中国の大学の実力と国際競争力についての研究
2009年12月17日
劉念才(Liu Niancai):上海交通大学高等教育研究院院長、
教育部戦略研究基地「世界一流大学研究センター」主任、
教授、博士課程指導教官
1965年1月生まれ。1987.9~1992.10、カナダ・クィーンズ大学高分子材料専攻学科で学び、修士・博士学位を取得し、さらにポスドク研究に従事。1999年に高等教育研究分野転向。以来、主に世界一流大学、大学評価・ランキング、科学技術定量評価、大学戦略計画等方面の研究業務に従事。国家自然科学基金、国家社会科学基金(教育学科)、教育部人文社会科学基金、教育部科学技術委員会重大戦略特別プロジェクト、国際協力など10余りのテーマを担当している。中国語・英語の著作を多数出版し、有名な英語学術刊行物に多数の論文を発表。完成を指導し、ネット上に発表した「Academic Ranking of World Universities」は、国際社会から広く認められている。Scientometrics、Research Evaluation、Journal of Engineering Education和Higher Education in Europeの顧問/編集委員を兼任。
共著:朱軍文、程瑩
要旨
本論文は、中国の大学全体の実力と国際競争力、中国の研究型大学群の実力と国際競争力、中国の一流大学の実力と国際競争力という三つの観点から、それぞれ異なる国際比較対象を選び出し、客観的かつ比較可能なデータに基づいて、それぞれの方面の定量比較研究を行っている。中国の高等教育全体の実力と国際競争力は過去10年間に急速に向上し、その研究型大学群はすでに勢いを増し、アメリカ大学協会、イギリス・ラッセルグループ、オーストラリアGo8等の研究型大学群との差が縮小しつつある。少数の一流大学は科学研究における産出の規模においてすでにドイツの大学を抜き、日本の一流大学との差もますます小さくなっている。だが、重要な原始イノベーション能力の確立の面では、中国の大学は依然として後れをとっている。
大学の実力と競争力は多くの方面に具体的に表れる。人材育成、科学研究、社会サービスなど、いくつかの方面の産出によっても測ることができるし、優秀な学生や傑出した学者を引き付ける、運営経費を調達するといった面での大学の能力と競争力によっても測れるし、また大学制度の完全さ、運営効率の高低によっても測ることができる。研究の目的が異なれば、選び取る視点も違ってくるであろう。本論文は国際比較という目的に基づき、国際的に比較可能な客観的データの取得可能性をもとに、中国の大学全体の実力と国際競争力、中国の研究型大学群の実力と国際競争力、中国の一流大学の実力と国際競争力の事例という三つの観点から、それぞれ異なる国際比較対象を選び出し、定量比較研究を行ったものである。
1. 研究方法
1.1 サンプル選択
中国の大学全体の実力と国際競争力の研究を行うにあたり、我々は「先進7か国」(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、イタリア)、「BRICs」の他の3か国(ブラジル、ロシア、インド)、それに韓国、オーストラリア等国々の大学を選んで、その比較対象とした。この中には経済・社会の発展度が高い国もあれば、経済・社会がかなり速いスピードで発展している新興市場経済国もある。人口大国もあれば、人口の比較的少ない国もある。
中国の研究型大学群の実力と国際競争力の研究を行うにあたっては、中国の「985プロジェクト」によって重点的に建設された39の大学を、その研究型大学群の代表とした。外国の研究型大学群は、アメリカ大学協会(Association of American Universities, AAU)の60の研究型大学、イギリス・ラッセルグループ(Russell Group, Rg)の20の研究型大学、オーストラリア「グループ・オブ・エイト」(Group of Eight, Go8)の8つの研究型大学等をサンプルとして選んだ。
中国の一流大学の実力と競争力の事例研究を行うにあたっては、中国の研究型大学群のうち、上海交通大学世界大学ランキング(2007)で最上位にランクされた7つの大学を中国の一流大学のサンプルとし、さらに当該ランキングでドイツ、日本の最上位にいる大学を7校ずつ選んで、3グループの比較対象を作った。ドイツは共に7位にランクされた大学が5校、日本は2校あったが、それらの大学については、アルファベット順が前のものを採用した。サンプル大学の名簿は、清華大学、南京大学、北京大学、上海交通大学、中国科学技術大学、浙江大学、復旦大学(CHN-Top7と略称)、ミュンヘン大学、ミュンヘン工科大学、ハイデルベルク大学、ゲッティンゲン大学、フライブルク大学、ボン大学、フランクフルト大学(GER-Top7と略称)、東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学、名古屋大学、東京工業大学、北海道大学(JPN-Top7と略称)である。ドイツと日本の一流大学を比較対象として選んだのは、二つの理由による。その一つは、ドイツ、日本はわが国と同様、母語が非英語の国だということである。科学引用文献索引データベースに収録されている定期刊行物は、英語で出版されたものが主体だが、母語が非英語の国を比較対象として選べば、論文発表行為に対する言語要因の影響をできるだけ少なくし、あるいは排除することができるからである。二つ目は、ドイツと日本はそれぞれヨーロッパとアジアの経済・社会・科学技術の発展度が高い代表的な国で、一群のハイレベルの大学を擁し、比較を行う基盤と可能性があるということである。
