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【21-25】人文・社会科学も中国評価押上げ 英誌世界大学評判ランキング

2021年11月02日 小岩井忠道(科学記者)

 英国の教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が10月27日、「世界大学評判ランキング2021」を発表した。中国の大学の評価が急上昇していることは、THEが別途、毎年公表している「世界大学ランキング」でも明らかだが、今回の公表に当たってTHEは、人文・社会科学分野で国際的評価を高めている中国の大学名を挙げ、中国の大学の評価が引き続き上がっていることをあらためて強調している。

「世界大学評判ランキング」の評価法は、世界各地の経験豊富な学者から自身の専門分野で教育と研究面に関し最も優れていると評価する大学をそれぞれ最大15挙げてもらう調査を基にしている。今回の「世界大学評判ランキング2021」には、2020年11月から2021年2月にかけて実施された調査と、前年同時期に実施された前回調査を合わせた約2万2,000の回答が評価に用いられた。

英語での論文発表が高評価に

 THEが今回のランキング結果の特徴を挙げた中で目を引くのは、中国の大学が人文・社会科学分野でも世界の有力学者による評価が高まっているという指摘。51-60位の復旦大学は、物理科学分野でも世界の学者からは27パーセントの評価点数を得ているが、芸術・人文科学分野の学者から得た18パーセントの評価点数が大学の総合的な評価を押し上げる大きな原動力になっている、とTHEはみている。各専門分野で世界の有力学者から最も優れた大学と評価された回数が最も多い大学が満点の100点を得、2位以下には1位の大学が得た回数に対する比率(パーセント)が評価点数として与えられる。復旦大学に対する中国国内の学者による評価では、芸術・人文科学分野よりビジネス・経済や臨床・健康分野に対する評価の方が高かった。

 また昨年の176-200位から126-150位に順位を上げた北京師範大学は、世界の社会科学系の学者から47パーセント、芸術・人文科学系の学者から18パーセントの評価点数を得ている。南京大学も、世界の芸術・人文科学系の学者から49パーセントの評価点数を集めたが、国内からの評価点数の大半は物理科学やビジネス・経済学の学者からで、国内外の評価に大きな差がある。中国国内の人文科学系の学者が北京師範大学や南京大学を最も優れている大学と評価するケースはほとんどなかった。

「社会科学や人文学の分野で優れている中国の大学の多くは、主に中国語で研究している。復旦大学、北京師範大学、南京大学は、中国のトップ大学の中では珍しくサイエンス以外の分野で英語での研究を得意としている。それが人文・社会科学分野で国際的評価が高く、国内大学からの評価が低い理由と考えられる」。THEは、高等教育が専門のサイモン・マーギンソン(Simon Marginson)英オックスフォード大学教授のこのような見方を紹介している。同教授は同時に「中国で盛んな研究分野は依然としてSTEM(理学、技術、工学、数学)」と、中国の大学の評価を高めている主たる理由が理工系の研究力向上にある実態も認めている。

アジアの大学に高い評価

 THEが9月に公表済みの「世界大学ランキング2022」に比べ、アジア地域の大学の順位が軒並み高いのも目を引く。10位の清華大学(「世界大学ランキング2022」では16位)、13位の東京大学(同35位)、15位の北京大学(同16位)、27位の京都大学(同61位)、41位のソウル大学(同54位)、50位の上海交通大学(同84位)、同じく50位の浙江大学(同75位)をはじめ、上位200位内で「世界大学ランキング2022」より順位が低くなっているアジア・太平洋州の大学は、シンガポール、香港、オーストラリアの大学だけ。中国、日本、インド、台湾の大学はすべてあるいはほとんどが「世界大学ランキング2022」より高い評価を得ており、ごく一部の大学が同等の順位となっている。

「世界大学評判ランキング2021」では、近年、低迷が続く日本の大学の評価もだいぶ異なる。東京大学、京都大学以外でも71-80位の大阪大学(「世界大学ランキング2022」では301-350位)、91-100位の東北大学(同201-250位)、101-125位の東京工業大学(同301-350位)、126-150位の北海道大学(同501-600位)、同じく126-150位の名古屋大学(同351-400位)など上位200位内に入った11大学がすべて「世界大学ランキング2022」より順位を上げている。数からみても「世界大学ランキング2022」では、上位200位内には東京大学と京都大学しか入っていなかったから違いは大きい。

