第十二次五カ年規画における緑色発展の実態と動向
はじめに
1980年、「改革開放の父」と呼ばれる鄧小平氏は、日本の「所得倍増計画」に学び、中国版「所得倍増計画」を提唱した。その後、中国国民の所得は飛躍的に増大した。1 980年から2010年までの30年間に、中国のGDP年成長率は9%に達し、1人あたりの所得は313米㌦から4200米㌦へと約13倍に増加した。さらに、2011年3月の第11期全国人民代表大会第3回会議で承認された「国民経済・社会発展第12次5ヵ年規画綱要」では、2015年までに1人あたりの所得を再び倍増させることを明確に提示した。日 本など先進国の経済が低迷するなかで、中国経済は日増しにその重要性を高めている。
そうした一方で、急速な成長は莫大な代価を支払った。中国の環境問題は深刻であり、すでに世界最大の汚染源の1つとなっている。環境汚染と生態破壊は中国国内に止まらず、国際問題にまで発展している。清華大学公共管理学院国情研究所所長の胡鞍鋼教授は、こうした「黒色発展」を、鄧小平氏の「黒猫論」に帰結させてしまうことは誤解であると指摘している。
黒猫論:
鄧小平が1960年代にはじめに言った「黒猫であれ白猫であれ、鼠をとるのが良い猫である」は、毛沢東の政策を批判したものである。当時、こうした「黒猫論」が実施されるには至らなかったが、毛沢東の死後、鄧小平の考えは政策に活かされ、「二つのすべて」(毛沢東の決定したことはすべて支持し、毛沢東の指示はすべて変えない)の束縛から解き放たれ、経済改革がスタートした。仮に「黒猫論」で中国の改革開放を要約するのであれば、異なった時期には異なった色の猫を必要とすると言うべきである。毛沢東時代は「紅猫論」、鄧小平時代は「黒猫論」であったが、現在は「緑猫論」とも言うべき新たな改革を必要としている。新しいグリーン(緑色)経済の発展と炭素の排出削減にあたって、仮に毛沢東や鄧小平が生きていれば、単に平和であるというだけでなくグリーンの国際環境を創造しなければならないという考えに同意するはずである。 [1]
中国経済はエネルギーの大量消費、二酸化炭素の大量排出の上に成り立っている「高炭素経済」と言える。国際エネルギー機関(IEA)が2009年9月に公表したデータによると、2007年の中国の二酸化炭素排出量は米国を抜いて世界一になった。中国の国際的影響力はますます拡大し、国際社会の関心と批判の対象になっている。しかしさらに重要なことは、環境負荷、エネルギー不足及び二酸化炭素の排出問題に対する圧力は主に中国内部に起因するということである。
中国の政府と学者は、これまで先進国が100年余りをかけて成し遂げた工業化を20~30年という短期間で達成するという「急速工業化路線」にしたがい、工業化、都市化を完成させ、十数億の中国国民の物質生活及びサービスレベルを中程度の先進国水準まで引き上げるというロードマップを描き出している。
しかし中国が今後も大量のエネルギー消費、大量の二酸化炭素の排出をベースにした経済発展を続けた場合、資源と環境の面において経済成長に伴う巨大な要求を満足することができるかどうかが問題となる。加えて、気候変動と省エネ・排出削減問題において、中国はまさに国際的、国内的な圧力に直面している。
国家発展改革委員会能源(エネルギー)研究所の戴彦徳副所長は、「世界的に広く使用されてきた在来型の石油、天然ガスなどの資源は逓減期に入り、交通分野における代替燃料の重大な改良・進歩、再生可能エネルギーの急速な成長が予想される。こうした変化は中国の長期的なエネルギー需要や二酸化炭素の排出に関する不確実性を拡大すると考えられる」と指摘している。
こうしたなかで、「国民経済・社会発展第十二次五カ年規画綱要」では、「経済発展方式の転換」を加速し、同時に「グリーン発展」をキーワードとして、「循環経済」、「低炭素技術」、「環境・生態保護の持続可能性」を今後の新たな発展の指針とすることが明記された。同綱要で提示された「グリーン発展」という考えは、中国における経済・社会の発展パターンを根本的に転換するものであり、世界経済に与える影響も非常に大きい。
もう1つ銘記する必要があるのは、「グリーン発展」にあたって、中国政府が科学技術にきわめて高い期待をかけているという点である。科学技術部が2011年7月13日に公表した「国家『第12次5ヵ年』科 学技術発展規画」では、新しいタイプの省エネ・環境保護技術や新エネルギー技術のブレークスルーを加速し、「グリーン」、「クリーン」、「低炭素」という新たな発展段階にステップを進める方針を打ち出した。
同規画では、自主イノベーション(創新)能力を大幅に引き上げ、科学技術競争力と国際的な影響力を顕著に強化するとともに、重点分野における基幹技術の取得でブレークスルーを達成することによって、経済発展方式の転換を加速するという発展目標を掲げている。また、産業構造のアップグレードを推進し、経済発展方式の転換を加速するにあたって戦略的新興産業の育成・発展が重要な意義を持つとの考えから、戦略的新興産業の発展を支える重要な共通技術のブレークスルーを達成することを科学技術発展の優先的任務とするとの考えを明らかにしている。
[1] 「気候変化的政治経済学」(胡鞍鋼)、「低炭経済学」(薛進軍編著、2011年、社会科学文献出版社)
第十二次五カ年規画における 緑色発展の実態と動向
目次
- 1.1 「第11次5ヵ年」期の回顧
- 1.2 「第12次5ヵ年規画」の解読
- 2.1 グリーン発展
- 2.2 グリーン発展の科学技術政策
- 3.1 工業部門
- 3.2 商業・民生部門
- 3.3 交通運輸部門
- 3.4 農業部門
- 4.1 省エネ・排出削減目標の各地区への配分
- 4.2 主な地方政府の政策
- 4.3 各地の低炭素都市計画
- 5.1 エネルギー需給
- 5.2 二酸化炭素排出量の現状
- 5.3 低炭素エネルギー
- 6.1 「第11次5ヵ年」期の環境保護実績
- 6.2 固形廃棄物
- 6.3 土壌汚染
- 6.4 自然生態
- 6.5 草原・森林
- 6.6 「第12次5ヵ年」期の環境対策
- 7.1 低炭素技術
- 7.2 環境保全分野
- 7.3 資源環境分野
- 7.4 自然生態管理分野
- 7.5 低炭素技術特許の国際比較
- 8.1 日本
- 8.2 米国
- 8.3 EU
- 8.4 クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