【20-18】感染第2波警戒と節約志向 博報堂の中国市民意識調査で判明
2020年6月25日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
中国の市民の多くは新型コロナウイルス感染の第2波に対する警戒心が強く、消費意識や行動も消極的で慎重になっていることが、博報堂の調査で浮き彫りになった。調査が行われた5月は、迅速な対応によりわずか1カ月ちょっとで感染拡大を抑えた、と中国政府が国内外に宣伝していた時期。しかし、「生活者の気持ちは、いまだ『アンダーコロナ』な状態にある」と博報堂は言っている。
6月22日に博報堂が公表した「アフターコロナの中国生活者の意識・行動変化調査」は、1級都市の北京、上海、広州、深圳と、新1級都市の天津、青島、南京、蘇州、杭州、鄭州、武漢、長沙、東莞、成都、重慶、西安の計16都市で博報堂生活綜研(上海)が5月18日~22日に実施した。インターネットによる調査で20~69 歳の男女1,600 人から回答を得ている。調査が行われたのは、6月に北京で新たな集団発生が起きる前で、新規感染者の発生が落ち着いた3 月以降から既に外食やショッピングモールなどの再開が相次ぎ、 企業による生活者の消費刺激策も非常に活発になっていた時期だ。
生活意識と行動の変化を聞いた設問に対する答えで目を引くのは、「うがい・手洗い・消毒の衛生習慣を続けていきたい」が86%と、最も多かったこと。新規感染がほぼ抑えられたかにみられていた時期でも、高い防衛意識が働いていたことを示している。「将来のことを考えて暮らしの備えをしたい」も69%に上る。
(博報堂プレスリリースから)
新型コロナウイルスに対する防衛と将来の備えを重視する姿は、投資・資産運用・貯金といった行動の変化からも読み取れる。新型コロナウイルス感染発生前に投資や資産運用、貯金をした人は51%いた。感染拡大の最中は16%に急減したものの、調査時点(5月18日~22日)は55%と発生前より増えている。防衛意識に加え、先手を打とうとする意識、将来に備えようとする意識が高まっていることを示す、と博報堂はみている。
こうした傾向は、消費意識・行動の変化からもうかがわれる。博報堂生活綜研(上海)は今回のような生活者意識調査のほかに、消費意欲などを見る「消費晴雨表調査」を同じ16都市で毎月実施している。これらの調査結果によると、「物を買いたい」あるいは「サービスを利用したい」という消費意欲は新型コロナウイルス感染発生前に比べ、発生後の2月に急低下した。しかし4月、5月、6月はいずれも感染発生前のレベルに戻っている。
ところが、消費意欲が感染発生前と同じレベルに回復したにもかかわらず、実際の消費行動は伴っていない。感染拡大中に比べ感染が収まった後で消費意識・行動にどのような変化があったかを尋ねた結果は、「節約を気にすることが増えた」が57%と過半数を占めた。「コストパフォーマンス(費用対効果)の良いものを選ぶ」が53%、「金額の大きな買い物を控える」が52%と、同様に半数を超えている。これに対し「我慢していた欲しいものを買った」は35%、「コロナが終息したら海外旅行をしたい」は21%、「お金をかけて良いものを買った」は21%、「高級ブランド品を買いたい」は10%にとどまる。慎重派が物欲を満たそうとする積極派より多い、という結果だ。
(博報堂プレスリリースから)
これからの消費行動を聞いた結果でも慎重な姿勢は変わらない。「今後よりお金を使いたい」という品目の上位には、「医薬品・保健品」57%、「食品」54%、「保険・運用商品」49%、「バス・トイレ用品」38%、「キッチン用品」37%と、生活必需品が並ぶ。一方、「今後はより節約したい」品目の上位は、「外食」53%、「時計・宝飾品・香水」48%、「旅行」48%、「エンターテインメント」36%、「飲料・アルコール」32%と、娯楽やぜいたく品が占めた。
(博報堂プレスリリースから)
博報堂生活綜研(上海)は、今回と同じ16都市で同規模の「新型コロナウイルス流行による生活者意識調査」を2月24日~3月4日に実施している。自宅待機をはじめとする厳しい新型コロナ感染対策が課されていた時期だ。この時の調査結果は、「自分の生活の在り方を見直したいと思うようになった」という前向きな答えをした人が57.2%と過半数を占めていた。一方、「将来の生活に対して漠然とした不安を感じるようになった」と答えた人は35.8%にとどまるなど、新型コロナウイルス流行を前向きに受け止めているたくましい中国人の姿を示していた。
今回の調査結果から博報堂は「アフターコロナ期を世界に先駆けて迎えていると言われながらも、生活者のマインドは、いまだ『アンダーコロナ』な状態にある」と、前回の調査結果らえられたのとはやや異なる中国人の姿を評している。
博報堂は2018年5月に、中国最大の検索サービス企業「百度」の日本法人「バイドゥ」と、中国市場をターゲットとする企業・団に最適な広告配信方策を提供することを目指す戦略的パートナーシップを締結している。また同年9月にはゲーム、EC(電子商取引)など幅広いネット事業で急成長している中国企業「ネットイース(網易公司)」と、個々のユーザーが求めていると思われる広告をネット配信する新しい手法を共同で開発し、中国国内でサービス提供を始めている。博報堂生活綜研(上海)は博報堂の子会社として2012年に上海に設立され、中国での企業のマーケティング活動支援やこれからの中国の新しい暮らしのあり方を洞察・提言する活動を行っている。
関連サイト
博報堂ニュースリリース「博報堂生活綜研(上海)『アフターコロナの中国生活者の意識・行動変化調査』」
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