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【15-002】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(20)

2015年 1月28日

金 振

金 振(JIN Zhen):
科学技術振興機構中国総合研究交流センター フェロー

1976年 中国吉林省生まれ
1999年 中国東北師範大学 卒業
2000年 日本留学
2004年 大阪教育大学大学院 教育法学修士
2006年 京都大学大学院 法学修士
2009年 京都大学大学院 法学博士
2009年 電力中央研究所 協力研究員
2012年 地球環境戦略研究機関(IGES) 特任研究員
2013年4月 IGES 気候変動・エネルギー領域 研究員
2014年4月より現職

 2015年1月1日より、新規事業に係る汚染物質排出枠管理制度が正式にスタートした。この制度の導入によって、今後、すべての事業者は、新規事業(プラント、設備等の導入)の導入に際し、排 出枠の事前調達が求められる。調達できない場合、新規事業の着工は禁止される。本制度は外資系企業も規制対象にしているため、中国ビジネスに関わっている日本企業への影響は少なくない。

(6)汚染物質排出枠管理制度 

(6.1)制度の概要

 2014年12月31日、中国環境保護部は、「建設項目主要汚染物排放総量指標審核及管理暫行弁法」という重要な規則(日本の省令に相当)を発表した。本規則は、環境影響評価制度の認定要件として、事 業者に、工場の設置や新規設備の導入等によって想定される将来汚染物質排出量(以下、想定排出量)の相殺に相当する代替可能排出枠の調達を義務付けた。代替可能排出枠とは、事 業者が削減努力等を通じて調達した余剰排出枠のことであり、想定排出量の相殺に供することが認められたものに限る(以下、新規事業排出枠)。

 本制度の対象汚染物質には、国が第12次5ヵ年計画上において主要汚染物質と指定した化学的酸素要求量(COD)、アンモニア窒素、二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)、が含まれる。また、大 気汚染重点対策地域の場合、工業粉塵や揮発性有機物も対象汚染物質に含まれる( シリーズ(Ⅵ) を参照)。

本制度の位置づけ

 本制度は、中国政府が精力的に推進している汚染物質総量削減政策を支える重要な規制である。周知のように、中国では汚染物質総量削減目標達成責任制度( シリーズ(Ⅲ)を参照)を導入しており、地 域ごとの汚染物質排出枠は制限されている。地 域における排出枠は、国から配分した地域削減目標(例えば、北京市の場合、2015年まで、NOxおよびSO2の排出総量を2010年比でそれぞれ12.3%、1 3.4%の削減が求められる)に 基づき計算される。地方政府は、排出枠に基づき、地域削減計画を策定する。地方政府は広範な裁量権の下、地域削減計画を通じ、排出枠を下級地方政府や業種(鉄鋼業、セメントなど)に 割り振る。最終的に、こ れらの排出枠は事業者・事業所レベルまでに細分化される(図1および シリーズ(19) を参照)。

図1

図1 国家汚染物質目標配分および企業排出枠取得に関するプロセス

典拠:国務院通達「建设项目主要污染物排放总量指标审核及管理暂行办法」(環発[2014]197号)等に基づき、金が作成
http://www.mep.gov.cn/gkml/hbb/bwj/201501/t20150106_293856.htm

 既存の制度の場合、事業者の排出枠は、環境保護所管部署が所管している汚染物質排出権許可制度(以下、排出権許可制度。図1の①)を介して取得していた。新規事業、既存事業に関わらず、事業者は、環 境保護所管部署に対し、次年度の生産活動に必要な年間排出枠を申請し、受理機関による許可をもって排出枠を確保する(図1の①)。主要汚染物質排出権許可制度は、生産許可申請の前置手続として位置づけるため、こ の時点における排出枠の取得義務は、実質上、生産許認可の要件に相当する。

 これに対し、本規則では、新規事業排出枠取得手続を排出権許可制度から切り離し、環境影響評価申請段階に移行させた。環境影響評価申請手続は、新規事業許認可申請受理・許可の要件となるため、新 規事業排出枠が調達できない事業の着工行為、生産行為は禁止される。この段階における排出枠は、実質上、新規事業および生産許可の許認可要件に当たる(図1の②)。

新規事業排出枠の取得

 注意すべきは、新規事業排出枠は、事業者の削減努力等によって捻出した削減量と引き換えたものである点である。事業者は、3つのルートを通じて新規事業排出枠を確保することができる。

自らの削減努力

 2011年以前に生産活動を開始した事業者が、第12次5ヵ年計画期間中(2011年~2015年)において実施した削減努力(生産設備の処分、削減機器の導入など)の日時を基準に達成できた削減量は、新 規事業排出枠として認められる。

削減量取引による取得

 2007年より、汚染物質削減量取引制度を導入した11のモデル地域(天津市、河北省、内モンゴルなど)では、取引所を介して購入した削減量を新規事業排出枠として認められる。

「前借」による取得

 古い生産設備(工場)を代替するための新規事業に限り、当該新規事業の実施によって達成可能な想定削減量を削減枠として「前借」することができる。