【23-68】相手国の印象ともに悪化 日中共同世論調査結果
小岩井忠道(科学記者) 2023年10月23日
日中両国民の相手国の印象は、昨年に比べいずれも悪化していることが、日本の特定非営利活動法人「言論NPO」と中国の海外向け出版発行機関である中国国際伝播集団の日中共同世論調査で明らかになった。特に日本は「良くない印象を持つ」と「どちらかといえば良くない印象を持つ」が計92.2%と昨年の87.3%に比べさらに増え、2005年の調査開始以来、2番目の悪い数字となった。中国人の日本に対する印象も「良くない印象を持つ」と「どちらかといえば良くない印象を持つ」が昨年に62.6%と幾分改善したのが、今年は62.9%と再び悪化に転じた。
今回調査 | 2022年調査 | 2021年調査 | 2020年調査 | |
良い | 8.4% | 2.9% | 2.3% | 5.0% |
どちらかといえば良い | 28.6% | 32.3% | 29.7% | 40.2% |
どちらかといえば良くない | 37.0% | 28.7% | 30.4% | 28.0% |
良くない | 25.9% | 33.9% | 35.7% | 24.9% |
今回調査 | 2022年調査 | 2021年調査 | 2020年調査 | |
良い | 0.7% | 1.3% | 0.8% | 0.7% |
どちらかといえば良い | 7.1% | 10.5% | 8.2% | 9.3% |
どちらかといえば良くない | 65.6% | 67.2% | 69.6% | 66.8% |
良くない | 26.6% | 20.1% | 21.3% | 22.9% |
(言論NPO、中国国際伝播集団「2023年日中共同世論調査」【日中比較資料】)、「2022年日中共同世論調査」【日中比較資料】」、言論NPO、中国国際出版集団「2021年日中共同世論調査」【日中比較資料】」から作成:以下の表も同じ)
(言論NPO、中国国際伝播集団「2023年日中共同世論調査」【日中比較資料】から)
日中関係重要と見る数も減少
日中関係を「重要」「どちらかといえば重要」と考える日本人は65.1%と昨年の74.8%から大きく減少、「重要ではない」「どちらかといえば重要ではない」が4.4%から7.5%に増えた。「重要」「どちらかといえば重要」と考える中国人も71.2%から60.2%に11ポイント減少し、調査開始以来最低となった。
今回調査 | 2022年調査 | 2021年調査 | 2020年調査 | |
重要である | 20.7% | 31.5% | 27.5% | 34.3% |
どちらかといえば重要である | 39.4% | 39.7% | 43.4% | 40.4% |
どちらともいえない | 20.7% | 14.7% | 6.7% | 15.4% |
どちらかといえば重要ではない | 14.0% | 7.4% | 14.0% | 6.4% |
重要ではない | 5.1% | 15.5% | 8.4% | 2.9% |
今回調査 | 2022年調査 | 2021年調査 | 2020年調査 | |
重要である | 33.3% | 36.9% | 28.1% | 27.7% |
どちらかといえば重要である | 31.8% | 37.9% | 38.3% | 36.5% |
どちらともいえない | 27.3% | 20.0% | 28.8% | 31.5% |
どちらかといえば重要ではない | 2.9% | 2.1% | 2.0% | 2.4% |
重要ではない | 4.6% | 2.3% | 2.5% | 1.7% |
現状、今後の見通しも悲観的
現在の日中関係についてはどうみているのか。日中双方とも悲観的な見方が増えている。「悪い」「どちらかといえば悪い」と見る日本人は計68.4%と昨年の56.2%から12.2ポイントも悪化した。「良い」「どちらかといえば良い」も昨年の2.8%からさらに低下、わずか0.8%と調査開始以来、最低に落ち込んだ。中国人も日本ほどではないが「悪い」「どちらかといえば悪い」と見る人が昨年の37.7%から41.2%に増えた。ただし、日本と異なり「良い」「どちらかといえば良い」が昨年の17.5%から29.7%と大きく増えている。
