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【22-14】高被引用論文著者5年で倍増 中国トップ米国との差縮める

小岩井忠道(科学記者) 2022年11月28日

 国際学術情報サービス会社「クラリベイト」は、多くの研究者に引用された価値の高い論文を特に多数発表した研究者6,938人を「高被引用論文著者リスト2022年版」として11月15日、公表した。2位の中国は人数1,169人、世界に占める比率(シェア)16.2%と、いずれも前年より増え、トップ米国との差をさらに詰めた。5年前に比べると、高被引用論文著者数の世界に占める比率は倍に高まっている。

高被引用論文著者の選出国・地域
(Clarivate 「Clarivate Names World's Influential Researchers with Highly Cited Researchers 2022 List」、同2021から作成:シンガポールは前年10位外)
世界順位
(前年順位)
国/地域 高被引用論文著者数
(前年数)
シェア(%)
(全年%)
シェアの変化
(2018-2022)
1(1) 米国 2,764(2,622) 38.3(39.7) -5.0
2(2) 中国 1,169(935) 16.2(14.2) 8.3
3(3) 英国 579(492) 8.0(7.5) -1.0
4(5) ドイツ 369(331) 5.1(5.0) -0.8
5(4) オーストラリア 337(332) 4.7(5.0) 0.7
6(7) カナダ 226(196) 3.1(3.0) 0.4
7(6) オランダ 210(207) 2.9(3.1) -0.2
8(8) フランス 134(146) 1.9(2.2) -0.7
9(10) スイス 112(102) 1.6(1.5) -0.6
10(-) シンガポール 106 1.5 0.2

 米国は2,764人と世界全体の38.3%を占め、依然として研究の影響力で世界をリードしている状況は変わらない。高被引用論文著者が所属する大学・研究機関も、233人が選出された米国のハーバード大学が昨年から119人増やし、今年もトップを譲らなかった。このほか、スタンフォード大学126人(3位)、米国立衛生研究所(NIH)113人(4位)、マサチューセッツ工科大学71人(6位)、カリフォルニア大学サンディアゴ校66人(8位)、ペンシルベニア大学62人(10位)と、10位内に六つの大学・研究機関が入っている。

 しかし、世界全体に占める米国の高被引用論文著者の比率は前年の39.7%から38.3%に減った。5年前の2018年に比べると5ポイントも下がっている。米国を拠点とする高被引用論文著者の世界に占める比率は徐々に低下していることが分かる。

 一方、中国は2019年に英国を抜いて初めて2位に浮上した後も前進は止まらない。高被引用論文著者数は、前年の935人から1,169人に増え、世界全体に占める比率も14.2%から16.2%に高めた。2018年に比べると、8.3ポイント増と5年間で倍増している。

 中国の研究力向上は、高被引用論文著者を多数出している所属機関の比較からも見て取れる。一昨年、スタンフォード大学を抜いて3位から2位に浮上した中国科学院は、前年の194人から228人に増やし2位を堅持した。昨年は20人劣っていたハーバード大学との差も5人にまで縮めている。一昨年、99人(9位)と初めて10位内に入った清華大学も昨年の58人(8位)から、今年は73人(5位)とさらに数を増やし、順位も上げた。

高被引用論文著者の所属機関
(Clarivate 「Clarivate Names World's Influential Researchers with Highly Cited Researchers 2022 List」から作成)
順位 高被引用論文著者所属機関名 国・地域 高被引用論文
著者数
1 ハーバード大学 米国 233
2 中国科学院 中国 228
3 スタンフォード大学 米国 126
4 米国立衛生研究所 米国 113
5 清華大学 中国 73
6 マサチューセッツ工科大学 米国 71
7 マックス・ブランク研究所 ドイツ 67
8 カリフォルニア大学サンディエゴ校 米国 66
9 オクスフォード大学 英国 63
10 ペンシルベニア大学 米国 62

 クラリベイト社の高被引用論文著者リストは、同社の学術文献引用情報データベース「Web of Science Core Collection」に蓄積されている前年12月までの11年間に作成された論文の中から、他の研究者に引用される回数が21の研究分野でそれぞれ上位1%に入る論文から著者名をまず選び出す。そのリストから高被引用論文著者が主要な研究機関として指定した所属研究機関と所在国・地域を特定している。従って所在国・地域の高被引用論文著者がすべて当該地域の国籍を有するとは限らない。今年は69国・地域から6,938人が選ばれた。

 日本はどうか。クラリベイト社の資料を見ると、今年の高被引用論文著者には10位のシンガポールより16人少ない90人の名前が挙がっている。高被引用論文著者の選出国・地域としては2014年には5位だったのが2015年には8位に下がり、2016年、2017年は辛くも10位にとどまっていた。しかし、2018年以降、10位内に浮上したことはなく、今回も復帰はならなかった。

 同社は日本について、政府の研究開発費の国内総生産(GDP)比は比較的高い水準にあるにもかかわらず高被引用論文の生産性は依然として低い。国際協力も見劣る、と厳しい評価をしている。

関連サイト

クラリベイト・アナリティクス・ジャパン 「世界最高峰の研究者を選出した高被引用論文著者リスト2022年版を発表

クラリベイト・アナリティクス・ジャパン 「自然科学・社会科学分野における世界最高峰の研究者を選出した高被引用論文著者リスト2021年版発表

Clarivate 「Clarivate Names World's Influential Researchers with Highly Cited Researchers 2022 List

Clarivate 「Highly Cited Researchers

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