第138号
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主要インターネット統計を読み解き、2017年の数値を把握する

2018年3月7日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身、41歳。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コ ンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のインターネット史: ワールドワイドウェブからの独立( 星海社新書)」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち(ソフトバンク新書)」など。

 2017年の中国各種統計データが揃ってきた。調査サンプルや調査手法により各調査には誤差はあれど、各方面で最も権威ある組織の発表する数字は抑えておいたほうがいい。そこで近年注目を集める中国のIT産業について、特に筆者の尋ねられがちな数字を中心に、その出元となる調査レポートを交えて紹介する。

 まず携帯電話やスマートフォンなどのモバイル回線の加入などについては、中国工業和信息化部(工信部)がまとめた調査結果を紹介する。2017年の最大のトピックは、モバイル回線契約率が100%を超えたという点と、データ通信利用量が一気に増えたという点だ。

 中国工業和信息化部のサイトからは、「工信数据(データ)」→「統計分析」→「通信業」とたどると出てくる。毎月最新データが、また四半期ごとにもまとまったデータが公開される。

 主要なデータを紹介すると、モバイル回線契約数は前年比(以下同)9600万増の14億2000万で、うち3G契約数は3600万減の1億3500万、4G契約数は2億2700万増の9億9700万となった。モバイルデータ通信契約数は1億7800万増の12億7000万。このようにモバイルデータ通信と4G加入数は顕著に増えたが、企業での契約や1人が数台のスマートフォンを所有するという状況が考えられるし、IoT機器への採用もある。また現在はブロードバンドの契約で数枚のSIMカードをもらえるプランもあるので、契約数イコール利用者数ではない。

工信部発表主要データ
注:純増数(昨年比)は2016年報の数字から掲載したもの。
出典:工信部「2017年通信業主要指標完成情況(二)」
指標名称 単位 2017年契約数 純増数(昨年比)
固定電話加入者合計 万件 19376.2 -1286.3
 都市電話加入者 万件 14731.3 -887.9
 農村電話加入者 万件 4644.9 -398.3
モバイル回線加入者 万件 141748.8 9555.3
 うち:3G加入者 万件 13463.2 -3617.3
       4G加入者 万件 99688.9 22694.1
ブロードバンド加入者 万件 34854.0 5133.3
 うち:xDSL加入者 万件 1120.4 -856.7
        FTTH/0加入者 万件 29392.5 6626.9
モバイルインターネット加入者 万件 127153.7 17758.7

 固定電話の加入者数は1300万減の1億9400万で都市部も農村部もともに減少。ブロードバンド加入者数は5100万増の3億4900万で、FTTHが6600万増の2億9400万、ADSLなどのxDSLは860万減の1120万となっている。

 モバイルデータ通信の通信量が昨年比で2.6倍となった。これは近年ないほどの大きな伸びだ。ブロードバンドの通信量や、電信会社の収入には大きな伸びがないことから、データ通信料金を下げて利用しやすくなり、多くの人々がデータ通信料金を気にせず利用し始めたということが挙げられよう。実際全人代で論議された通信費引き下げや、2017年に中国聯通(ChinaUnicom)を皮切りにスタートした使い放題のプランの影響によりデータ通信料は下がっていった。

図1

モバイルデータ通信の通信量

出典:工信部「2017年通信業統計公報」

図2

電信キャリアによる電信業務量と売上の関係。工信部発表主要データ2

出典:工信部「2017年通信業統計公報」

 ところでモバイルによる総通話時間は4.3%減、国内電話は33.0%減となっているのに、国際電話は1.1%増となっているというデータが気になった。中国で国際電話をかける際に必要なSkypeなどのサービスが年々利用しにくくなっていることの裏付けではないだろうか。

 なおモバイル普及率は102.5%、固定電話の普及率は14.0%となったが、省市別のモバイル普及率では、北京で172.7%、上海で136.3%、広東省で134.5%と高い数値となる一方、普及率の低い地域は江西省で75.1%、安徽省で78.8%、湖南省で83.3%などとなった。チベット自治区や新疆ウイグル自治区など西部はそれよりも高い数字となった。

図3

工信部発表主要データ。固定電話とモバイル電話の普及率推移

出典:工信部「2017年通信業統計公報」

 中国工業和信息化部のサイトからは、「工信数据」→「統計分析」→「総合」とたどると、ネット業界の1月からの市場規模(総売上額)が月別で出てくる。1月末に発表された12月までの各業界の市場規模については、オンラインゲームが24.9%増の1502億元(約2兆5400億円)、オンラインショッピングプラットフォームが39.7%増の2312億元(約3兆9000億円)となった。オンラインゲームついては、ライトな層に訴えたテンセントのスマートフォン向けゲーム「王者荣耀」などのタイトルが大ヒットしたことやなどが、オンラインショッピングについては農村部や中高年などより多くの層に利用が広がったことが背景にある。

 また、中国工業和信息化部のサイトからは、「工信数据」→「統計分析」→「電子信息」とたどると、スマートフォンやパソコンやテレビなどの輸出向けも含めた生産台数がわかる。

 2017年における製品ジャンル別出荷台数は携帯電話・スマートフォンが1.6%増の19億台で、うちスマートフォンが0.7%増の14億台(全体の74.3%)。パソコンは6.8%増の3億678万台で、うちノートパソコンは7.0%増の1億7244万台、タブレットは4.4%増の8628万台。液晶テレビは1.2%増の1億6901万台で、うちスマートテレビは6.9%増の1億931万台となり、生産されたテレビ(ブラウン管を含む)の63.4%がスマートテレビとなった。

