第160号
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定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その10)

2020年1月21日 辻野 照久(元宇宙航空研究開発機構国際部参事)

2019年第4四半期の中国の宇宙活動状況

 今回は、定点観測シリーズの第10回目として、2019年10月1日から12月31日までの3か月間の中国の宇宙開発動向をお伝えする。

 この期間のロケット打上げ回数は、中国が14回、米国は6回、ロシアは6回、欧州は2回、インドは2回、ニュージーランドは2回で、世界計で32回となっている。表1に2019年の全世界のロケット打上げ回数を示す。

 中国は2年連続で世界最多のロケット打上げを行い、米露の1.5倍以上という大差をつけた。ロシアも4年ぶりに20回以上となって米国を上回った。

「長征(Changzheng:CZ)5型」ロケット試験3号機の打上げは、前回「12月20日頃になる見込み」とお伝えしたが、1週間遅れで静止衛星「実践(Shijian)20号」の打上げに成功した。2020年には、中国初の火星探査機「真容(Zhenrong)」、月のサンプルリターンミッション「嫦娥5号」、中国宇宙ステーション(CSS)のコアモジュール「天和」の打上げなどが予定されている。

表1 2019年の世界のロケット打上げ回数(四半期別) ★は打上げ失敗(内数)
*米国の[]内はスペースX社の打上げ回数の内訳
期間 中国 米国 ロシア 欧州 日本 インド NZ イラン 世界計
1月-3月 5(★1) 5[3] 2 3 1 1 1 2(★2) 20(★3)
4月-6月 6(★1) 6[5] 3 2 0 2 2 0 21(★1)
7月-9月 9 4[2] 11 2(★1) 1 1 1 0 29(★1)
10月-12月 14 6[2] 6 2 0 2 2 0 32
2019年計 34(★2) 21[12] 22 9(★1) 2 6 6 2(★2) 102(★5)

ロケット・衛星打上げ状況

 この期間に中国は14回の打上げで自国衛星32機と外国衛星5機を打ち上げた。そのうち、地球観測衛星は13機、通信衛星は3機、航行測位衛星は5機、技術試験衛星は9機、AIS衛星は2機である。表2に軌道投入された衛星と打上げに使われたロケットなどを示す。

表2 2019年10月1日から12月31日までの中国のロケット・人工衛星打上げ状況
*軌道の凡例 LEO:低軌道、SSO:太陽同期極軌道、MEO:中高度軌道、GEO:静止軌道、IGSO:軌道傾斜角付き地球同期軌道
衛星名 国際標識番号 打上げ年月日 打上げロケット 射場 衛星保有者 ミッション 軌道
Gaofen 10R 高分 2019-066A 2019/10/4 長征4C 太原 不明 地球観測 SSO
Tongxin Jishu
Shiyan 4
通信技術試験 2019-070A 2019/10/17 長征3B/G2 西昌 CAST 通信放送 GEO
Gaofen 7 高分 2019-072A 2019/11/3 長征4B 太原 不明 地球観測 SSO
SSES-1 2019-072B スーダン 技術試験
Huangpu 1 黄埔 2019-072C 粤港澳大湾区研究院 技術試験
Xiaoxiang 1-08 瀟湘 2019-072D 長沙天儀 技術試験
Beidou 3 I3 北斗 2019-073A 2019-073A 長征3B/G2 西昌 国防部 航行測位 IGSO
Jilin 1 HR02A 吉林 2019-075A 2019/11/13 快舟1A 酒泉 長光衛星 地球観測 LEO
Ningxia 1-01 寧夏 2019-076A 2019/11/13 長征6 太原 寧夏金硅 地球観測 LEO
Ningxia 1-02 2019-076B 地球観測
Ningxia 1-03 2019-076C 地球観測
Ningxia 1-04 2019-076D 地球観測
Ningxia 1-05 2019-076E 地球観測
KL-Alpha A 2019-077A 2019/11/17 快舟1A 太原 ドイツ 通信放送 LEO
KL-Alpha B 2019-077B 通信放送
Beidou 3 M21 北斗 2019-078A 2019/11/23 長征3B/YZ1 西昌 国防部 航行測位 MEO
Beidou 3 M22 2019-078B
Gaofen 12 高分 2019-082A 2019/11/27 長征4C 太原 不明 地球観測 SSO
Jilin 1 HR02B 吉林 2019-086A 2019/12/7 快舟1A 太原 長光衛星 地球観測 SSO
Head 2A 和徳 2019-087 2019/12/7 快舟1A 太原 和徳 AIS SSO
Head 2B 2019-087
Tianyi 16 天儀 2019-087 長沙天儀 地球観測
Tianyi 17 2019-087
Tianqi 4A 天啓 2019-087 国電高科
Tianqi 4B 2019-087
Beidou 3 M19 北斗 2019-090A 2019/12/16 長征3B/YZ1 西昌 国防部 航行測位 MEO
Beidou 3 M20 2019-090B
CBERS 4B 2019-093 2019/12/20 長征4B 太原 不明 地球観測 SSO
Tianqin 天琴 2019-093 CAMSAT 技術試験
Yuheng 玉衡 2019-093 NUDT 技術試験
Shuntian 順天 2019-093 NUDT 技術試験
Tianyan 01
(儀徴1)
天雁 2019-093 中星空間遥感衛星技術 技術試験
Tianyan 02 2019-093 国星宇航 技術試験
Weilai 1R 未来 2019-093 微納空間 技術試験
ETRSS 1 2019-093 エチオピア 技術試験
FloripaSat 1 2019-093 ブラジル 技術試験
Shijian 20 実践 2019-097A 2019/12/27 長征5 CAST 技術試験 GEO
表3 ロケット種別による2019年の中国の打上げ回数と衛星数(外国衛星は含まない)、★は失敗(外訳)
ロケット
種別
CZ
2C
CZ
2D
CZ
3B
CZ
3C
CZ
4B
CZ
4C
CZ
5
CZ
6
CZ
11
CZ
11H
OS-
M1
双曲
線1
捷龍
1
快舟
1A
打上回数 1 1 11 1 4 2+★1 1 1 2 1 ★1 1 1 5 32+★2
衛星数 3 1 14 1 15 2+★1 1 5 9 7 ★1 2 3 10 73+★2

