3.1 電子情報通信分野の概要
(1) 関連政策
1)各政策の分野別取り組みについて
中国政府は2009年1月14日から2月25日にかけて、重要産業の調整・振興計画を打ち出した。具体的には、自動車、鉄鋼、繊維、設備製造、船舶、電子情報、石油化学、軽工業、非鉄金属、物流の10産業で、世界的な経済危機が中国経済にも影響を及ぼすなかで、8%のGDP(国内総生産)成長率の達成に貢献するものと期待されている。
このうち電子情報産業については、温家宝首相が2009年2月18日に召集した国務院常務会議で「電子情報産業調整振興規画」(「電子信息産業調整振興規劃」)が審議され原則的に採択された。会議では、電子情報産業を国民経済における戦略的、基盤的、先導的な支柱産業に位置付けることが確認された。
① 中長期科学技術発展規画(2006~2020年)
科学技術政策に関する長期的な方向性を示した「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」(「国家中長期科学和技術発展規劃綱要(2006-2020年)」)では、情報産業の重要技術を掌握し技術水準を世界のトップレベルに引き上げるとの目標を掲げている。
また、国民経済社会の情報化の迅速な発展にともない情報技術の発展に対する期待がますます高まってきているとしたうえで、以下の発展構想を示した。
- 情報産業の発展を制約してきた重要技術を飛躍的に進歩させ、ICと重要な部品、大規模ソフトウェア、高性能コンピュータ、ブロードバンド無線通信による移動通信、次世代ネットワーク等の重要技術を掌握することにより、自主的なイノベーション能力と全体の技術水準を向上させる。
- 情報技術製品に関するイノベーションを強化し、設計・製造水準を向上させ、情報産業技術製品の拡張性、使いやすさ、コスト低減等の問題を解決する。また、新技術と新ビジネスを育成し、情報産業の競争力を高める。
- 高い信頼性を持ったネットワークに重点を置き、ネットワーク情報のセキュリティ技術および関連製品を開発して、各種情報に関する突発的な事件への対応力を整備する。
さらに同中長期規画では、以下の7つの優先テーマを掲げている。
ⅰ. 近代的なサービス業の情報支援技術および大規模アプリケーションソフト
金融や物流、オンライン教育、マスコミ、医療、旅行、電子政府と電子商取引等の近代的なサービス業の発展に不可欠な高い信頼性を持ったネットワークソフトウェア・プラットフォームと大規模応用支援ソフトウェア、ミドルウェア、組み込み式ソフトウェア、ネットワーク計算プラットフォームとインフラ、ソフトウェア・システムインテグレーション等の重要な技術を重点的に開発し、トータルソリューションを提供する。
ⅱ. 次世代ネットワークの重要技術・サービス
重要な高性能ネットワーク設備および伝送設備、接続設備、拡張性を持ったセキュリティ技術、モバイル技術、運営管理等に関する重要な技術を重点的に研究開発し、信頼性の高いネットワーク管理体系を構築し、知能化端末と家庭ネットワーク等の設備とシステムの開発を行い、マルチメディア等の新ビジネスや応用をサポートする。
ⅲ.高効率で信頼性の高いコンピュータ
先進的なコンセプトを持った計算方法と理論を重点的に開発し、新しいコンセプトのもとに1秒で1000兆回の浮動小数計算能力を持った高効率・高信頼性のスーパーコンピュータシステム、新世代のサーバーシステムを開発し、新しいシステム構造、大容量メモリー技術等の重要技術を開発する。
ⅳ. センサーネットワークおよびインテリジェント情報処理
新しいタイプの多種センサーと先進的なバーコード識別、無線ICタグ(RFID)、多種センサーをベースにしたインテリジェント情報処理技術を開発し、低コストのセンサーネットワークとリアルタイム情報処理システムを発展させ、さらに便利で高機能の情報サービス・プラットフォームならびに環境を提供する。
ⅴ. デジタルメディア・プラットフォーム
文化・娯楽市場ならびにラジオ・テレビ等の事業向けとして、オーディオやビデオ情報サービスを主体とするデジタルメディア・コンテンツの処理技術に加えて、著作権保護機能が搭載された近代的なマスコミ情報プラットフォームを開発する。
ⅵ. 高解像度の大スクリーン薄型テレビ
高い解像度を持った大ディスプレイ製品を重点的に開発し、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等の各種薄型ディスプレイ技術を開発するとともに、ディスプレイ用の材料とデバイスの産業チェーンを構築する。
ⅶ. 重要システムの情報安全
ウィルス防止や新しいパスワード技術等、国の基盤情報ネットワークと重要情報システムの安全保障技術を重点的に開発する。
② 「第11次5ヵ年」科学技術発展規画
