第167号
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中国政府文旅部が発表したアフターコロナの旅行対策

2020年8月18日

山谷剛史

山谷 剛史(やまや たけし):ライター

略歴

1976年生まれ。東京都出身。東京電機大学卒業後、SEとなるも、2002年より、中国では雲南省昆明市を拠点とし、中国のIT事情(製品・WEBサービス・海賊版問題・独自技術・ネット検閲・コンテンツなど)をテーマに執筆する。日本のIT系メディア、経済系メディア、トレンド系メディアなどで連載記事や単発記事を執筆。著書に「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか?中国式災害対策技術読本」「中国のインターネット史:ワールドワイドウェブからの独立」(いずれも星海社新書)など。

 中国では観光業がコロナ禍により大きな影響を受けている。日本は「GoToキャンペーン」を行ったが、中国は旅行再開に伴うルールを発表した。中国政府文化和旅遊部(文旅部)は7月20日、観光業を復活させるための指針「文化和旅遊部弁公庁関于推進旅遊企業拡大復工復業有関事項的通知」を発表した。同通知では、それ以前に発表された観光地の再開ルールが示された「旅游景区恢復開放疫情防控措施指南」と、旅行社の再開ルールが示された「旅行社有序恢復経営疫情防控措施指南」が引用されている。これらは特に地域を跨いだ団体旅行の受け入れを行うために観光地側がやるべきことが書かれている。

 まず「文化和旅遊部弁公庁関于推進旅遊企業拡大復工復業有関事項的通知」では、「旅行市場の規範化」「観光地の管理強化」「(アフターコロナでの)モラルある旅行の宣伝」「応急処置能力の向上」「安全な旅行の実現」の5つについて書かれている。それぞれ具体的には、

「旅行市場の規範化」:新しい発展の理念を持ち、オンラインとオフラインを融合して復興に勤める。自社自商品の監督を強化する

「観光地の管理強化」:観光地のゴミの分別と人の導線の消毒を強化する

「モラルある旅行の樹立」:モラルある旅行のスタイルを宣伝し、旅行者の新コロ対策への意識を高める。野生動物を食べず、衛生意識を高め、理性ある消費を目指し、食事では他人と料理をシェアすることなく、ひとり一食、取り箸取りスプーン制とする。

「応急処置能力の向上」:応急訓練をすることで、リスク評価などを行う

「安全な旅行を実現」:各施設内設備の安全検査を強化する。旅行団体に患者が発生したら緊急応対をするとともに、施設を一時的に閉鎖する

となる。

 次に観光地側の再開ルールが示された「旅游景区恢復開放疫情防控措施指南」について記す。大きく「観光客の地域による入場制限」「応急態勢を整えること」「観光管理強化」「緊急事態の対応」に分けられる。

 観光地の開放で要求されることは具体的には以下のようになる。

「観光客の地域による入場制限」:高リスク地の観光地は暫定的に閉鎖し、低リスクの観光地は開放できるかどうか地元政府が判断する。また自発的に宣伝をして感染防止意識を高める。

「応急態勢を整えること」:スタッフの健康管理と移動記録をとり、感染が起きている地域からのスタッフは在宅隔離か医学観察を行う。スタッフは観光地に入る前に体温検査をする。またスタッフは感染者が出たときの訓練をし、応急処置の知識能力をつける。

「勤務規範の厳格化」:「マスクをかぶり、手を洗い、距離を保つ」を実行し、社員食堂での食事はタイミングをずらして集中しないよう防ぐ。会議は減らし、1会議あたりの時間を短くする。

「観光地での対策」:一定の条件の観光地では薬や防護物質を用意しておき、緊急医療施設と連絡がとれるようにしておく。観光地の交通や設備の安全検査を行う。

「観光管理強化」:チケット予約や導線の管理など科学的な手法で流量をコントロールする。チケット購入はオンラインで入園時のチケットチェックはQRコードを活用し接触を減らす。実名登記に加え観光地を訪問したルートも登録させる。入園時には体温をチェックし間隔をあけて入園をさせる。園内の食堂は割り箸など使い捨ての食器を利用する。スタッフを増やし監視を強化しモラルなき客に注意する。オフィシャルサイトやSNSで対新型コロナ対策の宣伝を行う。

