第十二次五ヶ年計画における緑色発展の実態と動向
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第5章 エネルギーの現状と見通し

第5章 エネルギーの現状と見通し

5.1 エネルギー需給

 中国では1人あたりのエネルギー消費量は近年着実に増加しているものの、OECD加盟の先進国と比べるとまだ相当の開きがある。しかし、米エネルギー情報局(EIA)が2011年9月に公表した「 2011年版世界エネルギー見通し」(International Energy Outlook 2011)によると、国全体では2009年に米国を上回り世界最大のエネルギー消費国になった。また、同 見通しによると、2035年には中国のエネルギー消費量は米国の1.7倍に達すると予測されている。

 中国の一次エネルギー消費構成は、他の国と比べると大きな違いがある。エネルギー消費量が多い上位9ヵ国のエネルギー構成を見ると、中国以外の国は最大のエネルギー源が占める割合は高くても50%を わずかに上回る水準にあるのに対して、中国では最大のエネルギー源である石炭に依存する割合が70%を超えている。このことが、深刻な環境問題の大きな要因となっている。

 一方、中国の一次エネルギー生産は2000年から2009年の間に2倍以上に増えたが、エネルギー消費の伸び率が上回っているため、需給に不均衡が生じている。エ ネルギーの輸入量も大きく増加してきており、石油の対外依存度は2010年末時点で55%に達した。

第5-1-1図

5.2 二酸化炭素排出量の現状

 中国の二酸化炭素排出量は急激に増加してきており、1980年には15億1000万㌧であったものが2000年:30億4000万㌧、2008年:65億1000万㌧へと拡大した。国際エネルギー機関( IEA)によると、2007年には米国を抜いて世界最大の二酸化炭素排出国となった。中国の二酸化炭素排出量が急速に増加している背景には、エネルギー消費量の拡大がある。また、一 次エネルギーに占める石炭の割合が高いことも大きな理由である。

 中国は全体として見れば世界最大の二酸化炭素排出国であるが、1人あたりの排出量では先進国と比べるとはるかに少ない。2008年の実績を見ると、米国18.6㌧、カナダ15.5㌧、日本9.29㌧、O ECD平均10.6㌧であるのに対して、中国は世界平均の4.42㌧をわずかに上回る4.91㌧に過ぎない。

第5-2-1図

5.3 低炭素エネルギー

(1) 水力発電

 水力発電は現在、再生可能エネルギーの柱になっており、再生可能エネルギー全体の約80%を占めている。中国は水力資源が豊富であり、理 論的資源量6億9400万kWのうち技術的に開発可能な量は5億4200万kW、年間発電量は2兆5000億kWhに達する。

 改革開放以来、中国の水力発電は急速に発展を遂げ、1978年当時1867万kWであった設備容量は2000年には7935万kWに拡大した。中国は2001年以降、電力の体制改革を推進し、水 力発電開発を積極的に進め、三峡等の大型水力発電プロジェクトを続々と建設、運転した。2010年末時点では水力発電設備容量は2億1000万kWに達し、2000年から1.7倍に増え、世 界最大の水力発電国となった。一方で、中国の水力資源開発利用率は40%に達しておらず、先進国の開発水準と比べるとはるかに低い。

 中国の水力発電資源は非常に豊富であるが、西部地域に偏在している。設備容量全体の81.4%が西部に、残りの13.7%が中部、4.9%が東部にある。このため、西 部の水力発電所で作られた電力を東部に供給する「西電東送」が一般的になっている。現在、東部地区と中部地区に加えて、西部地区の広西や重慶、貴州の水力資源開発は基本的に終了しているが、雲南や四川、青海、チ ベットではまだ開発のポテンシャルはある。

(2) 石炭火力

 石炭火力発電所における省エネと排出削減のポテンシャルは非常に大きく、低炭素技術を利用してどのように低エネルギー消費や低汚染の目標を達成するかが最大の関心になっている。中国では現在、火 力発電所のエネルギー転換効率を高めるため、火力発電所の排出削減技術に関して、超臨界(SC)、超超臨界(USC)、循環流動床(CFB)、石炭ガス化コンバインドサイクル発電(IGCC)、ガスタービン・コ ンバインドサイクル(GTCC)、電・熱併給(コジェネレーション)、電・熱・冷三連給(トリジェネレーション)等の研究開発を行っている。

 この中でも積極的に推進しているのが超臨界技術であり、この技術は火力発電所における石炭消費量の低減に貢献している。中国は、超臨界及び超超臨界技術の海外からの導入及び共同での製造によって、こ れらの技術を短期間で掌握し国産化を達成している。

 中国では1980年以降、発電所での熱効率の上昇に伴い石炭消費量が着実に低下しており、1980年当時にはkWhあたり413g(標準炭換算)であったものが2008年には322gまで、約22%も 低下した。

