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【14-014】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(12)

2014年 3月31日

金 振

金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員

 1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。

そのXIよりつづき)

PM2.5への自動車の影響度

 PM2.5への自動車の影響度(または貢献度)をどう評価すべきか。

 人為的な排出によるPM2.5は、一次浮遊物質(直接粒子)と二次浮遊物質に大別される。前者は、発生源から大気中に排出された直接粒子のことであり、排出された時点ですでにPM2.5(またはPM10)としての特徴を備えている。これに対し、後者は大気中に排出された硫黄酸化物や窒素酸化物、アンモニア、揮発性有機化合物(VOCs)等が光化学反応の酸化過程を経てPM2.5に変わる(本シリーズⅡを参照)。

 二次浮遊物質の典型例が二次生成有機エアロゾルである。二次生成有機エアロゾルは、その原因物質であるVOCから大気中での光化学反応によって生成される。国立環境研究所の研究によれば、日本の関東地域におけるPM2.5の約30~35%は有機エアロゾルが占めている(典拠:国立環境研究所「二次生成有機エアロゾルの環境動態と毒性に関する研究」)。

 自動車排ガスと二次生成有機エアロゾルとの関係も明らかになっている。排気ガスに含まれる環状アルケン類やアルカジエン類、あるいは窒素酸化物(NO, NO2)の混合系物質が大気中での光化学反応を経て二次有機エアロゾルに変化することが分かっている(典拠:東京都立産業技術研究センター「VOC排出対策ガイド -基礎から実践・評価法まで-」)。

 自動車部門のPM排出量(直接粒子)が国全体の5%を占めるとする政府統計結果(環境部「2012年環境統計年報」)を考慮した場合、北京市のPM2.5に対する自動車部門の影響度を4%と見積もる中国科学研究院の見解は妥当に思える(図2)。ただし、前提は、4%に該当する物質を直接粒子のみに限定する必要がある。図2に見るように、中国科学研究院は、二次エアロゾルの影響度を26%と見積もっている。従って、4%という数値は、二次エアロゾルにおける自動車の影響度を考慮していないと見るのが自然である。

図2 北京市におけるPM2.5の発生源(2009年~2010年)

図1

典拠:中国科学院物理研究所、2013年12月30日リリースした資料に基づき筆者作成

 自動車に起因するPM2.5の原因物質として、走行中に巻き上げられた道路粉塵や運搬中に発生する土砂粉塵なども考慮する必要がある。また、自動車の製造工程(製造工場)、石油化工(原油基地、製油所など)、ガソリン販売(給油所)などのプロセスにおいて排出されるVOCも考慮した場合、PM2.5への自動車の影響度は更に高まる。

克服すべき課題

 PM2.5の排出源の特定はなぜ難しいのか。

 その理由として、まず、解明されていないPM2.5の原因物質の存在が挙げられる。中国環境保護部の資料によれば、いままで特定できたPM2.5の原因物質の種類は100以上もある。しかし、それでもPM2.5関連物質のすべてを特定したわけではない(図3)。中国の場合、季節や地域によってPM2.5の原因物質の構成が異なるため、場合によっては未解明物質が全体の4割以上を占める場合もある。未解明物質の割合が大きいほど特定排出源の影響度に不確実性が増す構図はここにある。

図3 PM2.5の原因物質

図1

出典:中国環境保護部「公众防护PM2.5科普宣传册」

 次に、原因物質の生成過程の複雑さが挙げられる。PM2.5全体量の半分を占めるとされる二次浮遊物質の生成過程は非常に複雑で、いまだにその仕組みの全容は解明できていない。これも特定排出源の影響度分析における課題である。

 2013年よりPM2.5の排出源を特定するための国家プロジェクトが始動しており、2014年までにその結果が発表されるとの報道もあるが、いずれにせよ、現状では影響度に関する明確な結論は見いだせていない。