【23-22】中国の大学軒並み低評価 持続可能性対象のランキング
小岩井忠道(科学記者) 2023年12月25日
持続可能な世界の構築に向けた大学の取り組みが、社会にどれほど影響を与えているかを評価した「世界大学ランキング:持続可能性」を英国の高等教育評価機関「クアクアレリ・シモンズ(QS:Quacquarelli Symonds)」が公表した。上位10位以内に3大学、100位内に22大学が入った太平洋地域と、100位内の大学がゼロの中国本土、1大学だけの日本など、アジア・太平洋地域の大学の評価に大きな地域差があるのが目を引く。
QSは「学術関係者からの評判」「教員一人当たりの論文被引用数」「学生一人当たりの教員比率」「雇用者からの評判」などを評価指標とする世界大学ランキングを毎年公表している。5日公表された「世界大学ランキング:持続可能性2024」は、世界大学ランキングで総合評価の配点比率が5%である「持続可能性(Sustainability)」のみを評価指標としたランキング。「社会への影響」「環境への影響」に加え、「統治(ガバナンス)」という三つの評価指標からなる。「社会への影響」が見るのは、学生に対する指導など社会をより良い方向に変革するために大学が行っている取り組み。「環境への影響」には国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」に沿った研究に対する評価などが含まれている。
(「QS World University Rankings:Sustainability2024」、「QS World University Rankings2024」、タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2024」、から作成。=は同順位の存在を示す。―は順位なし) | ||||
順位 | QS世界大学 ランキング2024順位 |
THE世界大学 ランキング2024順位 |
大学名 | 国・地域 |
5 | 68 | =150 | オークランド大学 | ニュージーランド |
7 | =19 | 60 | シドニー大学 | オーストラリア |
9 | 14 | 37 | メルボルン大学 | オーストラリア |
=11 | =19 | 84 | ニューサウスウェールズ大学 | オーストラリア |
22 | 28 | 29 | 東京大学 | 日本 |
23 | 42 | 54 | モナシュ大学 | オーストラリア |
=26 | 8 | 19 | シンガポール国立大学 | シンガポール |
=30 | =34 | 67 | オーストラリア国立大学 | オーストラリア |
36 | 43 | 70 | クイーンズランド大学 | オーストラリア |
40 | 243 | ― | グリフィス大学 | オーストラリア |
43 | 90 | 148 | シドニー工科大学 | オーストラリア |
=46 | 41 | 62 | ソウル大学 | 韓国 |
48 | 206 | ― | オタゴ大学 | ニュージーランド |
49 | 89 | =111 | アデレード大学 | オーストラリア |
=50 | =26 | 32 | 南洋理工大学 | シンガポール |
57 | =130 | 180 | マッコーリー大学 | オーストラリア |
=62 | 140 | 251-300 | ロイヤルメルボルン工科大学 | オーストラリア |
=62 | 162 | 201-250 | ウーロンゴン大学 | オーストラリア |
66 | =233 | ― | ディーキン大学 | オーストラリア |
74 | =173 | ― | ニューカッスル大学 | オーストラリア |
=81 | =239 | 501-600 | マッセー大学 | ニュージーランド |
=81 | =241 | 401-500 | ヴィクトリア大学ウェリントン | ニュージーランド |
=86 | =256 | 501-600 | カンタベリー大学 | ニュージーランド |
=89 | =183 | 201-250 | カーティン大学 | オーストラリア |
=94 | 69 | =152 | 国立台湾大学 | 台湾 |
99 | 250 | 401-500 | ワイカト大学 | ニュージーランド |
100 | =189 | =199 | クイーンズランド工科大学 | オーストラリア |
=101 | =375 | 301-350 | 西シドニー大学 | オーストラリア |
=101 | =26 | 35 | 香港大学 | 香港 |
=103 | =415 | ― | ジェームズクック大学 | オーストラリア |
=103 | =74 | 76 | 延世大学 | 韓国 |
112 | 380 | ― | フリンダース大学 | オーストラリア |
=114 | =47 | 53 | 香港中文大学 | 香港 |
=121 | =164 | 301-350 | 漢陽大学 | 韓国 |
123 | =307 | ― | タスマニア大学 | オーストラリア |
=124 | 79 | 201-250 | 高麗大学 | 韓国 |
=124 | 46 | =55 | 京都大学 | 日本 |
131 | 228 | 501-600 | 国立成功大学 | 台湾 |
=132 | =65 | 251-300 | マラヤ大学 | マレーシア |
=132 | =326 | 301-350 | 南オーストラリア大学 | オーストラリア |
142 | 50 | 44 | 復旦大学 | 中国 |
147 | 216 | =185 | 同済大学 | 中国 |
=152 | =332 | 201-250 | 慶熙大学 | 韓国 |
154 | 15 | 43 | 上海交通大学 | 中国 |
=161 | =145 | =145 | 成均館大学 | 韓国 |
=164 | 113 | =130 | 東北大学 | 日本 |
=166 | 242 | 251-300 | ラ・トローブ大学 | オーストラリア |
168 | 196 | 351-400 | 北海道大学 | 日本 |
=170 | =164 | 301-350 | 九州大学 | 日本 |
=172 | =65 | =87 | 香港理工大学 | 香港 |
=177 | 60 | =64 | 香港科技大学 | 香港 |
=185 | =176 | 201-250 | 名古屋大学 | 日本 |
