【22-11】中国躍進、研究力バランス変化 英教育誌世界大学ランキング
小岩井忠道(科学記者) 2022年10月17日
英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」(THE)は12日、「世界大学ランキング2023」を公表した。上位200位内に入った中国本土の大学数は、一昨年の7、昨年の10からさらに増えて11。米国、英国、ドイツに次いで多い国となった(前年はオランダと同数の5位)。米国の大学の研究力優位が薄れ、中国が米国に迫ってきたことを示す結果で、世界の研究力バランスが変化する兆し、とTHEはみている。
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2023」「World University Rankings 2022」から作成):数字の前の=は、同順位(タイ)を示す | |||
国・地域 | 大学数(前年) | 最上位大学名 | 最上位大学の世界ランキング順位 |
米国 | 58(58) | ハーバード大学 | 2 |
英国 | 28(28) | オクスフォード大学 | 1 |
ドイツ | 22(22) | ミュンヘン工科大学 | 30 |
中国 | 11(10) | 清華大学 | 16 |
オーストラリア | 10(12) | メルボルン大学 | 34 |
オランダ | 10(10) | ワーゲニンゲン大学 | 59 |
カナダ | 7(7) | トロント大学 | 18 |
スイス | 6(7) | スイス連邦工科大学チューリヒ校 | =11 |
韓国 | 6(6) | ソウル大学 | 56 |
香港 | 5(5) | 香港大学 | 31 |
スウェーデン | 5(5) | カロリンスカ研究所 | 49 |
フランス | 4(5) | PSL研究大学 | 47 |
200位内に中国から11大学
THEの世界大学ランキングでは近年、アジア・太平洋地域の大学が評価を上げているのが目立つ。ランキング上位200位内に入った大学を見ると、今回もオーストラリアの2大学が消えただけでほとんど同じ大学が並んでいる。16位の清華大学、17位の北京大学に続き、19位にシンガポール国立大学、31位に香港大学、34位にメルボルン大学と、順位にわずかの変動はあるものの上位5大学は昨年と同じ顔ぶれ。多くの中国の大学が前年より順位を上げており、特に前年401-500位という評価だった四川大学が196位に急浮上しているのが目を引く。
国・地域別では中国の11大学に次ぎ、オーストラリア10、韓国6、香港5、シンガポール2、日本2、ニュージーランド1、台湾1の大学が入った。
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2023」「World University Rankings 2022」、「QS World University Rankings2023」から作成 | ||||
世界順位 | 前年順位 | QSランキング 2023順位 |
大学名 | 国・地域 |
16 | =16 | 14 | 清華大学 | 中国 |
17 | =16 | 12 | 北京大学 | 中国 |
19 | 21 | 11 | シンガポール国立大学 | シンガポール |
31 | =30 | 21 | 香港大学 | 香港 |
34 | 33 | 33 | メルボルン大学 | オーストラリア |
36 | 46 | 19 | 南洋理工大学 | シンガポール |
39 | =35 | 23 | 東京大学 | 日本 |
44 | 57 | 57 | モナシュ大学 | オーストラリア |
45 | 49 | 38 | 香港中文大学 | 香港 |
51 | 60 | =34 | 復旦大学 | 中国 |
52 | 84 | 46 | 上海交通大学 | 中国 |
53 | =54 | =50 | クイーンズランド大学 | オーストラリア |
=54 | 58 | 41 | シドニー大学 | オーストラリア |
56 | =54 | 29 | ソウル大学 | 韓国 |
58 | 66 | 40 | 香港科技大学 | 香港 |
62 | =54 | 30 | オーストラリア国立大学 | オーストラリア |
67 | =75 | =42 | 浙江大学 | 中国 |
68 | 61 | 36 | 京都大学 | 日本 |
=71 | 70 | 45 | ニューサウスウェールズ大学 | オーストラリア |
74 | 88 | 94 | 中国科学技術大学 | 中国 |
78 | =151 | 73 | 延世大学 | 韓国 |
79 | 91 | =65 | 香港理工大学 | 香港 |
88 | 111 | 109 | アデレード大学 | オーストラリア |
=91 | 99 | =42 | KAIST | 韓国 |
=95 | =105 | 133 | 南京大学 | 中国 |
=99 | =151 | 54 | 香港城市大学 | 香港 |
=131 | =132 | 90 | 西オーストラリア大学 | オーストラリア |
133 | =143 | 137 | シドニー工科大学 | オーストラリア |
=139 | =137 | 87 | オークランド大学 | ニュージーランド |
=163 | =185 | 71 | 浦項工科大学 | 韓国 |
=166 | =162 | =226 | 南方科技大学 | 中国 |
