【25-18】仕事、金銭面以外に関心強める 中国大都市民の意識に変化
小岩井忠道(科学記者) 2025年07月09日
大都市に住む中国人の4人に1人は「夢が欲しい」と考えていることが、博報堂生活総合研究所が中国、日本、インドに東南アジア6カ国を加えた9カ国を対象にした調査で明らかになった。これまで仕事や金銭面における成功を中心に求めてきたが、これからはそれ以外の「人生進路」を積極的に探そうとしている中国人生活者の意識変化を示す、と同研究所はみている。さらに中国と日本の大都市圏に住む人々の意識が似てきており、インド・東南アジアの人々との意識と大きな違いがみられるとする結果もいくつか示されている。
ライフスタイルや行動の把握が目的
6月27日に公表された「日本・中国・アセアン・インドの9カ国調査 第3回『グローバル定点2025』」は、博報堂生活総合研究所が「博報堂生活綜研・上海」、「博報堂生活総合研究所アセアン」と共同で2023年から毎年実施している調査の最新結果で、生活者のライフスタイルや行動を把握することを目的としている。1、2回目は日本、中国、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポールの8カ国が対象だったが、3回目の今回はインドを加えた9カ国の15歳から59歳の男女1万3000人に対し、今年1月6日~31日にインターネット調査法により実施された。調査対象者は日本が首都圏と阪神圏から計2000人、中国が北京、上海、広州の3市から計3000人、東南アジアの6カ国から各1000人、インドがデリー、ムンバイ、ベンガルール3市から計2000人。いずれも調査人数は各年齢層に等分になるよう割り振られている。
北京、上海、広州の大都市民に特異な意識が際立って見られたのが「夢が欲しいか」を尋ねた項目に対する答え。「夢が欲しい」と答えた北京、上海、広州市民が9カ国中、最も多い24.1%だった。2番目に多いインドの18.1%をはじめ、20%を超えた国はほかにない。2023年の20.2%から年々増え、変化量が最大であるのも目立つ。最も少なかったのは日本(首都圏・阪神圏市民)で4.8%と唯一10%未満だった。2023年の6.0%から減り続けているのと併せ、中国3大都市民との違いが際立つ。
ストレス感じながら新たな生き方も
「これまで仕事、金銭面における成功を中心に求めてきたけれど、経済成長の鈍化により、生活に停滞を感じ、ストレスを感じる人が増えている。その一方で、仕事終わりに料理や音楽、ダンスなどを学べる大人向けの夜間趣味教室、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じて人々が価値観や趣味で集まる場として自宅を開放するホームバーなどが流行っている。ストレスを発散しながら、これからの『人生進路』を積極的に探している生活者の意識がうかがえる」。博報堂生活総合研究所は中国の研究員のこうした見方を示している。
(博報堂調査レポート「日本・中国・アセアン・インドの9カ国調査 第3回「グローバル定点2025」から)
近所との人間関係に悩みも
もう一つ、北京・上海・広州3都市民が最も高い回答率だった調査項目がある。ストレスを感じるという調査対象者にだけ聞いた項目。「近所の人との人間関係がストレスの原因だ」と答えた人が31.4%と唯一30%を超す。調査ごとに増え続けているのも「夢が欲しい」の調査項目結果と同様。2023年の第1回調査結果(21.3%)から10ポイント以上増加しているのは中国3都市民だけだ。こちらも最低は日本(首都圏・阪神圏市民)で6.7%。唯一10%未満というのも「夢が欲しい」調査項目結果と非常に似ている。
「近年、団地ごとのコミュニティチャット/グループチャットが普及し、従来に比べ近隣住民との結びつきが強まった。チャットを通じた育児用品や書籍などのリユース品の交換や生活情報の交換が日常化する一方、近隣の可視化によって雑音やペットなどのもめごとに関する会話も増加し、コミュニティの密接化に関するジレンマが浮き彫りになっているようだ」。こうした中国の研究員の見方が示されている。
(博報堂調査レポート「日本・中国・アセアン・インドの9カ国調査 第3回「グローバル定点2025」から)
中国、日本の大都市民に似た意識も
