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【25-05】アジア評価上昇 影薄い中国 SDGs対応大学ランキング

小岩井忠道(科学記者) 2025年06月25日

 英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)は6月18日、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に対する取り組みで世界の大学を評価した「インパクト・ランキング2025」を公表した。アジア、特に東アジア、東南アジアの大学が前年よりさらに高い評価を得た一方、中国本土の大学の多くがランキングに入っていないのが目を引く。これまで同様、評価の基となる資料を提供していないのが大きな理由とみられ、有力大学のSDGsに対する関心の薄さをうかがわせる結果となっている。

2030年までに達成求めた目標

 持続可能な未来のためにすべての国々が力を注ぐべき目標を定めたSDGsは2015年の国連総会で採択された。2030年までに解決すべき課題として気候変動、貧困、飢餓、不平等対策など17の目標を掲げている。THEは2019年以来、大学に呼びかけて提供してもらった資料に基づき、SDGsの各目標に対する取り組みをさまざまな角度から評価した結果を「インパクト・ランキング」として毎年、公表している。ただし、17目標すべての取り組みについての資料提供を求めているわけではない。THEが最も重視する17番目のSDGs目標「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」に対する取り組みはすべての大学に対して評価対象としている。ただし残り16の目標に関しては、各大学で特に取り組みが進む三つの目標に対する取り組みだけが評価対象で、つまり、17番目の目標を含め最低四つのSDGs目標に対する取り組みを示す資料を提供した大学が総合評価の対象となり、ランク付けされている。

SDGs(持続可能な開発目標)17目標

(出所:国際連合広報センター)

オーストラリアとアジアに高評価

 今回のランキングでは西シドニー大学が4年連続で1位となったほか、グリフィス大学とタスマニア大学が4位に並ぶなど、オーストラリアの大学が引き続き高い評価を得ているのがまず目を引く。さらにアジア、特に東アジア、東南アジアの国・地域の大学が高い評価を得ているのが、今回の大きな特徴だ。THEが特に挙げている韓国は、慶北大学が前年の39位から3位に大きく順位を上げたほか、釜山大学13位(前年67位)、慶熙大学19位(同23位)、延世大学ソウルキャンパス21位(同11位)、漢陽大学44位(同101-200位)、高麗大学71位(同301-400位)、全南大学98位(同201-300位)と上位100位内に7校が入り、ほとんどが前年より大きく順位を挙げているのが目を引く。

 韓国以外でも今回、高い評価を得たアジアの国・地域の大学は多い。上位100位内に複数校が入った国・地域の大学を見ると、以下のようになる。

 インドネシア:アイルランガ大学9位(前年81位)、インドネシア大学30位(同31位)、ガジャ・マダ大学(インドネシア)82位(同101-200位)

 マレーシア:マレーシアサインズ大学14位(同18位)、マラヤ大学25位(同63位)、マレーシア国民大学53位(同201-300位)、サンウェイ大学(マレーシア)81位(同201-300位)

 台湾:国立台湾大学14位(同55位)、国立成功大学31位(25位)、国立陽明交通大学41位(同50位)、国立雲林科技大学77位(同101-200位)

 香港:香港科技大学19位(同36位)、香港理工大学56位(同77位)、香港浸会大学69位(同101-200位)、香港中文大学71位(同44位)

 タイ:チェンマイ大学44位(同75位)、チュラーロンコーン大学44位(同43位)、マヒドン大学64位(同19位)、タマサート大学64位(同81位)、ワライラック大学93位(同101-200位)

 インド:ラブリープロフェッショナル大学48位(同101-200位)、JSS高等教育アカデミー56位(同101-200位)

世界大学ランキング順位と大きな違い

 これらアジア地域の大学は、研究の質、研究環境、教育環境の評価比重が大きいTHEの世界大学ランキングとは、順位が大きく異なる大学が大半という共通点がある。香港科技大学(「THE世界大学ランキング2025」順位66位)、香港理工大学(同84位)、香港中文大学(同44位)を除くと、「THE世界大学ランキング2025」で上位100位内の大学は一つもない。世界大学ランキングの順位では見劣るもののSDGsに対しては積極的に取り組み、着実に成果も挙げている大学がアジア地域に多い実態をうかがわせる結果と言えそうだ。

 一方、「THE世界大学ランキング2025」に限らず、さまざまな大学ランキングで上位に多くの大学が名を連ねる中国本土はどうか。南方科技大学(「THE世界大学ランキング2025」順位183位)の201-300位が最上位で、ランキングに入った大学数自体も8校という寂しさ。世界大学ランキングで上位に並ぶ有力校は軒並み「インパクト・ランキング」のための資料をTHEに提出していないため、評価の対象から外れているとみられる。日本の大学に対する評価も芳しくない。上位100位内は、44位の北海道大学のみ。200位内にも同大学を含め5校しか入っていない。

