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【25-09】テンセント2位、ファーウェイ7位 革新的トップ100企業・機関

小岩井忠道(科学記者) 2025年03月21日

 国際学術・特許情報調査・コンサルティング企業「クラリベイト」は3月13日、技術研究とイノベーションで世界をリードする100の企業・機関を「Top 100グローバル・イノベーター2025」として公表した。日米が過半数を占めるこれまでの結果は変わらないが、テンセントが前年の16位から2位に大きく浮上し、7位を維持した華為技術(ファーウェイ)と上位10位内に中国企業が2社選ばれた。影響力が大きい発明を数多く創出し、イノベーションの主要な発生地となっている、とクラリベイトは高く評価している。

 クラリベイトは14年前から毎年「Top 100グローバル・イノベーター」を公表しているが、1位から100位まで順位付けしたのは前年の2024年から。2回目となる今回は前年同様、韓国のサムスン電子が1位を維持するなど、日本以外のアジア地域の企業の評価も高いのが目を引く。

「Top 100グローバル・イノベーター2025」国・地域の企業・機関数と過去5年の企業・機関数
(クラリベイト「Top 100グローバル・イノベーター2025」、同2024、2023、2022、2021、2020から作成)
国・地域 企業・機関数 最上位企業・機関名(順位) 2024年 2023年 2022年 2021年 2020年
日本 33 本田技研工業(3) 38 38 35 29 32
米国 18 RTXコーポレーション(10) 17 19 18 42 40
台湾 13 TSMC(台湾積体電路製造)(18) 11 11 9 5 4
韓国 8 サムスン電子(1) 8 5 5 5 3
ドイツ 8 シーメンス(15) 7 7 9 3 4
フランス 7 フランス原子力庁(30) 6 7 8 3 5
中国 6 テンセント(2) 5 4 5 4 3
スイス 3 スウォッチグループ(66) 4 3 4 3 3
オランダ 2 フィリップス(38) 3 3 3 2 2
スウェーデン 1 エリクソン(33) 1 1 1 1 1
フィンランド 1 ノキア(83) 0 0 0 1 1
英国 0 0 1 2 1 0
サウジアラビア 0 0 1 1 0 0
カナダ 0 0 1 0 1 1
スペイン 0 0 1 0 0 0
ロシア 0 0 0 0 0 1

高まる中国の影響力

 中国からは前年より1社増えて6社が選ばれた。2位のテンセントのほか華為技術7位(前年7位)、京東方科技集団(BOEテクノロジーグループ)12位(同12位)、アントグループ77位(同52位)、瑞声科技(AACテクノロジー)90位(同84位)、寧徳時代新能源科技(CATL)91位(同順位外)となっている。

「Top 100グローバル・イノベーター」に過去14年間すべて連続して選出された企業が16社ある。このうち9社が日本、4社が米国、2社が韓国で残る1社がスウェーデンだ。こうした結果は、日本、米国、韓国が世界のイノベーション大国として技術発展に長期的な役割を果たしていることを示す、とクラリベイトは評価している。さらに2位に大きく順位を上げたテンセント、7位を維持した華為技術と10位内に2社が入った中国についても、「全体の順位を2番目に大きく伸ばした地域であり、影響力の高まりを裏付ける」とみている。さらに米国、日本、欧州といった従来の技術リーダーと比べて世界的に重要な発明の件数は少ないものの、影響力が大きい発明を数多く創出し、イノベーションの主要な発生地となっている。過去10年間では確かな知識経済が確立され、技術の進歩に大きく貢献している、と高く評価している。

韓国、台湾も高評価

 韓国も1位のサムスン電子に続き、LG化学7位(前年7位)、LGエレクトロニクス11位(同15位)、現代自動車16位(同29位)、SKハイニックス19位(同40位)、起亜自動車20位(同26位)、三星電機29位(同順位外)、サムスンSDI 74位(同57位)と、数は8社と前年と変わらないものの前年より順位を上げた企業が多いのが目を引く。

 このほか、台湾が前年より2社増え13社と日米に次いで多くの企業・機関が選ばれているのが目立つ。5年前の2020年は4社だったから、台湾企業が急速に力をつけているのが分かる。半導体チップの製造を他社から受託して請け負う半導体メーカーとして急速に力をつけている台湾積体電路製造(TSMC)18位(前年23位)をはじめとする半導体、エレクトロニクス・コンピューター機器関連企業のほか、台湾で科学技術発展の重要拠点となっている財団法人工業技術研究院(ITRI)が名を連ねている。

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(クラリベイト「Top 100グローバル・イノベーター 2025」から)

日本5減も最多の33社

 日本は2022年に35社が選ばれ、18社と大きく数を減らした米国を抜き2年ぶりに最多国となった。今回も33社と2位の米国18社に大きな差をつけ4年連続1位を維持した。今回、100企業・機関数は前年より5減ったもの最多の33企業(前年と同数)が選ばれ、3位(前年3位)本田技研工業、4位(同2位)キヤノン、5位(同4位)トヨタ自動車、6位(同5位)セイコーエプソン、8位(同8位)富士フイルムと上位に日本企業が名を連ねている。

