【23-10】目立つ中国、香港の順位低下 QS世界大学ランキング
小岩井忠道(科学記者) 2023年07月24日
英国の高等教育評価機関「クアクアレリ・シモンズ(QS:Quacquarelli Symonds)」は6月27日、「世界大学ランキング2024」を公表した。米国のマサチューセッツ工科大学が12年連続の1位となった。前年11位だったシンガポール国立大学が8位に浮上し、アジア勢で唯一10位内に入った。一方、中国からは17位に北京大学(前年12位)、25位に清華大学(同14位)、44位に浙江大学(同42位)、50位に復旦大学(同34位)、51位に上海交通大学(同46位)と、上位100位内に入ったのは前年より1校少ない5校。いずれも前年より順位を落としているのが目を引く。
100位内の順位上昇2校のみ
上位に欧米の有力大学が並ぶ図式は例年と変わらない。マサチューセッツ工科大学、シンガポール国立大学以外の世界順位上位10位の大学は、2位ケンブリッジ大学(英国)、3位オックスフォード大学(英国)、4位ハーバード大学(米国)、5位スタンフォード大学(米国)、6位インペリアル・カレッジ・ロンドン(英国)、7位スイス連邦工科大学チューリヒ校(スイス)、9位ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(英国)、10位カリフォルニア大学バークレー校(米国)となっている。
200位内に入ったアジアの国・地域別大学数は、日本9校、中国8校、韓国7校、香港5校、マレーシア5校、シンガポール2校、インド2校、台湾1校の計39校。マレーシアが前年から校数を増やした(1増)唯一の国・地域となり、5校中3校が前年より順位を上げているのが目立つ。一方、39校中、前年より順位を上げたのは7校のみ。中国は武漢大学が前年と同じ194位を維持したものの、残る7校はすべて順位を落とした。上位100位内に入った大学も23校と前年、前々年に比べ3校減ったうえ、23校中、前より順位を上げたのはマラヤ大学と国立台湾大学の2校だけだった。
香港の5大学もすべて70位内と引き続き高い評価を得たが、香港理工大学が前年と同じ65位となったほかは、すべて順位は低下した。前々年の「QS世界大学ランキング2022」では20位内のアジア地域の大学は前年より一つ増え4大学となり、上位50位内の14大学のうち8大学が前年より順位を上げた。さらに翌年の「QS世界大学ランキング2023」では、北京大学、清華大学がそろって順位を上げ、トップ10入りを目前にするなど、中国、香港の大学をはじめとするアジア勢の躍進が続いていた。今回の結果からは近年の勢いはうかがえない。
評価手法による差変わらず
世界大学ランキングは、QSと並び英教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」のランキングがよく知られている。昨年10月に公表された「THE世界大学ランキング2023」と比べると、最上位に並ぶ大学はあまり変わらない。ただし、200位内に目を広げると大学の顔ぶれと順位は相当、異なる。全体としてアジアの大学に対する評価はQSランキングの方が引き続き高い。今回の「QS世界大学ランキング2024」で200位内に8校が入った中国は、8校中7校が、「THE世界大学ランキング2023」でも200位内、そのうち6校は100位内に入っている。香港は5大学すべて、韓国も3校が「THE世界大学ランキング2023」の100位内。シンガポールは2大学と数は少ないもののシンガポール国立大学が19位、南洋理工大学が36位と、清華大学(16位)、北京大学(17位)に次ぐ高い評価を得ている。
これに対し、「QS世界大学ランキング2024」200位内の日本の9大学で、「THE世界大学ランキング2023」で100位内に入っているのは東京大学(39位)と京都大学(68位、QS順位は46位)の2校だけだ。80位の大阪大学はTHEで251--300位、91位の東京工業大学は301--350位、113位の東北大学は201--250位、164位の九州大学は501--600位、176位の名古屋大学は301--350位、196位の北海道大学は501--600位、199位の早稲田大学は1001--1200位だった。東京大学、京都大学を除く日本の大学の両ランキングにみられる順位の差が目立つ。
「QS世界大学ランキング2024」上位200位内のアジア地域大学
(QS World University Rankings 2024、QS World University Rankings 2023、QS World University Rankings 2022、Times Higher Education World University Rankings 2023から作成:=は同順位の存在を示す) | |||||
世界順位 | 前年順位 | 前々年順位 | THE2023順位 | 大学名 | 国・地域 |
8 | 11 | 11 | 19 | シンガポール国立大学 | シンガポール |
=17 | 12 | 18 | 17 | 北京大学 | 中国 |
25 | 14 | 17 | 16 | 清華大学 | 中国 |
=26 | 19 | 12 | 36 | 南洋理工大学 | シンガポール |
=26 | 21 | 22 | 31 | 香港大学 | 香港 |
28 | 23 | 23 | 39 | 東京大学 | 日本 |
41 | 29 | 36 | 56 | ソウル大学 | 韓国 |
=44 | =42 | 45 | 67 | 浙江大学 | 中国 |
46 | 36 | 33 | 68 | 京都大学 | 日本 |
=47 | 38 | 39 | 45 | 香港中文大学 | 香港 |