「THEインパクト・ランキング2025」トップ100大学
(Times Higher Education Impact Rankings 2025, Times Higher Education Impact Rankings 2024, Times Higher Education World University Rankings 2025から作成:=は同順位の存在を示す。―は順位外)
世界
順位
前年
順位
世界大学
ランキング2025順位
大学名 国・地域
1 1 301-350 西シドニー大学 オーストラリア
2 =2 =53 マンチェスター大学 英国
3 =39 501-600 慶北大学 韓国
=4 =52 301-350 グリフィス大学 オーストラリア
=4 =2 251-300 タスマニア大学 オーストラリア
=6 9 201-250 アリゾナ州立大学テンピ 米国
=6 8 301-350 クイーンズ大学 カナダ
8 6 =116 アルバータ大学 カナダ
=9 4 251-300 オールボー大学 デンマーク
=9 =81 1201-1500 アイルランガ大学 インドネシア
11 7 83 ニューサウスウェールズ大学 オーストラリア
12 12 =87 グラスゴー大学 英国
13 =67 501-600 釜山大学 韓国
=14 30 =116 マクマスター大学 カナダ
=14 =55 =172 国立台湾大学 台湾
=14 18 401-500 マレーシアサインズ大学 マレーシア
=14 =13 301-350 ビクトリア大学 カナダ
=14 =21 201-250 ウェスタン大学 カナダ
=19 23 251-300 慶熙大学 韓国
=19 =36 66 香港科技大学 香港
=21 301-350 フリンダース大学 オーストラリア
=21 11 =102 延世大学ソウルキャンパス 韓国
=23 =21 351-400 アグロ大学 フランス
=23 =36 401-500 ヨハネスブルグ大学 南アフリカ
=25 =52 501-600 セントラルクイーンズランド大学 オーストラリア
=25 =81 =176 キング・ファハド石油・鉱物大学 サウジアラビア
=25 63 251-300 マラヤ大学 マレーシア
=28 =13 =152 オークランド大学 ニュージーランド
=28 10 =172 エクセター大学 英国
30 31 801-1000 インドネシア大学 インドネシア
=31 =25 501-600 国立成功大学 台湾
=31 =44 201-250 ウーロンゴン大学 オーストラリア
33 =13 =154 シドニー工科大学 オーストラリア
34 =36 =172 ダラム大学 英国
35 17 301-350 サイモン・フレーザー大学 カナダ
36 =65 301-350 スウォンジー大学 英国
37 101-200 アブドゥラー・ギュル大学 トルコ
38 35 401-500 ヨーク大学 カナダ
39 =39 251-300 ニューカッスル大学 オーストラリア
40 99 601-800 キング・ファイサル大学 サウジアラビア
=41 801-1000 アムリタ大学 サウジアラビア
=41 50 401-500 国立陽明交通大学 台湾
43 201-300 601-800 ニアイースト大学 北キプロス
=44 =75 1001-1200 チェンマイ大学 タイ
=44 43 601-800 チュラーロンコーン大学 タイ
=44 101-200 251-300 漢陽大学 韓国
=44 =72 351-400 北海道大学 日本
=48 34 501-600 イスタンブール工科大学 トルコ
=48 101-200 601-800 ラブリープロフェッショナル大学 インド
=50 24 178 マッコーリー大学 オーストラリア
=50 =28 レディング大学 英国
52 =19 251-300 ラバル大学 カナダ
=53 =48 401-500 ノーザンブリア大学 英国
=53 201-300 401-500 マレーシア国民大学 マレーシア
55 =28 125 モントリオール大学 カナダ
=56 101-200 801-1000 JSS高等教育アカデミー インド
=56 5 251-300 ロイヤルメルボルン工科大学 オーストラリア
=56 =77 =84 香港理工大学 香港
=59 201-300 801-1000 バフチェシヒル大学 トルコ
=59 =39 401-500 ボーンマス大学 英国
=61 =25 122 ミシガン州立大学 米国
=61 =89 501-600 カンタベリー大学 ニュージーランド
63 42 601-800 プレトリア大学 南アフリカ
=64 =77 401-500 バンガー大学 英国
=64 =19 601-800 マヒドン大学 タイ
=64 51 =100 ペンシルベニア州立大学メインキャンパス 米国
=64 =81 1201-1500 タマサート大学 タイ
=64 47 351-400 ゴールウェイ大学 アイルランド
=69 101-200 251-300 香港浸会大学 香港
=69 =86 351-400 IMTアトランティーク フランス
=71 =13 401-500 フロリダ国際大学 米国
=71 301-400 =189 高麗大学 韓国
=71 =44 44 香港中文大学 香港
=71 =89 29 エディンバラ大学 英国
=71 =52 123 リーズ大学 英国
76 =61 501-600 リムリック大学 アイルランド
=77 101-200 501-600 国立雲林科技大学 台湾
=77 =25 351-400 ストラスクライド大学 英国
79 201-250 クイーンズ大学ベルファスト 英国
80 57 401-500 コインブラ大学 ポルトガル
81 201-300 401-500 サンウェイ大学 マレーシア
=82 201-300 1201-1500 アン・ナジャ国立大学 パレスチナ
=82 101-200 1201-1500 ガジャ・マダ大学 インドネシア
=84 101-200 1501+ アフェババロラ大学 ナイジェリア
=84 =75 501-600 マッセー大学 ニュージーランド
=84 =48 201-250 アバディーン大学 英国
=84 101-200 501-600 プリマス大学 英国
=88 =65 301-350 ダルハウジー大学 カナダ
=88 =89 =160 リバプール大学 英国
=90 =92 401-500 アルアイン大学 アラブ首長国連邦
=90 101-200 キング・アブドゥッラー科学技術大学 サウジアラビア
=90 101-200 1001-1200 レイクヘッド大学 カナダ
=93 =67 175 ルーバン・カトリック大学 ベルギー
=93 101-200 1001-1200 ブカレスト大学 ルーマニア
=93 101-200 1201-1500 ワライラック大学 タイ
=96 88 中東工科大学 トルコ
=96 101-200 401-500 ショウリーニバイオテクノロジー経営科学大学 インド
=98 201-300 801-1000 全南大学 韓国
=98 101-200 =168 ランカスター大学 英国
=98 =61 601-800 ノッティンガム・トレント大学 英国
=98 101-200 251-300 プリンス・モハメド・ビン・ファハド大学 サウジアラビア

