第3章 部門別に見た重点課題

 中国政府は「第11次5ヵ年」期間中、各分野の省エネ・排出削減を実質的に進展させるため、経済や法律・法規、行政などの措置を総合的に運用し、価格や財政、税収、金融、通貨及び産業政策・措置を策定した。とくに、政府による投資の規模や範囲も拡大したため、同期間中には中央財政だけで投資額が2232億元に達した。このうち、エネルギー効率の向上への投資は961億元となり、同期における省エネ目標の達成に大きく貢献した。

3.1 工業部門

 「中国能源統計年鑑2010」によると、工業部門のエネルギー消費量は2005年以来、全体の70%以上を占めており、主要汚染物質である化学的酸素要求量(COD)と二酸化硫黄の排出量は、それぞれ全体の約40%と90%を占めている。一方、工業増加値は、中国のGDPの40%程度を占めているため、工業分野の省エネが「第11次5ヵ年」期における省エネ目標の実現を大きく左右する形になった。

 中国は、同期間の省エネ目標として掲げた20%(程度)を達成するため、工業部門における既存の省エネ目標責任制や立ち遅れた生産能力の閉鎖政策を実施するとともに、省エネの新しいメカニズムを構築した。

 そうした一環として、2009年以来、「能効対標活動」が実施に移された。これは、エネルギー効率の向上を目的として、内外の同業の先進企業のエネルギー効率指標との比較分析を行うとともに目標を設定し、目標以上のエネルギー効率水準を達成するという省エネ実践活動であると同時に重点業種に対する強制的活動である。具体的には、セメントや鉄鋼、化学工業等の分野において積極的に展開された。また、企業が強制的ではなく自らの意思で省エネを行う「節能自願協議」も、国有以外の企業において実施されている。

 企業の省エネ管理体系、制度も徐々に整備され重要な役割を果たした。また、国は省エネに対する資金投入を継続的に行い、各地方政府も価格や税収、融資等において工業の省エネ・排出削減に有利な経済政策をとった。

 中国の工業化、都市化の進展にともない、2000年以降、中国の工業エネルギー消費は急増した。国家統計局によると、「第10次5ヵ年」期間中、中国の工業ネルギー消費は標準炭換算で10億3000万㌧から16億9000万㌧に増加し、年平均伸び率は10.2%を記録した。

 一方で、「第11次5ヵ年」期間においては、工業部門の省エネ・排出削減事業の深化とともに、同期間の最初の4年間における工業部門のエネルギー消費の年平均伸び率は6.8%まで低下したが、増加値は年平均11.6%という伸び率を維持し、省エネの成果が顕著に現れた。

 国家発展改革委員会能源研究所によると、「第11次5ヵ年」期の最初の4年間には、一定規模以上の事業体の工業増加値あたりのエネルギー消費は累積で20.76%低減し、5億3000万㌧[1]の標準炭に相当する省エネを実現した。「第11次5ヵ年」期の最初の4年間では、単位GDPあたりのエネルギー消費は15.61%低減した。[2]

第3-1-1表

3.2 商業・民生部門

 中国では、商業用・民生用のエネルギー消費を測定・計算する公的に承認された方法がない。1つの試算[3]によると、2007年における中国の商業用・民生用分野の一次エネルギー消費は標準炭換算で約4億1000万㌧となり、全国の一次エネルギー消費総量の15.3%を占めている。内訳は商業用約1億5000万㌧、民生用約2億6000万㌧である。

 「第12次5ヵ年」期は、省エネ・排出削減目標と単位GDPあたりのエネルギー消費量の削減目標を達成する重要な期間と位置付けられている。商業・民生分野は中国のサービス業及び国民生活とも密接に関わっており、今後、エネルギー消費が顕著に増加する分野とみられている。国家発展改革委員会能源研究所の朱躍中氏は、「第12次5ヵ年」期における商業用・民生用の省エネ重点分野を以下のようにあげている。

  • 省エネ製品の「恵民工程」と「緑色照明工程」を継続的に推進し、商業・民生分野における最終用途設備のエネルギー利用効率を向上する。
  • 熱供給・冷房システムの省エネプロジェクト、1万公共機関省エネ行動、緑色ホテル・商業モール省エネモデルプロジェクト、エネルギー新団地モデルプロジェクトを実施し、各種の建築物に省エネ技術を応用し、エネルギー効率を高め、エネルギー消費を低減する。
  • 商業・民生分野のエネルギー消費統計基盤、エネルギー管理者の育成、大型エネルギー消費施設のエネルギー管理などの能力を強化する。

 さらに同氏は、「第12次5ヵ年」期に、以下の施策を講じる必要性にも言及している。

  • ①熱供給体制改革の推進
  • ②建築省エネ基準実施の強化
  • ③商業・民生分野のエネルギーシステム設計指導意見の公布
  • ④商業・民生分野の価格メカニズムと財税政策の整備
  • ⑤各部門間の協調管理メカニズムの構築

3.3 交通運輸部門

 交通運輸業の急速な発展によってエネルギー消費が大きく増加しており、中国のエネルギー供給や資源環境に大きな圧力をもたらしている。2009年には、中国の交通運輸・倉庫・郵政部門では2億2900万㌧の標準炭に相当するエネルギーを消費し、エネルギー消費量全体の7.86%を占めた。

 企業・事業団体、個人の交通関連のエネルギー消費[4]を加えると、中国の交通分野のエネルギー消費は全体のエネルギー消費量に占める割合は10~13.6%に達するとの試算もある[5]。交通運輸部門のエネルギー消費の急速な増加により、中国のエネルギー安全保障に対する圧力はますます強まっている。ちなみに中国では、2010年に石油の輸入依存度が55%に達したが、今後、輸入依存度はさらに上昇すると予測されている。