中国政府は、今世紀の最初の20年は科学技術発展の重要な戦略的好機であり、このなかでも「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)はとくに重要な時期であると位置付けている。
科学技術部が2006年10月27日に公布した「国家『第11次5ヵ年』科学技術発展規画」(「国家"十一五"科学技術発展規劃」)の中で、同期間中における電子情報通信分野の重大特定プロジェクトの内容と目標を以下のように掲げている。
ⅰ. 中核電子部品、ハイエンド汎用チップおよび基本ソフトウェア
重点的にマイクロ波・ミリメートル波部品、ハイエンド汎用チップ、OS、データベース管理システムとミドルウェアを中核とした基本ソフトウェア製品を開発し、コンピュータ・ネットワークの応用や国家安全保障などに関するハードウェアシステム製品と基本ソフトウェア製品において、自主知的財産権の保有量と自主ブランドの市場占有率を高める。
ⅱ. 超大規模集積回路の製造設備とセット技術
重点的に90ナノメートルクラスの製造設備の製品化に加えて、中核技術と基幹部品の国産化を実現する。65ナノメートルクラスの製造設備のプロトタイプを研究、開発する。45ナノメートルクラス以下の中核技術を飛躍的に進歩させ、超大規模集積回路の中核技術・共通技術を攻略し、IC産業のイノベーションシステムを構築する。
ⅲ. 次世代ブロードバンドの無線移動通信ネットワーク
大容量通信能力を持った次世代ブロードバンドCDMA通信システム、低コストの広域ブロードバンドBWA(Broadband Wireless Access)システム、近短距離のブルートゥース(Bluetooth)システムとセンサーネットワークを開発するとともに中核技術を掌握し、国際的に主流となっている技術基準に関する知的所有権に占める中国の割合を顕著に高め、商業分野への応用を加速し1000億元以上の売上を達成する。
このほか、「国家『第11次5ヵ年』科学技術発展規画」では、「情報産業と近代的なサービス業領域の重大プロジェクト」として、「近代的なサービス業の中核技術とモデル事業」、「電子政府の中核技術とモデル事業」を盛り込んでいる。
このうち「情報産業と近代的なサービス業領域の重大プロジェクト」に関しては、近代的なサービス業のシステム集積に関する中核技術を開発するとともに近代的なサービス業に共通した応用技術体系を構築し、自主知的財産権と国際競争力を持ったサービス基準・規格を作成するとしている。
また、近代的なサービス管理方法と運営メカニズムを確立し、電子商取引・物流・デジタルメディア・デジタル教育・デジタル地域協力サービス・デジタル医療協力サービス・デジタル都市・デジタル旅行・専門サービス企業などに関して複数の応用モデル事業を実施するとともに、近代的なサービスのモデル企業を育成する方針を打ち出している。
「電子政府の中核技術とモデル事業」については、各領域に分散したシステムの属性の相互認証・資源統合などの技術的障害を克服するとともに、部門横断的な統一応用システムとサービス向けの審査認証システムの集積プラットフォームに関する中核技術を解決し、国によるマクロ管理、計画決定、指揮能力、部門間の連携を強化して行政の効率と執政能力を向上するとしている。
2)重点分野推進政策
「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」では、次世代のハイテクおよび新興産業発展の重要な基礎となる先端技術の1つとして「情報技術」を指定している。
同綱要は、情報技術が高いパフォーマンスと低コスト、普及力を持ったコンピューティングと知能化の方向に進んでいるとしたうえで、ナノテクノロジーやバイオテクノロジー、または認知科学等の分野間の交流により、生物特性に基づき画像と自然言語への理解を基礎とする「人間中心」の情報技術がさらに発展し、各分野において新機軸が打ち出されるとの見方を示している。
そのうえで、低コストの自己組織ネットワークや個性的な知能ロボット、人間とコンピュータの相互作用、柔軟性が高く不正侵入防止機能が優れたデータネットワークと先進的な情報セキュリティシステムを重点的に研究する方針を明らかにしている。情報技術分野で先端技術に分類されている技術は以下の通りである。
先端技術 |
内容 |
インテリジェント・センシング技術 |
生物学的特徴に基づき、自然言語と動的画像への理解を基礎とする「人間中心」の情報の知能的処理と制御技術、中国語情報処理、バイオメトリクス認証と高度道路交通システム(ITS)等の関係分野の系統的な技術を研究する。 |
自己組織ネットワーク技術 |
MANET(Mobile Ad-hoc Network)、自己組織型コンピューティング・ネットワーク、ストレージ領域ネットワーク(SAN)、無線センサーネットワーク等の技術研究、低コストの情報のリアルタイム処理システム、多数の探査情報の融合技術、個性的な人間とコンピュータの相互作用(HCI)技術、柔軟性が高く不正侵入防止機能が強化されたデータネットと先進的な情報セキュリティシステム、自己組織知能システムと個人的知能システム等の研究を行う。 |
