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【22-65】中国のオープンソースとWeb3 中国で進むブロックチェーンの産業利用

2022年12月06日

高須正和

高須正和: 株式会社スイッチサイエンス Global Business Development/ニコ技深圳コミュニティ発起人

略歴

略歴:コミュニティ運営、事業開発、リサーチャーの3分野で活動している。中国最大のオープンソースアライアンス「開源社」唯一の国際メンバー。『ニコ技深センコミュニティ』『分解のススメ』などの発起人。MakerFaire 深セン(中国)、MakerFaire シンガポールなどの運営に携わる。現在、Maker向けツールの開発/販売をしている株式会社スイッチサイエンスや、深圳市大公坊创客基地iMakerbase,MakerNet深圳等で事業開発を行っている。著書に『プロトタイプシティ』(角川書店)『メイカーズのエコシステム』(インプレスR&D)、訳書に『ハードウェアハッカー』(技術評論社)など
medium.com/@tks/takasu-profile-c50feee078ac

 中国では暗号通貨(仮想通貨)の売買は、金融システムのリスクや当局が管理できない投機につながるため、規制対象となっている。一方で実際の通貨と交換できない=投機の対象になりづらい要素技術として、ブロックチェーンやスマートコントラクトなどは中国でも様々に研究や開発が進んでいる。中国で開かれたweb3イベントと、そこから見えた状況について紹介する。

半日間、Web3関連のトピックを発表するカンファレンス

 2022年11月6-8日、深圳市福田区のコンベンションセンターで行われたELEXCON深圳国際電子展と併催して、International Open Source Festival国際開源節が開催された。世界的なオープンソース組織であるLinux Foundationのアジア太平洋地域部分と中国でオープンソース関係のイベントや活動を手掛ける企業OS Techが共同で主催する形で、オープンソースに関するさまざまなTopicが発表された。

 3日間様々なカンファレンスが行われる中で、8日の午前に「Hyperledgerブロックチェーン技術サミット」としてWeb3関連のトピックが話された。

 サミットの名前になっているHyperledgerはエンタープライズ用途のブロックチェーン技術の開発・普及を目指して、2016年にLinux Foundationがホストして立ち上がった組織。個別の技術でなく、Hyperledgerのブランドのもとに多くのエンタープライズ用途ブロックチェーン技術をオープンソースで開発している。今回のサミットではHyperledger以外にも、Web3関連の様々な技術やプロジェクトについて発表があり、2022年時点の中国での民間・大企業・組織の取り組みが総覧できるものといえる。

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キャプション:Hyperledgerブロックチェーン技術サミットの全プログラム。オフラインとオンラインの発表者が半々ほど。

国プロや大企業が主導する、産業用ブロックチェーンの活用が全体を牽引

 セッション全体のタイトルが「Hyperledgerブロックチェーン技術サミット」と、産業用ブロックチェーンのHyperledgerが用いられているように、最も注目されているのは産業用・大規模なOSSの活用だ。今回のサミット全体のホストは、Linux Foundation Asia Pacific Chinaエリア担当のKeith Chanが努めた。Keith ChanはHyperledgerの中国地区リーダーでもある。

 ブロックチェーン技術は、データベースと違って頻繁に更新されるデータの格納には向かないが、データが改ざんされず延々と記録されるという特性と、データの管理を複数の組織に分散できるという特性がある。データベースと同じような目的で使うと非効率さが目立つが、たとえばいくつかの企業や監督官庁、業界団体等がそれぞれ管理者として分散できる台帳を構築するなど、これまでなかった用途に向いている。

 今回のサミットでは、複数の管理者が並列で立つコンソーシアム型ブロックチェーンの中で利用者が増えているHyperledger Fabricについて、中国三大通信キャリアの一つ中国移動の研究所が炭素排出権取引と排出量監視を解決する大規模なプラットフォームを構築していることについて報告が行われた。

 Hyperleger Fabricはオープンソースだが特にIBMのチームが主体的に開発を進めているソフトウェアで、中国企業も活発に開発貢献している。中国移動の事例では、排出権取引プラットフォーム全体を中国移動が中心になって作る中で、炭素排出を行う企業、排出権の価格設定を決める委員会という3種類のプレーヤーが、コンソーシアムという仕組みの中でそれぞれ管理者となれ、単一の管理者とならない点が利点として注目された。これまでも中国移動研究所はいくつかのブロックチェーンプロジェクトを手掛けているが、「多くのプロックチェーンプロジェクトでは、それぞれのブロックチェーンがサイロになってしまっていて、本来の目的を果たせていない」という課題があり、今回のプロジェクトがどう完成するかは注目だ。

 中国ではWeBankが中心になって開発しているFISCO BCOSなど、独自でオープンソースのブロックチェーンプラットフォームを作って自社を中心に広めていく企業も多いが、中国移動研究所の取り組みは、広く使われているオープンソースのブロックチェーンを使って、国や排出権管理を行う委員会、炭素排出権取引を行う各企業など複数の機関を繋げていく点で、大規模な国プロらしいプロジェクトといえる。

通貨や財産としての用途は政府規制が強まる

 サミットではNFTやICOなど、財産となりえるものについてのセッションも多くあった。

全体的には「リアルマネーと結びついたものは規制されているが、技術開発や実証実験は多く進んでいる」状況を反映したものだ。

・ トレーサビリティの保証としてのブロックチェーンには可能性がある。

例として、2022年は上海蟹の個体にブロックチェーン管理するプロジェクトが話題になった。

・ ビットコインのように、実際の通貨と取引可能で、価格の上がり下がりがあるような、投機に繋がりかねないブロックチェーンの利用はこれからも厳格に規制されていく。直接個人のお金とやりとりされるようなものは今後も許可されないだろう。

・ 信用管理、個人情報バンクのような形でのブロックチェーン技術利用は今後も進んでいくだろう

・ 一方でNFTのような技術は、これまでカバーされづらかった権利を商機につなげる可能性があるが、それ以上に投機に繋がるリスクもある。換金以外は規制されていないし実験的なプロジェクトも多いが、ビジネスとして急に大きくなるのは難しい

など、これまでの中国政府の方針である、投機とWeb3技術を分けて推進していく様子は、どの発表者にも共通していた。

 まだ実験段階のプロジェクトが多く、大きいビジネスがいきなりここから生まれることはないだろうが、社会でのブロックチェーン技術の立ち位置が明確になっていて、オープンソースによる開発と政府のサポートも注目されていることから、この分野での中国での事例には引き続き注目していく必要がある。

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