=170 | =122 | 99 | 成均館大学 | 韓国 |
173 | 157 | 194 | 武漢大学 | 中国 |
174 | =178 | =197 | 蔚山科学技術大学 | 韓国 |
175 | 192 | =195 | マッコーリー大学 | オーストラリア |
=176 | 181 | 306 | 華中科技大学 | 中国 |
=187 | =113 | 77 | 国立台湾大学 | 台湾 |
=196 | 401-500 | =406 | 四川大学 | 中国 |
THEが、今回のランキングの特徴として詳しく紹介しているのが、中国の研究力の高まりを示す評価結果。過去5年間で中国の大学の研究者の論文が他の研究者に引用される数は増え続けており、直近の1年間でさらに顕著になっている。清華大学、北京大学に次いで高い評価を得た復旦大学と上海交通大学は前年の60位から51位、84位から52位に大きく順位を上げた。この理由についてTHEは、論文の被引用数に関する評価が主要な要因となって総合評価を大きく伸ばしたことによるとしている。
論文の被引用数からは研究者個人や大学・研究機関、さらには国・地域の研究の質を定量的に評価することが可能。被引用数から中国の追い上げが顕著であることが明らかになった一方、過去5年間で米国の被引用数が低下していることにTHEは注目している。総合評価点数も中国の大学は2022年から2023年の間に平均1.6ポイント上昇したのに対し、米国の大学は0.1ポイントの上昇にとどまった(世界全体の平均増加率は0.7ポイント)。こうした数字に加え、中国政府は20年以上にわたって一貫して高等教育や研究開発に投資している、との英国の研究者のコメントも紹介してTHEは、米国の大学の研究優位が薄れ、世界の研究力のバランスに変化の兆しが見えてきたとの見方を示した。
国際性で低評価に懸念の声も
一方、THEの評価法の中で全体の配点比率は7.5%と大きくはないが国際性を見る項目がある。外国人学生の比率、外国人スタッフの比率、国際共著論文数の三つから成るが、この国際性の評価に関しては中国の大学に問題が生じている点もTHEは指摘している。2022年から2023年にかけて、中国の大学がこの三つの評価点数を落している結果だ。教育、研究の充実度評価ではいずれも90点以上、論文引用数評価も、88.0点、企業からの収入評価では100点という高い点数を得ている清華大学も、国際性評価では40.3点に留まる。前年の50.6点からさらに点数を落としているのが目立つ。北京大学も65.0点と、総合評価では劣るシンガポール国立大学、香港大学、メルボルン大学がいずれも90点を超す高い評価点を得ているのと比べると、評価の低さは明らかだ。
中国の大学にみられる国際化の衰退は短期的現象と見る研究者の声を伝える一方、中国との協力が停滞することは多くの国にとって大きな不利益になるとする英国大学関係者の懸念もTHEは紹介している。
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2023」「World University Rankings 2022」から作成) | |||||||
世界順位 | 総合評価 | 教育評価 | 研究評価 | 論文引用数 評価 |
企業収入 評価 |
国際性 評価 |
|
清華大学 | 16 (=16) |
88.2 (87.5) |
90.1 (88.1) |
97.4 (95.7) |
88.0 (86.8) |
100 (100) |
40.3 (50.6) |
北京大学 | 17 (=16) |
88.1 (87.5) |
92.5 (91.4) |
96.7 (94.6) |
80.4 (81.7) |
91.8 (93.1) |
65.0 (65.1) |
シンガポール 国立大学 |
19 (21) |
87.1 (85.2) |
76.4 (76.3) |
93.0 (90.6) |
90.2 (87.3) |
87.0 (75.4) |
94.0 (94.4) |
香港大学 | 31 (=30) |
78.5 (78.9) |
65.6 (66.2) |
74.1 (72.2) |
92.4 (95.0) |
60.6 (58.5) |
98.7 (98.8) |
メルボルン大学 | 34 (33) |
77.6 (77.8) |
67.1 (67.5) |
75.9 (73.8) |
85.8 (88.4) |
78.1 (74.9) |
93.6 (94.0) |
日本の大学低評価変わらず
今回の結果であらためて明らかになったのが、日本の大学の順位の見劣り。高等教育の世界的評価機関であるクアクアレリ・シモンズ(QS:Quacquarelli Symonds)が今年6月に公表した「世界大学ランキング2023」では、上位100位内に日本からは東京大学、京都大学、東京工業大学、大阪大学、東北大学の5大学が入っている。オーストラリア7、中国、韓国の各6、香港の5と比べて、自慢できるとはいえないものの、THEほど大きく見劣りする結果とはなっていない。
この理由としては、QS大学ランキングが教育と研究の質をみる「学術関係者の評価」を重視している評価法の違いが指摘されている。「学術関係者の評価」は13万人を超す高等教育に関わる世界の学術関係者に尋ねた調査結果に基づくもので、総合評価に占める配点比率も40%と最も高い。このほか、7万5,000人以上の雇用主にその大学が有能な卒業生をどれだけ送り出しているかを尋ねた調査結果を基にした「雇用者評価」、さらに「教員一人当たりの論文被引用数」、「学生一人当たりの教員比率」、「外国人教員比率」、「留学生比率」と、全部で6項目の指標により大学を評価している。
