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【21-30】「遠圏」とのつながり重視 中国若者の向上心に変化

2021年12月24日 小岩井忠道(科学記者)

 コロナ禍が就職難に拍車をかけている厳しい現実の中で、遠くの第三者(遠圏)の力を巧みに活用するなど変化に対応した向上心を保っている―。「00后」と呼ばれる2000年代生まれの中国の若者たちにこうした変化がみられることが、博報堂生活綜研(上海)と中国伝媒大学広告学院との共同研究で明らかになった。中国では目標を下げてのんびり過ごそうとする若者のライフスタイルを指す「躺平(タンピン=寝そべり)」という言葉が流行っているが、これは身近な仲間と戦ったり、仲間のしっとや比較の対象になるのを避けるための隠れ蓑にすぎない。多くの若者たちは不透明感も増す社会を生き抜くために自分を着実に成長させたいという意識を抱いている、と共同研究は指摘している。

 博報堂生活綜研(上海)は博報堂の子会社として2012年に上海に設立され、中国での企業のマーケティング活動支援やこれからの中国の新しい暮らしのあり方を洞察・提言する活動を行っている。北京市にある中国伝媒大学広告学院とは、中国の生活者がどのような欲求を持っているかを洞察し、新しい暮らしのあり方を提言する「生活者"動"察」と名付けた共同研究を毎年1回実施している。9回目になる今年の共同研究テーマは「中国の未来を担う若者、00后(2000 年代生まれ)の実像」で、基礎データとして用いたのは「若者価値観調査2021」結果。中国の1~3級都市に住む18-41歳の男女3,600人を対象にインターネットを使って今年8月に実施した調査だ。

 2000年代生まれの「00后」のうち今年19~21歳は、調査対象になった3,600人の中に2,000人いる。これら「00后」中の19~21歳に対する調査結果と、2012年に実施した「90后」(1990年代生まれ)の当時18~21歳を対象にした調査結果を比較したところ、大きな変化が見られたのは自分の生活水準に対する感じ方。生活水準を「上の上」から「下の下」まで9段階に分けて自分がどれに該当するかを問うと、「上の上」「上の中」「上の下」のどれかに入ると答えた18~21歳は、2012年には11%だったのが2021年は27%。約10年間で2.5倍に増えていることが分かった。

 ただし、将来、どのレベルを目指すかについて聞くと、「上の上」「上の中」「上の下」のいずれかを挙げた「00后」の18~21歳は、半数をわずか超えるだけの56%。「90后」の18~21歳に対する2012年の調査では79%だったから、だいぶ下がっている。この中で「上の上」を目指すとした人を比べると、こちらも2012年の37%から2021年には22%に減っている。約10年間で生活レベルに関しては高望みしない18~21歳が増えていることをうかがわせる結果だった。「約10年前に比べ、『中』級の生活でも十分豊かであるため、わざわざ『上』級である必要がなくなっているという解釈もできるが、人より相対的に『上』級の生活を手にしたいと考える傾向が弱まっているようだ」と報告書は解説している。

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(博報堂ニュースリリースから)

7割は競争激化を実感

 一方、経済成長の鈍化やコロナ禍の影響で大学を卒業しても希望する就職が難しくなっている厳しい現状を反映しているとみられる調査結果も出ている。「周囲の人との競争が日増しに激しくなっていると実感している」か聞いた問いに対し、「00后」の18~21歳は、27%が「そう思う」、43%が「ややそう思う」と答えており、7割が競争の激しさを実感していることが分かる。

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(博報堂ニュースリリースから)

能力、知恵、精神的強さ重視

 成功する人の用件は何かを聞いた問いに対する答えからも、約10年の間に能力や知恵を重視する18~21歳が増えているという変化がみられた。2012年に当時18~21歳の「90后」が示した成功する人の要件には「リーダーシップ」、「能力」、「地位」、「才能」、「個性」が上位に並んでいた。一方、現在18~21歳の「00后」では「能力」を挙げる人がさらに増えていることに加え、「知恵」が大きく伸びていた。また「個性」、「スタイル」が減少し、「我慢強さ」や「判断力」といった精神的な強さを成功の要件に挙げる人が増えている。

 才能や個性、能力を有し、人の上に立てる人が成功する人だとみる感覚が感じ取れる約10年前の若者に比べ、今の若者は突出した個性を持つことよりも、先行き不透明な時代を生き抜いていく能力や知恵を重視している、と報告書はみている。

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(博報堂ニュースリリースから)

新しい若者の欲求「系遠」

 博報堂生活綜研(上海)と中国伝媒大学広告学院は、「若者価値観調査2021」に加えて、今回「大学生アンケート調査」も実施している。中国伝媒大学広告学院のネットワークを活用し、北京、上海、広州など中国各地の大学に通う大学生400人を対象に2021年4~10月、3回にわたりアンケート調査とインタビュー調査を行った。この調査で、大半の学生が「見知らぬ人に質問や相談することに抵抗感がない」、「関係の遠い第三者からの評価の方が真実味がある」と回答していることが明らかになった。「趣味や勉強で見知らぬ関係の遠い人の助けを求めたこと」があるという人も8割以上に達している。

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(博報堂ニュースリリースから)

 こうした結果と「若者価値観調査2021」の調査結果を合わせた分析から見えてきたのが、遠くの第三者(遠圏)の力を巧みに活用する今の若者たちの姿だ。最近中国では、目標を下げてのんびり過ごそうとする若者のライフスタイルを指す「タンピン(躺平)=寝そべり)」が流行語となっている。確かに今回の調査でも、将来「上」級の生活水準を目指したいと回答する若者が 約10年前の調査に比べて減少しているなど、「タンピン(躺平)」を裏付けるような結果が出ている。しかし、「タンピン(躺平)」は、友人や同級生、同僚といった身近なコミュニティ(近圏)の中では仲間と戦ったり、仲間のしっとや比較の対象になったりしないための隠れ蓑。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を自在に駆使して、近圏のしがらみとは無縁に気兼ねなく付き合える遠圏の人の知識や能力を活かして、着実に自分の能力を高めたいという欲求を抱いているのが今の若者の姿、と報告書はみている。

 こうした今の若者の欲求を報告書は「系遠(シー・ユエン)」と名付け、次のように特徴づけている。①正確な情報を得るために、SNS上でのみ会話したことがある専門知識のありそうな人に質問する②スキル・能力を手にするために、同じ目標を持つ見知らぬ第三者とオンラインでつながって切磋琢磨(せっさたくま)する③近圏の人に言えない本音を、共通の趣味でつながり、たまに連絡を取る人にぶつけてみる―。

関連サイト

博報堂ニュースリリース「中国の未来を担う若者、00 后(2000 年代生まれ)の実像は "遠くの第三者のチカラ"を巧みに活用して競争社会を生き抜く『系遠(シー・ユエン)』

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