第十二次五ヶ年計画における緑色発展の実態と動向
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第2章 「第12次5ヵ年」期におけるグリーン発展の位置づけ

2.1 グリーン発展

 「国民経済・社会発展第12次5ヵ年規画綱要」は、GDPの年平均伸び率を7%として、2015年までに1人あたりの平均所得を倍増するというシナリオを描いている。そのためには、大量のエネルギーを必要とするが、さらに大きな環境負荷をもたらす。従って、国際的な圧力もあるが、省エネ・汚染物質の排出削減とグリーン経済の発展は、中国の発展にとって不可欠となる。

 清華大学国情研究所所長で、「第12次5ヵ年規画」専門家チームのメンバーでもある胡鞍鋼教授は、中国で最も早く「グリーン(緑色)発展」の概念を提唱した学者の1人である。同氏のこの理念は中国政府に受け入れられ、「第12次5ヵ年規画」のキーワードとなった。中国のグリーン発展戦略は、新技術の開発、生活様式の革新、環境整備方法の革新などによって、経済成長に伴う温室効果ガスの排出を増加させずにむしろ減少させるというものである。

 「第12次5ヵ年規画綱要」では、初めて 「グリーン発展」がテーマとして掲げられ、資源節約型、環境友好型社会の構築が言及された。具体的には、資源環境の制約に直面しながら危機意識を高めてグリーン、低炭素の発展理念を確立するとともに、省エネ・汚染物質の排出削減を重点として奨励と制約構造の健全化を図り、資源節約、環境友好的な生産様式と消費モデルの構築を加速し、持続可能な発展能力を強めて生態文明のレベルを高めるというものである。グリーン発展戦略は、「第12次5ヵ年規画綱要」の中で、以下の6本の柱で構成されている。

  • ①世界の気候変動に積極的に対応する
  • ②資源節約と管理を強化する
  • ③循環型経済を強力に発展させる
  • ④環境保護を拡大する
  • ⑤生態保護と生態修復を促進する
  • ⑥水利と災害防止・軽減体系の構築を強化する

 「第12次5ヵ年規画綱要」では、グリーン指標の比重がさらに高められた。具体的には、「単位国内総生産あたりの二酸化炭素排出削減」が追加されたほか、「主要汚染物質の排出削減」に「アンモニア性窒素」と「窒素酸化物」新たに加わった。資源環境指標を合計すると全部で12あるほか、間接的なグリーン指標が5項目ある。この中には、工業からサービス業への産業構造の転換も含まれる。

 「第12次5ヵ年規画綱要」では、グリーン発展の奨励と制約を明確にしたうえで、資源型製品の価格と環境保護のための料金徴収改革を中心に据えた。また、省エネ・汚染物質の排出削減目標の責任審査を強化するとともに、合理的にエネルギー消費量を抑制し、グリーン発展のもとで一貫して経済活動を行う方針を鮮明に打ち出した。

 また「第12次5ヵ年規画綱要」では、初めて生態安全戦略を実行する考えを示した。これは、開発行為を制限、禁止する地域に厳格な生態保護を実施し、生態安全を保障するものである。さらに、エコ・スクリーンの配置を明確にし、生態修復特定プロジェクトを実施して、960万km2の生態環境を保護することを明らかにした。

第2-1-1表

2.2 グリーン発展の科学技術政策

(1) 「第12次5ヵ年」科学技術発展規画

 科学技術部は2011年7月4日、「国家『第12次5ヵ年』科学技術発展規画」(「国家"十二五"科学和技術発展規劃」)をとりまとめ、同7月13日に公表した。国家発展改革委員会、財政部、教育部、中国科学院中国工程院国家自然科学基金委員会中国科学技術協会、国家国防科技工業局等、関連部門と共同で策定したもので、新しいタイプの省エネ・環境保護技術や新エネルギー技術のブレークスルーを加速し、「グリーン(緑色)」、「クリーン」、「低炭素」という新たな発展段階にステップを進める方針を明らかにしている。