今回調査 | 2022年調査 | 2021年調査 | 2020年調査 | |
良い | 7.2% | 1.4% | 0.6% | 1.5% |
どちらかといえば良い | 22.5% | 16.1% | 10.0% | 20.6% |
どちらともいえない | 28.5% | 44.0% | 45.6% | 54.0% |
どちらかと言えば悪い | 27.3% | 26.2% | 34.4% | 19.5% |
悪い | 13.9% | 11.5% | 8.2% | 3.1% |
今回調査 | 2022年調査 | 2021年調査 | 2020年調査 | |
良い | 0.2% | 0.6% | 0.4% | 0.3% |
どちらかといえば良い | 0.6% | 2.2% | 2.2% | 2.9% |
どちらともいえない | 30.7% | 40.8% | 42.7% | 42.5% |
どちらかと言えば悪い | 44.2% | 41.7% | 40.7% | 44.7% |
悪い | 24.2% | 14.5% | 13.9% | 9.4% |
日中関係については今後の見通しについても似たような日中両国の違いがみられた。「良くなっていく」「どちらかといえば良くなっていく」と見る日本人はわずか4.2%と昨年の8.2%からさらに減った。「悪くなっていく」「どちらかといえば悪くなっていく」と悲観的な見方をする日本人は昨年の37.1%から39.7%と5年連続の悪化となった。一方、中国人は「悪くなっていく」「どちらかといえば悪くなっていく」が昨年の29.1%から40.1%と大幅に増えているものの、「良くなっていく」「どちらかといえば良くなっていく」は昨年の23.3%から31.6%と増えている。
これらの結果について、工藤泰志言論NPO代表は、「両国民の閉塞感は日本がより否定的で中国の方が抑制的だが、政府間の外交や民間の交流に動きがない限り、両国民が日中関係の改善を期待することは難しい」との見方を示し、特に日中首脳会談の必要を強く訴えた。
処理水放出に分かれる見方も
「言論NPO」と中国国際伝播集団(昨年1月、旧称の中国国際出版集団から名称変更)の日中共同世論調査は2005年から毎年、実施されており、今年は、日本側が18歳以上の男女を対象に9月2日から9月24日の間、訪問留置回収法により実施された。有効回収数は1,000。中国側は、北京、上海、広州、成都、瀋陽、武漢、南京、西安、青島、鄭州の10都市、18歳の男女を対象に調査員による面接聴取法により8月18日から9月1日にかけて実施され、有効回収数は1,506となっている。
毎年、多様な質問項目が設けられているが、今年は日中両国で大きな関心を集めた福島第一原発の最初の処理水海洋放出が行われた8月24日~9月1日に調査時期が重なるか直後ということもあり、処理水放出に関する質問項目も設けられた。処理水放出について中国人は「大変心配している」が22.1%、「ある程度心配している」が25.5%で、「あまり心配していない」が18.7%「全く心配していない」が8.0%。日本人の「大変心配している」8.9%、「ある程度心配している」24.3%、「あまり心配していない」23.1%、「全く心配していない」14.2%に比べるとやはり中国人の方が心配している人が多いという結果になった。
一方、「日中関係の発展を妨げるもの」は何かを3択で聞いた設問の対する両国民の答えが目を引く。中国人での処理水の海洋放出を挙げたのはわずか5.8%。日本人の36.7%という数字との違いは大きい。ちなみに最も多かったのは日中両国とも「領土をめぐる対立」(中国39.5%、日本43.6%)だった。