「Top 100グローバル・イノベーター2025」日本企業:( )内数字は前年順位
(クラリベイト「Top 100グローバル・イノベーター 2025」、「同2024」から作成:―は順位外)
順位 企業 順位 企業 順位 企業
3(3) 本田技研工業 25(33) 東京エレクトロン 57(65) TDK
4(2) キヤノン 26(25) 住友電気工業 58(69) ニデック
5(4) トヨタ自動車 31(19) 日立製作所 59(66) リコー
6(5) セイコーエプソン 39(39) デンソー 60(62) 三菱重工業
8(8) 富士フイルム 46(―) 日本電信電話 61(61) 日東電工
13(11) 三菱電機 48(48) 京セラ 63(47) 矢崎総業
14(17) パナソニックホールディングス 51(59) キオクシア 65(58) 信越化学工業
17(18) ソニーグループ 52(41) 富士通 87(79) 小松製作所
21(21) 村田製作所 53(60) ブラザー工業 71(55) SCREENホールディングス
23(24) 東芝 54(85) ダイキン工業 73(53) 住友化学
24(9) ファナック 55(54) オムロン 88(88) 日本電気

特許の価値、厳密多面的に評価

 革新的知識を提供する世界的リーディング企業と評価された「Top 100グローバル・イノベーター」はどのように選出されるのか。2000年以降に500件以上の特許を出願し、かつ2019年から2023年の5年間で100以上の特許を登録したという二つの条件を満たす約3000の企業・機関をまず絞り込む。さらに、他者のアイデアに与えた影響として算出した発明の技術的リーダーシップレベル(影響力)、有効で斬新なアイデアとして生み出された経済的資産レベル(成功率)、発明に投じられた金銭的・地理的投資レベル(地理的投資)、技術発展のレベル(希少性)という四つの指標で、企業・機関が保有する特許の価値を厳密に評価している。

 加えてサステナビリティ(持続可能性)、ウェルビーイング、モビリティ(流動性)、コネクティビティ(連結性)、オートメーション(自動化)も評価に当たって重要視し、Top 100グローバル・イノベーターにふさわしい企業・機関を特定している。クラリベイトによると、選ばれた100企業・機関はイノベーションをビジネス戦略の中心に据えており、科学、工学、製品設計、問題解決に対して平均して収益の8.8%を投資している。

 保有する膨大な特許に関するデータベースが基になっているこうしたクラリベイトの評価法は、財政的な成長と収益性を重視して革新的企業・機関とみなしている従来の評価法とは異なる。例えば、18企業と日本に次いで多くの企業が選ばれた米国は、世界最大の検索エンジンサービスを提供するグーグルなどの持ち株会社「アルファベット」は67位に選ばれている。しかし、デジタル変革をいち早く実現して社会にとってなくてはならないサービスや商品を提供し、飛び抜けて高い時価総額も誇る米国の5大IT企業「GAFAM」(アルファベット、アマゾン、メタ、アップル、マイクロソフト)のうち「アルファベット」を除く4社は「Top 100グローバル・イノベーター」に選ばれていない。

 アマゾン、メタ(旧称フェイスブック)、アップル、マイクロソフトが外れた理由について、クラリベイト・ジャパンの知財情報担当者は次のように説明している。

「ソフトウェアの特許はハードウェアと比較すると安定的な広い特許は取りにくい傾向がある。また、プラットフォーマーは、その市場維持を自らの規模や広告効果などで行い、特許による保護が中心にはならないのではないか。ブランドやノウハウ(営業秘密)によって知的財産を守るイメージに近いと思う。相対的に、自らハードウェアを開発して販売する業態を含む企業と比較するとGAFAMのようなプラットフォーマーは特許による知的財産の形成、保護の必然性は高くならない。例えばiPhone、EchoなどGAFAMの最終製品について、その主要構成部品のサプライヤーは、自らパーツを開発して製造販売する企業としてTop100に多数ランクインしている」

少ない製薬、医療・バイオ関連企業

 産業分野別にみるとどのような企業・機関が選ばれているのか。最も多いのは「エレクトロ・コンピューター機器」の28で昨年よりさらに増えている。続いて多いのが「半導体」12、「産業システム」11は前年より減り、「自動車」11は前年より増えた。以下「化学素材」7(前年より減少)、「航空宇宙・防衛」6(同増加)、「産業コングロマリット」6(同変化なし)、「電気通信」5(同増加)、「エネルギー・電気」3、「ソフトウェア、メディア、フィンテック」3、「政府・学術研究」3(同いずれも変化なし)、「消費財・食品」2、「製薬」1(同いずれも減少)、「医療・バイオテクノロジー」(同変化なし)となっている。「エレクトロ・コンピューター機器」、「半導体」、「産業システム」、「自動車」といった工学系関連企業と、「製薬」、「医療・バイオテクノロジー」といったバイオ系企業の実績・評価の大きな違いが目を引く分布となっている。

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(クラリベイト「Top 100グローバル・イノベーター 2025」から)

関連サイト

クラリベイト「Top100グローバル・イノベーター2025

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