【21-01】中国に高い評価と注文 OECD科学技術イノベーション展望公表
2021年01月15日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
経済開発協力機構(OECD)は12日、科学技術・イノベーションに関する各国の成果や政策動向を分析した報告書「OECD科学技術イノベーションアウトルック」を公表した。新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大によって、各国の政策が大きな方向変換を迫られ、国際協力の重要性がより鮮明になっているといった状況が示されている。研究開発費や論文数が米国に次ぐ世界2位と国際的地位を高めている中国の優勢を強調するとともに、国際協力に際しては世界の国々が合意する規則や価値観に準じることを求めているのが目を引く。
報告書がまず指摘しているのは、新型コロナウイルスの感染拡大によって科学技術とイノベーションの重要性がより明白になったのに加え、研究・イノベーションシステムの限界や弱点も明らかになった事実。この20年間に民間の研究開発に対する支援は、税制上の優遇措置という間接的支援から研究助成や公共調達といった直接的支援に置き換えられてきた。こうした実態を明らかにしたうえで、直接的支援を重視し、研究開発への政府支出も確保する必要を強調している。新型コロナウイルスのように長期的でリスクを伴う野心的な研究に対しては、今の研究・イノベーションシステムの不十分さが露呈された、ということだ。
(「OECD科学技術イノベーションアウトルック」から)
新型コロナウイルス感染により、国際共著論文を含む関連の研究論文が各国で急増した実態を紹介するとともに、さらなる国際協力の必要も指摘した。特に中国の研究活動の活発化を詳しく紹介している。中国の研究開発に関する国内総支出は年々、伸び続け、2018年には1位米国の80%にまでに増え、3位以下の国を引き離している。2020年1~11月の間に世界中で発表された新型コロナウイルス関連の論文(出版物)は7万を超すが、中国は米国に次いで2番目に多い。国際共著論文の数も同様に米国に次いで多い。世界各国が競い合っている新型コロナワクチンの研究数も20に上り、1位の米国34に次ぐ多さだ。
(「OECD科学技術イノベーションアウトルック」から)
新型コロナウイルス関連論文(出版物)数(2020年1~11月)
(OECD Science, Technology and Innovation Outlook 2021から)
報告書は、持続可能性、包括性、レジリエンス(復元力)などを重視するこれからの大きな課題に取り組むために科学技術・イノベーション政策を転換する必要があるとしている。そのきっかけを新型コロナウイルス感染拡大がつくったとみており、さらなる国際協力強化の必要を強調している。中国に対して大きな役割を果たすことを期待する一方で、相互主義の欠如といった懸念も指摘している。
ビデオ会議システムを利用した記者会見で日本人記者向けに報告書の内容を説明したOECDのアンドリュー・ワイコフ科学技術イノベーション局長は、中国との協力について互恵主義などの価値観が共有できるかなどを懸念する国があることを認めた。そのうえで、成果の公平な分配や信頼感の醸成などが重要との考えを示し、OECDが大きな役割を果たす意向を明らかにした。
(「OECD科学技術イノベーションアウトルック」から)
報告書は、このほか新型コロナウイルス感染拡大によってもたらされたさまざまな変化も紹介している。近年、学術的研究や調査に関する情報を開放し、多くの人が研究活動に参加できるようにするオープンサイエンスの取り組みが盛んになっている。報告書は新型コロナウイルス関連の論文が多いだけでなく、オープンアクセスが可能な論文が多いことにも注意を促している。2020年1~10月間でみると、7万弱の新型コロナウイルス関連論文の76%はオープンアクセスが可能。同じ時期に出た糖尿病に関する論文の43%、認知症関連論文の40%を大きく上回る。新型コロナウイルス感染拡大は、長期的にオープンな科学への移行を加速させる可能性がある、と報告書は指摘している。
新型コロナウイルス感染拡大によって変化が見られたものとして、科学者の仕事ぶりも挙げられている。調査に対しデジタルツールの使用が増えたと答えた研究者は全体の3分の2いた。さらに在宅で研究するようになった研究者も4分の3に上る。ロックダウンやソーシャルディスタンスにより深刻な影響を受けた一方、デジタルツールとオープンデータを利用可能とする設備などによって通常の実験室や研究環境外でも仕事ができたということを意味する、と報告書は指摘している。
新型コロナウイルス、糖尿病、認知症の出版物(論文)数とオープンアクセス割合(2020年1月~10月)
(「OECD科学技術イノベーションアウトルック」から)
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