第5-3-1表

(3) 原子力発電

 中国では、2011年8月末時点で運転中の原子力発電所は14基・1188.8万kWとなった。また、同時点で建設中の原子力発電所は、合計27基・2949万kWに達し、他 の国を大きく引き離してトップにある。

中国では現在、国家発展改革委員会が2007年11月に公表した「原子力発電中長期発展規画(2005~2020年)」の改訂作業が行われており、2 020年の目標が当初の4000万kWから8600万kW程度に上方修正されるとの見方が出ていた。しかし、2011年3月11日の巨大地震・津波によって引き起こされた福島第一原子力発電所の事故は、中 国の原子力発電開発に影響を及ぼすことが必至な情勢となった。

 温家宝首相は2011年3月16日、国務院常務会議を召集し、原子力安全の重要性と緊急性を認識するとともに、原子力発電開発にあたっては安全確保を最優先とすることが強調された。また、以 下の4件の決定が行われた。

-中国国内の原子力施設に対して全面的な安全検査を直ちに行う:

 全面的かつ細部に及ぶ安全評価によって、トラブルの可能性を厳重にチェックするとともに適切な措置を施し、絶対的な安全を確保する。

-運転中の原子力施設の安全管理を確実に強化する:

 原子力施設の所在地の関係機関は制度を健全にするとともに操作規程を厳格化し、運転管理を強化しなければならない。管理・監督部門は監督検査を強化するとともに、トラブルを直ちに発見、処 理するよう企業を指導しなければならない。

-建設中の原子力発電所を全面的に審査する:

 建設中のすべての原子力発電所の安全評価を最先端の基準を用いて行うとともにトラブルの可能性を整理・改善し、安全基準に一致しないものについては直ちに建設を中止しなければならない。

-新規に着手する原子力発電プロジェクトについては厳格に審査のうえ承認する:

 「核(原子力)安全規画」の制定に努力を払うとともに「核電(原子力発電)中長期発展規画」の改訂を完全なものとし、「核安全規画」が承認されるまでは、(実行可能性調査などの)前 期作業の実施を含めた原子力発電プロジェクトの審査・許可を一時中止する。

 原子力発電所の建設を拡大するという中国政府の基本的方針は変わっていないが、安全確保に軸足を移すなかで、開発スピードのスローダウンは避けられない情勢となっている。

(4) 天然ガス

 中国では、エネルギーの高度な利用を実現する天然ガスを利用したコジェネレーション(電・熱供給)やトリジェネレーション(電・熱・冷供給)に対する期待が高まってきている。

 国家エネルギー局は2010年4月に公表した「『天然ガス分散式エネルギーを発展させる指導意見』」に対する意見募集に関する書簡」の中で、全国の都市において分散式エネルギーシステムの利用を推進し、2 020年までに設備容量を5000万kWに拡大するとともに、各地域の特徴を踏まえて10ヵ所程度の分散式エネルギー実証地区を建設する考えを明らかにしている。

(5) 新エネルギー

① 太陽エネルギー

 中国の太陽エネルギー利用はスタートしたばかりであり、発展を阻む2つの課題をクリアしなければならない。まず、太陽光発電については在来の火力発電に比べて4~5倍、風 力発電と比べても2~3倍というコストを削減する必要がある。また、送電網への接続及び高い効率のエネルギー貯蔵技術を開発し、太 陽エネルギー発電等の間歇性のエネルギーが持つ弱点を克服することが求められている。

 そうしたなかで、国家発展改革委員会は2011年3月27日、「産業構造調整指導目録2011年版」(「産業結構調整指導目録(2011年本)」)を公表し、中 国政府として太陽エネルギー開発を積極的に進めていく方針を打ち出した。具体的には、以下の4件が「奨励」項目としてリストアップされた。

  • 風力発電と太陽光発電の相互補完系統技術開発・応用
  • 太陽熱発電の集熱システム、太陽光発電システムの統合技術の開発応用、インバータ制御システムの開発製造
  • 太陽エネルギー建築一体化ユニットの設計・製造
  • 高効率の太陽熱温水器及び熱水プロジェクト、太陽熱中高温利用技術の開発・設備製造

② 風力発電

 国家発展改革委員会能源研究所の戴彦徳副所長によると、陸上部と近海部を合わせて開発可能な風力発電資源は9億5000万kWに達すると推定されている。風力発電資源が比較的豊富な地域は、東 南部沿海地区及びその付近の島嶼ならびに東北、華北、西北地区などである。内陸部では、湖沼や特殊な地形の影響によって豊富な地点もあるが、近海部の風力発電資源が非常に豊富である。