これに対しTHEの世界大学ランキングはQSランキングと違い評価指標が13項目と倍以上多い。「博士号取得者と学士号取得者の比率」や「博士号取得者数と教職員数の比率」、さらに教員一人当たりの研究助成金などの収入、論文数、国際共著論文数、産業界からの収入といったQSランキングにはない評価項目が含まれている。学術関係者や雇用主に尋ねた結果と異なり、数字ではっきり示される定量的な評価指標が多い評価手法ともいえる。
上位200位内に東京大学と京都大学しか入っていない状況は2016年から続いており、今回の「THE世界大学ランキング2023」でも変化はない。上位301-350位まで広げても、東北大学、大阪大学、名古屋大学、東京工業大学の4大学が加わるだけだ。評価項目ごとの点数をみると、THEランキングで日本大学の評価が低い理由が分かる。論文引用数評価と国際性評価の点数が悪く、総合評価に大きく響いていることだ。特に論文引用数評価の見劣りが目立つ。中国、シンガポール、香港、オーストラリアの上位大学の論文引用数評価が80点台、90点台であるのに対し、東京大学は前年の58.2から55.5、京都大学も58.3から52.3と点数を落としたのを初め、東北大学、大阪大学、名古屋大学、東京工業大学もすべて前年より点数を落とし30点台という低い評価点しか得られていない。
中国に向かう世界の頭脳循環
被引用数が多い注目度の高い論文数が減っていることは、8月に科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2022」でも明らかになっている。被引用数がトップ10%の論文数(※)の国際比較で日本は前年の10位から12位、トップ1%の論文数(※)も9位から10位にそれぞれ順位を下げた。中国が前年、トップ10%論文で米国を追い抜き一位になったのに続き、今回はトップ1%の論文数でも米国を抜いて1位になったのと比べても、日本の研究力の低下は明らかと言える。
(※ 2018-2020年の年平均、分数カウント法による)
THE世界大学ランキング2023の結果について、中国の科学技術状況に詳しい科学ジャーナリスト、倉澤治雄氏(元日本テレビ北京支局長)は、今回の結果について次のように話している
「研究力の評価をみると清華大学はオクスフォード大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学に次ぐ世界4位で、北京大学も6位。東京大学は16位で、シンガポール国立大学の13位より下だ。清華大学は大学生より大学院生の数が多く、研究人材の供給源としては日本の大学をはるかに上回る。世界の頭脳循環は間違いなく中国に向かっている」
(タイムズ・ハイヤー・エデュケーション「World University Rankings 2023」「World University Rankings 2022」から作成) | |||||||
世界順位 | 総合評価 | 教育評価 | 研究評価 | 論文引用数 評価 |
企業収入 評価 |
国際性 評価 |
|
東京大学 | 39 (=35) |
75.9 (76.0) |
88.1 (86.9) |
91.4 (90.3) |
55.5 (58.2) |
86.7 (88.1) |
43.3 (42.0) |
京都大学 | 68 (61) |
68.0 (69.6) |
77.5 (78.5) |
79.1 (78.9) |
52.3 (58.3) |
88.6 (80.8) |
40.5 (38.2) |
東北大学 | 201-250 (201-250) |
51.2-54.3 (50.4-53.9) |
59.1 (56.6) |
62.3 (58.7) |
36.8 (37.8) |
94.5 (97.2) |
51.1 (49.5) |
大阪大学 | 251-300 (301-350) |
48.9-51.1 (46.1-48.0) |
54.3 (51.9) |
60.9 (52.1) |
31.8 (33.9) |
96.4 (90.2) |
42.2 (38.4) |
名古屋大学 | 301-350 (351-400) |
47.0-48.7 (44.1-46.0) |
48.4 (44.3) |
54.1 (48.0) |
39.7 (41.4) |
99.2 (97.9) |
35.8 (35.4) |
東京工業大学 | 301-350 (301-350) |
47.0-48.7 (46.1-48.0) |
49.7 (49.7) |
58.2 (56.2) |
31.0 (33.2) |
80.0 (80.7) |
50.0 (46.2) |
関連サイト
Times Higher Education (THE) 「World University Rankings 2023」
「QS World University Rankings 2023: Top global universities」
科学技術・学術政策研究所 「科学技術指標2022」
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