1.2 データ出典元と指標選択
本論文の高等教育についての分類は、ユネスコの「国際標準教育分類」(International Standard Classification of Education, ISCED)最新版を拠り所とした。論文中の高等教育または大学の実力・国際競争力に関する指標の主なものは、高等教育在学者数、博士課程在学者数、高等教育粗就学率、論文数、論文被引用回数などである。上記の指標のデータ出典元を選ぶにあたっては、あくまでも公開された、検査可能な第三者のデータを第一に選ぶようにした。主なデータ出典元は、ユネスコ統計研究所データセンター(Data Centre of UNESCO Institute for Statistics)、OECDデータベース(OECD Statistics)、トムソン・ロイター・サイエンティフイックISI Web of Knowledge、中国教育統計、中国科技統計などである。具体的指標のデータ出典元は論文中の対応する位置に明記した。
科学研究における産出に対する評価には数量と影響力の二つの面がある。論文数は、ある学者、研究チーム、研究機関、地域または国が一定の時間範囲内に発表した論文の総編数である。論文の影響力を評価する指標は被引用回数でもよいし、論文が発表された定期刊行物のインパクトファクター(Impact Factor, IF)でもよい。文章は被引用回数が多ければ多いほど、その影響力が大きいということを示している。被引用回数に基づいて算出した定期刊行物のインパクトファクターを論文の影響力を評価する根拠とすることについては、一貫して論争があるものの、依然として広く一般に採用されている。本論文は研究型大学群の比較研究を行うにあたり、論文の被引用回数を影響力評価指標とした。中国、ドイツ、日本の7つの一流大学の事例研究を行うにあたっては、論文の発表された定期刊行物のインパクトファクターを影響力評価指数としており、定期刊行物のインパクトファクターが高ければ高いほど、または高いクラスの定期刊行物に発表した論文の比率が高ければ高いほど、その論文の影響力は高いということを示している。定期刊行物のインパクトファクターは、2006年度定期刊行物引用レポート(Journal Citation Reports 2006, JCR2006)を基準にした。各学科の論文のインパクトファクターに比較可能性を持たせるために、論文についてはJCR2006の発表した各定期刊行物のインパクトファクターに基づき、所属学科ごとに標準化を行った。中国、ドイツ、日本3か国の7つの一流大学の科学研究における産出についての比較研究の中で扱った論文の影響力指標は、すべて標準化されたインパクトファクター(Normalized Impact Factor, NIF)を根拠としている。
標準化されたインパクトファクターの高低に基づき、6164種のSCIEソース定期刊行物について、インパクトファクターが0の定期刊行物44種を排除し、残りの6120種を高い方から低い方へ4つのクラスに均等に分けた。3グループの一流大学の論文をそれが発表された定期刊行物のインパクトファクターにしたがい、4段階の定期刊行物にそれぞれ類別し、インパクトファクターの最も高い25%の定期刊行物に発表された論文の比率が高ければ、そのグループの大学の論文全体の影響力が高いことを示しており、最も低い25%に発表された論文の比率が高ければ、そのグループの大学の論文全体の影響力が低いことを示している。「平均インパクトファクター」とは、各グループの大学の発表した論文のインパクトファクターの和を論文総数で割ったものを指し、インパクトファクターが0の論文については論文総数を記入し、平均インパクトファクターの計算には入れていない。
2. 中国の大学全体の実力と国際競争力
2.1 中国の高等教育は大衆化の段階に入り、在学者数は世界第1位に
ユネスコの最新版「国際標準教育分類」の高等教育段階についての区分によれば、わが国の高等教育の在学者数は1999年の6365625人から、2007年にはその約5倍に当たる25346279人にまで増加した。在学者数から見ると、インドのデータがないため、中国の高等教育の規模は1999年こそアメリカに次ぎ第2位だが、2004年にはすべてのサンプル国を抜いて第1位となった。2000年、インドの高等教育在学者数は中国を約200万上回っていたが、2006年には中国がインドの約2倍となり、インドを約1000万人上回った。(表1参照)
国 | 年度 | ||||||||
1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | |
オーストラリア | 845636 | 845132 | 868689 | 1012210 | 1005977 | 1002998 | 1024589 | 1040153 | 1083715 |
