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【18-002】ネット社会を窒息させるのは誰か?

2018年 2月19日

略歴

御手洗 大輔

御手洗 大輔:早稲田大学比較法研究所 招聘研究員

2001年 早稲田大学法学部卒業
2003年 社団法人食品流通システム協会 調査員
2004年 早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了 修士(法学)
2009年 東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学
2009年 東京大学社会科学研究所 特任研究員
2009年 早稲田大学比較法研究所 助手(中国法)
2012年 千葉商科大学 非常勤講師(中国語)
2013年 早稲田大学エクステンションセンター 非常勤講師(中国論)
2015年 千葉大学 非常勤講師(中国語)
2015年 横浜市立大学 非常勤講師(現代中国論)
2016年 横浜国立大学 非常勤講師(法学、日本国憲法)
2013年より現職

インターネットサービスの意義

 今回は国家インターネット情報弁公室[国家互聯網信息弁公室]が今年2月に公布した「マイクロブログ情報サービス管理規定」を取り上げてみたいと思います(当該規定は今年(2018年)3月20日より施行します)。

 そもそもマイクロブログ[微博]とは何かから始めましょう。マイクロブログ microblogging とはミニブログ(ブログ blog のミニ版ということのようです)と言われることもあります。ブログと異なり更新が簡単なところがウリです。そして、この簡単さが、結果的にメッセンジャー Messenger のようなリアルタイムのコミュニケーションになることがあります。そのため日本ではチャット感覚で利用する人も多いそうです。要するに、マイクロブログの本来的サービスは、自分の状況や雑記、呟きなどを短い文章でつづり、ミニブログサービスを提供しているウェブサイト(以下「マイクロブログサービス業者」)へ投稿し、ミニブログ内の利用者間でコミュニケーションを取り合う点にあります。

 90年代からパソコンに触れ、インターネットの世界を経験し始めた私にとって、現在までの変化は、インターネットを介して人々とつながるサービスが際限なく増加している気がいたします。以前はホームページで、それからブログやメーリングリスト配信で、そして現在ではマイクロブログでというように、また、電話での通話料金を節約するためにSNSやメールで、そしてLINEやSkypeから電話するといったように、です。技術の進歩は非常にとんでもないなと感じます。

 このようなインターネットサービスに共通する点について、私もそれが費用対効果の面から見て、最小限度の費用によって最大の効果・結果を獲得するところにあると思います。インターネットサービスは「安く」、実社会の「ような」つながりを保障するものなのです。そして、このインターネットサービスの効用をもつ1つが、マイクロブログなのです。

インターネットの便利さとその本質

 インターネットは実社会のようなつながりを生み出しているわけですが、完全に一致するものではありませんし、捉えられそうで捉えられない概念かもしれません。一応の説明として、インターネットとは、世界中のコンピュータなどの情報機器を接続するネットワークであると言えます(急に難しくなった気がしますね)。が、私たちが日常生活(家庭や学校、職場など)でインターネットを利用する場合をなぞれば、難しい説明ではありません。

 私たちがインターネットを利用したい場合、インターネットサービスプロバイダ(プロバイダ業者)と契約します。例えば、私たちが携帯電話・スマートフォンでインターネットを利用できるのも、携帯電話回線を利用してプロバイダ業者(としての携帯電話会社など)と契約しているからなのです。こうして自分の所有する情報機器をネットワークに接続し、同じようにネットワークに接続している他の情報機器とつながります。

 今でこそ便利につながるようになりましたが、以前はパソコンが高価な電子機器であり、その操作が難しかったこともあって、パソコン技術の有無や個々の経済力によって「情報格差」が生じるのではないかと言われていた時もありました。それがWindows95の販売に始まる操作の容易さや、パソコン自体の低価格化によって、この情報格差を生む要因が減少したために、誰もが手軽にインターネットを利用できるようになりました。現在ではインターネットを利用することによって、私たちは社会で起こっている様々な出来事を瞬時に知り、また、郵便や宅配に代わって電子データを瞬時に相手へ送り届けられるようになっています。とても便利な社会になったものです。

 とはいえ、このようなネット社会において、そもそもインターネットの本質を私たちは理解しているのでしょうか。本コラムでインターネットの歴史(アメリカで軍用技術として開発が始まったことなど)を振り返ることはいたしませんが、インターネットの本質をどう捉えるかによって、マイクロブログ情報サービス規定に対する評価が真逆のものになってしまうため、少し掘り下げておきたいと思います。