バーチャルリアリティ技術 |
エレクトロニクスや心理学、制御工学、コンピュータグラフィックス、データベース設計、リアルタイム分布システムとマルチメディア技術等の多分野融合技術の研究、医学や娯楽、芸術と教育、軍事、工業生産管理等の多数の関連分野のバーチャルリアリティ技術とシステムの研究を行う。 |
また、国家発展改革委員会は2007年4月28日に公布した「ハイテク産業発展『第11次5ヵ年』規画」(「高技術産業発展"十一五"規劃」)の中で、電子情報産業とハイテクサービス業を産業発展の重点と位置付けており、それぞれ以下に示すような施策を講じる方針を打ち出している。
電子情報産業
- 集積回路産業の全面的グレードアップ
- ソフトウェア産業の拡大
- 情報通信製造業の強化
- デジタル音響・映像(AV)産業の育成
- コンピュータ産業の積極的な発展
- 電子専用設備製造業の発展
ハイテクサービス業
- 情報インフラ建設の強化
- 通信サービス能力の強化
- 電子商取引と電子政府の推進
- デジタルコンテンツ産業の発展
同規画では、ハイテク産業発展の目標と重点施策に基づき、9の専門プロジェクトを組織、実施する考えを明らかにしているが、このうち5つのプロジェクトが電子情報通信に関係している。
プロジェクト |
内容 |
集積回路とソフトウェア産業 |
・集積回路の研究開発水準を引き上げ、国家集積回路研究開発センターと技術試験用ラインを建設する。 |
次世代移動通信 |
・次世代移動通信システム・端末の技術開発を強化し、関連基準を制定する。 |
次世代インターネット |
・次世代インターネット通信のインフラを構築し、国の情報能力を向上させることを目標に、全国をカバーする次世代インターネットの基幹ネットワークを建設・改良し、大学や研究機関、企業を対象として地域ネットワークを300ヵ所建設する。 |
デジタルAV産業 |
・AV産業のデジタル化推進を目標とし、デジタルテレビの国家プロジェクト研究センターを建設し、基礎技術や共通技術、インターネットテレビ、携帯電話テレビといった新技術を重点的に発展させる。 |
先進コンピューティング |
・国際的に先進的な技術に照準を合わせ、次世代インターネットを柱としたスーパーコンピュータシステムや先進コンピューティングのプラットフォームで構築される高性能、高信頼性、高効率の先進コンピューティング・情報サービスのネットワークを構築する。 |
このほか工業・情報化部は2008年1月8日、「国民経済・社会発展『第11次5ヵ年』規画綱要」や「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006~2020年)」等に基づき、以下の5つの専門規画を同時に公布したことを明らかにしている。
- 集積回路産業「第11次5ヵ年」専門規画(「集成電路産業"十一五"専項規劃」)
- ソフトウェア産業「第11次5ヵ年」専門規画(「軟件産業"十一五"専項規劃」)
- 電子基礎材料・中核デバイス「第11次5ヵ年」専門規画(「電子基礎材料和関鍵元器件"十一五"専項規劃」)
- 電子専用設備・計器「第11次5ヵ年」専門規画(「電子専用設備和儀器"十一五"専項規劃」)
- 情報技術改造による伝統産業向上「第11次5ヵ年」専門規画(「信息技術改造提升伝統産業"十一五"専項規劃」)
表3.2に、この5つの専門規画の発展目標と重点分野の推進に関する内容を紹介する。
専門規画 |
発展目標 |
重点分野 |
集積回路産業「第11次5ヵ年」専門規画 |
2010年までに集積回路産業の年産量は800億個、売上高は約3000億元をめざす。年平均伸び率は30%に達し、世界全体の集積回路市場に占める割合は約10%、また国内市場の30%を賄う。 |
・集積回路技術の研究開発と公共サービスプラットフォームの建設を加速する |
ソフトウェア産業「第11次5ヵ年」専門規画 |
ソフトウェア産業の国内売上高は30%程度の伸びを維持し、2010年には1兆元の大台を突破する。ソフトウェア輸出額については100億米ドルを超す。5年内にソフト産業従事者230万人を達成する。 |
・基本ソフトウェア |
電子基礎材料・中核デバイス「第11次5ヵ年」専門規画 |
2010年までに電子デバイス生産量1兆8000億個、電子材料とデバイス売上高は2兆5000億元、工業増加値6000億元、輸出額600億米ドルに達するよう努力する。また、年間売上高が500億元を超える電子デバイス企業2~3社、100億元を超える電子デバイス企業10社以上を育成する。 |
|
電子専用設備・計器「第11次5ヵ年」専門規画 |
