーなどの新興技術を発展させることは、鉄鋼業界の革新実現を加速する重要な方式であり、水素エネルギーと鉄鋼業界の結合はまさに良好なモデルです。鉄鋼企業は、水素ガスの生産と使用に豊富な経験を持っています。中国最大の鉄鋼会社 宝武鉄鋼集団は中国水素エネルギー及び燃料電池産業革新戦略連盟(中国水素エネルギー連盟)に加盟し、華東地区でトップ規模の高純度水素生産と配送拠点を保有しています。同時に、各種対策技術のコスト競合の下で、将来はCCSも鉄鋼業界に導入する見込みがあるものと考えられます。

4.経済政策に関しては分権的な印象を受けるのですが、エネルギーのグリーン化、炭素排出量削減に関して地域ごとの割当・目標等はあるのでしょうか?それとも、より中央集権的に環境政策は執行されるのでしょうか?

 
 

 A: 環境政策は基本的にはトップダウン型と理解できますが、目標が決まったら、地域ごとへの割当・サブ目標などが行われます。この3060目標(2030年にピークアウト、2060年に実質ゼロ)については、すでに各業種、各地方にどう分解し、どう割り当てするかの議論が始まっています。強力な中央集権がなければ、地方の分権(責権利)は実現できないものと思います。トップダウンとボトムアップをベストミックスする必要があり、中国の強みでもあり、弱みでもあります。

5.中国は、太陽光と風力発電をどのように拡大させていくのでしょうか?

 A: 私の研究室の計算で、太陽光発電コストはまもなく石炭発電コストを下回ります。しかし、太陽光と風力発電などにおいては、電力系統出力変動性の課題(ベースロード、ミドル、ピック)と新エネ需給のミスマッチ問題(系統制約、需給バランス)が存在しています。中国では、電力系統出力変動性の不十分さが、再生可能エネルギー開発のネックとなっており、緊急に解決する必要のある問題です。2018年電力系統の「容量面での系統制約」により、送電や消費のできない水力・風力・太陽光電力量は計1,023億kWhで、これは三峡ダムの年間発電量、または3,000万キロワットの石炭発電所の年間発電量、石炭火力の発電費用約350億元、4,000万トン-CO2に相当。全額購入保証などの強制政策があっても、依然として深刻な状態に陥いています。新エネを大幅導入するには、電力系統の包括的な変革(技術システム的、政策システム的)が急務です。

6.中国の原発の安全性は?以前、内陸部の原発建設を停止したと思いますが、今はどうなっていますか?

 

 A: 中国ではこれまでにINESレベル2以上の事故事象は発生していません。中国は、1994年2月に国内最初の発電用原子炉大亜湾1号機の商業運転に成功し、2019年12月末現在、研究炉と初臨界を終えた原子炉を合わせて48基が運転中です。建設(10基)・計画(42基)段階の原子炉がすべて運転を開始すれば、2030年時点で最大102基の商業運転が予測できます。中国の「運転中」の原子炉数は、米国(96基)とフランス(58基)に次ぐ原発保有国の31カ国中世界3位へ位置づいています。今のところ、中国は原発事故事象(国際原子力事象評価尺度(INES:International Nuclear Event Scale)レベル2以上)は起きていません(参考:Zhou, W. etc., Construction of an East Asia Nuclear Security System, 「East Asian Low-Carbon Community: Realizing a Sustainable Decarbonized Society from Technology and Social Systems.」、Springer、2021.2)
 2021年政府活動報告によれば、安全確保の前提下で原子力発電を積極的かつ秩序立って発展させるという方針。2012年以来、中国は内陸部の原発建設の可否に対して何度も深い調査、研究と検証を行い、内陸部原発建設の可否判断のために多くの準備作業を行いました。現在のところ、内陸部の原発建設については「事前準備作業」にとどまり、内陸部の原発建設のスケジュールなどは明確になっていません。
 ウクライナ、カナダ、ドイツ、フランスなど内陸部原発を有しているが、中国で内陸部原発を作ってはならないと固く反対しています。内陸部原発を作るかどうかは、すでにエネルギー問題をはるかに超えた中国の生存問題だからです。
 中国は農業大国であり、命に関わる淡水資源の乏しい国です。内陸部の水源はすべて淡水であり、ほとんどの大河川は周辺都市に直接生活用水を供給しています。このような状況で原発を建設すれば、事故が発生した場合、その結果は想像を絶します。

7.植林が進み、その総面積がグラフ中で2倍になっています。どのような地区で進行しているのでしょうか? 砂漠化が進んでいる地区への植林等も進められているでしょうか?

