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【23-41】物質的豊かさ重視の大都市民 北京、上海、広州生活者調査

小岩井忠道(科学記者) 2023年06月13日

 経済成長が著しい中国で、北京、上海、広州という大都市でもなお、物質的な豊かさを重視する市民が多いことが、博報堂生活総合研究所の調査で明らかになった。「一級都市の生活者はモノへの欲求が既に満たされている」との想像に反する調査結果について同研究所は、まだ物質的な欲求が重視され、「一生懸命働くことを通じて生活水準を高めるため、家庭より仕事を優先する人が他国より多かった」との見方を示している。

 5月10日、24日の二度に分けて公表された「8か国調査『グローバル定点2023』」の結果は、博報堂生活総合研究所が博報堂生活綜研(上海)、博報堂生活総合研究所アセアンと共同で、アジア各国の生活者のライフスタイルや行動を調べたものだ。日本の首都圏・阪神圏、中国の北京市・上海市・広州市、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポールの8カ国11地区、15~59歳の男女1000人ずつ、計1万1000人に対し、インターネットを利用した定点調査という形で今年1月10~31日に実施された。

家庭生活よりも仕事第一

 北京、上海、広州はいずれも中国に4市しかない1級都市。今回の調査でこれら3市が8カ国中、回答率が最上位となった調査項目は「家庭よりも仕事を第一に考える」と「物質面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」だった。「家庭よりも仕事を第一に考える方だ」と答えた3市民は31.6%。2位のベトナム(25.3%)、3位の日本(21.8%)をはじめ、他の7カ国がすべて20%台、10%台だった中で唯一、30%を上回った。

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(博報堂生活総合研究所提供)

「物質的な面で生活を豊かにすることに重きを置きたい」と答えた3市民も27.8%と、2位の日本(21.9%)以下を押さえて、最上位となった。

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(博報堂生活総合研究所提供)

 こうした結果について、博報堂生活綜研(上海)の鐘鳴所長は「先進都市部(北京、上海、広州)に住む中国生活者は、経済成長の恩恵を受けながらも現状に満足せず、生活の豊かさの向上のために、もっと働いて稼ぎたいという人の割合が他国より高いことが印象的」ととらえている。

インターネットに特別観無し

 一方、意外と思われる結果は、中国3市が最下位となった調査項目にもみられる。「インターネットによって自分の生活が豊かになったと思う」と答えた3市民は24.7%に留まった。次に少なった日本の35.4%から最も多いマレーシアの45.7%まで、他の7カ国が30%台か40%台という中で、唯一20%台という少なさが目立った。

 モバイルインターネットの普及率が極めて高い中国の現状を考えると、これも博報堂生活総合研究所にとって意外な結果だった。「もはや生活の隅々まで浸透しているため、生活を豊かにする特別なものという感覚を持たないかもしれない」との見方を同研究所は示している。

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(博報堂生活総合研究所提供)

 もう一つ3市が最下位となった項目がある。こちらは逆に予想された結果だろうか。「ひとりで過ごす時間を増やしたい」と答えた3市民は20.5%しかいない。次に少ない日本は29.0%で最も多いベトナムは48.7%だから、他人との触れ合いを避けたいとする人は他の7カ国に比べだいぶ少ないことを示している。

仕事以外を重視の調査結果も

 博報堂が2012年に上海に設置した博報堂生活綜研(上海)は、これまでさまざまな調査を実施してきた。今年1月に公表された「生活者"動"察 2022」研究結果は、今後10年間の希望する居住地を尋ねた調査項目に対し、これまでのような大都市一極集中傾向が薄れ、小都市に移住したい、あるいは多拠点生活を始めたいと考える人たちが増えているという結果を明らかにしている。北京、上海、広州、深圳という四つの1級都市に続く2級都市や3級都市の生活利便性が1級都市並みに向上するという期待を、博報堂生活綜研(上海)はこうした結果が得られた理由の一つに挙げていた。

 「その都市の利便性よりも気候や環境を重視したい」とする人々が84%に上ったほか、「仕事の将来性よりも、その都市で楽しめるレジャーや娯楽に関心がある」が70%、「仕事の将来性よりも、その都市の歴史や文化に関心がある」が67%、「GDP(国内総生産)や都市の経済発展状況はあまり重要でなくなる」が54%となっている。同じ研究結果では、今回の8カ国調査結果からうかがえる1級都市市民の意識とはやや異なる調査結果も併せて示されていた。これまでのように都市の経済発展状況ばかりを見ずに、歴史や文化、レジャーの充実、気候や環境を重視して暮らす都市を選択していきたいと考える生活者が増えている、という中国の大都市に住む人々の姿だ。

日本の大都市民に特異な生活感

 今回の調査結果で目を引いた中に、首都圏・大阪圏という大都市に住む日本人の生活感覚が他の7カ国と大きく異なることを示す結果もあった。「お金が欲しい」と「高い給料よりも休みがたっぷりな方がよい」という、相反するようにも見える項目の最高位がいずれも日本だった。「お金が欲しい」と答えた人は中国3市民の31.4%をはじめ、他の7カ国がすべて50%を下回る中で、60.6%と飛び抜けて多いのが目立つ。

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(博報堂生活総合研究所提供)

 一方、「お金が欲しい」という感覚とは正反対の欲求とも思われる「高い給料よりも休みがたっぷりな方がよい」と答えた人も、日本は59.8%と8カ国中唯一、5割を超えた。

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(博報堂生活総合研究所提供)

 日本の大都市民がお金に関心が高いことをうかがわせるもう一つの数字がある。「十分な収入に満足している」と答えた首都圏・阪神圏市民は8.1%と8カ国中最少だった。中国3市民の31.1%をはじめ他の7カ国はすべて30%以上だから、唯一、10%に満たない首都圏・阪神圏市民のお金に対する思いの強さが目立つ結果となっている。

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(博報堂生活総合研究所提供)

関連サイト

博報堂調査レポート「日本・中国・アセアンにおける初の8か国調査『グローバル定点2023』結果発表(第二弾)

博報堂調査レポート「日本・中国・アセアンにおける初の8か国調査『グローバル定点2023』結果発表

博報堂調査レポート「博報堂生活綜研(上海)、『生活者"動"察 2022』研究成果を発表

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