「第11次5ヵ年」期間中の電子専用設備産業の成長率は年平均25%、電子測定器産業の成長率は年平均20%を維持する。2010年までに両産業の国内市場占有率を20%以上にする。2010年までに一部の12インチ集積回路生産設備を生産ラインに導入する。また、8インチ集積回路生産設備は国内で足場を固める。 |
|
情報技術改造による伝統産業向上「第11次5ヵ年」専門規画 |
情報技術と伝統産業技術のイノベーションおよび融合を加速し、中国伝統産業の情報化レベルと競争力を大幅に向上し、産業構造の調整において初歩的な成果を得る。 |
|
(2) 研究予算
「中国科技統計年鑑」のデータを利用することを前提に、電子情報通信分野には「情報科学・システム科学」、「電子、通信・自動制御技術」、「計算機科学技術」を含めることとした(以下、研究人材も同じ)。
研究開発機関の電子情報通信分野における研究開発内部支出を見ると、2004年に減少したものの、2005年は対前年比で25.3%、また2006年は対前年比で18.9%の伸びを示した。2006年実績の98億3654万元は研究開発機関の全分野合計支出額の4分の1を超える26.9%を占めている。
電子情報通信分野に含めた3分野のうち伸び率、絶対額とも大きいのは「電子、通信・自動制御技術」で、2006年実績は前年に比べて17・6%の伸びを示すとともに、支出額でも電子情報通信分野合計の87.4%を占めた。
|
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
|
電子情報通信分野合計 |
487416 |
494474 |
722169 |
660022 |
826986 |
983654 |
|
内訳 |
情報科学・システム科学 |
2530 |
15588 |
30940 |
14909 |
35974 |
59105 |
電子、通信・自動制御技術 |
448587 |
445092 |
645695 |
583689 |
731075 |
859767 |
|
計算機科学技術 |
36299 |
33794 |
45534 |
61424 |
59937 |
64782 |
|
(参考:全分野合計) |
(1971759) |
(2093247) |
(2767834) |
(2834996) |
(3534911) |
(3653731) |
高等教育機関の電子情報通信分野での研究開発内部支出も増加傾向にあり、とくに2006年は対前年比で45.1%の高い伸びを見せた。高等教育機関の研究開発支出の特徴は、「電子、通信・自動制御技術」の占める割合が突出して高い研究開発機関に比べると、「計算機科学技術」の占める割合が高いことである。なお、研究開発機関の26.9%には及ばないものの、高等教育機関の全分野の合計に占める電子情報通信分野の割合は18.5%となっている。
また、「国家重点基礎研究発展計画」(「973計画」)における情報科学分野への政府支出を見ると、2006年は7978万元となり2001年の水準まで減少した。こうした背景には、科学技術研究に対する中国政府の方針転換があると見られている。
中国は、「第10次5ヵ年」期間中(2001~2005年)、国が投資主体となり研究開発費を主に国家財政から支出する形で中核技術や共通技術の研究を行った。しかし、「第11次5ヵ年」期(2006~2010年)に入り、企業と研究機関の自主研究を奨励する方向に政策を転換した。
表3.7に、「国家タイマツ計画」の電子情報分野に投入された実行資金を示す。この表からも明らかなように2006年に入っても資金が増加しているのは、同計画では企業資金の占める割合が高いためである。
|
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
|
電子情報通信分野合計 |
197054 |
188583 |
260824 |
303149 |
366552 |
531901 |
|
内訳 |
情報科学・システム科学 |
30271 |
19159 |
13639 |
31191 |
33749 |
37441 |
電子、通信・自動制御技術 |
98331 |
112095 |
155981 |
154581 |
193638 |
285182 |
|
計算機科学技術 |
68452 |
57329 |
91204 |
117377 |
139165 |
209278 |
|
(参考:全分野合計) |
(758722) |
(957739) |
(1262116) |
(1477327) |
(1934537) |
(2870180) |
|
1999年 |
2000年 |
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
情報科学 |