 

 A: 中国は、40年以上の歳月をかけ、国土、特に砂漠地帯の緑化に力を入れています。中国林業・草原局によれば、中国の森林率は、1950年前後8,6%、1980年代5%前後、1990年16.4%、2016年21.9%、2020年23%以上に達しています。2050年に中国全土の42.4%となる4,06万9,000平方キロメートル、森林の蓄積は230億立方メートル以上、森林による炭素吸収量は130億トン以上の見通し。国連食糧農業機関(FAO)が発表した報告書「世界森林資源評価2015」でも、2010年から15年までの間、中国は森林面積純増量が年平均で154万2,000ヘクタール増です。
(出典forestry.gov.cn/zlszz/4260/content-1029184.html
 砂漠緑化は重点の一つです。中国の領土には八大砂漠が分布しており、それぞれタクラマカン砂漠、グルバンツングート砂漠(ジュンガル盆地砂漠)、バタンジリン砂漠、テングリ砂漠、クムタゲ砂漠、チャイダ木盆地砂漠、クブツィ砂漠、ウランブ和砂漠。統計によると、中国の砂漠面積は130万平方キロメートルに達し、全国の土地総面積の13.6%を占めています。
(出典baijiahao.baidu.com/s?id=1660404324863536353&wfr=spider&for=pc

  事例:
クブチ砂漠 庫布斉(クブチ)砂漠は内モンゴルオルドス高原北部に位置し、面積は約1万3,900平方キロメートルで、中国で7番目に大きい砂漠であり、北京に最も近い砂漠でもあります。未整備前のクブチの植生被覆率は1%に過ぎず、その劣悪な自然環境の下で、クブチ砂漠は「死の砂海」と呼ばれていました。現在、この砂の海はすでに「緑の海」になり、緑化総面積は6,500平方キロメートルに達し、森林被覆率は16%近く、植生被覆率は50%を超え、野生動物も次第に多様化しています。

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ムウス砂漠

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ウランブワ砂漠

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8.CO2を化学原料資する取り組みが進んでいると思いますが、どの程度の寄与がありますか?

 A: CO2の化学的固定は、温暖化対策の一つです。毎年排出した300億トン以上のCO2は、1%程度利用されています。中国では、主に消防、医薬、農業、食品、溶接などの分野で使われていますが、利用量が少ないし、従来の方法で利用しても、CO2は大気中に再び排出され、削減できません。この部分について、専門外なので、私の以前の勤務先(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)の関連研究成果をご覧いただければ幸いです。

9.ロシアも脱炭素に力を入れているというニュースを見ますが、脱炭素に関するロシアと中国の協力関係についてどうみていますか?

 

 A: ロシアは、世界第4大の炭素排出国で、パリ協定NDC2030年排出量目標は90年比30%削減。4月22日に、米国主催の気候サミットにおいて、プーチン大統領は、「ロシアは「国連気候変動枠組条約」、「京都議定書」及び「パリ協定」を含む諸協定を遵守し、炭素排出を削減するために立法面で積極的に取り組み、さらに2050年までに累積炭素排出量を大幅に制限する目標を掲げています。ロシアの温室効果ガス排出量は1990年と比べてほぼ半減し、二酸化炭素排出量は年間31億トンから16億トンに減少した。」と強調しました。現在、ロシアのエネルギー供給の45%が原子力発電などの低排出エネルギーを採用しています。今後、ロシアは引き続き油田ガスの回収率を高め、二酸化炭素の回収、保存、再利用を実現し、すべての経済分野のエネルギー利用率を高める、としています。
「ロシア連邦2030年前エネルギー戦略」によれば、2030年までに、ロシアのエネルギー構造の中で、天然ガスの需要は50%以下に低下し、再生可能エネルギーに対する需要は14%に上昇し、そのうちロシアが再生可能エネルギーに依存して生産する電力は1,260億-1,550億キロワット時に達し、全ロシアの電力生産の約7%を占めます。
 中露協力については、5月19日、中露原子力協力プロジェクトである田湾原子力発電所と徐大堡原子力発電所が正式に着工し、両国の指導者は映像を通じて共に参加しました。田湾原子力発電所7、8号ユニットと徐大堡原子力発電所3、4号ユニットは、中露のこれまでで最大の原子力協力プロジェクトであり、両国の実務協力の高いレベルを代表しています。稼働後の年間発電量は376億キロワット時に達し、二酸化炭素排出量を年間3068万トン削減することに相当します。
 中国側は、中露は今後より多くの低炭素協力プロジェクトを推進し、世界の持続可能な開発目標の実現に建設的な役割を発揮すると強調しています。
 ロシアの発電効率が極めて低いので、今後は、日中両国が、ロシアを第三国市場として協力するポテンシャルが大きいとみています。

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出所 International comparison of fossil power efficiency and CO2 intensity - Update 2016より、周研究室作成

10.途中で言及頂いた「人造太陽光」について、もう少し詳しく教えて下さい。原子力発電の「核融合」とは異なるのでしょうか?