 なお、2019年の世界の衛星打上げ数(打上げ失敗を除く)は485機で、中国が73機で世界第2位、米国は273機で世界第1位となり、ロシアが30機で第3位、以下英国14機、ドイツ13機、日本11機、インド9機と続いた。

宇宙ミッション1 地球観測分野

 第4四半期に打ち上げられた中国の地球観測衛星は13機で、「高分(Gaofen)」衛星が3機(7、10R、12)、ブラジルと共同の「CBERS」衛星が1機、寧夏金硅信息技術公司の「寧夏(Ningxia)」衛星が同時に5機、長沙天儀研究院の「天儀(Tianyi)」衛星が2機(16、17)、長光衛星公司の「吉林(Jilin)」衛星が2機(高分02A、同02B)となっている。

 中国国家航天局(CNSA)は、12月10日に高分7号の取得画像を国防科技工業局(SASTIND)を通じて公表した[1]

宇宙ミッション2 通信放送分野

 中国空間技術研究院(CAST)が10月17日に打ち上げた「通信技術試験(Tongxin Jishu Shiyan:TJS)4」衛星は、高速通信技術の実証を目的としていると見られ、2019年12月末時点で東経83.5度の静止軌道にある[2]

 快舟1A型ロケットで打ち上げられた「天啓(Tianqi)4A」及び「天啓4B」衛星は、国電高科科技有限公司が保有する通信衛星で、累計5機となった。

宇宙ミッション3 航行測位分野

 本期間に打ち上げられた「北斗(Beidou)」衛星は5機で、「北斗3型」の中高度周回衛星「北斗3-M21」と「北斗3-M22」が11月に、「北斗3-M19」と「北斗3-M20」が12月に、それぞれ2機1組で打ち上げられた[3]。これにより中軌道の北斗3衛星が24機揃ったが、来年さらに周回衛星と静止衛星の打上げを行うことを表明している。また、11月には準天頂衛星(北斗3-I3)が打ち上げられた。

宇宙ミッション4 有人宇宙活動分野 及び 宇宙ミッション7 宇宙輸送分野

 12月27日に長征5型試験3号機の打上げが成功したことで、中国宇宙ステーション「天宮」(CSS)の各モジュールの打上げが目白押しになる一方で、中国では月面基地建設のためのロケット開発が進められている。1つは超重量級の長征9型ロケットで、直径10m、高さ90m、低軌道投入能力100トンと米アポロ計画のサターン5ロケットに匹敵し2030年頃に初打上げを目指している。一方、それよりは規模がやや小さいが、中国運載火箭技術研究院(CALT)が直径5m級の次世代有人ロケットの全体技術の予備研究を行っている。中国有人宇宙プログラム室(CMSEO)は10月11日にこの予備研究の成果を審査し、有人基地建設用として資材25トン以上を月へ輸送できるなど次世代有人ロケットに利用可能であるとの審査結果を発表した[4]