 中国政府は「第11次5ヵ年」期に、交通運輸構造の最適化や業界の技術水準の向上、組織管理の強化、統計・基準体系の整備、政策法規体系の健全化、モデルプロジェクトや特別事業の展開等、一連の政策措置を打ち出し、交通分野における省エネを推進した。中国政府の広範な取り組みが功を奏し、「第11次5ヵ年」期間中に中国の交通運輸部門での省エネは以下のような大きな成果を収めた。

  • ①総合交通運輸体系のインフラ構造の最適化
  • ②単位総合運輸量のエネルギー消費の低減
  • ③交通省エネ重点プロジェクトの推進、先進交通技術・製品の普及

 一方で、以下のような問題も明らかになっている。

  • ①高速道路の急速発展と交通運輸構造の不合理
  • ②自動車保有台数の急速な増加と公共交通の発展の立ち遅れ
  • ③公共財政投入の不足、交通省エネ管理体制の不合理

 こうしたなかで交通運輸部は2011年6月3日、総合運輸のほか道路交通、水路交通、民間航空、郵政サービス、都市旅客運輸管理等を対象とした「交通運輸『第12次5ヵ年』発展規画」(「交通運輸“十二五”発展規劃」を公表した。

 同規画は、交通運輸産業がエネルギー資源の消費と温室効果ガスの排出量から見て重点分野の1つであると位置付けたうえで、省エネと排出削減に対する国の要求に基づき、交通運輸産業での省エネと排出削減に対する任務はきわめて大きいとの考えを示している。

 さらに、持続可能な発展を基本的要求としてグリーン発展を促進することを基本原則の1つとして掲げ、グリーンで低炭素という発展理念を打ち立てるとともに、資源節約型で環境に優しい交通産業を構築することを継続して推進するとの方針を打ち出した。

 このほか、低炭素の交通運輸体系の構築加速、省エネと排出削減の強化、資源循環利用の促進、生態・環境保護の強化等を通じて、交通運輸部門におけるグリーン発展を実現するとの将来像を描き出している。「第12次5ヵ年」期の交通運輸分野の省エネ・排出削減実証・普及プロジェクトは以下の通りである。

  • ①営業用車両・船舶の燃料消費量参入・退出プロジェクト
  • ②省エネ・新エネルギー車両の実証・普及プロジェクト
  • ③グリーン運転・維持修理プロジェクト
  • ④スマート交通省エネ・排出削減プロジェクト
  • ⑤道路建設・運営にかかる省エネ・排出削減技術の普及プロジェクト
  • ⑥グリーン港建設プロジェクト
  • ⑦エネルギー管理契約普及プロジェクト
  • ⑧船舶エネルギー効率管理システム・データバンクの建設プロジェクト

3.4 農業部門

 「グリーンエネルギー県プロジェクト」は、「国民経済・社会発展第11次5ヵ年規画綱要」でも明記された新農村建設の重点プロジェクトである。具体的には、農村部での再生可能エネルギーの開発利用のペースを上げるとともにエネルギー供給構造を最適化し、農村部におけるエネルギーのクリーン化と現代化を推進して住民の生産・生活条件を改善することを目的としている。

 国家能源局、財政部、農業部は「第11次5ヵ年」期が終了する直前の2010年10月28日、各省や自治区、直轄市の推薦と専門家による審査を経て、北京市延慶県や江蘇省如東県を含めた108の県と市を「国家第一次グリーンエネルギー・モデル県」に選定した。

 「国民経済・社会発展第12次5ヵ年規画綱要」でも、「第11次5ヵ年」期と同じく、「第12次5ヵ年」期において農村部でのインフラ建設を強化するなかでエネルギー建設に重点的に取り組む方針が打ち出されている。

 具体的には、水力発電新農村電化県・小水力発電代替燃料プロジェクトの建設を継続するとともに、農村電力網改良プロジェクトを実施するほか、メタンガス、ワラや林業廃棄物を利用したバイオマス・エネルギー、風力エネルギー、太陽エネルギーを強力に発展させるとしている。

 こうしたなかで財政部、国家能源局、農業部は2011年4月6日、「グリーンエネルギー・モデル県建設補助資金管理暫行弁法」(「緑色能源示範県建設補助資金管理暫行弁法」)を各省や自治区、直轄市等に対して通知した。グリーンエネルギー・モデル県プロジェクトには以下が含まれる。

  • ①メタンガス集中ガス供給
  • ②バイオマス・ガス化プロジェクト
  • ③バイオマス成形燃料プロジェクト
  • ④その他再生可能エネルギーの開発利用プロジェクト
  • ⑤農村エネルギーサービス体系

[1] 工業・情報化部(http://www.miit.gov.cn/n11293472/n11293832/n12768545/13520040.html?_sm_au_=iVVPjRVDNT43k5QT

[2] 工業エネルギー消費と工業最終エネルギー消費:中国では、工業エネルギー消費は工業部門(一般工業部門及びエネルギー生産部門を含む。具体的に、石炭採掘と洗浄・選定、石油・天然ガス採掘、石油加工とコークス精練、電力・熱生産と供給、ガス生産と供給の5つの業種を含む)のエネルギー消費量を指す。工業最終エネルギー消費は工業エネルギー消費から加工転換及び損失を差し引いた後のエネルギー消費量を指す。

[3]「第11次5ヵ年建築物省エネ潜在力分析報告」(谷立靜、2010年)

[4] 現在の交通運輸エネルギー消費統計には、社会向けに運営される交通運輸企業だけが含まれ、工業企業内部の交通運輸のためのエネルギー消費や、企業・事業団体に帰属する車両、個人が保有する自動車のエネルギー消費は含まれていない。

[5] 耿勤(2009)、王慶一(2009)、張国伍(2010)等



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