 

 A: 「核融合」の一環です。2020年12月4日、中国の次世代制御可能核融合研究装置「中国還流器2号M(HL-2M)」が成都市で完成し、初の放電に成功し、核融合研究に大きな一歩と評価されています。1.5億度(太陽中心部温度の10倍に相当するという)の高温に達することが可能とされ、中国では「人工太陽」と呼ばれています。中国は、日米欧などがフランスに建設中の「国際熱核融合実験炉(ITER)」のプロジェクトに参加しており、HL-2Mを活用して技術支援する考えでいます。

11.出力変動容易な電源が必要との話がありましたが、中国の場合それはどういったものを想定されているのでしょうか?蓄電池でしょうか?

 

 A: 主にミドル電源とピーク電源の需要と変動に対応できる電力系統の調節能力と運行効率のことを指して報告しました。
 電力系統出力変動性の不十分さが、再生可能エネルギー開発のネックとなっており、緊急に解決する必要のある問題。2018年電力系統の「容量面での系統制約」により送電や消費のできない水力・風力・太陽光電力量は計1,023億kWhで、これは三峡ダムの年間発電量、または3,000万キロワットの石炭発電所の年間発電量、石炭火力の発電費用約350億元、4,000万トン-CO2に相当。 全額購入保証などの強制政策があっても、依然として深刻な状態。新エネを大幅に導入するには、電力系統の包括的な変革が急務です。
(参考:nea.gov.cn/2018-03/23/c_137059994.htm
 電力系統の調節能力と運行効率を高め、負荷側、電源側、電力網側から複数の措置を並行して行い、系統の柔軟性と適応性を重点的に強化し、新エネルギー削減の難題を解決し、グリーン発展を推進することが重要な課題です。

12.今年の石炭火力増加は、厳寒によるところが大きいのでは?

 A: そうですね。厳寒は要因の一つですが、全部ではありません。
 2020年12月、中国の湖南省をはじめとする浙江省、内モンゴル自治区、広東省の多くの地域で、電力不足問題が相次いで発生しました。一般家庭用の電力消費だけでなく、企業などの電力消費も制限されました。電力不足の省を対象に地域内の電力事情を分析すると、電力不足の原因は電力需給のバランスが崩れていること以外、湖南省と浙江省の状況が典型的でした。湖南省の場合は、ピーク時の電力需要に応じないため電力の消費を制限し、浙江省の場合は、地域の省エネ目標を達成するため電力の消費を制限しました。
 湖南省と浙江省を中心とする2020年冬の電力不足問題を分析しました。過去の電力不足と比べると、今回の電力不足問題の特徴は以下のようにまとめることができます。

  ①経済発展と季節性、さらにCovid-19の影響による、一時的な電力消費増加が発生し、ピーク時の電力需要が上昇した 

  ②非火力発電設備容量の拡大によるベース電源がピーク電力の需要に応じられない

  ③海外からの石炭輸入先の変化と国内石炭の減産による火力発電用の石炭の供給が不安定

  ④省エネと排出削減目標の達成及び立ち遅れた生産能力の淘汰などの政策の影響を受けた

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周 瑋生

周 瑋生(しゅう いせい)氏  立命館大学政策科学部 教授

<略歴>

82年 浙江大学工学部卒業、95年京都大学物理工学専攻博士後期課程修了、工学博士号取得。専門はエネルギー環境政策学、システム科学、政策工学、サステナビリティ学。95年新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)産業技術研究員、98年地球環境産業技術研究機構(RITE)主任研究員を経て、99年立命館大学法学部准教授、02年政策科学部教授に。これまで立命館孔子学院初代学院長(現在名誉学院長)、立命館サステイナビリティ学研究センター(RCS)初代センター長、大阪大学サステイナビリティ・サイエンス研究機構特任教授、浙江大学、北京大学等複数大学の客員教授、RITE研究顧問、一般社団法人国際3E研究院院長等を歴任。総じて経済発展、エネルギー安定供給と環境保全に資する経済的社会的または技術的な対策を分析・評価し、最適なエネルギー環境政策を求めることにより持続可能な発展及び広域低炭素社会実現のための国際的な提言に結びつける研究を行っている。