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定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その8)

2019年7月17日 辻野 照久(元宇宙航空研究開発機構国際部参事)

2019年第2四半期の中国の宇宙活動状況

 今回は、定点観測シリーズの第8回目として、2019年4月1日から6月30日までの3か月間の中国の宇宙開発動向をお伝えする。

 この期間のロケット打上げ回数は、中国が6回(うち1回は打上げ失敗)、米国も6回、欧州は2回、ロシアが3回、インドが2回、ニュージーランド(NZ)が2回で、世界計で21回となっている。表1に2019年第2四半期までの全世界のロケット打上げ回数を示す。

表1 2019年の世界のロケット打上げ回数(四半期別) ★は打上げ失敗(内数)
*米国の[]内はスペースX社の打上げ回数の内訳
期間 中国 米国* ロシア 欧州 日本 インド NZ イラン 世界計
1月-3月 5(★1) 5[3] 2 3 1 1 1 2(★2) 20(★3)
4月-6月 6(★1) 6[5] 3 2 0 2 2 0 21(★1)
11(★2) 11[8] 5 5 1 3 3 2(★2) 41(★4)

 世界初の月の裏側着陸で注目された月着陸機「嫦娥(Chang'e)4号」は既に月の7日目を迎えており、ローバ「玉兎2号」は月のマントルの成分とみられるカンラン石と輝石の上を走行している。いずれこのエリアを通り過ぎて月の殻の主成分である玄武岩のエリアに到達し、地質の比較を行うことが期待されている。

 ロケットの打上げでは、3月に失敗した零壹空間公司(One Space)社の「OS-M1」ロケットに続いて、5月22日には長征4C型ロケットによる地球観測衛星「遥感33号」の打上げに失敗した。また6月5日に長征11H型ロケットで中国初の洋上打上げに成功した。中国は1986年に洋上打上げの切手を発行したが、それが実現したのは33年後ということになる。

写真

潜水艦からの打上げを描いた切手(1986年発行)

 ただし同じ洋上でも切手は潜水艦からの打上げを描いており、その頃はそのような打上げは例がなかった。ロシアがヴォルナ(Волна)ロケットによりバレンツ海で潜水艦からの衛星打上げに初めて成功したのは1998年7月のことである[1]。今回打上げが行われたのは潜水艦ではなく洋上の船舶からである。中国では既に大型トラックからの打ち上げシステムも開発されている。

ロケット・衛星打上げ状況

 この期間に中国は6回の打上げ(うち1回は打上げ失敗)で自国衛星13機(うち1機は打上げ失敗)を打ち上げた。軌道に投入された中国衛星12機のうち、地球観測衛星は3機、航行測位衛星は3機、技術試験衛星は6機である。表2に軌道投入された衛星と打上げに使われたロケットなどを示す。

表2 2019年4月1日から6月30日までの中国のロケット・人工衛星打上げ状況
衛星名 国際標識番号 打上げ年月日 打上げロケット 射場 衛星保有者 ミッション 軌道
Beidou 3 I1 北斗 2019-023A 2019/4/20 長征3B/G2 西昌 MOD 航行測位 IGSO
Tianhui 2-01A 天絵 2019-024A 2019/4/29 長征4B 太原 PLA 地球観測 SSO
Tianhui 2-01B 2019-024C 地球観測 SSO
Beidou 2 G8 北斗 2019-027A 2019/5/17 長征3C/G2 西昌 MOD 航行測位 GEO
Yaogan 33★ 遥感 2019-F04 2019/5/22 長征4C 太原 PLA 地球観測 打上げ失敗
Jilin 1 HR03A 吉林 2019-032 2019/6/5 長征11H 洋上 長光衛星 地球観測  
Bufeng 1A 捕風 2019-032 CAST 技術試験  
Bufeng 1B 2019-032 技術試験  
Xiaoxiang 1-04 瀟湘 2019-032 天儀研究院 技術試験  
Tianqi 3 天啓 2019-032 国電高科 技術試験  
Tianxiang 1 天象 2019-032 中国電子技術公司 技術試験  
Tianxiang 2 2019-032 技術試験  
Beidou 3 I2

北斗

2019-018A

2019/3/31 長征3B/G2 西昌 MOD 航行測位 IGSO
ロケット種別による2019年の中国の打上げ回数と衛星数、★は失敗(ロケットは内訳、衛星は外訳)
ロケット種別 長征3B 長征3C 長征4B 長征4C 長征11 長征11H OS-M1
打上げ回数 5 1 1 ★1 1 1 ★1 11(★2)
衛星数 5 1 2 ★1 4 7 ★1 19+★2