 国家電力監管委員会が2011年8月に公表した「2010年度発電業務情況通報」によると、送電網に接続されている風力発電設備容量は2010年末時点で2958万kWに達した。なお、送 電網に接続されていない分を含めると、中国の風力発電設備は2010年末時点で約4470万kWとなっており、米国を上回って世界1位である。

 中国では現在、東北や華北、西北と東南部沿海地区に多数の風力発電所が建設されている。このうち、出力10万2000kWの上海東海大橋海上風力発電所は、ア ジア初の洋上風力発電所として2010年6月に運転を開始した。同発電所は、年間2億6000万kWhを発電し、年間8万3000㌧の標準炭を代替するだけでなく、二 酸化炭素の排出量を21万㌧抑制すると期待されている。

第5-3-1図

③ バイオマス

 中国では、大中規模のメタンガス技術も着実に改良されてきていることに加え、農村部でのメタンガス利用も拡大している。キ ャッサバやサトウモロコシ等の非食糧系のバイオマス由来の液体燃料についても技術的なブレークスルーを達成し、大規模な利用がスタートしている。

 2010年末現在、中国のバイオマス発電設備容量は450万kWに達した。このうちメタンガス発電設備が80万kWを占めており、2020年には150万kWまで拡大するとみられている。また、ゴ ミ燃焼発電設備容量は50万kWに達しており、2020年までには200万kWに拡大するとの見通しがある。 [1]

 バイオマス・エネルギー産業は、風力発電や太陽光発電と比べると、発展が初期段階にあり、産業としての成熟度が低い。バイオマス・エネルギーの発展が遅れている理由としては、バ イオマスのエネルギー密度が低いことに加え、資源が分散していること、季節性が強いことなどがあげられている。こうしたことから、大 規模かつ集中的に利用するにあたってはバイオマス資源を大量に調達しなければならないため、輸送や貯蔵などの面で制約がある。

 中国のバイオマス利用技術は、国際的なレベルと比べると相当の開きがあり、非常に多くの中核技術や設備を輸入に依存している。産業チェーンが不完全なことに加えて産業体系も脆弱で、自 主イノベーション能力を強化する必要に迫られている。バイオマス・エネルギーは典型的な分散式エネルギーであるため、従来のエネルギー管理方式を適用できないという問題もある。

④ その他

 中国の大規模地熱開発はスタートが遅れたため、開発技術や総合利用システム技術、熱利用効率及び科学的管理の分野では、先進国と比べるとまだ開きがある。地熱資源の開発利用は、中 国のエネルギー安全保障に一定の役割を果たすだけでなく、エネルギー供給構造を最適化するうえで重要な意義を持っている。 [2]

 中国の地熱資源探査・開発については統一的な政策や資金面での支援、管理法規、技術基準などが整備されていないため、一層の地熱資源開発のためには政府による基盤整備が必要となっている。

 国土資源部の関鳳峻・地質環境司長は2011年4月22日、第12次5ヵ年期において地熱調査・開発利用プロジェクトをスタートすることを明らかにした。同氏は、2 015年までに全国の地熱エネルギー利用は2×1018ジュールに達し、エネルギー消費量全体の1.7%を占めるとの見通しを示した。これは6880万㌧の標準炭に相当するだけでなく、二 酸化炭素の排出量を1億8000万㌧抑えることができると試算されている。 [3]

 中国の潮汐エネルギーの理論的埋蔵量は1億1000万kWに達すると推定されている。沿海部でもとくに東南部沿海地域でのエネルギー密度が比較的大きく、平均潮位差では4~5m、最 大潮位差では7~8mに達する。このうち、浙江省と福建省の埋蔵量が最大で、全国の約81%を占めている。 [4]

 潮汐発電産業の発展を阻害している最大の要因はコストが高いということと、潮汐発電所に対する政府の奨励・優遇政策がないことである。

 国家発展改革委員会が2011年3月27日に公表した「産業構造調整指導目録2011年版」(「産業結構調整指導目録(2011年本)」)では、「海洋エネルギーと地熱エネルギーの利用技術の開発・設 備製造」が「奨励」項目に盛り込まれ、中国政府として海洋エネルギーと地熱エネルギー開発に力を入れる考えであることを明らかにした。


[1]「低炭素能源与新能源」(劉利、廖華、魏一鳴、北京理工大学能源与環境政策研究中心、2011年4月)

[2]「低炭素能源与新能源」(劉利、廖華、魏一鳴、北京理工大学能源与環境政策研究中心、2011年4月)

[3] http://www.gov.cn/xwfb/2011-04/22/content_1850484.htm

[4]「低炭素能源与新能源」(劉利、廖華、魏一鳴、北京理工大学能源与環境政策研究中心、2011年4月)