韓国 | 2837880 | 3003498 | 3129899 | 3210142 | 3223431 | 3224875 | 3210184 | 3204036 | 3208591 |
カナダ | 1192570 | 1220651 | 1212161 | m | m | 1254833 | m | 1014837 | 893094 |
フランス | 2012193 | 2015344 | 2031743 | 2029179 | 2119149 | 2160300 | 2187383 | 2201201 | 2179505 |
ドイツ | 2087044 | 2054838 | 2083945 | 2159708 | 2242397 | 2330457 | 2268741 | 2289465 | 2278897 |
イタリア | 1797241 | 1770002 | 1812325 | 1854200 | 1913352 | 1986497 | 2014998 | 2029023 | 2033642 |
日本 | 3940756 | 3982069 | 3972468 | 3966667 | 3984400 | 4031604 | 4038302 | 4084861 | 4032625 |
イギリス | 2080960 | 2024138 | 2067349 | 2240680 | 2287833 | 2247441 | 2287541 | 2336111 | 2362815 |
アメリカ | 13769362 | 13202880 | 13595580 | 15927987 | 16611711 | 16900471 | 17272044 | 17487475 | 17758870 |
ブラジル | 2456961 | 2781328 | 3125745 | 3582105 | 3994422 | 4275027 | 4572297 | m | 5272877 |
ロシア | m | m | m | m | 8099662 | 8605952 | 9003208 | 9167277 | 9370428 |
インド | m | 9404460 | 9834046 | 10576653 | 11295041 | 10009137 | 11777296 | 12852684 | m |
中国 | 6365625 | 7364111 | 9398581 | 12143723 | 15186217 | 18090814 | 20601219 | 23360535 | 25346279 |
中国の高等教育の規模の飛躍的な拡大は、政策による後押しの直接的結果である。1999年、中国国務院は教育部の『21世紀に向けた教育振興行動計画』に指示を添えて関係各部門に転送し、大学の新入生募集規模の大幅な拡大という重大な決定を行った。『21世紀に向けた教育振興行動計画』の中で、政府は「2010年までに、高等教育の規模をかなり拡大し、就学率を15%に近づける」という目標を提示した。その後の中国における高等教育の急速な発展の状況、高等教育の戦略的地位のいっそうの確立、さらには各地の経済・社会の発展、人民大衆の高等教育への増大し続けるニーズによる強烈な後押しを踏まえて、2001年初め、中国政府は『教育事業発展第十次五か年計画』において、当初2010年に実現すると定めていた高等教育の規模と就学率に関する目標を5年間繰り上げて実現すること、すなわち高等教育の粗就学率15%という目標を2005年に実現することを要求した。(表2参照)
国 | 年度 | ||||||||
1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | |
オーストラリア | 65 | 66 | 67 | 76 | 74 | 72 | 73 | 73 | 75 |
韓国 | 73 | 78 | 83 | 87 | 89 | 90 | 91 | 93 | 95 |
カナダ | 60 | 59 | m | 60 | m | 62 | m | m | m |
フランス | 52 | 53 | 54 | 53 | 55 | 56 | 56 | 56 | 56 |
ドイツ | 47 | 46 | 46 | 47 | 48 | 49 | 47 | 46 | 46 |
イタリア | 47 | 49 | 52 | 55 | 59 | 63 | 65 | 67 | 68 |
日本 | 45 | 47 | 49 | 51 | 52 | 54 | 55 | 57 | 58 |
イギリス | 60 | 58 | 59 | 63 | 63 | 60 | 59 | 59 | 59 |
アメリカ | 73 | 69 | 70 | 80 | 82 | 82 | 82 | 82 | 82 |
ブラジル | 14 | 16 | 18 | 20 | 22 | 24 | 25 | m | 30 |
ロシア | m | m | m | m | 65 | 69 | 71 | 72 | 75 |
インド | m | 10 | 10 | 10 | 11 | 10 | 11 | 12 | m |
中国 | 6 | 8 | 10 | 13 | 16 | 18 | 20 | 22 | 23 |
