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【22-38】経済協力期待共に7割超す 日中共同世論調査で判明

小岩井忠道(科学記者) 2022年12月05日

 中国と日本の経済・貿易関係が今後「増加する」とみる両国民がこの1年でともに増えていることが、日本の民間非営利シンクタンク「言論NPO」と中国共産党の機関「中国国際出版集団」の共同世論調査で明らかになった。日中経済協力が自国の将来にとってこれからも「大切だと思う」と回答した中国人は77.4%、日本人は73.0%に上る。

 11月30日に結果が公表された「日中共同世論調査」は、言論NPOと中国国際出版集団が2005年から毎年実施しており、今回は18回目の調査。中国は北京、上海、広州、成都、瀋陽、武漢、南京、青島、鄭州の10都市、日本は全国の18歳以上の市民を対象(日本は1,000人、中国は1,528人)に、今年7月から9月にかけて実施された。

 調査項目は多岐にわたるが、経済協力に関する両国民の見方が1年前の前回調査より積極的、楽観的になっていることがことしの調査結果から読み取れる。「両国経済は相互に補完しており、win-winの関係を築くことができる」と見る中国人は昨年よりさらに3.6ポイント増えて75.2%となった。ただし、日本人は前回より3.9ポイント増えたものの、28.2%にとどまる。「両国経済は競合しており、win-winの関係を築くことは難しい」と見る日本人が42.5%(昨年より1.9ポイント減)おり、現状に関しては、肯定的な見方をする人がさらに増えた中国との差が目立つ。

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(「2022年日中共同世論調査」から)

経済・貿易増加見通し4割超

 しかし、日中経済関係の今後については、両国ともに楽観的な見通しが増えている。経済・貿易関係が今後「増加する」という見通しを持つ中国人は昨年の30.9%から44.1%、日本人は15.3%から40.1%といずれも大きく増え、ともに4割を超えた。さらに「自国の将来にとって、日中経済協力は必要か」という問いに対しても、「大切だと思う」と回答した人が中国では77.4%と8割近くに上り、日本でも73.0%と7割を超えた。

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(「2022年日中共同世論調査」から)

 同様の傾向は、「日中の経済・貿易関係をさらに発展させるために必要なこと」(二つ回答)について尋ねた答えからも見て取れる。中国人、日本人ともに「経済安全保障などの影響について政府間で様々な話し合いを行う」という回答が最も多く、中国は37.3%、日本は58.6%、となった。この問いは今年初めて設けられたため、昨年との比較はできない。しかし、その他の問いに対する答えが中国では軒並み昨年の調査結果より増えているのが目を引く。「民間企業の活動の自主性の保障」を挙げた中国人は、昨年の23.7%から11.6ポイント増えて35.3%と3分の一を超えた。日本は昨年より0.7ポイント増えたものの22.5%。民間企業にもっと自由に活動させるべきだと考える市民は日本より中国の方が多いとも見える結果となっている。

 このほか「法律や規制などの安定性」34.8%(昨年27.7%)、「日中FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)の実現」26.1%(同24.7%)、「技術協力の促進と知的財産権の保護」22.3%(同17.0%)、「資本取引の自由化」20.0%(同10.2%)、「人の往来・交流、観光促進策」13.0%(同9.1%)と、すべての項目で中国は昨年より増えている。日本が中国を上回ったのは「技術協力の促進と知的財産権の保護」の24.2%(昨年26.9%)と「人の往来・交流、観光促進策」21.1%(同18.5%)だけ。様々な方策により日中の経済・貿易関係をさらに発展させたいと考える中国人が確実に増えていることがうかがえる。

日中関係重要視共に7割超す

 共同調査は経済関係に限らず多くの分野にわたって日中両国民の考え方を調べている。中国に対する警戒心が多くの国で高まっている中で、日中関係を両国民がどう捉えているかも当然、調査項目の一つ。日中関係を「重要」と思う中国人は71.2%と昨年から0.3ポイント%増えて7割を超えた。「重要ではない」は22.4%から12.9%と大幅に減少している。「重要」と思う日本人も74.8%となり、昨年から8.4ポイント増加し、2018年以来、初めて7割を超えた。「重要ではない」は、4.4%と調査開始以来、大きな変化はない。

 日中関係を「重要」と考える理由の中で、中国人で最も多いのは「隣国同士だから」の73.7%(昨年71.0%)。「重要な貿易相手だから」が51.1%(同50.0)でこれに続く。このほか「アジアの平和と発展」が、昨年の25.3%から41.6%へと16.3ポイントと大幅に増加しているのも目を引く。日本人で最も多いのは「重要な貿易相手だから」の59.8%(昨年58.4%)で、「アジアの平和と発展には日中両国の協力が必要だから」も48.7%(同51.4%)と半数近い。

「米中対立は今後も続いて長期化し、解消の目途が見えない」と見る中国人が昨年の31.9%から46.9%へと15ポイント増加」「米中対立の影響が日中関係に『悪い』影響を及ぼすと考える中国人は63.7%、日本人は59.8%にまで増加している」。こうした結果も明らかにし、中国に対する警戒感が強まっている国際情勢の中で特に米中対立が日中両国民の意識に大きな影響を与えている、と言論NPOは見ている。

 昨年8~9月に実施された前回(第17回)調査では、日本に対して「良くない」という印象を持つ中国人が一昨年の52.9%から66.1%に大幅に増加している。中国に「良くない」という印象を持つ日本人も90.9%(一昨年は89.7%)と9割を超え、これまでで4番目に悪い水準となった。今年の調査結果にはわずかとはいえ改善がみられる。日本に「良くない」印象を持つ中国人は62.6%、中国に「良くない」印象を持つ日本人は87.3%とともに減った。

 米中対立をはじめとする日中連携にはさまざまな制約要因がある中、日中の経済協力を進める必要があるとする主張は、日中の研究機関からも出ている。中国のシンクタンク中国信息通信研究院産業規画研究所と日本の株式会社野村総合研究は、日中両国のデジタル産業がそれぞれの強みを生かして連携することで、両国の経済成長と企業競争力向上が期待できるとする日中共同研究結果を11月17日に公表している。

関連サイト

言論NPO「「台湾海峡」「ウクライナ侵略」について中国国民の意識が世界初で明らかに~第18回日中共同世論調査結果を公表しました~

野村総合研究所 お知らせ「野村総合研究所、中国信息通信研究院と行った共同研究の成果を公表

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