5472 |
5965 |
7917 |
8080 |
10463 |
8464 |
11426 |
7978 |
(参考:973計画合計) |
(40000) |
(50000) |
(60000) |
(70000) |
(80000) |
(90000) |
(100000) |
(135419) |
(3) 研究人材
「中国科技統計年鑑」によると、研究開発機関において電子情報通信分野に投入された人的資源(研究者と技術者)の2006年実績は2万9139人・年となり、過去6年間で見て最高を記録した2003年実績(2万7067人・年)を上回った。対前年比では10.5%の伸びを示した。
電子情報通信分野に含めた3分野では、「電子、通信・自動制御技術」が2005年以降、着実に増加しており、2006年の実績(2万4460人・年)は、全分野合計(15万7169人・年)の15.6%を占めた。「計算機科学技術」分野の人的資源投入量も一時減少傾向を示していたが、2006年には過去6年間で見て最高を記録した2001年実績の3765人・年に次ぐ3492人・年まで戻した。
一方、高等教育機関の電子情報通信分野での人的資源投入量は、2001年以降、着実に増加してきている。2006年は2万7547人・年に達し、過去6年間で見ても最高を記録するとともに、対前年比でも28.9%の伸びを示した。
高等教育機関の人的資源投入量は、「情報科学・システム科学」、「電子、通信・自動制御技術」、「計算機科学技術」とも着実に増加傾向を見せている。
|
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
|
電子情報通信分野合計 |
24885 |
23625 |
27067 |
24622 |
26360 |
29139 |
|
内訳 |
情報科学・システム科学 |
194 |
1721 |
938 |
911 |
1255 |
1187 |
電子、通信・自動制御技術 |
20926 |
18861 |
22848 |
20947 |
22402 |
24460 |
|
計算機科学技術 |
3765 |
3043 |
3281 |
2764 |
2703 |
3492 |
|
(参考:全分野合計) |
(127690) |
(118458) |
(129001) |
(124831) |
(133485) |
(157169) |
|
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
|
電子情報通信分野合計 |
14323 |
15269 |
15989 |
19896 |
21367 |
27547 |
|
内訳 |
情報科学・システム科学 |
1363 |
1636 |
1801 |
2223 |
2039 |
2808 |
電子、通信・自動制御技術 |
8127 |
8680 |
8978 |
10428 |
11110 |
14111 |
|
計算機科学技術 |
4833 |
4953 |
5210 |
7245 |
8218 |
10628 |
|
(参考:全分野合計) |
(136380) |
(153190) |
(162384) |
(202633) |
(219487) |
(261159) |
(4) 研究成果
1)特許
「中国科技統計年鑑」は「国際特許分類」(IPC)に従い、発明および実用新案特許の申請件数と承認件数を集計しているが、IPC分類では「電子情報通信」という分野がないため、「光学技術」、「計算・計数技術」、「情報記憶」、「基本電子部品」、「基本電子回路」、「通信技術」、「その他電気技術」を対象分野として含めた。
表3.10に示すように、電子情報通信分野での発明、実用新案特許の申請、承認件数は顕著な伸びを見せている。2006年は申請9万2744件に対して承認3万2557件となり、対前年比で申請35.8%、承認15.2%の増加を示した。
これを電子情報通信に含めた7つの分野別に見ると、「通信技術」、「基本電子部品」、「計算・計数技術」の占める割合が高く、2006年の実績では3分野の合計が、申請7万2033件、承認2万4433件となっており、全体に占める割合が申請77.7%、承認75%となった。
? |
2001年 |
2002年 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
2006年 |
||||||
分野 |
申請 |
承認 |
申請 |
承認 |
申請 |
承認 |
申請 |
承認 |
申請 |
承認 |
申請 |
承認 |
電子情報通信分野合計 |
30471 |
8471 |
37581 |
12685 |
41776 |
20477 |
58019 |
26227 |
68292 |
28261 |
92744 |