1999年の中国の高等教育の粗就学率はわずか6%にすぎず、サンプル諸国中最も低い位置にあったが、2002年にインドを抜き、2003年に16%に達した。アメリカの有名な教育社会学者、カリフォルニア大学バークレー校公共政策大学院のマーチン・トロウ(Martin Trow)教授の高等教育の大衆化に関する定義にしたがえば、中国の高等教育は『教育事業発展第十次五か年計画』の要求より2年早く大衆化を実現し、2007年には23%に達した。サンプル諸国の中で、中国の高等教育は在学者数ではすでに第1位となり、粗就学率も急速に高まっているが、その数字は依然としてインドを抜いているにすぎず、中国の人口基数の膨大さは明らかに、粗就学率が今なお低いことの原因となっている。韓国、アメリカ、ロシア、オーストラリアなどの国々と比べて、人口規模の膨大さゆえに、中国の高等教育の規模は依然として、比較的大きい就学ニーズが満たされていないという圧力に直面している。
博士課程は高等教育の最高段階の教育である。中国の高等教育は在学者数では、1999年にサンプル諸国中第2位となったが、博士課程在学者数はサンプル諸国中第6位に位置し、アメリカ、ロシア、フランス、イギリス、日本より低かった。2007年、中国の博士課程在学者数は1999年の約6倍に当たる約22.25万人に増え、アメリカに次いでサンプル諸国中第2位となった。(表3参照)
国 | 年度 | ||||||||
1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | |
オーストラリア | 26385 | 27615 | 28960 | 33430 | 35258 | 37070 | 38776 | 40417 | 41355 |
韓国 | 28924 | 31787 | 32884 | 34712 | 36226 | 38645 | 41055 | 43443 | 47560 |
カナダ | 26607 | 26862 | 26221 | M | M | 27500 | 34716 | 34770 | 36705 |
フランス | 95620 | 94327 | 94164 | 95877 | 97709 | 101309 | 82696 | 69831 | 71621 |
ドイツ | m | m | m | m | m | m | m | m | m |
イタリア | 12369 | 13177 | 20966 | 25998 | 29939 | 37608 | 37520 | 38262 | 40119 |
日本 | 55646 | 59007 | 62481 | 65525 | 68245 | 71389 | 73527 | 75028 | 75504 |
イギリス | 81950 | 74242 | 75334 | 85072 | 85060 | 89378 | 91607 | 94180 | 99416 |
アメリカ | 293001 | 293001 | 299433 | 280661 | 306888 | 375642 | 384577 | 388684 | 396230 |
ブラジル | m | m | m | 102192 | 107400 | 111294 | 119141 | m | 49668 |
ロシア | 102039 | 111024 | 121927 | 132882 | 140788 | 145308 | 147128 | 147181 | 150300 |
インド | m | 55019 | 57411 | 60516 | 65357 | 65525 | 55352 | 36519 | m |
中国 | 54038 | 67293 | 85885 | 108737 | 136687 | 165610 | 191317 | 208038 | 222500 |
中国の博士課程在学者の規模は過去数年間に急速に拡大したが、博士課程学生の育成の質は決して明らかな向上の動きを示しているわけではない。先頃の研究が示しているように、博士号授与件数の急速な拡大にともない、博士課程の学生が享受する一人当たりの教育資源は減少している。博士課程指導教官の受け入れる学生はあまりに多すぎ、博士課程の教育の質に影響を及ぼしている。博士課程学生の質と数は一貫して非常に解決の難しい矛盾となっている。博士課程学生の育成の質を高めようするならば、博士課程の人数を適度に抑えるべきである。
2.2 中国の科学技術論文産出総量の急速な増加
中国科技統計データベースの統計データによれば、中国の1999年のSCI論文産出総量は24476編で、論文総数は世界第10位に位置し、フランスの半分しかなく、日本の3分の1にも届いていなかった。中国のSCI論文総数は2005年以来、フランス、イタリア、ロシア、インドを抜いて世界第5位の座を維持し、2007年には89147編に達し、第4位の日本との差もわずか200編ほどになった。(表4参照)
国 | 単位 | 年度 | ||||||||
1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | ||
フランス | 編 | 54753 | 53469 | 55340 | 52142 | 59762 | 54756 | 65648 | 61565 | 63532 |