 この期間に打上げが予定されていた商業打上げ用小型固体ロケット「捷龍(Jielong)1号」は8月に延期された。民間企業の小型ロケットは、これまで失敗に終わった2社の他に、北京星際栄耀[2]が「双曲線(Shuangquxian)」、翎客航天[3]が「新幹線(Xinganxian)」というロケットの開発を進めており、「双曲線」の方はサブオービタル飛行に成功している。また福建省の廈門大学(XMU)航空航天学院と北京凌空天行科技有限公司が共同で再使用型有翼ロケット「嘉庚1号(Jiageng-1)」を中国西北部の砂漠地帯で打ち上げ、機体の回収に成功した[4]

宇宙ミッション1 地球観測分野

 第2四半期に打ち上げられた中国の地球観測衛星は3機で、立体地図作成用の「天絵2号」が2機、もう1機は吉林省の長光衛星技術公司が開発したハイパースペクトラル(光譜)撮像装置搭載の地球観測衛星「吉林1号光譜(Jilin Guangpu)03」である。

 地震電磁波観測衛星「張衡1号」に関して、中国地震局の申旭輝氏は5月30日に「張衡1号は地震の研究以外で人類に何をもたらすことができるのか?」という講演を行った[5]。後漢時代の天文学者である張衡は、紀元132年に地震計を発明し、134年の隴西地震を記録したとのことである。マグニチュード7クラスの大地震は世界で年間18回程度発生しており、中国も3年間で2回発生している。

写真

張衡を描いた切手(1955年発行)

宇宙ミッション2 通信放送分野

 本期間には通信放送衛星の打上げはなかった。これから注目されるのは、長征5型ロケットによる実践20号の打上げで、世界初の量子暗号通信機器を搭載した静止衛星となる可能性がある。

宇宙ミッション3 航行測位分野

 本期間に打ち上げられた「北斗(Beidou)」衛星は3機で、2機は「北斗3型」の軌道傾斜角付き地球同期軌道(IGSO)衛星、1機は「北斗2型」の静止軌道(GEO)衛星である。今年中に中高度周回衛星が2機1組で打ち上げられる予定。

宇宙ミッション4 有人宇宙活動分野

 4月24日に湖南省長沙で第4回中国航天大会が開催された[6]。この中で、「地球・月空間の開発」と題する基調講演があり、「有人宇宙分野における成功経験を踏まえて、中国宇宙ステーション(CSS)の運用及び有人月探査ミッションのための打上げシステムを開発するとともに、有人及び衛星打上げのためのロケットシステムの信頼性向上に努める。」という興味深い示唆があった。

宇宙ミッション5 宇宙科学分野

 2023年頃打上げ予定の「嫦娥6号」について、国際協力を担当する中国国家航天局(CNSA)は4月18日に国内の研究機関・大学・民間企業及び海外の研究機関からのそれぞれの搭載ペイロード募集を開始すると発表した。同時に、小惑星・彗星探査ミッションの募集も行う。締め切りはいずれも8月31日まで。

宇宙ミッション6 新技術実証分野

 本期間に打ち上げられた技術試験衛星は4種類で6機であった。

 長沙天儀研究院有限公司は着々とシリーズ衛星を増やしており、今回は「瀟湘(Xiaoxiang)1-04」を打ち上げた。中国空間科学研究院(CAST)は海上の風速を観測する「捕風(Bufeng)」という新シリーズの衛星を2機同時に打ち上げた。国有企業の中国電子科技集団公司(CETGC)[7]は、「天象(Tianxiang)」という新シリーズを2機同時に打ち上げた。もう1機は北京国電高科科技有限公司[8]の「天啓(Tianqi)」という衛星である。企業が保有する小型衛星の裾野が広がってきており、新たに小型衛星の打上げを目指す新興企業も目立っている。

国際協力の動向

 本期間にアラブ諸国、パキスタン、欧州の気象衛星運用機関であるユーメトサットとの間で国際協力の了解覚書(MOU)の署名を行った。

 中国北斗衛星航行測位システム管理室(CSNO)は、中国とアラブ諸国との衛星測位分野における協力の促進を目的とする第2回中国・アラブ諸国北斗航行測位システム協力フォーラムを4月1-2日にチュニジアの首都チュニスで開催した[9]

 中国有人宇宙プログラム室(CMSEO)は、4月にパキスタンの宇宙機関である高層大気研究機関(SUPARCO)との間で有人宇宙飛行に関する協力協定を締結した[10]。パキスタン人宇宙飛行士の選抜・訓練及び打上げ、宇宙科学実験などで協力する。

