【20-33】中国人の買物意識内面的尺度重視に 博報堂、中国伝媒大学の共同研究で判明
2020年12月28日 小岩井 忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)
新型コロナウイルス感染を経験したことで、中国では「買い物の楽しさが以前より増した」一方、「自由な尺度で買物をする」という人が増えている。こうした変化が、博報堂生活綜研(上海) と中国伝媒大学広告学院の共同研究で明らかになった。買い物に対する中国人の意識の変化を「度物(ドゥオ・ウ)」というキーワードで共同研究は表現している。さらに、これからの企業にとっては、「度物」生活者と新しい信頼関係を築き、高い買い物意欲を持続させていくことが、中国市場で持続的成長を実現する鍵となる、と指摘している。
「生活者"動"察」と名付けられた共同研究は、11月に中国、日本、米国で実施した「買物生活調査2020」で得られたデータを基にしている。20~59歳の男女を対象に、中国では1-4級都市で計3,000サンプル、日本では関東、関西、東海エリアで計1,000サンプル、米国ではニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴで計1,000サンプルを集め、分析した。日米は収入条件を考慮していないが、中国は家庭月収6,000元~29,999元(「1級都市のみ8,000元~49,999元」という収入条件に合う人たちを対象としている。
共同研究結果によると、「買物の楽しさが以前よりも増した」と答えた人が中国は40%と、米国の27%、日本の10%を大きく上回った。
(博報堂ニュースリリース「生活者"動"察」共同研究結果から)
博報堂生活綜研(上海)は、中国の1級都市(北京、上海、広州、深圳)と、新1級都市(天津、青島、南京、蘇州、杭州、鄭州、武漢、長沙、東莞、成都、重慶、西安)の20~69歳男女1,600人を対象に毎月「消費晴雨表調査」も実施している。収入条件は、家庭月収7,000元~29,999元(60~69歳のみ4,000~9,999元)と、「生活者"動"察」の対象者とほぼ似たような人たち。この結果から、新型コロナの新規感染者数のピークを迎えた2月の消費意欲は大きく低下したが、すぐに以前の水準に回復し、その後も高い水準を維持していることがわかる。
(博報堂ニュースリリース「生活者"動"察」共同研究結果から)
これらの調査結果から共同研究は、中国生活者の『買物愛が高まっている』と分析している。
一方、新型コロナウイルス感染を経験したことで、以前よりも「お金をかけて良い商品やサービスを買うようになった」という人が70%に上ることが明らかになった。同時に「節約を意識することが増えた」という人も83%とさらに多い。以前より「周りからの見られ方よりも自分に合っていることを重視するようになった」人も66%いる。
このほか、以前に比べて「買う物が自分にとって本当に必要かどうかを考えることが増えた」人が59%、「広告や割引にあおられて衝動買いをしないように気をつけるようになった」人も44%いる。
(博報堂ニュースリリース「生活者"動"察」共同研究結果から)
こうした結果から「自由な買物尺度を操りながら買物を楽しむ『度物』生活者は、従来の爆買いのように闇雲に大量消費していた状況から変容し、旺盛な消費意欲の中にも自分の買物が本当に必要かどうかを考える慎重な買物意識が高まっていることがうかがえる」と共同研究は指摘している。
今後1年間で「お金をかけたい」か「節約したいか」を聞いた回答結果からも興味深い変化が見てとれる。「お金をかけたい」が上回るのは「生鮮食品」40%、「医薬・保健品」31%、「キッチン用品」28%、「バス・トイレ用品」27%と必需品が多い。一方「ファッション」35%、「化粧品・スキンケア・香水」35%と、自分を彩る品目が高い数値を示しているのが目を引く。
さらに新型コロナ収束後に中国からの観光客が再び増えることを期待する日本にとっては気になる結果も示されている。「節約したい」が「お金をかけたい」より上回る品目に「旅行」をあげた人が29%いたことだ。このほか「節約したい」が上回る品目に「エンタメ」32%、「雑貨・おもちゃ」25%、「家具・インテリア」21%が並ぶ。
「"爆買い"と言われていた中国生活者が、お金のかけ方にメリハリをつけようとする変化が表れていることがうかがい知れる」と共同研究結果は記している。さらに、「高まる買物愛」を持ちながら「自由な尺度で買物をする」ようになった生活者の意識変化「度物(ドゥオ・ウ)」が起きたことに対して次のように解説している。
「従来、中国市場で『年齢・地域・経済力』に代表される"外面的尺度"という属性で捉えられていた生活者の買物尺度が、「買物の時間のかけ方・お金のかけ方・お得の感じ方」といった、個々の生活者の中で揺れ動く複雑な"内面的尺度"へシフトしていることを意味している」
博報堂生活綜研(上海) と中国伝媒大学広告学院の共同研究「「生活者"動"察」は、毎年1回発表されており、今年が8回目。毎回、中国の生活者の行動と欲求の変化を分析し、今回の「度物(ドゥオ・ウ)」のように変化を端的に表す独自のキーワードを提言してきた。これまで「創漩(そうせん)」(2013年)、「信蜂(しんほう)」(2014年)、「出格消費(しゅっかくしょうひ)」(2015年)、「銜能(げんのう)」(2016年)、「余楽(よらく)」(2017年)、「数自力(すうじりょく)」(2018年)、「熱活族(ねっかつぞく)」(2019年)というキーワードが提示されている。
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