【23-14】アジアから最多の58選出 革新的企業・機関トップ100
小岩井忠道(科学記者) 2023年02月22日
国際学術・特許情報調査・コンサルティング企業「クラリベイト」が毎年、公表している最もイノベーティブな企業・機関トップ100にアジアから最多の58企業・機関が選出された。昨年に比べ4社増で「アジア諸国のグローバルイノベーションエコシステムにおけるリーダーシップは引き続き拡大している」と、クラリベイト社はみている。国・地域別では、昨年から3社増えて38社となった日本が昨年に続き最多選出国となり、2位の米国19社(昨年比1増)との差をさらに広げた。アジア地域からは日本に次いで台湾の11企業・機関(同2増)、韓国の5企業(昨年と同数)、中国本土の4企業(昨年比1減)が選ばれている。
「Top100グローバル・イノベーター2023」国・地域選出数
(クラリベイト・アナリティクス・ジャパン「クラリベイトが Top 100 グローバル・イノベーター 2023 を発表」から)
特許の保有数や影響度で評価
16日に公表された「Top100グローバル・イノベーター2023」は、過去のあらゆる発明と比べ、最も継続的に優れた業績を残している特許を持つ企業・機関100を選び、Top100グローバル・イノベーターとして明示している。選考の対象となるのは、2000年以降に500件以上の特許を出願し、かつ直近5年間で100以上の特許を登録した企業・機関。これらの企業・機関が持つ特許が他社による後続の特許出願で何回引用されたかという「影響力」と、出願された特許のうち登録された発明の数の割合をみる「成功率」、さらに世界の主要4特許庁に出願された特許数(出願にはそれぞれ費用がかかることから、特許取得に資金投入を惜しんでいないかを判断する)から見て取れる「グローバル性」など四つの指標による評価を加味して、毎年100の企業・機関がグローバル・イノベーターとして認定される。
日本から選ばれた38の企業は、2012年の第1回以来、12年連続で選出された9社をはじめこれまで何度も選出されている企業がほとんど。分野でみるとエレクトロニクス・コンピューター機器の企業が17社と飛び抜けて多い。トップ100のうちこの分野で選出された企業は26社だから、4割以上を日本企業が占めていることになる。
日本の選出企業(38社)
(「クラリベイトがTop100グローバル・イノベーター2023を発表」から)
半導体など台湾企業高い評価
半導体で世界をリードする立場にある台湾から選出された11の企業・機関を見ると、熊本県で新工場の建設が進む台湾積体電路製造(TSMC)をはじめ半導体企業4社が並ぶ。Top100グローバル・イノベーターに選ばれた半導体企業は11社で、欧米、アジアの6カ国・地域に散らばっている。台湾以外はそれぞれ1ないし2社だから、台湾の4社というのは目立つ。半導体企業の4社以外は、研究機関である工業技術研究院(ITRI)を除き、すべてエレクトロニクス・コンピューター機器企業。半導体とエレクトロニクス・コンピューター機器分野での台湾企業の国際競争力の強さを裏付けている。南亜=半導体企業、華邦電子(ウィンボンド・エレクトロニクス)=エレクトロニクス・コンピューター機器企業が初選出のほか、昨年に続き連続2回目選出企業が3社あることから、台湾の企業に対する評価が急に高まっていることもうかがえる。
(クラリベイト「Top100グローバル・イノベーター2023」から作成) | ||
友達光電(AUオプトロニクス) | 台達電子工業(デルタ・エレクトロニクス) | 鴻海科技集団(フォックスコン・テクノロジー) |
工業技術研究院(ITRI) | 聯發科技(メディアテック) | 南亜 |
広達電脳(クワンタ・コンピュータ) | 瑞昱半導体(リアルテック・セミコンダクター) | 台湾積体電路製造(TSMC) |
華邦電子(ウィンボンド・エレクトロニクス) | 緯創資通(ウィストロン) |
中国本土から選ばれたのは2015年以降8回目という電子通信企業の華為(ファーウェイ)のほかは、昨年に続き2回目の螞蟻集団(アントグループ)=ソフトウェア、メディア、フィンテック企業、京東方科技集団(BOEテクノロジー)=エレクトロニクス・コンピューター機器企業と、初選出の瑞声科技(AACテクノロジーズ)=エレクトロニクス・コンピューター機器企業、という顔ぶれとなった。
(クラリベイト「Top100グローバル・イノベーター2023」から作成) | ||
瑞声科技(AACテクノロジーズ) | 螞蟻集団(アントグループ) | 京東方科技集団(BOEテクノロジー) |
華為(ファーウェイ) |
韓国も、第1回目から12年連続で選ばれているLGグループ=産業コングロマリット企業とサムスン=エレクトロニクス・コンピューター機器企業とともに、現代自動車、起亜=いずれも自動車企業、SKグループ=産業コングロマリット企業と、2年連続ないし3年連続選出という、評価を急激に高めている企業が選出されているのが目を引く。
(クラリベイト「Top100グローバル・イノベーター2023」から作成) | ||
現代自動車 | 起亜 | LGグループ |
サムスン | SKグループ |