 インターネットの本質については、①それが某国による全世界・全市民監視システムであると言われることがあります。平たく言えば、インターネットが個々のサーバーパソコンをつないで成立する点に注目するのがこの論評です。①の論評によると、この連結部分であるサーバーパソコンを掌握すれば全部の電子データを把握できることになるため、インターネット=全世界・全市民監視システムであるというわけです。

 このほか、②使いやすさと安全性とのトレードオフによる規制の緩さ、すなわち自由・公開性であると言われることもあります。さらには③実社会にない非現実、すなわち電子データを複製しても劣化しないし、複製するコストがゼロに等しいし、事実上無料の運送を可能にする仮想社会であると言われたりもします。

 ②のような論評は、顔の見えない相手と対話・交流できる点に注目していると言えます。この点は、自由のもつメリットとそのデメリットから説明すると分かりやすいかもしれません。そのメリットとは顔が見えない分、何でも言いたいことが言えるということ。言い換えれば、ネット社会では自分の発言に対して責任を負う必要がないということです。そのデメリットとは、同じく顔が見えない分、ないことでも言えてしまうということです。最近、裏取りをしない報道が非難される場面を散見しますが、このようなことがネット社会では往々にしてあるということです。③のような論評はインターネット=仮想現実であるというわけですね。

 これらの論評はインターネットのもつ一面をそれぞれ把握しています。ある意味ですべてインターネットの本質を表していると言えますから、どれが正しく、どれが正しくないという問題にはなりません。但し、こういった次第ですから、インターネットを規制の緩い「自由な空間」と見るか、それとも「危険な空間」と見るかによって、マイクロブログ情報サービス規定に対する評価も真逆なものになります。例えば、「現代中国は『自由』が規制されているから、当該規定もいっそう『自由』を規制するものに違いない」。多かれ少なかれこのように直感されてはいませんか。

マイクロブログ情報サービス管理規定が言明していること

 それでは、マイクロブログ情報サービス管理規定は何を言明しているのでしょうか。まず当該規定は、「マイクロブログ情報サービスの健全で秩序だった発展を促進」し、「国民、法人及びその他組織の合法的権利・利益を保護」し、そして「国家の安全及び公共の利益を維持する」ことを目標として言明します(1条)。それゆえに、提供者側であるマイクロブログサービス業者は「許可を経ていないインターネットメディア情報サービスの活動、或いは許可の範囲を超えて同活動を禁止」されています(4条)。さらに、マイクロブログサービス業者は、経済発展の促進や社会大衆へのサービスにおける「積極的な作用」を発揮することが求められ、その例として、「社会主義の核心価値観を高揚し、先進の文化を伝播し、世論の正しい方向を堅持し、法に基づくネット接続を(当然に)唱道する」主体でなければなりません(5条)。

 次に、提供者側には、その利用者が「真実の身分情報を提供しない場合は、マイクロブログサービス業者がその者へ情報配布サービスを提供してはならない」とされます(7条)。身分を証明する証書などと登録情報が一致しない場合も同様の扱いを受けます(10条)。さらに、利用者が発信する情報が「流言飛語や不実の情報」であった場合はこれらを打ち消す措置(例えば、発信した情報の削除や閲覧不可といった措置)をマイクロブログサービス業者が主体的に採らなければなりません(11条)。見方を変えれば、利用者側はマイクロブログサービスを自由に利用できるわけではないのですね。

 ちなみに、当該規定は「法令が禁止する内容」を発信してはならないとも言明しています(12条)。ここにいう「法令が禁止する内容」とは、その都度、立法関係者が立法過程を通じて言明するものです。例えば、「9項目の発信禁止[九不発]」として、政治的に敏感な話題、デマ、内部資料、ポルノ・薬物・爆発物、香港・マカオ・台湾に関する未公表情報、軍事資料、国家機密、フェイク動画、その他関係する法令に違反する情報の9つを示し、これらの内容を発信してはならないとする、といったことがあります。インターネットの本質を自由だ、その公開性だと考える人からすれば、とんでもない条文が当該規定には羅列しているように映るかもしれませんね。但し、秘匿性が高いから、無責任で自由奔放に発言して良いとする規制の緩い自由な空間は危険であると考える人からすれば、別にあっても良い条文ばかりであると感じられるかもしれません。

 冒頭で説明したように、このマイクロブログサービスは、主に利用者が自分の状況や呟きの類いを投稿し、マイクロブログ内の利用者間で共有するもので、ブログと異なり更新が簡単で、結果的にリアルタイムのコミュニケーションになることのあるインターネットサービスです。日本ではチャットのように利用するユーザが多いと言われていますが、中国ではマイクロブログサービスの使い道はコミュニケーション手段としてではないようです。中国メディアに関する研究成果によれば、中国におけるマイクロブログサービスは、リツイート率・リツイート回数がともに高く、チャットのように利用するユーザよりも、「情報」を急速に拡散させる手段として、すなわち影響力の高い利用者から低い人へ急速かつ広範に伝達する「私的報道」のように利用するユーザが多いと言えるようです。

