【14-006】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅹ)
2014年 2月28日
金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員
1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。
4.大気汚染防止関連政策
(3) 産業規制政策
(3.4)生産設備の強制淘汰政策
大気汚染防止に関する産業規制制度について言及した前稿に続き、今回は「生産設備の強制淘汰制度」制度について紹介する。
生産設備の強制淘汰政策(以下、強制淘汰政策)とは、鉄鋼、セメントなど特定業種における非効率かつ公害リスクの高い設備・工法に対し、国が「時代遅れの生産設備」として指定し、事業者に一定期間内における淘汰を義務付ける制度であり、持続可能な産業基盤の再構築を目的に、2005年から導入した(典拠:国務院決定「産業構造の健全化に関する規定(国発[2005]40号)」)。いままで、本制度は、産業競争力の強化を軸に、地域間産業バランスや国内需給調整などに関する重要施策として用いられてきた。大気汚染問題が深刻さを増している現在、本制度は環境政策や省エネ政策としての役割を期待されている。
2007年に公布した国務院国務院決定「省エネおよび汚染物質削減に係る総合対策に関する国務院通達(国発[2007])15号」は、強制淘汰政策を環境政策として明確に位置づけると同時に、電力、鉄鋼、セメントなど計12業種を対象に国レベルの強制淘汰目標を設定した。また、制度の実効性を確保すべく、目標達成責任制度(本シリーズⅢを参照)の導入も決めた。
大気汚染対策との関連性
表1は、強制淘汰制度の変遷について、鉄鋼産業を軸にまとめたものである。
2005年から今日に至るまで、強制淘汰制度の適用範囲は2つの側面において拡大傾向がみられる。1つは適用基準の引き上げである。例えば高炉の強制淘汰基準の場合、2005年時点の100~200/㎥≦から、2007年の200~300/㎥≦に、2009年には400/㎥≦までに段階的に引きあげられた(表1)。いま1つは、制度の適用を受ける業種の範囲の拡大であり、第11次5カ年計画期間の13業種から、第12次5カ年計画期間の19業種までに拡大した(表2)。
一方、大気汚染問題の深刻化を受け、本制度の規制レベルは段階的に強化される傾向にある。2012年に確定した強制淘汰5カ年目標は2015年までの達成を想定していたが、大気汚染問題への強化策として、国は目標達成期限を1年前倒しする決定と同時に、更なる淘汰目標を追加設定する方針を打ち出した。そのほかに、大気汚染対策が急がれる北京などの6地域に対し2017年までの新規目標を加算する追加規制措置も導入している。
表1 鉄鋼関連の強制淘汰基準、目標の変遷
表2 第12次5カ年計画期間における強制淘汰対象業種
強制淘汰政策の実績
表3は、強制淘汰政策が重工業分野において達成できた成果についてまとめたものである。表に見るように、発電部門における淘汰目標は2011年までにほぼ達成しているため、2012年以降は目標を設定していない。前稿において紹介した「上大圧小」政策と強制淘汰政策の相乗効果もあり、30万kW以上の火力発電設備が全体に占める割合は2005年の47%から2012年の75.6%までに上昇した(典拠:国家発展委員会「中国の気候変動政策および活動報告2011年版」、2013年版)。
一方、セメント分野の場合、2011年以降の2年間の淘汰総量はすでに第11次5カ年期間の総量を超えており、規制強化の傾向がみられる。
表3 強制淘汰政策の実績:重工業分野ごとに淘汰された設備規模(2006年~2012年)
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