宇宙ミッション5 宇宙科学分野

 月の裏側に着陸した「嫦娥(Chang'e)4号」は12月20日に月の13日目の活動を開始した[5]。12日目の活動終了時点で、ローバ「玉兎(Yutu)2号」の走行距離は約358mであった。月面ローバの活動期間としては、1971年に旧ソ連のルノホート1号が達成した10か月間というこれまでの最長記録を49年ぶりに更新した。

 月着陸機データ中継衛星「鵲橋(QueQiao)」(2018年5月打上げ)に搭載されたオランダの低周波電波観測装置(NCLE)は、11月にアンテナが展開された[6]

 2019年12月に打上げを予定していた「嫦娥5号」は、長征5型ロケットの3機目の打上げが遅れたことに伴って、2020年末まで延期された。

 中国が2020年に予定している初の火星探査機について、2019年10月11日に名称を「真容(Zhenrong)」とすることが中国航天科技集団有限公司(CASC)から発表された[7]。火星着陸前に全球周回観測を行い、着陸後は火星ローバを展開して、周辺の探査を行う計画で、1回の探査機打上げでこれだけの試みを行うのは世界初であり、火星全球の総合的調査並びに重点地区の詳細調査を目標としている。

宇宙ミッション6 新技術実証分野

 本期間に打ち上げられた技術試験衛星は8種類で9機であった。

 CASTの「実践20」は2017年に打ち上げに失敗した「実践18」と同型機で、静止通信衛星の新技術の試験を行う。特に重要な技術は東方紅5型衛星バスで、現在主力となっている東方紅4型衛星バスの性能・仕様を大きく上回り、質量は8トン以上、衛星の推進にはイオンエンジンを採用している。ミッション機器でも野心的な実験が行われる可能性があるが、今のところ詳細は不明である。

写真

東方紅5型バスの外観(CAST)

 他の小型衛星8機のうち、これまでに打上げ実績があるものは、長沙天儀研究院の「瀟湘Xiaoxiang」で今回「1-08」が打ち上げられた。微納空間公司の「未来(Weilai)1R」は2018年に朱雀1型ロケットで失敗に終わった「未来1」の再挑戦で、今回は長征4Bロケットにより打ち上げに成功した。その他の初登場衛星は、粤(広東省)港(香港)澳(マカオ)大湾区研究院「黄埔(Huangpu)1」、中山大学の「天琴(Tianqin)1」、「中国国防科技大学の2機に「玉衡(Yuheng)」及び「順天(Shuntian)」、その他2機に「天雁(Tianyan)」(01、02の2機同時打上げ)と名付けられた。特に「天雁01」は江蘇州儀徴経済開発区にある中星空間遥感衛星技術公司が製作した72kgの小型衛星で、別名「儀徴1」と名付けられ、今後約8種のミッションに拡大させる可能性がある。「天雁02」の別名は「星時代8」で、国星宇航技術公司が打ち上げた。

国際協力

 本期間に行われた国際協力活動として、フランスとの宇宙協力、BRICS第11回首脳会議の動きを紹介する。

① フランス

11月6日、中国国家航天局(CNSA)とフランス国立宇宙研究センター(CNES)は、2023年打上げ予定の月探査機「嫦娥(Chang'e)6」にフランスの天体物理・惑星学研究所(IRAP)が製作するラドンガス検出器「Detection of Outgassing RadoN :DORN」を搭載することで、両機関が月探査で協力するとの共同声明に署名した。また、地球の水循環サイクルについて研究するための地球観測衛星を共同で開発することも合意した[8]

② BRICS

11月14日、ブラジルのブラジリアにおいて第11回BRICS首脳会合が開催され、宇宙活動分野を含む共同宣言を採択された[9]。この共同宣言の中で、BRICS首脳は宇宙空間における軍備競争の可能性への深刻な懸念を表明し、国際連合憲章など国際法に従った宇宙探査及び平和利用活動を継続する必要性を再確認することが記載された。また、BRICSリモートセンシング衛星群に関する協力協定締結交渉の進展に留意し、同協定の早期締結を期待する旨も記された。