中国国内で処理水に対する意見が分かれていることをうかがわせる結果は、処理水に対する国際原子力機関(IAEA)の対応に対する設問からも見て取れる。「IAEAの科学的検証は信頼できるか」(単数回答)に対して「IAEAの科学的検証とは関係なく、処理水は放出してはならない」とする中国人は35.9%、「信頼できないので、処理水は放出すべきではない」も14.1%と、それぞれ4.8%、2.2%の日本人を大きく上回る。一方、33.9%の中国人が「IAEAの科学的検証は信頼できるが、日本政府は国際社会の不信感を解消するためにさらなる努力をすべきである」という答えを選択している(日本人は47.2%)。さらに「IAEAの科学的検証は信頼でき、それに基づく日本政府の措置は妥当である」とする中国人が13.0%もいることが目を引く(日本人は25.2%)。
核戦争起こるとみる両国民多数
今回の調査では「世界でこれから核戦争が起こる可能性をどうみるか」という設問(単数回答)が日本側の意向で新たに加わった。「近年中にあり得る」と見る中国人は12.4%、日本人は3.5%、「遠くない将来はあり得る」は中国人が40.2%、日本人が36.4%と、中国人の半数以上(52.6%)、日本人の4割近く(39.9%)が、世界で核戦争が起きるとみていることが分かった。その理由として日中両国ともに最も多かったのは「ウクライナ戦争で、核保有国のロシアが核の使用を示唆し、原発を攻撃するという、これまでに考えられなかった事態が起こったから」で、中国人の57.6%、日本人の34.7%に上る。
10月10日に行われた日中共同論調査結果を公表した記者会見は、日本記者クラブと北京の会場をオンラインで結ぶ形で行われた。北京会場では高岸明中国国際伝播集団副総裁・総編集長が、今回の調査結果について詳しく説明した。高氏が強調したのは、日中関係が自国にとって重要と認識している中国人が60.1%、日本人が65.1%に上るという結果。さらに日本に対する中国人の印象が「良い」「どちらかといえば良い」を合わせると37.0%と昨年に比べ1.8ポイント上がったことを挙げ、2021年に低下した数字が改善傾向にあることも評価した。一方、「日中関係の発展を妨げるものとして処理水の海洋放出を挙げた中国人がわずか5.8%に留まったことについての解釈を求めた日本人記者の質問については、明確な答えはなかった。
北京と日本の会場をオンラインで結んで開かれた共同記者会見。左が高岸明中国国際伝播集団副総裁・総編集長、右下が工藤泰志言論NPO代表(日本記者クラブで)
好感度低下示す他の調査結果も
日本人の中国に対する見方を調べた最近の調査に今年2月3日、内閣府が公表した「外交に関する世論調査」がある。中国に親しみを感じない日本人は17.8%と前年に比べ2.8ポイント減った。1975年から毎年実施されているこの調査は、調査員による個別面接調査法が新型コロナ感染拡大によって継続不能となり、2020年以降は郵送法による調査に変わった。これを考慮に入れる必要はあるが、17.8%という数値は2014年10月と2016年1月の調査の最低値14.8%は上回るものの、その後4年間続いた回復時期を経て2021年9月の調査から再び低下に転じた流れが止まらなかったことを示している。
また、公益財団法人新聞通信調査会が昨年2月に公表した「諸外国における対日メディア世論調査」結果(調査は2021年11~12月実施)によると、日本に「好感が持てる」と答えた中国人は、26.3%にとどまった。この調査は2015年から米国、英国、フランス、中国、韓国、タイの6カ国を対象に自国の新聞に対する信頼度や報道の自由、日本への関心などについて調べている。2015年から毎年実施されてきたが、26.3%という数字は前年の39.7%から大幅に落ち込んだだけでなく、この質問が始まった2016年以降でこれより低かったのは2017年の23.4%のみとなっている。
関連サイト
言論NPO「中国人の半数を超える人が、世界で核戦争が起きると回答。その理由はロシアのウクライナへの対応 ―第19回日中共同世論調査結果を公表しました」
言論NPO「日中両国民は米中対立下の「日中」をどう見たか第17回日中共同世論調査分析」
内閣府「『外交に関する世論調査(令和4年10月調査)』概略版」
新聞通信調査会「第8回諸外国における対日メディア世論調査」
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