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【20-24】中国歴史的進歩、米国との差さらに接近 英教育誌の大学ランキングで鮮明に

2020年9月08日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 中国の研究力が急激に向上し、米国との差がさらに接近していることが、英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)が2日公表した「世界大学ランキング2021」でも裏付けられた。THEは、いくつかの研究分野では米国を追い抜いていることをデータが示しているとし、「中国の大学が歴史的な進歩を遂げている」と評価している。新型コロナウイルスにより米国の大学の多くが大きな経済的打撃を受けていることを理由に、政府の研究投資が大きい中国の有力大学が、研究力でさらに米国との差を詰める可能性があるとする欧州の研究者たちのコメントも紹介している。

「世界大学ランキング2021」で明らかになった中国の大学のさらなる躍進は、前年のランキングで上位100に入ったのが清華大学北京大学中国科学技術大学の3大学だったのに対し、今回は復旦大学浙江大学上海交通大学が新たに加わり6大学と倍増したことからも見てとれる。

 清華大学は前年より順位を3上げて20位に浮上し、アジアで初めて20位内に入る大学となった。100位内に入った6大学のうち清華大学北京大学(24位)以外の4大学と今回、111位の南京大学は5年前の「世界大学ランキング2016」では、201~350位の評価だった。さらに今回のランキングで上位に入った中国の20大学のうち、前年より順位が下がったのは1大学のみ。こうした数字を挙げてTHEは、中国の大学が「歴史的な進歩を遂げている」と評価している。

「世界大学ランキング2021」トップ200内の米国、東アジア大学
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2021」から作成)
世界順位 前年順位 大学名 国・地域
2 4 スタンフォード大学 米国
3 7 ハーバード大学 米国
4 2 カリフォルニア工科大学 米国
5 5 マサチューセッツ工科大学 米国
7 =13 カリフォルニア大学バークレー校 米国
8 8 イェール大学 米国
9 6 プリンストン大学 米国
10 9 シカゴ大学 米国
12 12 ジョンズホプキンズ大学 米国
13 11 ペンシルベニア大学 米国
15 17 カリフォルニア大学ロサンゼルス校 米国
17 16 コロンビア大学 米国
19 19 コーネル大学 米国
=20 20 デューク大学 米国
=20 23 清華大学 中国
22 21 ミシガン大学アナーバー校 米国
23 24 北京大学 中国
24 22 ノースウェスタン大学 米国
26 29 ニューヨーク大学 米国
28 =27 カーネギーメロン大学 米国
29 26 ワシントン大学 米国
33 31 カリフォルニア大学サンディエゴ校 米国
=36 =36 東京大学 日本
38 =38 ジョージア工科大学 米国
39 35 香港大学 香港
44 =38 テキサス大学オースティン校 米国
48 =48 イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 米国
49 51 ウィスコンシン大学マディソン校 米国
50 52 ワシントン大学セントルイス 米国
53 =62 南カリフォルニア大学 米国
=54 61 ボストン大学 米国
=54 65 京都大学 日本
=56 =57 香港中文大学 香港
=56 47 香港科技大学 香港
=56 54 ノースカロライナ大学チャペルヒル校 米国
60 64 ソウル大学 韓国
61 53 ブラウン大学 米国
=64 =55 カリフォルニア大学デイビス校 米国
68 =57 カリフォルニア大学サンタバーバラ校 米国
70 109 復旦大学 中国
=80 70 オハイオ州立大学(メインキャンパス) 米国
=85 =80 エモリ―大学 米国
=85 79 ミネソタ大学 米国
=87 =80 中国科学技術大学 中国
90 =91 メリーランド大学カレッジパーク校 米国
=94 88 パデュー大学 ウエストラファイエット 米国
=94 =107 浙江大学 中国
96 =110 KAIST 韓国
97 =120 国立台湾大学 台湾
=98 =96 カリフォルニア大学アーバイン校 米国
100 =157 上海交通大学 中国
=101 =94 ダートマス大学 米国
=101 89 成均館大学 韓国
105 84 ミシガン州立大学 米国
111 144 南京大学 中国
=111 116 バンダービルト大学 米国
=114 78 ペンシルベニア州立大学(メインキャンパス) 米国
117 =107 バージニア大学(メインキャンパス) 米国
120 =102 ジョージタウン大学 米国
=121 119 ケース・ウェスタン・リザーブ大学 米国
=124 104 アリゾナ大学 米国
=124 =105 ライス大学 米国
126 126 香港城市大学 香港
129 171 香港理工大学 香港
=131 124 コロラド大学ボルダー校 米国
=133 =113 ピッツバーグ大学ピッツバーグキャンパス 米国
=140 =134 インディアナ大学 米国
=147 =173 ロチェスター大学 米国
151 =146 浦項工科大学 韓国
=152 =175 フロリダ大学 米国
=155 =139 タフツ大学 米国
166 =168 ラトガーズ・ニュージャージー州立大学 米国
=167 =179 高麗大学 韓国
169 172 アラバマ大学バーミンガム校 米国
=170 =157 ノートルダム大学 米国
176 =173 ノースイースタン大学 米国
=176 201-250 蔚山科学技術大学 韓国
=184 =155 アリゾナ州立大学 米国
=187 =198 ジョージ・ワシントン大学 米国
=187 197 延世大学 韓国
197 178 テキサスA&M大学 米国