こうしたアジア諸国の結果に比べると日本企業の多くが、長年の実績を持つ企業となっているのがわかる。初選出はエネルギー・電気企業の日本電産(4月1日からニデックに社名変更)のみ、昨年に続き2回目の選出5社、一昨年から3年連続3回目の企業も2社。新しい企業の少なさが目立つ。企業の分野を見てみるとエレクトロニクス・コンピューター機器が17社とひときわ多いのに対し、半導体は2社という分野の偏りもみられる。
中国の研究力急上昇も明白に
アジアの研究開発力の向上を裏付け、さらにその理由に迫る新たな調査結果も、クラリベイトは今回、明らかにしている。選ばれた100のグローバル・イノベーター企業・機関が重要な特許を保有するにあたってどのような研究機関の研究成果を参考にしたかを調べた結果だ。重要な発明特許を多く持つ企業・研究機関から論文が引用される回数が多いほど、その研究機関の研究力も高いとみなすことができる。
今回選ばれたTop100グローバル・イノベーターが論文を引用した回数が多い順に上位50の研究機関が明らかにされている。最も引用される回数が多かったのは中国科学院。引用された論文の数は2,134と、2位のマサチューセッツ工科大の1,790を大きく上回る。中国本土からはこのほか6位の清華大学(被引用論文数1,075)をはじめ、浙江大学(同635)、北京大学(同565)上海交通大学(同542)と、世界大学ランキングでも上位にランクされる大学が入った。上位50の1割を中国本土の大学・研究機関が占めたことになり、米国の25大学に次いで多い。
この調査結果からあらためて明らかになったとしてクラリベイトが強調しているのが、研究アイデアには国境がないという現実。中国科学院に属する研究機関の論文を引用した数の95%は中国本土を拠点としない研究機関による。クラリベイトは今回、選出企業・機関の数を1,000に広げた調査「Top1,000 グローバル・イノベーター」も行っている。「Top1,000 グローバル・イノベーター」に選ばれた米国の企業が中国本土の研究を引用する割合は、中国本土の企業が米国の研究を引用する割合の2倍以上、多い。こうした数字を挙げ、「中国本土がアイデアやイノベーションの純然たる新しい供給源として台頭していることが明確となった」との見方をクラリベイトは示している。
中国本土以外のアジアからは、韓国のソウル大学(被引用論文数887)、KAIST(同693)、高麗大学(同602)、シンガポールの南洋理工大学(同1,013)、シンガポール国立大学(同753)、日本の東京大学(同629)、台湾の台湾国立大学(同624)、香港の香港科技大学(同556)が入った。アジア地域全体で13大学・研究機関という数字は、欧州の総数9(英国4、ドイツ2、スイス、フランス、スペイン各1)を上回る。近年、世界大学ランキングや被引用論文数比較などで明らかになっている中国だけでなくアジア地域全体の研究力向上を裏付ける結果となっている。
(クラリベイト「Top100グローバル・イノベーター2023」から)
(クラリベイト「Top100グローバル・イノベーター2023」から)
アジアの躍進示す報告他にも
中国を中心にアジアの研究開発力が急速に強まっている現状については、これまでさまざまな報告や指摘がある。全米科学理事会は、昨年1月、「米国科学技術の現状2022」と題する報告書を米大統領と米議会に提出している。この中で2019年の世界の研究開発費に占める割合は米国が27%と1位だが、中国22%、日本7%、ドイツ6%、韓国4%とアジア各国が上位に並ぶ現状を明らかにし、「研究開発費の集中地域が、米国や欧州から東・東南アジアと南アジアの国々へ移行しつつある」と指摘した。英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが毎年、公表している世界大学ランキングでもアジアとりわけ中国本土の大学の順位が急浮上している。
主要国の企業が研究開発に投じる資金はどうか。文部科学省科学技術・学術政策研究所が昨年8月に公表した「科学技術指標2022」によると、日本の企業部門の2020年の研究開発費は13.9兆円で対前年比2.5%減少となっている。米国は2010年ごろから増加し続けており、2020年では53.9兆円(対前年比3.6%増)、中国は2000年代に入ってから増加が著しく、2020年に45.2兆円(同7.7%増)、韓国も継続して増加しており、2020年に9.0兆円(同4.8%増)。さらに2000年を1とした場合の各国通貨による研究開発費の伸びを比較すると、2020年の日本の実質額は1.4。ドイツ、英国の1.5、米国の1.8、中国の18.1、韓国の4.9のいずれよりも少なく、特に中国、韓国との差は大きいという結果が示されている。
関連サイト
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン「クラリベイトがTop 100 グローバル・イノベーター 2023を発表」
クラリベイト「Top 100 グローバル・イノベーター 2023」(PDF)
科学技術・学術政策研究所「科学技術指標2022」
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