 同規画では、自主イノベーション能力を大幅に向上させ科学技術競争力と国際的な影響力を顕著に強化するとともに、重点分野における基幹技術の取得でブレークスルーを達成することによって、経済発展方式の転換を加速するという発展目標を掲げている。具体的には、第2-2-1表に示す科学技術発展指標を示した。

第2-2-1表

 また、「国家科学技術重大特別プロジェクト」を科学技術活動のうちでも最も重要なものと位置付けたうえで、戦略的新興産業を育成、発展させるという当面の要求に照らして、国家科学技術重大プロジェクトの調整を行う方針を打ち出した。

 国務院が2006年2月に公表した、中国の科学技術政策の基本方針を示した「国家中長期科学技術発展規画(2006~2020年)」では、全部で16件の重大特別プロジェクトが選定されていたが、今回公表された「国家『第12次5ヵ年』科学技術発展規画」では、以下の11件に整理された。

  • 重要電子部品、ハイエンド汎用チップ及び基本ソフトウェア
  • 超大規模集積回路製造設備及び一体化工程
  • 次世代ブロードバンド・モバイル通信
  • ハイグレードNC工作機械・基礎製造設備
  • 大型油田・ガス田及び炭層ガス開発
  • 大型先進PWR及び高温ガス冷却発電所
  • 水系汚染抑制・管理
  • 遺伝子組み換え生物新品種の育成
  • 重大新薬の開発
  • エイズ・ウィルス性肝炎等の重大伝染病の予防・治療
  • 大型飛行機等、その他の国家重大科学技術プロジェクトの組織的な実施

(2) 国家環境保護「第12次5ヵ年」科学技術発展規画

 環境保護部は2011年6月9日付けで「国家環境保護『第12次5ヵ年』科学技術発展規画」(「国家環境保護"十二五"科技発展規劃」)を関係機関に通知した。「国家中長期科学技術発展規画綱要(2006-2020年)」と「国民経済社会発展『第12次5ヵ年』規画綱要」に基づいて策定されたもので、環境分野の科学技術イノベーション能力を向上することを目標として掲げている。

 「国家環境保護『第12次5ヵ年』科学技術発展規画」では、先進国の環境科学技術水準と比べるとまだ大きな開きがあるため、大気汚染防止や流域水の環境保護、農村の生態環境保護、重金属汚染防止、汚染土壌の修復、突発的な環境事象に対応するための科学技術能力をさらに高めるとの方針を打ち出した。また同規画は、環境保護産業全体としてのイノベーション能力が劣っているほか、加工材料や設備水準も立ち遅れているとの認識を示した。

 このほか、新しいタイプの複雑な環境問題を解決するための基礎研究や応用研究が十分でないことに加えて、環境科学技術分野のイノベーション能力が弱く、人材も不足している現状を明らかにしている。

 こうしたことから同規画では、①国家環境科学技術の理論体系の構築、②汚染防止技術成果と実証プロジェクトの成果実現、③国家環境管理戦略を満足する技術支援の提供、④環境科学技術分野で必要とされるイノベーション能力の構築――を目標として掲げるとともに、水汚染防止や大気汚染防止、生態環境保護、固体廃棄物汚染防止、土壌汚染防止、クリーン生産と循環経済、環境と健康、環境監督・管理技術、環境基準・標準、原子力・放射線安全、地球環境問題研究、戦略的新興環境保護産業育成――を12の重点分野として指定した。

 さらに、こうした分野における「第12次5ヵ年」期の重点任務を遂行するため、国家環境保護重点実験室と国家環境保護工程技術センター、国家環境保護野外観測研究ステーションを建設する方針も示した。

 なお、12の重点分野における科学技術活動に加えて、重点実験室、工程技術センター、野外観測研究ステーションの建設のため、国として約220億元(地方政府や企業、国際協力資金は含まない)の経費の投入が必要になると見込まれている。このうち、重点分野の科学研究業務に210億元、重点実験室等の建設に10億元が配分されるとみられている。

第2-2-2表