 要するに、情報の真偽も定かでないものが、「私的報道」によって瞬時に全土へ拡散することを「危険」と見る立場からすれば、当該規定はインターネットの本質を理解し、その暴れ馬的な性分を規律するための当然の法令ということになるのではないでしょうか。

同じ目標でも道筋が異なれば・・・

 日本のネット社会も中国のネット社会もその目標とする所は大部分において重なるのではないか、と私は感じています。いずれのネット社会もインターネットという仮想現実と現実社会とをうまく調和させて、利便性を高めようとしているように映るからです。現実社会において送電網やガス・パイプライン、上下水道菅などのインフラ設備が利便性を高めるように、ネット社会においてもインフラ設備に該当する部分の安全性を確保することが大切です。例えば、実際に使用する機器が不足しているにもかかわらずインフラ設備の空間を買い占めたり、機器が十分な通信能力をもっていないにもかかわらず販売してインターネットにつなげたりといった行動が、この利便性を高めないことは言うまでもありません。

 そのため、全国人代常務委員会が2016年11月に公布した「ネットワーク安全法」で、ネットワークの安全を「必要な措置を講じることによって、ネットワークに対する攻撃、侵入、妨害、破壊及び不法使用並びに突発的事故を防止し、ネットワークが安全かつ信頼可能な運行状態にあるようにし、並びにネットワークデータの完全性、秘密保持性及びユーザビリティを保障する能力をいう」(76条2号)と確認したことは至極当然です。

 重要なことは、ネットワーク安全法や当該規定などによってネット社会が窒息することを懸念するのではなく、仮に同じ目標を共有していたとしてもその目標に到達するアプローチが異なれば、出来上がってくるネット社会も異なるということです。今回のコラムで紹介した中国のネット社会について言えば、規制の緩い自由な空間を「危険な空間」であると見る視点から説明できます。

 社会を管理する責任者の立場からすれば、どんな国民であるかを前提に、中国のネット社会を危険な空間であると見ざるを得ないのかもしれません。なお、これは愚民思想とは違います。日本でも来たる情報化社会で大量の情報が氾濫し、その情報の中から取捨選択できる能力が必要になるといったことが主張されて久しいです。その当時の論調では大量の情報に埋もれてしまうために、玉石混交すべての情報を「鵜呑みにしてしまう」国民が少なくないことが問題とされていました(今でも別の意味で、そうかもしれませんが)。

 そこで、日本のネット社会は、「自由」であることによる玉石混交すべての情報が流通している事実を自由に発言し合うことによって秩序を維持できる社会を標榜し、これを実現するために規制の緩い自由な空間を保障すべきとしています。しかし、その一方で、中国のネット社会は、「自由」でないことすなわち「危険」であることによって、玉のみの情報を流通させて秩序を維持する社会を標榜し、それゆえに玉として流通させる事実を既成のものとして保障すべきとしているように見えます。中国のネット社会では、インターネット上に流通する情報について、それぞれが「批判的検討」の必要を感じない程度に便利なのかもしれません。

 とはいえ、ここに人間として最大限の猜疑心が芽生えてしまうのではないか、と私は考えます。言ってみれば、日本の場合、極端な内容をもつ情報は、それと正反対の内容をもつ情報とを比較し、その中道を探る思考を国民が修得するようになっていますから、最大限の猜疑心が芽生える可能性は本来低いはずです(報道を中立的に捉えるために、左派系の新聞と右派系の新聞を併読しなさいと言われるのはその例です)。蛇足しておくと、多少の猜疑心が常に付帯するため、自らが信じる情報について時間の経過とともに適応的に修正しがちにもなります。しかしながら、中国の場合、公表される内容とは真逆の内容や未公表とされる内容が信用に値するものと意識される思考を国民が修得していますから、最大限の猜疑心が芽生える可能性が本来的に高いのです。そして、中国のネット社会ではその情報にのるかそるかを選ぶことを常に迫られています。このような時、人間は自分にとって都合の良い方の情報を選ぶのではないでしょうか。

 このような背景を基にして中国のマイクロブログで発信される情報を眺めてみると、なかなかどうして、上記の論理の枠組みを外れていないことに気づかれると思います。興味のある方は中国のネット社会・マイクロブログサービスを利用してみても良いかもしれません。なお、実名登録が原則ですから天地神明に誓ってのユーザ登録をお勧めいたします。

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