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【13-027】外国企業による中国企業の買収(その10)

2013年10月28日

康 石

康 石(Kang Shi):
中国律師(中国弁護士)、米ニューヨーク州弁護士

上海国策律師事務所所属。1997年から日中間の投資案件を中心に扱ってきた。
2005年から4年間、ニューヨークで企業買収、証券発行、プライベート・エ クイティ・ファンドの設立と投資案件等の企業法務を経験した。
2009年からアジアに拠点を移し、中国との国際取引案件を取り扱っている。

(十)土地問題

一、土地権利状態の種類

 買収対象となる中国企業は、国有土地使用権又は集団所有土地使用権を保有する場合と、上記土地を賃借する場合があります。国有土地使用権の保有でも、割 当方式により無償で土地使用権を取得した場合もあれば、払下又は譲受により有償で土地使用権を取得した場合もあります。土地使用権と不動産の所有権は一般的に同じ当事者に帰属するため、工 場建物を借りている場合は、かかる建物の下にある土地使用権も同時に借りることになります。外国企業が中国企業を買収することにより、対象企業の性質が外商投資企業に変更される場合、原則、割 当土地を払下土地に変更しなければなりません。

二、土地使用権証書を取得できない理由

 買収対象企業が土地使用権を保有している場合は、土地使用権証書をチェックしますが、土地を賃借する場合でも、権利者との賃貸借契約をチェックするほか、念のために、権 利者の土地使用権証書も確認することにより、その権利関係の安定性を確認することになります。問題は、なんらかの理由で、対象企業又は対象企業に土地を貸した「権利者」が、土 地使用権証書を取得できていない場合に、どのように対応すべきかという点です。

 土地使用権証書を取得できていないことにも、様々な理由があるため、その理由によって、リスク判断と対応策が異なってきます。例えば、従来農村であった地域を工業園区や経済開発区に変更する場合は、元 々農村集団所有の土地性質が国有土地に変更されるはずであるが、何らかの理由で、当該工業園区や経済開発区全体において、土地使用権証書の手続ができない事情があります。このような事情は、広東省や江蘇省など、改 革開放が比較的に早く、外資系企業が多く進出している地域にも存在しています。このような場合は、土地使用権証書は取得できていなかったとしても、土地の使用ができなかったら、土 地を取上げられたりする現実的なリスクは低いと考えられるため、土地使用権証書がなくても、取引を進行する場合もあります。或いは、個別的な事情ではありますが、従 来割当土地使用権者から土地を事実上借りた経緯のあるものが、当該割当土地権利者が歴史的な理由で、当該土地から撤退し、当該土地の権利関係が不明なまま、当該土地を使用し続けた場合でも、現 在の使用を正当化する契約等における証明がないことなどが理由で、土地使用権証書を取得できないケースもあります。この場合は、土地使用の正当性を証明することが難しく、土 地を取上げられるリスクもあると判断されることになります。いずれにせよ、土地使用権証書が存在しない場合は、その理由をヒアリングで確認したうえで、当該理由の信憑性について、関連部門に対する照会、関 連書面証拠に対する確認等により検証したうえで、ありうるリスクと対応策について具体的に判断することが重要です。

三、リース権と担保権の関係

 中国法上、売買はリースを破らない原則がある(「契約法」第229条)ため、対象企業が賃貸借契約に基づいてある土地を一定期間中利用する場合、少 なくとも当該期間中は土地権利関係が安定しているといえます。但し、賃貸人が当該土地を対象企業に賃貸する前に、当該土地に抵当権を設定した場合、賃借人は抵当権者の権利行使に対抗することができず、抵 当権の行使により新しく土地を取得したものが当該土地の使用を主張する場合、賃借人の賃借権はこれに対抗できない可能性がある点に留意する必要があります。

四、25%ルールと税務リスク

 対象企業が不動産開発企業の場合は、当該不動産開発企業が開発予定の土地に対して、25%以上の投資(土地代金は当該投資には含まれません)をしているかどうかをチェックする必要があります。これは、中 国法上、25%以上の投資をしていない段階で、土地を譲渡することができないルール(「都市不動産管理法」第39条)があり、不動産プロジェクト会社の持分を譲渡することが、当 該ルールを潜脱する行為に該当するか否かの論点があるからです。また、土地建物しか実質的に残っていない企業の持分を買収することは、実質的には、土地建物を資産譲渡の方式で譲渡したと見なされる場合、持 分譲渡取引であっても、土地増値税が課税されるリスクがないかにも留意する必要があります。

五、資産としての土地

 外国企業が中国企業を買収した後、一定期間経営後、赤字経営が続く等の理由により撤退を決めた場合でも、対象事業の価値はそれほど高くないか、又はネガティブな価値しかないとしても、保 有している土地の価値が上がった場合は、想定以上に高い値段で売却して撤退することが可能になる場合もあります。但し、この場合は、対象事業(機械設備、在庫、契約関係等)と土地を切り離して、前 者は同業者に売却するが、土地は不動産開発業者に売却にする等、買主を合理的に選定することが、売却対価の最大化を実現することに重要になると思われます。