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【20-07】新型コロナウイルス機に協力し合う国際社会を 宮本雄二元駐中国大使提言

2020年3月19日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 元駐中国大使で日中関係学会長の宮本雄二氏が17日日本記者クラブで記者会見し、新型コロナウイルス感染症が中国に与えた衝撃と米中関係、日中関係に及ぼす影響などについて詳しく解説した。宮本氏は中国だけでなく、国際社会に与えた衝撃の巨大さを強調し、新型コロナウイルス感染症への対応を機に、協力し合う国際社会を再構築する必要を訴えた。

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新型コロナウイルス感染症の影響について語る宮本雄二元駐中国大使(日本記者クラブ)

想定困難な影響

 新型コロナウイルス感染症が与えた衝撃の大きさを宮本氏は、冒頭、次のように表現した。「新型コロナウイルス感染症がそれぞれの国の内政、国際政治にどのような影響を及ぼすかについては、私の想像を超えている。これまでは国と国の関係などを考えるための方程式のようなものがあったが、それらが使えない全く別種の脅威といえる」。さらに「経済、社会、政治、外交に対する衝撃は、私の直感的な想定とは異なるものになる予感がする」と断った上で、さまざまな見方を示した。

 中国の経済に及ぼす影響として氏があげたのは、消費重視への政策転換による経済回復が困難になったこと。消費重視は、不良債権を増やした投資拡大策に代わる経済政策として、効果が上がりつつある。しかし、新型コロナウイルス感染症によって事態は一変した。中国国民は、基本的に自分たちの生活は自分自身で守るという意識が強い。将来の不安が増すとお金を使わなくなる。従って、新型コロナウイルス感染症拡大で、国民の消費増は期待薄となった。投資拡大に再び頼るのも難しい。経済の順調な回復がないと、政治的な問題に波及する可能性が高まる。このような見通しを宮本氏は示した。

SARSとの比較

 宮本氏が中国に与えた衝撃の大きさに絡んで指摘した一つは、重症急性呼吸器症候群(SARS)発生時の対応との比較。SARSは、2002年11月に、中国広東省で非定型性肺炎の患者が報告されたのに端を発し、北半球のインド以東のアジアやカナダを中心に感染が拡大した。2003年7月に世界保健機関(WHO)の終息宣言が出されるまで、32カ国・地域で死者774人を含む8,000人を超える発症者が出た。

 宮本氏によると、発生源となった中国広東省でうそや情報の隠ぺいが見られたことを教訓として、中国共産党指導部は、米国の疾病対策センター(CDC)に匹敵する感染症統治機構をつくりあげた。十分な感染症専門家も配置した。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症発生直後に見られたのは「専門家が責任を持って対応する仕組みになっていなかった」という実態。宮本氏は、現場はCDCに学んでいたけれど、複雑な官僚機構と管轄する衛生部の理解力不足で共産党上層部まですぐに情報が上がらなかった、と見ている。

 この理由として、習近平政権が中央への権力集中を進めたことで、下部層の自発性を奪う結果となっているという見方を宮本氏は示した。

中国国民の判断基準は「義」

 新型コロナウイルス感染症によって、中国国民の共産党指導部に対する見方に変化が起きている。宮本氏はこのように指摘し、その理由として「中国国民が重視する価値観、判断基準は『義』」という考え方も示した。自分たちが最も大事にしている人の生命や安全に関わる情報を中国共産党指導部がしゃ断したとみなし、多くの中国国民が許せないと感じている、と氏は見ている。義に反することは良くない、と多くの国民が考えることは、中国社会の強さであるとの見方も示し、「中国国民の判断基準を軽視すべきではない」とも語った。

 中国の最近の状況を理解する動きとして、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で見られる現象も、宮本氏は挙げた。指導部が不都合な情報としてネット上から削除しても、同じ情報が外国語で再発信されたり、中には削除を免れようと甲骨文字で流すといった現象が起きていることを紹介した。

 顔認証システムや監視カメラの急速な普及などにより、中国社会は国民の活動が政府によって監視される社会に急激に変わっている。こうした変化はこれまで国民にとってもメリットがあるとして国民に許容されてきた。しかし、これからは国民が納得する分野以外では政府が監視するのは簡単にはできなくなるとみられる。民の声を吸収して政治に反映するメカニズムを持つことができるかが、これからの中国に問われている、と宮本氏は指摘した。

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宮本雄二氏記者会見会場の様子(日本記者クラブ)

共存共栄求められる国際社会

 国際社会での中国の役割についても大きな影響は避けられない、と宮本氏は見ている。米国は既に中国に対する厳しい政策を採り始めているが、新型コロナウイルス感染症拡大が起きるまで中国の動揺は実際にはそれほどでもなかった。米国の対中強硬派の牙城は国防総省。中国を脅威と判断しているのは国防総省で、新型コロナウイルスによって中国の脅威は低下したと国防総省が判断すれば、米国の対中政策が修正される可能性はある。しかし、中国が軍拡路線をやめない限り、米国の対中強行政策は変わらないとみられる。

 こうした見通しを示した上で宮本氏は、中国に対して軍拡で米国に対抗するという考え方を捨てるよう提言し、他方、米国に対しては、冷静になって対中戦略を考え直すことを求めた。環境問題と同じように国境を越えた問題となっている新型コロナウイルス感染症に対しも、国際社会に求められているのは共同で対処すること。各国・地域が協力し合う国際社会を構築するために努力するよう宮本氏は訴えた。

 日中関係については、習近平国家主席の来日を歓迎し、来日を機に懸案となっている課題の緩和、改善、解消を図り、同時に国際社会の大きな変化を前提に日中双方共通の目標を設定する必要を強調した。

関連リンク

日本記者クラブ会見リポート「新型コロナウイルス」(宮本雄二・元駐中国大使)

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