「世界大学評判ランキング2021」上位200位内のアジア・太平洋地域大学
(THE World Reputation Rankings 2021, THE World Reputation Rankings 2020,THE World University Rankings 2022から作成:=は同順位の存在を示す)
世界順位 前年順位 世界大学
ランキング
2022順位
大学名 国・地域
10 13 =16 清華大学 中国
13 10 =35 東京大学 日本
15 16 =16 北京大学 中国
24 24 21 シンガポール国立大学 シンガポール
27 23 61 京都大学 日本
=41 45 =54 ソウル大学 韓国
46 39 33 メルボルン大学 オーストラリア
=48 51-60 =30 香港大学 香港
=50 51-60 84 上海交通大学 中国
=50 61-70 =75 浙江大学 中国
51-60 51-60 60 復旦大学 中国
51-60 61-70 88 中国科学技術大学 中国
61-70 71-80 =54 オーストラリア国立大学 オーストラリア
61-70 51-60 46 南洋理工大学 シンガポール
61-70 =40 =113 国立台湾大学 台湾
61-70 51-60 58 シドニー大学 オーストラリア
71-80 61-70 301-350 大阪大学 日本
81-90 61-70 99 KAIST 韓国
81-90 81-90 =54 クイーンズランド大学 オーストラリア
81-90 81-90 =122 成均館大学 韓国
81-90 126-150 =151 延世大学 韓国
91-100 91-100 66 香港科技大学 香港
91-100 126-150 301-350 インド理科大学院 インド
91-100 71-80 57 モナシュ大学 オーストラリア
91-100 101-125 =105 南京大学 中国
91-100 71-80 201-250 東北大学 日本
101-125 中国科学院大学 中国
101-125 101-125 49 香港中文大学 香港
101-125 81-90 301-350 東京工業大学 日本
101-125 91-100 70 ニューサウスウェールズ大学 オーストラリア
126-150 176-200 251-300 北京師範大学 中国
126-150 101-125 501-600 北海道大学 日本
126-150 126-150 91 香港理工大学 香港
126-150 176-200 インド工科大学ボンペイ校 インド
126-150 101-125 351-400 名古屋大学 日本
151-175 301-350 中南大学 中国
151-175 151-175 301-350 華東師範大学 中国
151-175 501-600 ハルビン工業大学 中国
151-175 181 華中科技大学 中国
151-175 151-175 601-800 慶應義塾大学 日本
151-175 151-175 201-250 高麗大学 韓国
151-175 401-500 四川大学 中国
151-175 176-200 301-350 同済大学 中国
151-175 176-200 801-1000 早稲田大学 日本
151-175 151-175 157 武漢大学 中国
176-200 インド工科大学デリー校 インド
176-200 176-200 インド工科大学マドラス校 インド
176-200 126-150 501-600 九州大学 日本
176-200 301-350 国立陽明交通大学 台湾
176-200 176-200 501-600 筑波大学 日本
176-200 176-200 401-500 西安交通大学 中国

 アジア・太平洋地域で最上位(10位)の清華大学より上の大学は、以下の通り。1位ハーバード大学、2位マサチューセッツ工科大学、3位オックスフォード大学、4位スタンフォード大学、5位ケンブリッジ大学、6位カリフォルニア大学バークリー校、7位プリンストン大学、8位イェール大学、9位カリフォルニア大学ロサンゼルス校。「世界大学ランキング2022」とほとんど同じ米国と英国の大学が並んでいる。

研究の評判に教育の倍の重み

 THEは毎年、さまざまな大学ランキングを公表している。「世界大学ランキング」は、教育(指導・学習環境、評判)、研究(質・量、収入、評判)、論文被引用数(研究成果の影響度)、国際性(外国人職員・学生比率など)、産業界からの研究収入(知識移転活動)を評価指標とし、大学の力量を総合的に評価している。「世界大学評判ランキング」の評価法は、「世界大学ランキング」の評価指標のうち教育と研究に対する「評判」に関する評価結果だけを取り出したものだ。論文引用率や外国人職員・学生の比率など数量的評価が可能な指標が大きな部分を占める「世界大学ランキング」と、経験豊富な世界の有力学者による評価に基づく「世界大学評判ランキング」の結果は、だいぶ異なる。

「世界大学評判ランキング2021」に用いられた最新の調査は、2020年11月から2021年2月にかけて実施され、128カ国・地域の学者から合計1万963件の回答を得ている。この調査結果は9月に公表された「世界大学ランキング2022」にも使われているが、「世界大学評判ランキング」では、同じ調査結果でも配点の重みづけが異なる。「世界大学ランキング」では研究に関する「評判」の配点比率が全体の18%で、教育に関する「評判」の配点比率は15%。配点比率に大きな違いはないが、「世界大学評判ランキング」では、「研究」が「教育」に対して倍、重視されるように配点比重の変更が行われている。回答者が「研究」の質についてより正確な判断をする能力があるとみての修正、とTHEは説明している。

 さらに世界の学者の分布を反映するよう国連のデータも参考に回答を分野別、地域別に公平に配分するといった調整も施されている。調査に回答を寄せた学者の専門分野は、物理科学(14.6%)、臨床・健康(14.5%)、生命科学(13.4%)、ビジネス・経済(13.1%)、工学(12.7%)、芸術・人文科学(12.5%)、社会科学(8.9%)、コンピュータサイエンス(4.2%)、教育(2.6%)、心理学(2.6%)、法学(0.9%)という比率。地域別ではアジア・太平洋地域からの回答が39.1%を占め、西欧が24.3%、北米が21.7%、東欧が6.3%、ラテンアメリカが4.2%、中東が2.4%、アフリカが2%となっている。

アジア、西欧の学者で評価法に差

 THEは、どのような種類の出版物やメディアが大学への評価に影響するかを調査に回答を寄せた学者に尋ねた結果も明らかにしている。アジアの学者は、西欧の学者に比べて、出版物やメディアの情報源に基づいて大学を高く評価する傾向がある。特に中国を拠点とする学者は、学術誌から影響を受ける可能性が最も高い。80%がデジタル学術誌、82%が印刷された学術誌が自分の意見に影響を与えている、と回答した。日本の学者も、デジタル学術誌と印刷された学術誌から大きな影響を受けていると答えた人が、それぞれ76%と71%に上る。

 一方、西欧の学者は、出版物やメディアの情報源が自分の評価に与える影響は非常に小さいと考えている。フランスの学者は、学術誌で読んだ研究に基づいて大学を高く評価する傾向が最も低く、デジタルや印刷媒体の学術誌が影響を与えたと答えたのは41%以下。最も優れた大学を選ぶ方法に、地域によってこうした違いがある実態も明らかになった。

関連サイト

Times Higher Education「World Reputation Rankings 2021

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