順位 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 6 | 6 | 6 | 6 | |
ドイツ | 編 | 76049 | 75324 | 79002 | 74552 | 85591 | 79373 | 95256 | 88850 | 93852 |
順位 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 3 | |
イタリア | 編 | 36506 | 36482 | 39185 | 38064 | 45882 | 43647 | 51852 | 50546 | 54894 |
順位 | 7 | 7 | 6 | 8 | 7 | 7 | 8 | 8 | 8 | |
日本 | 編 | 80052 | 78942 | 83025 | 81315 | 92448 | 83484 | 93746 | 88486 | 89333 |
順位 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 4 | 4 | 4 | |
イギリス | 編 | 92089 | 88678 | 93275 | 87916 | 96280 | 94357 | 111367 | 97942 | 106805 |
順位 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | 2 | |
アメリカ | 編 | 314120 | 305616 | 327199 | 313613 | 359610 | 342261 | 417177 | 378690 | 387172 |
順位 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | |
ロシア | 編 | 28163 | 29099 | 26516 | 26539 | 26968 | 25581 | 27367 | 23033 | 27212 |
順位 | 8 | 9 | 10 | 10 | 11 | 11 | 14 | 14 | 14 | |
インド | 編 | 18724 | 17502 | 19338 | 20405 | 23136 | 23336 | 28477 | 30273 | 32740 |
順位 | 13 | 13 | 13 | 13 | 13 | 14 | 13 | 12 | 11 | |
中国 | 編 | 24476 | 30499 | 35685 | 40758 | 49788 | 57377 | 68226 | 71184 | 89147 |
順位 | 10 | 8 | 8 | 6 | 6 | 5 | 5 | 5 | 5 |
もちろん、SCI論文についての統計は国家段階にとどまっており、各国の大学について単独の比較を行ったものではない。各国の科学技術体制には多少の差がある。中国では、中国科学院や一部の独立設置された研究機関も比較的多くのSCI論文を発表している。これらの要素を排除し、論文産出の規模から見れば、中国の大学はすでに世界の上位に位置している。だが、これに関連したある研究が示しているように、中国の大学の科学研究における産出の影響力は、依然として世界の平均水準を下回っている。
3. 中国の研究型大学群の実力と国際競争力
3.1 著しく向上する中国の研究型大学群の科学研究の国際影響力
1998年12月24日、教育部は『21世紀に向けた教育振興行動計画』を発表したが、その中の一つの重要な政策は、重点を決めて一部の高等教育機関を支援し、世界の先進的レベルを具えた一流大学を設立するというものであった。1999年1月13日、国務院はこの計画に指示を添えて関係各部門に転送し、「985プロジェクト」が正式にスタートした。「985プロジェクト」の重点的支援の下で、「985プロジェクト」大学の科学研究における産出状況は絶えず向上し、発表する国際論文の数と被引用回数は急速に増加し、一部の大学の国際論文年度産出数はすでに世界の大学のトップ10に入っている。「985プロジェクト」大学では世界の上位1%に入る学科の数が絶えず増加し、学術成果の国際的アピール度と影響力が著しく上昇している。
国際定期刊行物に発表した論文の数は大学の学術的活躍度の具体的な表れである。2007年の世界各国の大学のSCI、SSCI論文総数ランキングによれば、わが国の大学のうち、浙江大学、清華大学、北京大学、上海交通大学、中国科学技術大学はすでに世界の上位100校に入っている。(表5参照)
大学名 | 2007年度SCI/SSCI論文 | ランキング |
浙江大学 | 3630 | 32 |
清華大学 | 3280 | 41 |
北京大学 | 3000 | 47 |
上海交通大学 | 2960 | 49 |
中国科学技術大学 | 2160 | 99 |
アメリカの「基本科学指標」(ESI)データベースは、論文被引用回数が各分野の世界の上位1%に入っている各機関の学科を収録している。図1は2001年以降の、「985プロジェクト」大学のESIデータベース収録の世界の上位1%に入った学科数の増加趨勢を示したものである。2001年、「985プロジェクト」大学では40学科がESIデータベースに収録されたにすぎなかったが、2008年には、収録学科数は4倍近くに増え、すでに34大学の140学科が収録されており、主に工学、化学、材料科学、物理学、臨床医学などの学科に集中している。
