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ビッグデータに関する第13次五か年計画と現状を読み解く

2017年10月20日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身、41歳。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コ ンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 当記事ではビッグデータについて書いていきたい。「水や電気のように全ての業界にインターネットの恩恵を」という互聯網+(インターネットプラス)の考えをもとに、様 々な業界でビッグデータが分析され活用されていく。

 その前にビッグデータとは何か簡単に説明する。ビッグデータは中国語で「大数据」というが、文字通り巨大なデータのことである。中国での実用化された製品の例としては、「 市内の道路状況の画像から交通量を把握し、信号機の挙動を自動で調整して渋滞を減らす」といったことや、「人の顔から性別と年齢を分析し、グループごとの行動傾向を把握し、最適な商品や広告を提供する」ことや、「 各個人が様々な行動データから信用できる人間かを点数化し、点数の高い信用のおける個人にはサービスを優遇し利用を促す」といったことが挙げられる。上記に挙げたのはほんの1例で、医 科学研究や農工業の改善や社会問題の解決をはじめ、あらゆるジャンルでビッグデータは活用される。

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写真1 ビッグデータ都市交通システム

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写真2 物流ビッグデータ

 中国でどのような製品が実用化されているかは、ビッグデータ製品「阿里雲(Aliyun)」をリリースする阿里巴巴(Alibaba)が開催する「2017杭州云栖大会」や、ビ ッグデータ産業で注目されている貴州省貴陽で開催される「中国国際大数据産業博覧会」などのイベントを見ると、ビッグデータ関連企業が製品を出展しているので確認することができる。

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写真3 2017杭州云栖大会

 さて工業和信息化部は2017年1月、2016年から2020年までのビッグデータの五か年計画「大数据産業発展計画(2016~2020年)」を発表している。同計画の発展目標として、ビ ッグデータ関連製品と関連サービスの年間売上高を2015年の2800億元から1兆元、年平均複合増長率を30%前後とする。技術目標については、ビッグデータからの情報獲得、ストレージ管理、処 理プラットフォーム、データ分析抽出のアルゴリズムやツールにおいて国際的に先端レベルを目指す一方、操作可能なセキュアなソフトとハードを導入、つまり中国側が中身を扱える製品を導入するとしている。外 国企業がビッグデータ製品を中国側に納入しようとするなら情報の開示が必要となろう。

 同計画では民間と政府が協力し、地域や産業や部門などの垣根を越えたビッグデータサービスの提供を目標とする。ビッグデータ関連企業の育成については、ビッグデータ企業について国際的先端企業を10社、ビ ッグデータのコア技術を持つ企業を500社にする目標を記載している。ビッグデータ総合試験区を10~15か所建設し、ビッグデータを活用したモデルエリアとする。現 在国家ビッグデータ総合試験区となっているのは、貴州省を筆頭に、京津冀(北京市・天津市・河北省)、広東省の珠江デルタ、上海市、河南省、重慶市、内モンゴル自治区、瀋陽市が指定されている。こ れらビッグデータ総合試験区では、各区がそれぞれビッグデータ産業の発展計画や促進条例などの通知を発表している。計画に入っていない省や市も独自でビッグデータ計画を発表しているので、他 が横並びで他地域の国家ビッグデータ総合試験区の結果を待つというわけではない。

 データの安全保障にも力を入れ、個人情報保護のよりよい法制度制定を目指すとしている。ところで個人情報保護というと、今年6月に施行されたサイバーセキュリティ―法こと「網絡安全法」が思い浮かぶ。個 人情報提供者の同意なく個人情報を海外に持ち出したり、第三者に渡したりしてはいけないというもので、既 に従来からの与信調査関連をはじめとした個人情報提供サービスが個人情報を無許可で入手したとして閉鎖に追いやられている。と もなると官民共同で横断的に利用するビッグデータは網絡安全法に引っかかるのではないかとも解釈できるが、官の個人データ利用は超法規的措置で許されるのかもしれない。