50 | =34 | 31 | 51 | 復旦大学 | 中国 |
51 | 46 | 50 | 52 | 上海交通大学 | 中国 |
56 | =42 | 41 | =91 | KAIST(韓国科学技術院) | 韓国 |
60 | 40 | 34 | 58 | 香港科技大学 | 香港 |
=65 | =65 | 66 | 79 | 香港理工大学 | 香港 |
=65 | 70 | 65 | 351-400 | マラヤ大学 | マレーシア |
69 | 77 | 68 | =187 | 国立台湾大学 | 台湾 |
70 | 54 | 53 | =99 | 香港城市大学 | 香港 |
=74 | 73 | 79 | 78 | 延世大学 | 韓国 |
79 | 74 | 74 | 201-250 | 高麗大学 | 韓国 |
80 | 68 | 75 | 251-300 | 大阪大学 | 日本 |
=91 | 55 | 56 | 301-350 | 東京工業大学 | 日本 |
=100 | 71 | 81 | =163 | 浦項工科大学 | 韓国 |
113 | 79 | 82 | 201-250 | 東北大学 | 日本 |
=137 | =143 | 147 | 601-800 | マレーシアサインズ大学 | マレーシア |
=137 | 94 | 98 | ― | 中国科学技術大学 | 中国 |
=141 | 133 | 131 | =95 | 南京大学 | 中国 |
=145 | 99 | 97 | =170 | 成均館大学 | 韓国 |
=149 | =172 | 177 | ― | インド工科大学ボンベイ校 | インド |
158 | 123 | 143 | 601-800 | マレーシアプトラ大学 | マレーシア |
=159 | =129 | 144 | 601-800 | マレーシア国民大学 | マレーシア |
=164 | 157 | 156 | 401-500 | 漢陽大学 | 韓国 |
=164 | 135 | 137 | 501-600 | 九州大学 | 日本 |
=176 | =112 | 118 | 301-350 | 名古屋大学 | 日本 |
188 | =203 | =191 | 601-800 | マレーシア工科大学 | マレーシア |
194 | 194 | 225 | 173 | 武漢大学 | 中国 |
196 | =141 | 145 | 501-600 | 北海道大学 | 日本 |
197 | =174 | 185 | ― | インド工科大学デリー校 | インド |
=199 | =205 | 203 | 1001-1200 | 早稲田大学 | 日本 |
学術関係者からの評価重視
なぜこのような差がみられるのか。THEが13項目もの指標で評価しているのに対し、QS社は、よりシンプルな評価手法を採用しているのが理由とみられる。QSの評価手法は前年まで「学術関係者からの評判」(配点比率40%)、「教員一人当たりの論文被引用数」、「学生一人当たりの教員比率」(同それぞれ20%)。「雇用者からの評判」(同10%)、「外国人教員比率」、「留学生比率」(同それぞれ5%)という6項目の評価指標の合計点数で順位付けしていた。「学術関係者からの評判」と「雇用者からの評判」は20万人を超す世界の学術関係者、雇用主を対象に実施した調査結果に基づいている。
これに対して、THEの評価手法はまず評価指標が13項目と倍以上多い。「博士号取得者と学士号取得者の比率」や「博士号取得者数と教職員数の比率」、さらに「教員一人当たりの研究助成金などの収入」、「論文数」、「国際共著論文数」、「産業界からの収入」といったQSランキングにはない評価項目が含まれている。研究力をとりわけ重視したランキングといえる。
評価手法一部修正の影響は?
今回の「QS世界大学ランキング2024」では評価手法が一部、変わっている。「持続可能性」、「雇用成果」、「国際研究ネットワーク」という3指標が追加された。「持続可能性」は環境問題など社会的課題への取り組みを重視する最近の学生の意向に大学がいかに対応しているかを評価する(配点比率5%)。「雇用成果」については配点比率5%の新しい評価指標を追加することに加え、これまで10%だった「雇用者からの評判」に対する配点比率を15%に増やす。「国際研究ネットワーク」は研究がいかに国際的につながっているかをみる。評価手法の修正についてQSはこのような説明を示している。
「教員一人当たりの論文被引用数」では中国、香港、シンガポールの大学が高い評価を得ているのに対し、日本の大学はだいぶ見劣る。「外国人教員比率」、「留学生比率」ではシンガポールや香港の大学が高評価なのに対し、中国や日本の大学の数字はおおむね低い。「学生一人当たりの教員比率」では、日本の大学は中国、香港、韓国などと同等ないし高い評価となっている。「学術関係者からの評判」「雇用者からの評判」でも日本は中国、シンガポール、香港、韓国とおおむねそん色ない高い評価を得ている。新しい評価指標の「持続可能性」では同一国内でも大学間の評価が大きく異なる。「QS世界大学ランキング2024」の評価結果からは、このような大まかな傾向が見て取れる。
関連サイト
QS World University Rankings 2024: Top Global Universities
QS World University Rankings 2023: Top Global Universities
Times Higher Education World University Rankings2023
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