世界大学ランキングと異なる評価法

 インパクト・ランキングが最初に公表されたのは2019年。ランキングに参加、評価をされたのは76カ国・地域450大学だった。以後、参加国・地域、大学ともに毎年増え続け、今回は130カ国・地域から2,526の大学がランク付けされている。ただし、中国本土に限らず世界大学ランキングで上位に並ぶ有力大学の多くがインパクト・ランキングに資料を提出せず、評価の対象から外れている状況は今回も大きく変わらない。

 インパクト・ランキングの評価法は、同じTHEの世界大学ランキングの評価法とはだいぶ異なる。世界大学ランキングは教育(学習環境)、研究環境、研究の質、国際性、産業界からの収入(知識の移転)の五つの指標をさらに細分化した18項目(ただしうち1項目はまだ結果に反映されていないので実質17項目)で評価している。評価指標のうち教育と研究、特に研究に関する配点比率が大きいのが特徴だ。これに対しインパクト・ランキングはSDGsに関する取り組みに評価対象を絞っている。17あるSDGsの目標それぞれについて、「研究」「教員、学生など人も含めた資産の管理」「地域、国内外のコミュニティに対する対外活動」「教育」という四つの面から活動を評価している。SDGsの達成に貢献する研究をどれだけ創出しているか、さらにSDGsにかかわる人材育成につながる教育をしているか、地域、国内外のコミュニティとともにどのような活動をしているか、などが評価される。評価には大学から提出された資料に加え、医学・科学技術関係を中心とする世界最大規模の出版社「エルゼビア」の論文データベースも利用されている。

 さらに17の目標ごとにそれぞれ細かな評価項目と配点比率が決められている。例えば、必須の評価対象となっているSDGs17番目の目標「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」については、次のようだ。「低・中所得国出身の共著者がいる学術出版物の割合・17の目標に関連する出版物の数」(配点比率27.1%)、「SDGsに関する活動報告書の公表」(同27.2%)、「NGO(非政府組織)、政府との関わりや国際協力」(同18.5%)、「すべての学生を対象にしたSDGsに関連した教育」「持続可能性とSDGsを取り上げた専用コース」「卒業生、地域住民、避難民など、より広範なコミュニティに対する専用のアウトリーチ教育活動」(同それぞれ9.06%)。

関連サイト

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「University Impact Rankings 2025

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「University Impact Rankings 2024

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「Impact Rankings 2023

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