図1:「985プロジェクト」大学のESIデータベースの上位1%に入っている学科数の増加趨勢
データ出典 :「基礎科学指標」(ESI)データベース
そのうち、被引用総回数の統計により世界のベスト100に入っているのは、10大学の26学科――北京大学の数学、物理学、化学、地質学、材料科学、清華大学の数学、化学、計算機、工学、材料科学、南開大学の化学、吉林大学の材料科学、ハルビン工業大学の材料科学、復旦大学の数学、化学、材料科学、上海交通大学の工学、材料科学、南京大学の化学、材料科学、浙江大学の化学、材料科学、農学、中国科学技術大学の物理学、化学、材料科学である。また発表論文数の統計では、「985プロジェクト」大学のうちすでに11大学の18学科が該当分野の世界の上位20大学に入っており、それらは北京大学の物理学、化学、清華大学の物理学、化学、計算機、工学、材料科学、南開大学の化学、吉林大学の化学、ハルビン工業大学の材料科学、上海交通大学の工学、材料科学、南京大学の化学、浙江大学の化学、材料科学、中南大学の材料科学、西安交通大学の材料科学、中国科学技術大学の物理学である。これらの学科は力強い発展の勢いとすばらしい潜在力を示しており、すでに一流の学科にインパクトを与える実力を有している。
3.2 中国の研究型大学群とアメリカ、イギリス、オーストラリア等国々の研究型大学群の科学研究における国際影響力の差は絶えず縮小している
表6は5年間の時間窓で切り取った、わが国の「985プロジェクト」大学とアメリカ大学協会、イギリス・ラッセルグループ、オーストラリアGo8等研究型大学群の1校当たりSCI、SSCI論文数、1校当たり被引用回数、1編当たり被引用回数の比較である。1998~2002年の間の、「985プロジェクト」大学の1校当たり論文産出数は2100編で、アメリカ大学協会の1校当たり論文数の6分の1、イギリス・ラッセルグループ、オーストラリアGo8の1校当たり論文数の約4分の1であった。2004~2008年の間の、「985プロジェクト」大学の1校当たり論文産出数は6100編に上り、すでにアメリカ大学協会の3分の1余り、イギリス、オーストラリアの研究型大学群の2分の1以上という水準に達している。「985プロジェクト」大学とアメリカ、イギリス、オーストラリアの研究型大学群の論文産出数の差は著しく縮小しており、論文の1校当たり被引用回数と1編当たり被引用回数から見ると、「985プロジェクト」大学は論文の影響力も著しく改善している。2004~2008年の1校当たり被引用回数は1998~2002年の約6倍であり、1編当たり被引用回数は2倍に増え、アメリカ、イギリス、オーストラリアの研究型大学群との差も著しく縮小している。
研究型大学群 | 1998-2002 | 2004-2008 | ||||
1校当たり論文数(編) | 1校当たり被引用回数 | 1編当たり被引用回数 | 1校当たり論文数(編) | 1校当たり被引用回数 | 1編当たり被引用回数 | |
「985プロジェクト」大学 | 2100 | 3200 | 1.5 | 6100 | 18300 | 3.0 |
アメリカAAU大学 | 12700 | 94000 | 7.4 | 15900 | 141600 | 8.9 |
イギリスRg大学 | 9200 | 55300 | 6.0 | 11600 | 87900 | 7.6 |
オーストラリアGo8大学 | 7800 | 34900 | 4.5 | 11400 | 66300 | 5.8 |
表7は1998年度と2007年度の「985プロジェクト」大学とアメリカ大学協会、イギリス・ラッセルグループ、オーストラリアGo8等研究型大学群の1校当たり論文数を対比したものである。
10年間で、39の「985プロジェクト」大学の1校当たり論文産出数は6倍に増えた。1998年度、「985プロジェクト」大学の1校当たり論文数はアメリカ大学協会の10分の1、イギリス・ラッセルグループの7分の1であったが、2007年には、差はすでに著しく縮小した。
研究型大学群 | 1998年 | 2007年 | 増加幅(倍) |
「985プロジェクト」大学 | 240 | 1,200 | 5.0 |
アメリカAAU大学 | 2,350 | 2,800 | 1.2 |
イギリスRg大学 | 1,700 | 2,200 | 1.3 |
オーストラリアGo8大学 | 1,450 | 2,200 | 1.5 |
4. 中国、ドイツ、日本の一流大学の実力と国際競争力の比較
4.1 中国、ドイツ、日本の一流大学の科学研究における産出数の変化趨勢
1998~2007年の間に、ドイツと日本の7大学が発表した論文数はそれぞれ8000編と16000編前後に安定し、年度間の変動幅は比較的小さく、はっきりした増加または減少の動きは見られなかった。一方、同時期に中国の7大学が発表した論文数は比較的大きな増加傾向を維持し、年平均増加率は13.4%であった。年間増加率が最も高かったのは2001年で、18%に達した。また2002年以降はドイツの7つの一流大学を抜き、日本との差も徐々に縮小している。(図2参照)
図2:中国、ドイツ、日本のTop7大学の発表論文数の変化趨勢