32557 |
光学技術 |
1518 |
571 |
2600 |
806 |
3729 |
1482 |
4890 |
1967 |
5587 |
2297 |
7247 |
2713 |
計算・計数技術等 |
10009 |
1375 |
7408 |
2315 |
8876 |
3620 |
10607 |
4277 |
12441 |
4316 |
15638 |
5646 |
情報記憶 |
1288 |
464 |
1980 |
739 |
2555 |
1472 |
3864 |
1711 |
3699 |
1766 |
5323 |
2191 |
基本電子部品 |
8049 |
3422 |
11646 |
4607 |
12529 |
6658 |
16054 |
8406 |
18911 |
10251 |
25253 |
11582 |
基本電子回路 |
998 |
267 |
1103 |
377 |
1013 |
809 |
1607 |
869 |
1886 |
773 |
2102 |
807 |
通信技術 |
7775 |
1851 |
10980 |
3100 |
10985 |
5411 |
17449 |
7677 |
21578 |
7013 |
31142 |
7205 |
その他電気技術 |
834 |
521 |
1864 |
741 |
2089 |
995 |
3548 |
1320 |
4190 |
1845 |
6039 |
2413 |
2)科学技術論文
「情報・システム科学」、「電子・通信・自動制御」、「計算技術」の3分野を含めた電子情報通信分野における中国の科学技術論文が、国外の主要書誌情報データベースに収録された件数を見ると、顕著な増加傾向を示している。
「中国科技統計年鑑」によると、書誌収録件数は、SCI(Science Citation Index)、EI(Engineering Index)、ISTP(Index to Scientific & Technical Proceedings)とも着実に増加している。
SCI、EI、ISTPを合計した2005年の実績は2万7963件となり、対前年比では59.4%の高い伸びを示した。データベース別では、EIとISTPの伸びが大きく、EIが83.5%、ISTPが50.4%の伸び率を記録した。電子情報通信分野では全体に占めるSCIの割合が小さいものの、対前年比で見ると、2005年は35.9%、2004年は62.1%の増加を示しており、絶対数でも2002年との比較では4倍近くまで増えている。
学科 |
2000年 |
2001年 |
2002年 |
||||||||||||
順位 |
合計 |
SCI |
EI |
ISTP |
順位 |
合計 |
SCI |
EI |
ISTP |
順位 |
合計 |
SCI |
EI |
ISTP |
|
電子情報通信分野合計 |
- |
5618 |
1340 |
1422 |
2856 |
- |
7063 |
1157 |
3206 |
2700 |
- |
10656 |
1186 |
4182 |
5288 |
電子情報通信分野が全体に占める割合(%) |
- |
13.4 |
5.9 |
26.9 |
20.4 |
- |
14.2 |
4.5 |
20.5 |
32.3 |
- |
17.0 |
3.8 |
21.7 |
45.0 |
情報・システム科学 |
34 |
39 |
23 |
16 |
0 |
28 |
127 |
75 |
0 |
52 |
4 |
504 |
74 |
0 |
430 |
電子・通信・自動制御 |
3 |
3776 |
928 |
871 |
1977 |
3 |
4799 |
769 |
2124 |
1906 |
5 |
5895 |
751 |
2697 |
2447 |
計算技術 |
8 |
1803 |
389 |
535 |
879 |
6 |
2137 |
313 |
1082 |
742 |
8 |
4257 |
361 |
1485 |
2411 |
学科 |
2003年 |
2004年 |
2005年 |
||||||||||||
順位 |
合計 |
SCI |
EI |
ISTP |
順位 |
合計 |
SCI |
EI |
ISTP |
順位 |
合計 |
SCI |
EI |
ISTP |
|
電子情報通信分野合計 |
- |
12139 |
2080 |
4726 |
5333 |
- |
17542 |
3371 |
6249 |
7922 |
- |
27963 |
4580 |
11467 |
11916 |
電子情報通信分野が全体に占める割合(%) |
- |
15.1 |
5.5 |
17.6 |
34.2 |
- |
18.3 |
7.4 |
19.0 |
45.5 |
- |