 現在のビッグデータの問題について、計画では「データについてシェアされてなく、データのクオリティが高くない。管理能力が弱い。データが有効利用されていない」「技術革新が不十分。具 体的には新型プラットフォームや分散コンピューティングでも弱い」「ビッグデータを使ったアプリケーションのレベルが高くない」「サポート体制が不十分。デ ータの所有権やプライバシーの問題などの法律法規が整備されていない」「開発能力と業務への応用の人材が不足している」と分析している。計画ではこれらの問題の解消を目指す。

 計画では重点任務について「ビッグデータ製品の研究開発の強化」「ビッグデータの産業への応用の促進」「ビッグデータ産業の育成強化」「中国国内外のビッグデータ関連の標準体系づくり」「 良好なビッグデータ業界の環境づくり」「安全保障能力の強化」を挙げている。重点任務について本文では長く触れられているものの、その内容は「 中国製造2025や一帯一路を意識しビッグデータ以外の新技術も連携し導入していく」というもので、この辺は近年の産業5か年計画を見てもどれもとにかくいろいろ列挙しているという定型フォームであり、「 がっつり」読み解く必要はないかと思われる。

 計画で挙げられている重点プロジェクトについては「ビッグデータ関連技術および製品研究開発と産業化プロジェクト」「ビッグデータサービス能力向上プロジェクト」「 産業向けビッグデータ技術革新プロジェクト」「産業を跨いだビッグデータへの応用推進プロジェクト」「ビッグデータ産業集中地区建設プロジェクト」「ビッグデータ重点標準づくりおよび活用モデルプロジェクト」「 ビッグデータ公共サービス体系建設プロジェクト」「ビッグデータ安全保障プロジェクト」を挙げている。プロジェクトもまた前述の重点任務と重複している。

 さて国家ビッグデータ総合試験区として最も注力されていると思われる貴州省はどうか。貴陽でビッグデータの博覧会「中国国際大数据産業博覧会」が開催されるほか、A pple社のiCloudデータセンターを貴州省の「貴安新区」に建設すると発表した。貴安新区は、貴陽市と安順市の間にある国家級新区のこと。貴 州省や貴陽市で様々なビッグデータやネット産業に関する新政策が発表され、加えて貴安新区でも新区での政策が発表されている。ビッグデータ資産運営プラットフォームの「貴陽大数据交易所」や、金 融関連のビッグデータの施設から、林業や観光業のビッグデータでの研究が行われている。加えて「交通大数据国家実験室」や阿里巴巴が「大数据学院」を貴陽に建設するなど、研究所や学校が建設されている。

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写真4 ビッグデータに力を入れる貴陽市

 現状では方針が発表されたのですぐに何かできるというわけではないようで、筆者が実際に足を運んでも、ビッグデータ普及のためのネットサービスが急に普及しているわけではなかった。既 に貴州省でのビッグデータ産業興隆の結果として年間で旅行業が伸びたというレポートがあるが、これは貴州省への旅行誘致キャンペーンが貴州省外の旅行予約サイトで実施された動きや、高 速鉄道が貴州省で延伸された結果として、貴州省の旅行市場が拡大したように思える(そもそもビッグデータがインフラにあるから旅行するというものでもない)。同 様に貴州省のビッグデータ産業の市場規模が拡大するだろうが、それはビッグデータ関連の施設ができて、人がいれば当然市場規模は拡大するわけで、貴 州省で有用なビッグデータアプリケーションが運用されるかどうかは別問題であろう。

 貴州省は中国西南部にあり最も貧しい省のひとつである。筆者は貴陽市で沿岸部の大都市と人を比べたが、人のファッションも建物もネット利用実態も交通量も異なる。車 の交通量が沿岸部の都市に比べて多くはないので実験しやすい面はあるだろうが、一方でネット利用者が少ないことから得られるデータの量は沿岸での大都市に比べ少ない。貴 陽のビッグデータ研究を考えるときはこの状況は頭に入れておくべきだろう。

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