=197 | 211 | 601-800 | チュラーロンコーン大学 | タイ |
200 | 70 | 82 | 香港城市大学 | 香港 |
評価高い大洋州の大学
ランキング1位の評価を得たのはカナダのトロント大学。次いで2位カリフォルニア大学バークレー校(米国)、3位マンチェスター大学(英国)、4位ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)と続くが、5位にニュージーランドのオークランド大学、7位と9位にオーストラリアのシドニー大学、メルボルン大学と10位内に太平洋地域の3大学が入った。上位100位内にもオーストラリアから16大学、ニュージーランドから6大学が名を連ね、大洋州の大学が持続可能性を重視した取り組みに力を入れていることが分かる。
一方、アジア地域はどうか。東京大学がアジア地域では最上位の22位に入ったものの100位内は26位のシンガポール国立大学、46位のソウル大学、50位の南洋理工大学(シンガポール)、94位の国立台湾大学と合わせ5大学に留まる。QSが7月に公表済みの「世界大学ランキング2024」の結果と比較すると、太平洋地域とアジア地域の大学に対する評価の大きな差がさらにはっきりする。オーストラリア、ニュージーランドから100以内に入った22大学は、「QS世界大学ランキング2024」の順位より、すべて高い順位を得ている。一方、アジア地域の5大学は東京大学を除いてすべて順位を下げている。
QSの世界大学ランキングだけでなく、英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)が毎年公表している「世界大学ランキング」でも近年、アジア地域の大学の高評価が目立つ。特に中国本土の大学の躍進ぶりが際立つ。9月に公表されたTHEの「世界大学ランキング2024」でも、上位200位内が13校となり、昨年の11校、一昨年の10校より数を増やしたことが関心を集めた。
北京大学、清華大学300位以下
ところが「世界大学ランキング:持続可能性2024」で、特に目立つのが中国本土の大学の低い評価。「QS世界大学ランキング2024」では17位、「THE世界大学ランキング2024」でも14位と高い評価を得ている北京大学は331位、同じく「QS世界大学ランキング2024」で25位、「THE世界大学ランキング2024」で12位の清華大学も364位と順位の差は著しい。このほか復旦大学が142位(QS世界大学ランキング50位、THE世界大学ランキング44位)、同済大学147位(QS 216位、THE 185位)、上海交通大学154位(QS 15位、THE 43位)、浙江大学442位(QS 44位、THE 12位)、南京大学576位(QS 141位、THE 73位)、武漢大学519位(QS 194位、THE 164位)と、上位600位内に入った有力大学は、同済大学を除いてすべてQS世界大学ランキング、THE世界大学ランキングより順位を大きく落としている。
日本の大学の評価も芳しくない。東京大学は22位と、QS世界大学ランキング28位、THE世界大学ランキングを上回る評価を得た。しかし、京都大学124位(QS 46位、THE 55位)、東北大学164位(QS 113位、THE 130位)、北海道大学168位(QS 196位、THE 351-400位)、九州大学170位(QS 164位、THE 301-350位)、名古屋大学185位(QS 176位、THE 201-250位)と、上位200位内に入った6大学のうちQS、THEいずれの世界大学ランキング順位を上回ったのは東京大学と北海道大学のみとなっている。
「世界大学ランキング:持続可能性」の評価法は、三つの評価指標に対する配点比率が「社会への影響」45%、「環境への影響」45%、「統治(ガバナンス)」10%となっている。「社会への影響」には、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するために不可欠とされる不平等の削減や世界中の学術水準の向上に向けた取り組みが含まれている。「環境への影響」では環境への影響を軽減し、持続可能な未来に向けた戦略と運営、「統治」では、SDGsの達成のために必要な優れたリーダーシップ、リーダーを任命する民主的なプロセス、オープンで文書化された意思決定などが評価対象となっている。
他のランキングでも同様の結果
持続可能性に関しては、6月に公表されたTHEの「インパクト・ランキング 2023」でも興味深い結果が示されている。SDGsに対する大学の取り組み、特に17番目の目標「持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」に対する取り組みを重視したランキングだ。1位にオーストラリアの西シドニー大学、5位、7位にオーストラリアのタスマニア大学、ロイヤルメルボルン工科大学入ったほか、上位100大学にオーストラリアから16校、ニュージーランから7校が入るなど、今回の「QS世界大学ランキング:持続可能性」と似たような結果が示されている。
世界大学ランキングで上位を占める高所得国の著名大学より積極的な中所得国の大学のSDGsに対する取り組みが目立つ中で、中所得国とはいえ高所得国入りを目前にしている中国の大学のインパクト・ランキングに対する関心の低さもTHEは指摘していた。清華大学、北京大学、復旦大学、上海交通大学以下、近年、評価が高まる一方の著名大学は軒並みこのランキングの調査自体に参加していない。
関連サイト
クアクアレリ・シモンズ「QS Sustainability University Rankings 2024 | Top Universities」
クアクアレリ・シモンズ「QS World University Rankings 2024: Top Global Universities | Top Universities」
タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2024 | Times Higher Education (THE)」
タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「Impact Rankings 2023 | Times Higher Education (THE)」
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