18.3 |
7.3 |
19.0 |
30.3 |
情報・システム科学 |
18 |
1400 |
315 |
0 |
1085 |
20 |
1110 |
523 |
0 |
587 |
20 |
1862 |
292 |
17 |
1553 |
電子・通信・自動制御 |
4 |
6947 |
1022 |
2948 |
2977 |
3 |
9633 |
1123 |
4379 |
4131 |
4 |
12668 |
444 |
7695 |
4529 |
計算技術 |
6 |
3792 |
743 |
1778 |
1271 |
5 |
6799 |
1725 |
1870 |
3204 |
3 |
13433 |
3844 |
3755 |
5834 |
(5) 国際研究活動の展開
1)国際・多国間協力
電子情報通信分野はグローバルな広がりを持っていることから、中国は国際協力を積極的に展開している。
2002年9月、モロッコのマラケシュで日中韓3カ国の情報通信分野における協力等の促進を目的として、3カ国の民間企業、研究機関等の同席の下、第1回日中韓情報通信大臣会合が開催された。また、2003年9月には韓国で第2回会合が開催され、情報通信分野の一層の協力推進によるアジア地域の発展について幅広い意見交換が行われ、以下の7分野の協力に関する取決めについて合意した。
- 3Gおよび次世代移動通信
- 次世代インターネット
- デジタル放送
- 情報セキュリティ
- オープンソースソフトウェア
- 電気通信サービス政策
- 2008年北京オリンピック
中国で2006年3月に開催された第4回会合では、情報通信分野における日中韓の一層の協力強化について合意し、それまでの情報交換ベースから相互の利益をもたらす具体的なプログラムベースへ前進させることで一致した。具体的な協力内容は以下の通りである。
- ASEAN諸国のための人材育成プログラムの実施
- 情報ネットワークセキュリティ(スパム対策を含む)の情報共有体制の強化
- 電子タグ・センサーネットワークに関するパイロットプロジェクトの推進
- 国際インターネット接続に関する共同研究
- オープンソースソフトウェアにおける協力の推進
- 4G関連技術の標準化の分野における協力の推進
こうしたテーマのうち、次世代ネットワークの研究開発・国際標準化の一環として、検証用ネットワーク(テストベッド)による日中韓の国際共同実験が2008年3月31日からスタートしている。
日中韓での協力はロボット分野にも及んでいる。中国科学技術部、日本の日中産学官交流機構、韓国の情報通信省によって立ち上げられた「日中韓ロボット研究者交流ワークショップ」の第3回会合が2008年9月30日~10月1日にかけて富山県で開催された。
同ワークショップは、2006年10月9日に北京で結ばれた「日中韓ロボット協力についての申し合わせ事項に関する覚書」に基づいている。覚書では、ロボット技術および工業化の促進についての交流・協力を強化することが重要であるとの考えから、以下のような提案が行われた。
- 「日中韓合同ロボットワークショップ」は3国持ち回りで少なくても年1回招集され、ロボット技術および工業化についての計画、戦略、研究成果の交流、またこうした交流協力に関連する具体的な問題の協議・調整を行う。
- 3者それぞれは、各種のR&D研究を協力的に準備し、標準を作成し、技術訓練および人材交流プログラムを進展させる努力を行う。
- 3者は、ロボット技術および工業化についての開発戦略を合同で準備する努力を行う。
このほか、アジア地域の電子商取引の発展を促進しネット取引の安全を保障するため、インターネット信用システムの構築を目的とした「アジアPKI(公開鍵基盤)連盟」が2007年11月7日、陝西省西安市に設立された。同連盟の前身は、2001年に東京で設立された「アジアPKIフォーラム」で、中国は国家発展改革委員会と情報産業部(当時)などが代表団を結成し、同フォーラムの創設メンバーとして参加した。
PKI技術は、情報安全にかかわる核心技術であり、電子ビジネスにおいて中核的な基礎技術と位置付けられている。この技術は、公開鍵暗号理論と技術を利用して構築され、安全サービスを提供する基礎システムである。2008年11月には同連盟の第1回大会が北京で開催され、中国をはじめとして韓国、インド、タイなどからPKI関連機関が参加した。
中国科学院、全米科学財団(NSF)、ロシアの部門委員会と科学団体連盟が共同で構築した「中米露科学教育国際間ネットワーク」(GLORIAD)が2004年1月12日に開通している。GLORIADは、先進的な科学教育への応用支援と次世代インターネット研究を支援することを目的としており、3カ国に韓国、カナダ、オランダを加えた6カ国を中心として高速ネットワークを構築している。
2)二国間協力