 ランキングの上位は、トップのオクスフォード大学をはじめとし、10位内を英国と米国の大学が占め、中でも米国の大学が圧倒的に多い。こうした傾向は、このランキングが今の評価法に変わった2011年版以来、変わらない。2016、2017、2018年版の3回だけ、スイスのスイス連邦工科大学チューリヒ校が9位ないし10位に入ったのが例外だ。今回、上位200位内に入った数を比較しても米国が59と他国・地域を引き離し、次いで英国29大学、ドイツ21大学と欧州諸国の強さが目立つ。一方、中国の7大学のほか、韓国が7大学、香港が5大学と健闘しており、東アジアの国・地域の躍進ぶりが目立つこともTHEは認めている。

「世界大学ランキング2021」トップ200に入った大学数が上位12の国・地域
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings2021」から)
国・地域 大学数 最上位大学名 最上位大学の
世界ランキング順位
米国 59 スタンフォード大学 2
英国 29 オクスフォード大学 1
ドイツ 21 ミュンフェン大学 32
オーストラリア 12 メルボルン大学 31
オランダ 11 ワーゲニンゲン大学 62
カナダ 8 トロント大学 18
中国 7 清華大学 20
韓国 7 ソウル大学 60
スイス 7 スイス連邦工科大学チューリヒ校 14
フランス 5 PSL研究大学 46
香港 5 香港大学 39
スェーデン 5 カロリンスカ研究所 36

 一方、米国の大学のうち、5年前の「世界大学ランキング2016」で201-300位内に入っていた大学のいくつかはその後、順位を上げているものの、上位100位内に浮上した大学はない。多くの大学は順位が変わらないか低下しており、中国の大学とは大きな違いがみられる。THEが明らかにしたグラフは「世界大学ランキング2016」で201-300位に入っていた中国の4大学(中国科学技術大学復旦大学南京大学浙江大学)を赤線で、同じように201-300位に入っていた米国の大学を黄色の線で表し「世界大学ランキング2021」までの5年間で順位がどのように変化したかを示している。4本の赤線(中国の大学)がいずれも順位を上げているのに対し、黄色の線(米国の大学)がわずかの例外を除いて、横ばいか下降しているのが分かる。

「世界大学ランキング2016」で201-300位だった米中大学のその後の順位変化

image

(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings2021」から)

 THEの世界大学ランキングは、教育、研究、論文引用の影響度、国際性、企業からの収入の五つを評価指標とし、それらをそれぞれさらに細分化した合計13項目について点数を付け、その合計点で比較している。大学の研究者が発表する論文が他の研究者からどれくらい引用されるかは、ランキング順位に大きな影響を与える。THEによると論文の引用影響度で米国と中国の大学の差の縮まりが目立ってきたのは3年前の「世界大学ランキング2018」から。ランク入りした大学(「世界大学ランキング2021」では約1,500)のうち中間50%の大学を抽出し論文引用の影響度を比較すると、中国の中間ランクの大学の一部が、米国の中間ランクの大学の一部を上回っている、とTHEは言っている。

 中国の大学の評価が、長年優位にあった米国に迫りつつある状況は今後、どう変わるのか。THEが重視しているのは、新型コロナウイルスによる影響。世界の指導的大学人200人に尋ねたところ、北米の回答者の87%が感染拡大によって自国の大学が倒産する可能性があると予想していたのに対し、東アジアではわずか17%だった、という調査結果を明らかにした。さらに欧米の研究者3人の以下のようなコメントを紹介している。

 英国レスター大学のウェイ・ジャン講師によると「新型コロナウイルス感染拡大によって米国の大学は収入と支出の削減、教育と研究スタッフの一時的な解雇など、世界大学ランキングの主要な評価指標である研究の生産性や大学の評判に影響を受けている」。対照的に中国の「双一流」大学は「政府の大きな投資が大学の短期的な収入の損失を相殺するので、感染拡大によっても財政的に大部分無傷のままである」という。「双一流」大学とは、世界一流の大学を育成する目的で中国政府が指定した42の有力大学を指す。

 オランダ・ユトレヒト大学のマリク・ファン・デル・ウェンデ教授は、中国が「大学のランキングにおける米国の優位性に脅威を与える可能性がある」と語っている。2020年の経済成長率が米国は大幅なマイナスに陥るのに対し、中国はまだ小さなプラスを示すと予想されていることに加え、中国がすでに技術分野への投資を増やすことで経済成長の減速を補う計画を立てていることなどを理由に挙げた。

 さらに米国アリゾナ大学のジェニー・リー教授も「中国が米国の優位を脅かすとするのは言い過ぎ」としつつ、中国の研究力が急速に向上している事実を認める。例として挙げた一つは、中国と米国の研究者による共著論文。筆頭著者の数と資金提供で中国が米国を上回っているという自身の調査結果を明らかにし、「中国が世界の科学を支え、米国の科学の進歩も支えている」現状を認めた。

 THEは、中国政府が20年以上にわたり、高等教育と研究開発への持続的な投資を行っており、特に世界で通用する一流大学の構築、欧米のトップ研究機関での研究者育成、中国国内での能力構築を目的とした資金を投じてきたことを評価している。

 ちなみに「世界大学ランキング2021」で日本は、東京大学の36位が最上位。200位内に入ったのは54位の京都大学と2大学のみとなった。2011年版から2015年版まで200位内には5大学が入っていたが、2016年版から2大学のみの状況が続く。2011年版から2015年版までアジアで最上位にあった東京大学も2016年版で順位を落とし、アジアトップの位置も明け渡したままの状況は今回のランキングでも変わらなかった。

関連サイト

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2021

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