 2019年6月、CNSAと欧州気象衛星機構(ユーメトサット:EUMETSAT)及びフランス国立宇宙研究センター(CNES)は、欧州における気象予報の精度向上と気候変動監視のために中仏海洋衛星「CFOSAT」の取得データを利用することで合意し協力協定を締結した[11]

以上

参考資料 主な政府機関のURL変化と国務院の閣僚級幹部

 昨年の政府機構改編に伴い、最近になって中国の政府機関のウェブサイトのURLがいくつか変化している。6月にはまだ自動転送も行われていたが、7月12日に最終確認したところ直接リンクしなくなっていた。逆に、元のURLに戻って再整備されたところも見られる。

機関名 新URL 旧URL
国家海洋局 局自体が廃止→自然資源部の傘下の国家衛星海洋応用中心が主体に。
http://www.nsoas.org.cn/
http://www.soa.gov.cn/
外交部 https://www.fmprc.gov.cn/ http://www.fmprc.gov.cn/web/
応急管理部中国地震局 https://www.cea.gov.cn/ http://www.cea.gov.cn/
教育部 http://www.moe.gov.cn/ http://www.moe.edu.cn/

 また、アジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)のサイトも、過去のニュースが3か月ごとにまとめられ、特定のニュースを呼び出すことが面倒になっている。

 過去のURLを知っていて、それが接続不可能になっている場合、URLの「www.apsco.int」を「114.251.87.61:8080」に置き換えると、参照可能になる。

21の部(省に相当)の部長、3つの委員会の主任及び2つの機関の長の氏名を下表に示す[12]。(7月12日現在)

外交部 王毅 科学技術部 王志剛 工業・信息化部 苗圩
国防部 魏鳳和 国家安全部 陳文清 人力資源・社会保障部 張紀南
教育部 陳宝生 自然資源部 陸昊 住房・城郷建設部 王蒙徽
公安部 趙克志 生態環境部 李幹傑 退役軍人事務部 孫紹騁
民政部 黄樹賢 交通運輸部 李小鵬 国家発展・改革委員会 何立峰
司法部 傅政華 農業農村部 韓長賦 国家民族事務委員会 巴特爾
財政部 劉昆 文化・旅游部 雒樹剛 国家衛生健康委員会 馬暁偉
水利部 鄂竟平 応急管理部 王玉普 中国人民銀行 易綱(行長)
商務部 鐘山     審計署 胡澤君(審計長)

[1] Gunter's Space Page、Vysota / Volna / Shtil、https://space.skyrocket.de/doc_lau/shtil_volna.htm

[2] 北京星際栄耀空間科技有限公司、http://www.i-space.com.cn/

[3] 深圳市翎客航天技术有限公司、http://linkspace.com.cn/

[4] 2019年4月22日、XMU、问鼎九天,我们也可以 ----我校航空航天学院成功发射"嘉庚一号"带翼回收火箭
https://news.xmu.edu.cn/2019/0423/c1550a367221/page.htm

[5] 中国地震局地壳应力研究所总工程师申旭辉:"张衡一号"卫星,除了研究地震,还能为人类带来什么?
https://www.guokr.com/article/452141/

[6] 2019年、CMSEO、实现从"地球中心"到地月空间的转变 ----中国载人航天工程原副总指挥张育林畅谈地月空间开发、http://www.cmse.gov.cn/art/2019/4/30/art_19_33089.html

[7] CETGC各所简介、https://wenku.baidu.com/view/46a04e9e998fcc22bcd10df3.html

[8] 北京国电高科科技有限公司、https://company.zhaopin.com/CZ898577220.htm

[9] 2019年4月2日、CSNO、第二届中阿北斗合作论坛在突尼斯成功举办
http://www.beidou.gov.cn/yw/xwzx/201904/t20190402_17672.html

[10] 2019年4月28日、CMSEO、中巴签署载人航天合作框架协定
http://www.cmse.gov.cn/art/2019/4/28/art_22_33086.html

[11] 2019年6月18日、EUMETSAT、CHINA, FRANCE AND EUMETSAT COOPERATE FOR WEATHER FORECASTING AND CLIMATE、https://www.eumetsat.int/website/home/News/DAT_4439829.html

[12] 2019年7月12日現在、中华人民共和国人民政府、国务院组成部门负责人
http://www.gov.cn/guowuyuan/index.htm

定点観測シリーズバックナンバー:

2016年10月12日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その1)

2017年04月21日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その2)

2017年10月26日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その3)

2018年04月13日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その4)

2018年10月18日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その5)

2019年01月10日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その6)

2019年04月15日 「 定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その7)