「緊急事態時」:緊急事態になった時は、隔離措置を行い、接触者を追走し、消毒を行う。一時的に園を閉鎖し、状況が回復したら再開する。

 最後に旅行社側の再開ルールが示された「旅行社有序恢復経営疫情防控措施指南」について記す。

 旅行社の旅行前の事前準備については、各地の政府と共産党委員会が同意した後、ホテルと航空券を予約する旅行業務が許可される。中国国内の中危険、高危険エリアと認定された地域への旅行予約業務や、外国旅行業務は暫定的にできない。旅行社は厳格に各地方政府の要求に従い、団体人数は少なめにして、合理的なルートやスケジューリングを行うようにする。各地の旅行部門は衛生部門と提携すること。旅行社は電子レポートを全国旅行監督管理サービスプラットフォームに登録すること。旅行社は先に旅行の目的地と顧客の居住地域の衛生部門を把握し、連絡方法を事前に把握しておくこと。ホテル、レストラン、観光地などと提携し情報を連絡する。応急処置時の対応などトレーニングをしておく。

 旅行では人が集中しないように、時間や地域を分けて観光地に入るなど工夫する。交通やレストランやホテルやお土産屋などの提携先と協力して感染防止対策に勤め、提携先は風通しをよくしておく。各観光地では、「限量(人を制限)」「予約をすること」「混雑ピークを生まないこと」を実践する。感染者の疑いがある人がいたら、旅行社は団体旅行を即中止し報告すること。また応急処置を施し、患者を隔離し、密接接触者を把握する。

 また旅行社は防護用品を準備しておく。ドライバー、ガイド、客に対して、使い捨ての医療用マスク(か、それに相当するマスク)、ハンドソープ、使い捨て手袋、消毒薬を用意すること。火元や電源の近くに置かないよう、混ぜないように注意し、定期的に検査し、補充すること。提携するバスやホテルやレストランに対しては消毒を促し、旅行客に対しては「マスク着用、手洗い、距離を保つ」ことを促す。顧客の情報を収集し健康状態を書いてもらうほか、体温などをチェックし旅行申し込み時に(アプリによる)健康コードの状態をチェックし、再度PCR検査を行う。体温に異常がある旅行客は参加を禁止とする。

 ガイドは客に対して、マスク着用し距離を置くよう客に説明する。また旅行が終了した後も行程表などは保管しておく。ガイドなどスタッフは健康記録表をつける。毎日体温をはかり健康状態を掌握する。体調不良があればすぐに近くの医療機関に診療をしてもらう。

 こうしたことが書かれている。観光地(ホテルとレストランとお土産屋含む)と旅行社とガイドとドライバーにそれぞれ新型コロナ禍で守るべきルールが作られ実践されることになる。ただし、この通知にあるように、実現にはハードルが高く運用コストは高くなり、多くの旅行者が同時に動けないため、以前のような旅行はしばらく実現できなさそうだ。また外国人が中国を観光することは現時点では難しく、日本在住者についても新型コロナ感染者数が中国並に減らない限り、観光は難しいと思われる。

 観光地では入園や入場時に事前に予約するわけだが、これは早速各種アプリで実装されている。場所によりアリババ(阿里巴巴)系のアリペイ(支付宝)での対応だったり、テンセントのウィーチャット(微信)のミニプログラム(微信小程序)だったり、生活サービスの美団点評のアプリだったり、市の独自のアプリだったりと、企業や行政による勢力争いがあり、旅行者としては行く先々での対応アプリで事前に調べなければいけない。新型コロナウイルス対策で登場した「消費促進電子クーポン」や、滞在地域の感染情報が含まれるQRコード「健康コード」について、どのアプリを利用するか統一するという動きもないので、しばらくは行政とネット企業大手によるシェア争いのようなことが発生し、旅行者は不便を強いられることだろう。

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