 スマートフォンのメーカー別出荷台数については、工信部ではなく調査会社のIDCが四半期ごとに発表している。2017年の中国向け出荷台数は4.9%減の4億4400万台となった。IDCの分析によれば、年間を通して絞られたメーカーにシェアがより集中したほか、4半期ベースでも11月11日のセール日の双十一があるにも関わらず前年より勢いが落ちているとしている。

IDC発表スマートフォンメーカー別シェア
出典:IDC:2017中国智能手機市場加速下滑, 2018将迎"大考"
メーカー 2017年
出荷量
2017年
市場シェア
2016年
出荷量
2016年
市場シェア
増加率
ファーウェイ(華為) 90.9 20.4% 76.6 16.4% 18.6%
OPPO 80.5 18.1% 78.4 16.8% 2.7%
vivo 68.6 15.4% 69.2 14.8% -0.8%
シャオミ(小米) 55.1 12.4% 41.5 8.9% 32.6%
アップル 41.1 9.3% 44.9 9.6% -8.3%
その他 108.2 24.3% 156.7 33.5% -31.0%
総計 444.3 100.0% 467.3 100.0% -4.9%

 各メーカーの中国受け出荷台数を多い順に書くと、ファーウェイ(華為)が18.6%増の9090万台、OPPOが2.7%増の8050万台、vivoが0.8%減の6860万台、シャオミ(小米)が32.6%増の5510万台、アップルが8.3%減の4110万台、その他は31.0%減の1億820万台となった。

 続いてCNNIC(China Internet Network Information Center)が発表した、「第41次中国互聯網発展状況統計報告」を紹介する。CNNICのレポートは1月下旬から2月上旬と、7月下旬から8月上旬にかけての年2回発表されるインターネットの統計レポートだ。初回の同レポートは1997年11月に刊行された。日本ではWindows 95やインターネットブームがあった頃だが、当時中国では62万人しかインターネットユーザーはいなかった。そんな黎明期からその時々に合わせた統計レポートを出し続けている。1月末に発表された41回目となるレポートは2017年末の段階でのインターネット利用者数や各サービスの利用者数を紹介している。

 2017年末におけるインターネット利用者数は7億7198万人で、人口に対する普及率は55.8%。うちスマートフォンを含む携帯電話利用者数は全体の97.5%にあたる7億5265万人となる。都市部農村部別では、都市部が5億6300万人、農村部が2億900万人と差の開きがあり、かつ直近1年の増加数増加率ともに都市部のほうが大きい。様々なインターネットサービスが利用できる都市部だけをみると、普及率は71.0%まであがる。

図4

モバイルネット利用者推移

出典:CNNIC中国互聯網絡発展状況統計調査(2017.12)

 インターネットを利用しない原因は、インフラ面ではなく、「パソコンやインターネットがわからない(53.8%)」「ピンインがわからない(38.2%)」などといったネットリテラシーにある。インターネット利用者を年齢別でみると49歳まででほぼ9割となっている。世代的に文革経験世代以上はインターネット利用率が極めて低くなっているのが中国のインターネット利用者の特徴だ。

 各インターネットサービス利用人口と利用率について列挙する。EC系では、オンラインショッピングが5億3300万人(ネット利用者全体における利用率は69.1%。以下同)、支払いサービスが5億3100万人(68.8%)、オンラインバンキングが3億9900万人(51.7%)、旅行予約サービスが3億7600万人(48.7%)、Eラーニングが1億5518万人(20.1%)、ソーシャルレンディングや電子マネーの投資信託といったネット投資が1億2900万人(16.7%)、オンライントレード(株・投信)が6730万人(8.7%)となった。

 SNSやメール系では、インスタントメッセンジャーが7億2000万人(93.3%)、微博(Weibo)が3億1600万人(40.9%)、メールが2億8400万人(36.8%)となり、以前から変わらずメールの利用者は少ない。その他の定番サービスでは、ニュースが6億4700万人(83.8%)、検索が6億4000万人(82.8%)、動画が5億8000万人(75.0%)、音楽が5億4800万人(71.0%)、オンラインゲームが4億4200万人(57.2%)となった。これらは都市部と農村部での格差なく利用率が高い。

 またアントフィナンシャルの支付宝(Alipay)や騰訊(Tencent)の微信の一機能である微信支付(WeChatPay)といったスマートフォンによるQRコードを活用した電子決済が注目されている。それらを利用したサービスは、フードデリバリーが3億2200万人(42.8%)、タクシー予約が2億8700万人(37.1%)、配車サービスが2億3600万人(30.6%)、シェアサイクルが2億2100万人(28.6%)、スマートフォン用のモバイルバッテリーが借りられるシェアバッテリーが12.5%(人数明記なし)、民泊が2.8%(同)、シェアカーが2.2%(同)となった。

 中国のアプリストアで提供されているアプリ数は、だいたい400万程度で、Android向けが224万、iOS向けが178万となっている。アプリのジャンル別では、ゲームが28.4%、生活サービス系が12.7%、EC系が10.4%、事務・学習系アプリが8.0%となった。

 なおCNNICのレポートでは、半年、1年でのインターネットサービスの目立った変化について書いてある。今回のレポートにおいては2017年について「微信の小程序(微信内ミニアプリ)が登場し、生活サービスが発展」「ニュース・微信のグループチャット・ライブストリーミングを管理強化」「フードデリバリー・ソーシャルレンディングの法律の策定」を挙げている。

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