一方「物質的な面で生活を豊かにすることに重きを置きたい」とする答えが最も多かったのも北京・上海・広州3都市民であるのが目を引く。2023年調査結果の27.8%から調査ごとに減り続けているものの、物質的欲求がなお他の8カ国より強いことがうかがえる。こちらは日本(首都圏・阪神圏市民)と逆に似ているのが特徴。北京・上海・広州3都市民についで2番目に多いのが首都圏・阪神圏市民で23.1%と、2023年の調査結果21.9%より増えている。
中国、日本の大都市民が同じような結果で、他の7カ国の生活者の意識と大きな違いがみられる結果はもう一つある。「環境問題に関する情報に関心がある」人がわずか9.1%と最も少ないのが首都圏・阪神圏市民で、次いで少ないのが北京・上海・広州3都市民の10.2%だ。最も多かったフィリピンの38.2%、さらに他の7カ国のうち最も少なかったシンガポールの19.8%と比べ大きな差が目立つ。首都圏・阪神圏市民、北京・上海・広州3都市民とも2023年調査結果より数字を落としており、特に2023年調査の21.3%から10ポイント以上下げた北京・上海・広州3都市民の環境問題に対する関心の低下が激しいことを示している。
(博報堂調査レポート「日本・中国・アセアン・インドの9カ国調査 第3回「グローバル定点2025」から)
海外勤務や買い物に薄い関心
このほか北京・上海・広州3都市民、首都圏・阪神圏市民とその他の国との違いがはっきり出ている項目がいくつかある。「海外で働くことに抵抗はない」が最も少なかったのは首都圏・阪神圏市民の10.3%、次いで少なかったのは北京・上海・広州3都市民の13.7%(最大はフィリピンの50.1%)。「幸せが欲しい」は最低が首都圏・阪神圏市民の20.5%で、次いで少なったのが北京・上海・広州3都市民の26.4%(最大はインドネシアの51.4%)。「買い物にかける時間を増やしたい」は最低が首都圏・阪神圏市民の10.2%で、次いで少なかったのは北京・上海・広州3都市民の13.8%(最大はインドの40.1%)となっている。
このうち「買い物にかける時間を増やしたい」人が最も多かったインドについて博報堂生活総合研究所はインドの研究員の次のような見方を明らかにしている。「近年の著しい経済発展を背景に、新興国特有の物質的な豊かさを求める傾向が出ている。世帯所得が将来的に増え続ける期待感の高さからローンを組んで買うことへの心理的ハードルの低さもあり、少し背伸びをした買い物ができるので購買意欲が増していると考えられる」
同研究所はインド以外についての見方は示していないが、「世帯所得が将来的に増え続ける期待感」が日本の大都市圏市民だけでなく中国の大都市民でも薄れたことがこうした結果からうかがえそうだ。
意識変化研究結果他にも
博報堂生活総合研究所は「グローバル定点調査」以外にも、中国市民の意識や行動の変化を調べるいろいろな調査を実施している。16の大都市民を対象に新型コロナ感染への対応を調べた2020年5月の調査では、投資や資産運用、貯金をした人が新型コロナ感染発生前より多い55%だったなど、将来に備えようとする意識が高まっていることを明らかにしている。2021年8月には「博報堂生活綜研・上海」と「中国伝媒大学広告学院」との共同研究で、中国の多くの若者たちが不透明感も増す社会を生き抜くために自分を着実に成長させたいという意識を抱いているという興味深い見方を提示している。当時流行っていた若者のライフスタイルを指す言葉「躺平(タンピン=寝そべり)」は、のんびり過ごそうとする若者のライフスタイルを指すのではなく、身近な仲間と戦ったり、仲間の嫉妬や比較対象になるのを避けるための隠れ蓑にすぎない、と指摘していた。
さらに2023年1月には、今後10年間の希望する居住地としてこれまでのような大都市一極集中傾向が薄れ、小都市に移住したい、あるいは多拠点生活を始めたいと考える人たちが増えているという6000人を対象とした調査結果を、同じ「博報堂生活綜研・上海」と「中国伝媒大学広告学院」との共同研究結果として公表している。
関連サイト
博報堂「日本・中国・アセアン・インドの9カ国調査 第3回「グローバル定点2025」実施」
関連記事
2023年06月13日 経済・社会「物質的豊かさ重視の大都市民 北京、上海、広州生活者調査」
2023年01月16日 経済・社会「大都市居住指向に変化の兆し 気候・環境、娯楽、歴史・文化も重視」
2021年12月24日 取材リポート「「遠圏」とのつながり重視 中国若者の向上心に変化」
2020年12月28日 取材リポート「中国人の買物意識内面的尺度重視に 博報堂、中国伝媒大学の共同研究で判明」
2020年06月25日 取材リポート「感染第2波警戒と節約志向 博報堂の中国市民意識調査で判明」