麻生総務大臣(当時)は2005年1月、中国を訪問し、曾倍炎・副首相(当時)、王旭東・情報産業部長(当時)、路甬祥・中国科学院長と会談し、情報通信分野の協力の推進について合意し、情報産業部および中国科学院とそれぞれ覚書を締結した。
このうち、中国科学院との間では、総務省との間の情報通信分野における研究協力等に合意し、ブロードバンド、リモートセンシングによる地球環境問題・災害に対応したモニタリング技術を含むICT分野での協力覚書に署名した。
また中国科学技術部は2007年9月、スウェーデン・イノベーションシステム庁(VINNOVA)およびスウェーデン戦略研究財団と共同で、次世代通信ネットワークに関する国際共同研究プログラム投資計画を立ち上げた。
同計画には、次世代ネットワークと通信技術に関連した第4世代移動通信システム「IMT-Advanced」と4Gの共同研究プログラムが含まれている。これらのプロジェクトの研究期間は3年間で、6~8の研究テーマがあげられている。
中国科学院傘下の電子学研究所は1979年以降、40に達する国・地域の大学や研究機関との間で幅広い技術協力や学術交流を行ってきている。そうした一環として、同研究所は毎年、外国の専門家を招聘する一方で、所属の研究員を外国の関連機関に派遣し、相互に学術交流や共同研究などを実施している。また、ロシアや米国、英国、イタリア、ノルウェー、カナダ、日本などの大学・研究機関とは長期的な協力関係を構築しており、具体的な協力協定を結んでいる。
中国科学院・上海光学精密機械研究所も国際間での学術交流と研究協力を活発に行っている。同研究所はこれまでに約50の国・地域から2000人の研究者を受け入れる一方で、外国に研究者を派遣している。米国やドイツ、英国、フランス、韓国、日本などの研究機関・大学と技術協力関係を構築している。
同じく中国科学院傘下の長春光学精密機械・物理研究所は、米国や英国、日本、フランス、ドイツ、カナダ、イタリア、ロシア、韓国を含めた24カ国の37の研究機関や大学と協力している。この中には、ロシア科学アカデミー一般物理学研究所やレビデフ物理研究所、日本の東北大学、フランス国立科学研究センター、ドイツのマックスプランク協会などが含まれている。
中国科学院・計算技術研究所と欧州最大の半導体メーカーであるSTマイクロエレクトロニクス社は、プロセッサの開発および計算技術研究所が開発したプロセッサの販売協力を行っている。
両者は、2004年の中仏情報技術協力協議を受け技術協力を行うことで合意していたが、中国の胡錦濤・国家主席とフランスのシラク大統領(当時)が2006年10月26日に調印したマルチコアプロセッサの共同開発を含む協議書を受け、さらに協力関係を深めている。
中国科学院・スーパー計算センターは2007年5月31日、米国ニューヨーク科学計算センター、北京泰瑞世紀科技有限公司と共同で北京に中米合同科学計算センターを立ち上げた。同センター設立の目的は、高性能計算応用技術の研究開発に加えてコンサルティングサービスなどを展開することにある。
大学が中心になった技術協力も積極的に進められている。ハルビン工業大学(HIT)は、米国やカナダ、ドイツ、英国、フランス、アイルランド、ロシア、日本、韓国、シンガポール、オーストラリア、スイスなどの大学と協力関係を構築しており、共同研究や教師の交流・交換などを行っている。また、HIT-IBM連合実験室やHIT-CANOTEC協力実験室、HIT-マイクロソフト自然言語処理・音声技術連合実験室などを設立している。
このほか、中国電子科技大学は米国ADI社と共同で、マイクロエレクトロニクスの先端技術研究と応用研究を目的として「DSP共同実験室」、「ADI共同実験室」を設立している。北京郵電大学とオーストラリア連邦科学産業研究機構(CRISO)は2009年3月3日、シドニーに「豪中無線通信技術研究センター」を設立した。同センターでは、無線通信技術の研究開発が行われることになっている。
清華大学は2006年10月、北九州市と北九州産業学術推進機構の支援を受け、北九州学術研究都市に「清華大学コンピュータ学部北九州研究室」を設立している。同研究室は清華大学が日本で設立した初めての海外研究室であり、博士課程の学生やポストドクトラルの研究者たちが常駐して関連の科学研究協力を行っている(「着実に実績をあげる清華大学北九州研究室」薫社勤・清華大学コンピュータ学部准教授、科学技術振興機構「Science Portal China」)。
ロボット分野での二国間協力も進んでいる。国家航天局の承認を得て、2008年4月、「中独宇宙ロボット技術共同実験室」がハルビン工業大学に設置された。同実験室は、ハルビン工業大学とドイツ航空宇宙センターの技術協力をベースとして、宇宙ロボット研究および人材や情報交流のプラットフォームになる。
<--page-end-->