データ出典 :科学ネット(Web of Science)、文献タイプはArticleとReview
各グループの大学が発表した論文の具体的数量から見ると、1998年のドイツの7大学の論文数は7125編、日本は15059編で、それぞれ中国の7大学の2倍と5倍であった。2007年には中国の7大学は14377編に達し、ドイツは7789編、日本は16492編であった。中国の7大学の発表論文数は、ドイツの7大学の約半分だったのが、約2倍にまで増加し、日本の7大学との差も、日本の約5分の1だったのが、わずかに15%ほど少ないというところまで縮小した。
4.2 中国、ドイツ、日本の一流大学の科学研究における産出の影響力の変化趨勢
科学研究における産出の影響力の変化趨勢についての分析は、三つの方面に立脚点を置いている。その一つは論文の平均インパクトファクターの変化趨勢、二つ目は、インパクトファクターが最も高い25%の定期刊行物(Top25%)と最も低い25%の定期刊行物(Bottom25%)に発表した論文の比率とその変化趨勢、三つ目は『Science』、『Nature』(S&Nと略称)など、世界の公認するトップクラスの学術刊行物への論文発表の変化趨勢である。
1998~2007年の間に、中国の7大学が発表したSCIE論文の平均インパクトファクターは全体として徐々に上昇する動きを示し、2002年までは0.7前後を維持していたが、最近の5年間は上昇の動きがかなりはっきりし、2007年には最高に達し、0.91となった。ドイツと日本の7大学が発表した論文の平均インパクトファクターは基本的に1以上で、年度間の変化趨勢も明らかではない。3グループの大学の論文の対応年度における平均インパクトファクターから見ると、ドイツが最も高く、日本がこれに次ぎ、中国が最も低い。(図3参照)
図3:中国、ドイツ、日本のTop7大学の論文の平均インパクトファクターの変化趨勢
データ出典 :科学ネット(Web of Science)、文献タイプはArticleとReview
中国の7大学がインパクトファクターの最も高い25%の定期刊行物に発表した論文の比率は、1998年の21.9%から2007年の33.4%へと持続的に上昇した。うち2002年までは基本的に22%前後を維持し、最近の5年間は上昇の動きが顕著であった。ドイツの7大学が当該クラスの定期刊行物に発表した論文の比率は2002年を境として、それ以前は40%以下であったが、それ以後は40%以上を維持しており、持続的な上昇または低下の動きはない。このうち1998年は38.3%だったが、2007年には43.3%まで上昇した。日本の7大学が当該クラスの定期刊行物に発表した論文の比率は、10年来ずっと35%~40%の間にあって、小幅な変動状態を示しており、持続的な上昇または低下の動きは見られない。同一年度のデータを対比してみると、3組の一流大学が当該クラスの定期刊行物に発表した論文の比率は、ドイツが最も高く、日本がこれに次ぎ、中国が最も低い。増加趨勢から見れば、中国は上昇幅が最も大きく、11.5ポイント増となっており、ドイツがこれに次ぎ、5ポイント増、日本は上昇幅が最も小さく、2.6ポイント増となっている。(図4参照)
図4:中国、ドイツ、日本のTop7大学がTop25%の定期刊行物に発表した論文の比率の変化趨勢
データ出典 :科学ネット(Web of Science)、文献タイプはArticleとReview
図5:中国、ドイツ、日本のTop7大学がBottom25%の定期刊行物に発表した論文の比率の変化趨勢
データ出典 :科学ネット(Web of Science)、文献タイプはArticleとReview
インパクトファクターが最も低い25%の定期刊行物に、中国の7大学が発表した論文の比率は徐々に低下する動きを示しており、1998年の30.4%から2007年の17.7%に下がった。このうち2002年までは変化趨勢が明らかではなかったが、最近の5年間は低下の動きが目立っている。ドイツの7大学が当該クラスの定期刊行物に発表した論文の比率はゆるやかに低下し、1998年は16.2%、2007年は12.2%であった。日本の7大学は常に10%前後を維持し、1998年は10%、2007年は9%であった。同一年度を対比してみると、3グループの一流大学が当該クラスの定期刊行物に発表した論文の比率は、中国が最も高く、ドイツがこれに次ぎ、日本が最も低い。この比率の低下趨勢から見れば、中国は最も進歩が大きく、12.7ポイント下がっており、ドイツがこれに次ぎ4ポイント、日本は進歩が最も小さく、1ポイント低下している。(図5参照)
『Science』、『Nature』など、世界のトップクラスの定期刊行物への論文の発表状況は、一つの学術機関の重要かつオリジナルな研究成果の状況を表しており、学術機関の知識イノベーション・レベルの重要な指標である。
表8は1998~2007年の間に、中国、ドイツ、日本の3グループの一流大学が筆頭署名機関として『Science』、『Nature』の両定期刊行物に論文を発表した状況である。10年間に、中国の7大学は計25編、1校当たり3.6編の論文を発表した。年度間の発表論文数の変化に改善の傾向は見られず、うち最も多かったのは2004年の計6篇で、2003年は0であった。ドイツの7大学は10年間に計170編、1校当たり24編の論文を発表し、日本は計409編、1校当たり58編を発表した。