以上

参考資料 「憂慮する科学者同盟」のデータベースによる運用中の中国の衛星数

 2019年12月に「憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists:UCS)」が2019年9月30日時点での各国の運用中の衛星(月惑星探査機及び有人宇宙船を除く)のデータベースを公表した[10]

 このデータベースから抽出した運用中の中国衛星(323機)と昨年第4四半期に打ち上げられた衛星(32機、本文の表3参照)を加えて、3機以上となるシリーズを抽出した結果を以下に示す。

衛星(シリーズ)名 ミッション 運用中の衛星数 2019年10月-12月の打上げ数
Apstar  通信放送    4
Asiasat  通信放送    7
北斗(BD)  航行測位    44    5
創新(CX)  技術試験    5
風雲(FY)  気象観測    7
高分(GF)  地球観測    12    3
和徳(HD)  AIS    1    2
海洋(HY)  地球観測    3
環境(HJ)  地球観測    3
吉林(JL)  地球観測    12    2
瓢虫(PC)  技術試験    7
陸地勘査衛星(LKW)  地球観測    4
実践(SJ)  技術試験    24    1
試験(SY)  技術試験    6
高景(GJ)  地球観測    4
天鏈(TL) データ中継    5
天啓(TQ)  通信放送    3    2
天儀(TY)  技術試験    2    2
通信技術試験(TJS)  通信放送    3    1
瀟湘(XX)  技術試験    2    1
希望(XW)  技術試験    6
遥感(YG)  地球観測    56 
雲海(YH)  気象観測    8
浙大皮星(ZDPX)  技術試験    4
中星(ZX)  通信放送    13 
珠海(ZH)  地球観測    12
資源(ZY)  地球観測    4    1
寧夏(NX)  地球観測    0    5
    計   261    25

 この他、1機しかないが重要な科学衛星・地球観測衛星として、

 悟空、墨子、慧眼、張衡、碳星、CFOSAT(中仏海洋衛星)、CBERS などがある。

 また、嫦娥4号はUCSのデータベースでは対象外となっている。

 なお、世界の総数は2,218機で、そのうち米国が1,007機を占め、ロシアは164機で3位である。少し前までは中国とロシアの運用数はほぼ同じだったが、現在では2倍以上の差になった。

以上


[1] 2019年12月10日、SASTIND、高分七号卫星首批亚米级立体影像产品发布
http://www.sastind.gov.cn/n112/n117/c6808400/content.html

[2] 2019年12月29日取得、N2YO、TJS-4、https://www.n2yo.com/satellite/?s=44637

[3] 2019年12月22日、Gunter's Space Page、BD3M(TypeⅡ)、https://space.skyrocket.de/doc_sdat/bd-3m-2.htm

[4] 2019年10月12日、中国軍網、奔月运力超25吨!新一代载人火箭预研项目顺利验收
http://www.81.cn/hkht/2019-10/12/content_9649225.htm

[5] 2019年12月23日、CLEP、"玉兔二号":成月面工作时间最长月球车
http://www.clep.org.cn/n132/n230/n18088/c6808514/content.html

[6] 2019年11月26日、ISIS、Dutch antennas deployed behind the moon
https://www.isispace.nl/news/dutch-antennas-deployed-behind-the-moon/

[7] 2019年10月19日、東郷、中国火星探测器的"真容"原来长这样,一起来看一下!
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1647257484111374682&wfr=spider&for=pc

[8] 2019年11月6日、Parabolic Arc、China's Chang'e 6 to Deploy French DORN Instrument on Moon to Study Lunar Exosphere
http://www.parabolicarc.com/2019/11/06/chinas-change-6-to-deploy-french-dorn-instrument-on-moon-to-study-lunar-exosphere/

[9] 2019年11月14日、ブラジル外務省、11th BRICS Summit - Brasília Declaration
http://www.itamaraty.gov.br/en/press-releases/21084-11th-brics-summit-brasilia-declaration

[10] 2019年12月16日、UCS、UCS Satellite Database 、https://www.ucsusa.org/resources/satellite-database
Database (Excel format)を選択してC列でソートすると保有国別のデータが得られる。

定点観測シリーズバックナンバー:

2016年10月12日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その1)

2017年04月21日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その2)

2017年10月26日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その3)

2018年04月13日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その4)

2018年10月18日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その5)

2019年01月10日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その6)

2019年04月15日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その7)

2019年07月17日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その8)

2019年10月16日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その9)