グループ別 | 年度S&N論文数 | 合計 | |||||||||
1998 | 1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 | ||
CHN-Top7 | 1 | 2 | 1 | 3 | 3 | 0 | 6 | 4 | 4 | 1 | 25 |
GER-Top7 | 15 | 18 | 23 | 12 | 18 | 19 | 12 | 12 | 17 | 24 | 170 |
JPN-Top7 | 40 | 35 | 49 | 39 | 41 | 46 | 39 | 47 | 35 | 38 | 409 |
5. 結論
5.1 中国の高等教育全体の実力が飛躍的に伸びる
高等教育在学者数、博士課程在学者数、高等教育粗就学率、科学技術論文の産出規模と相対的ポジション等の指標によって測れば、中国の高等教育全体の実力は過去10年間に飛躍的な伸びを見せた。高等教育在学者の規模は2004年にすでにサンプル国中第1位となった。高等教育粗就学率は短期間で15%に達し、高等教育の大衆化という目標が実現された。他の諸国と比べて、人口規模の膨大さから、中国は依然として高等教育への需要が満たされていないという大きな圧力に直面している。高レベル人材の育成の面では、中国の博士課程在学者の規模は2007年にすでにアメリカに次ぎ世界第2位となった。科学研究による産出の面では、中国の論文産出規模は急速に拡大し、1999年の世界第10位から2007年の第5位へと上昇し、第4位の日本との差はわずか200編となった。しかしながら、研究を通じて明らかになったのは、中国の科学技術論文の影響力の拡大は、規模の拡大に比べて後れているということである。中国の高等教育全体の実力と国際競争力の向上は、政策の効果と密接不可分である。1995年、中国は「211プロジェクト」、すなわち21世紀に向けて、100余りの大学と一群の重点学科を重点的に建設するという建設プロジェクトをスタートさせた。「211プロジェクト」という基盤の上に、1999年、政府はさらに「985プロジェクト」を正式に実施した。重点建設プロジェクトの相次ぐ実施は、一方で高等教育の建設に対する政府の投入の度合いを高め、もう一方では、地方政府、企業、社会各界の高等教育に対する関心と投入への熱意を喚起した。また、この間にスタートした高等教育の連続的な募集枠拡大政策や高等教育コスト補償メカニズムなども、学校経営に対する大学の熱意をかき立てた。これらの政策が相まって、中国の高等教育全体の実力が急速に向上したのは、理にかなった当然の成り行きであった。
5.2 急速に勢いを増している中国の研究型大学群
国の重点的建設支援の下で、中国の「985プロジェクト」大学の科学研究における産出の国際影響力は急速に拡大した。2007年の世界各国の大学のSCI、SSCI論文総数ランキングによれば、中国の大学のうち、浙江大学、清華大学、北京大学、上海交通大学、中国科学技術大学はすでに世界の上位100校に入っている。ESIデータベースに収録されている世界の上位1%の学科数について見ると、「985プロジェクト」大学の進歩はめざましい。アメリカ大学協会、イギリス・ラッセルグループ、オーストラリアGo8などの研究型大学群との比較から気づくのは、「985プロジェクト」大学は論文の1校当たり産出数、1校当たり被引用回数、1編当たり被引用回数などの指標における上昇幅が、いずれも最も大きいということである。上記の有名な研究型大学群との差はすでにかなり縮小している。
5.3 中国の一流大学の科学研究の影響力はドイツ、日本の一流大学との差が依然としてかなり大きい
1998年以降、わが国の一流大学の科学研究における産出の規模は急速に拡大し、論文総数は2002年にすでにドイツを抜き、日本との差も徐々に縮小しつつある。中国の7大学の過去10年間のSCIE論文の年平均増加率によって推計すると、中国の7大学の論文数は2010年に日本の7つの一流大学を抜くと見られる。2002年以降、わが国の一流大学の科学研究における産出の全体的影響力が著しく改善してきたことは、論文の平均インパクトファクターのめざましい向上、インパクトファクターの最も高い25%の定期刊行物への論文発表比率の著しい上昇、インパクトファクターの最も低い25%の定期刊行物への論文発表比率の著しい低下として表れている。ドイツと日本の一流大学の論文全体の影響力は基本的に安定している。一方、わが国の一流大学には重要かつオリジナルな成果が非常に乏しく、成果の数が少ない上、明らかな改善の傾向も見られず、そのことは『Science』、『Nature』など、学術界の公認するトップクラスの定期刊行物に発表する論文の数が少なく、しかも不安定であることに表れている。ドイツ、日本の一流大学との間には極めて大きな差が存在している。
以上の結論を総合すればわかるように、中国の大学の実力と競争力は過去10年間に著しく向上し、しかもそれは規模で測ることのできる多くの指標の上に真っ先に表れている。中国の大学の科学研究における産出の国際影響力、特に重要な原始イノベーション能力を重点的に高めていくことは、中国の大学の将来にわたる発展の要諦である。